第十五話 妹(自称)と女友達と過ごす夜に⑤
四月八日、二十二時頃────
「お兄ちゃん?こっちだよ?」
「ねぇ…暁人くん?私の方…向いて寝るよね?」
明日はまだ火曜日で、普通に高校もあるので…とりあえずベッドで横になろうと、僕が提案した。
英莉菜による、朱梨さんに対しての挑発的な見せつけキスを僕にしてくれたおかげで、あの後…上書きキスの応酬で、居た堪れなくなったからだ。
でも結果的には、先程と状況は変わらない様子で、僕を間に挟んで左右でやり合ってくれている。
「あ…。いや、何でもない。」
一瞬、僕を満足させた方に向いて寝るとか言いそうになったが、完全に寝れずに朝を迎えそうなので、言葉を引っ込めた。
「じゃあ…?お兄ちゃんのバケモノ使ってぇ…決めない?」
おいいいいっ!!英莉菜は僕の心でも読めるのか?ゆっくり付き合っていくって、僕が言ったばかりだろう。
「い、いいわよ…?受けて立つわ!!」
「二人とも、まて!!もう、いい加減にしろよ!!これ以上争うの辞めないんだったら、僕の部屋から出てってくれ!!そして、二度と僕に近づいてくるな!!」
これくらいしか、今の僕では黙らせる方法は正直見当たらない。続ければ、僕とは事実上の断絶という事になる。
──シーン…
そうだ…英莉菜が来てからのこの数日で、すっかり忘れていた。僕の部屋って、こんな静かだったんだよな。そうなると…アレとアレがアレで…。
──ギシギシッ…ギシッギシッ…ギシギシギシギシッ…
微かに、どこかでベッドが不規則に軋む音が聞こえ始めた。あー、お盛んな事で。きっと声も聞こえてくるだろうな。
あれだけ週に何度もしていて、今まで僕の弟や妹が増えていない点は凄いと思う。僕だったら間違いなく、ラグビーチームが出来てしまうだろうな。
