第十九話 可愛い来訪者はお兄さまが好き①
五月六日────
何だか周りが明るく感じる…。でも今僕は…エリナと…。
「えっ…?!」
エリナの言葉に、色々と期待を膨らませてしまったのだが、結局僕はすぐに寝てしまったみたいだ。
慌てて飛び起きてはみたものの、僕は自分の部屋のベッドの上におり、もう日の光がカーテンが開けっ放しの窓から差し込んで来ていた。
どうしたことか、ベッドの上には英莉菜の姿が見当たらない。僕が寝たことに怒って、出掛けてしまったのだろうか?
──ピンッ…ポーンッ…
突然、玄関のインターホンが鳴った。思わず何時かと枕元に置かれたスマホを手に取った。
──カチッ…
スマホの横にある電源ボタンを押すと、待受画面が表示された。そこにあるデジタル時計は“7:35”と現在の時刻を表示していた。
こんな休日の朝早くの来訪者は…近所の人だろうか?住んでいる地区で訃報があると、至急の回覧板が回されるのでそれかなと思った。
万が一友人とかが僕を訪ねて来た場合、結以さんが対応すると、僕とは冷戦状態の為いつも英莉菜を呼んで、僕への伝言ゲームになっていた。今は、英莉菜の姿が見当たらないので、非常に気まずい。
──ピッ!!
「はーい?何のご用でしょうか?」
いつものように、居間のインターホンの子機で、結以さんが対応している。
──「あ、暁人くん…居ますか?」
あどけなさの残る可愛らしい声だ。誰だろう?
「えっと…暁人さんのお友達かしら?」
──「はいっ!!」
マジか…。誰だ…?
「あらぁ!!そうなのねぇ?!呼ぶから、少し待っててねぇ?」
──ピッ!!
あれ?結以さんが凄く嬉しそうな声なんだが…。冷静状態突入してから、僕絡みでこんな声聞いたことがない。
──コンコンコンッ…
「暁人さーん?すーっごく可愛らしいお嬢さん来てるわよぉ?やっと…マトモな彼女が出来たのねぇ!!」
マトモな彼女って…どういう事だよとは思ったが、英莉菜の件で冷静状態になっていたので、母親からしてみたら、息子が妹離れ出来たのが嬉しかったのかもしれないな。
と言うか…誰が来たんだ?
「ま、まぁね?彼女まではいってないけど…。」
結以さんとの冷戦状態から抜け出す、良いチャンスかもしれないと思った。嘘も方便だ。
「そうなのぉ?でも、暁人さんが目を覚ましてくれて…お母さん、本当に安心したわ。」
まぁ、普通に考えて、妹に夢中になってる兄なんて、母親からしたら地獄絵図だよな…。うん、妹設定して地球に来た英莉菜が悪い。
「結以さん、今まで心配かけてゴメンね?待たせると悪いから、今から部屋出るよ。」
「私の方こそゴメンなさい…。」
──ガチャッ…
──ギィィッ…
部屋のドアを開けると、涙を流しながら結以さんが部屋から出た傍で立っていた。
──ギュッ…
「結以さん…ゴメンね?また、話はあとでね?とりあえず、何の用で来たか聞いてくるから。」
「本当に…可愛らしいお嬢さんだったわよ?暁人さん、ああいう子がタイプだったのねぇ?意外だったわ。」
ますます気になってくるのだが。今まで、僕が家に連れてきたことがない系統って事だろうか?
そんなことを考えながら、僕は二階から一階へ階段を降りていき、玄関前まで辿り着いた。
──ガチンッ…ガチンッ…
玄関のドアの鍵を開けながら、僕はふと思った。
もしかして、大人気アニメの一話目のように…玄関のドア開けたら、誰かに焚き付けられたストーカーの女性に…包丁でブスりと一突きされるかもしれない。
──ガチャ…ッ…!!
自意識過剰かもしれないが、僕はそんなことを考えながら、恐る恐る玄関のドアを開けた。
「え…?!」
思わず声が出た…。それもそのはずだ…。
玄関のインターホンの近くで、僕を待つように立っていたのは、背が百五十センチにも満たない女の子だったからだ。
でも…英莉菜よりも、エリナよりも、朱梨よりも、芽莉沙さんよりも、可愛さは群を抜いている。
「あ、暁人…お兄さま?」
「えっと…僕は、君のお兄さんでは無いんだけどなぁ…?」
僕の言葉に、謎の美少女は一瞬悲しそうな表情を見せた。いや…その表情も、良い!!ああ、可愛い…。
「ううん…。暁人くんは、私の心の…お兄さまなんです…。」
あー、そういう系かぁ…。いや…良いよ良いよ!!心のお兄さまでも何でもなる!!そんな理由で、この美少女に嫌われたら、絶対後悔する。
「ああ、うん。そうだったよね。今日は、こんな朝早く来てくれたらけど、どうしたの?」
「私、お兄さまと…公園でデートしたいです。」
微妙に質問と回答が噛み合ってない気もするけど、ここは良いとする。
「じゃあ、少し待っててくれるかな?」
「嫌です!!今から、お兄さま…行こう?」
あー、そうかそうか。うん、そうだよね。
「じゃあ、行こうか?」
今、スマホだけは持ってるから、最悪…電子マネー決済できる店とか、販売機探せば…デートも何とかなるっしょ…。
「うんっ!!お兄さま…だーいすきっ!!」
──バタンッ…
ていうか…この美少女、どこに誰なんだろう。僕のストーカーっていう可能性は、捨てきれない。
五分後───
何だろう…。先程から、歩道ですれ違う人たちからの目線が…明らかに痛い。手を繋いで、並んで歩いているから尚更だ。
確かに…僕の身長は百八十センチ近くあるので、美少女との身長差は三十センチ以上はあるだろう。
しかも美少女の顔立ちは…かなりの童顔な上に小顔で目が大きいのが特徴的でお人形さんみたいだ。髪は黒く艶のある腰丈まであるツインテールで、肌はブルベ系の白めのピンク肌、目の色は茶色だ。背は先程の通りで百五十センチにも満たず、細身な幼児体型をしているが、胸の膨らみが少しあるのが服の上からでも見てとれる。
「お兄さま…?私と歩くの、嫌ですか?」
「そんなことないよ?全然へっちゃらだよ!!」
突然、美少女から公園デートと言われても、すぐに思い浮かんだのは…英莉菜と出会った近所の公園だった。ひとまず、美少女をガッカリさせてはなるまいと、その公園に向かって僕たちは歩いていた。
「良かったぁ…。あっ…!!ここです!!私、お兄さまと…この公園に来たかったんです!!」
美少女は公園の方を指さしながら、無邪気にはしゃぎ始めた。その様子を見守っていた僕は、この公園で遊んでいた頃の昔の記憶を、ふと思い起こしていた。
英莉菜と不思議な出逢いをした翌日から…幼き日の僕は、再び英莉菜に逢えることを願いながら、毎日のようにこの公園へと通い続けた。
丁度…その頃だ。自分よりも背の低い…黒髪のツインテールが似合う可愛い女の子を、この公園で頻繁に見かけるようになった。そして、僕から声を掛けて遊ぶようになったが、暫く経ったある日を境に見かけなくなってしまった。
でも、まさかな…。
「今から変な話するんだけど…良いかな?」
「はい。」
「僕が小さい頃…この公園で、今の君みたいな黒髪のツインテールの女の子と遊んでいたんだけど、もしかして…君?ゴメン、きっと…僕の気のせいだよね…。」
「いいえ?お兄さま、気のせいではないですよ?その女の子は、幼き日の私ですから。」
あー。てことは…この美少女が僕のストーカーという説が、一気に現実味を帯びてきてしまった。
何故かと言えば、あの頃の僕は…結以さんの言いつけに従って、公園等では名前を一切名乗っていない。だから、この美少女は僕の名前なんて知る由もないのだ。
なのに、インターホンで結以さんと話した際、暁人くんと言っている。我が家の表札も”藤邑“としか書かれていない。
「そっか。やっぱり君は、あの時の女の子なんだ。急にこの公園に来なくなって、寂しかったけどね。」
うーん、困ったな…。これは…選択肢を誤ると、ゲームオーバーってこともあり得るな…。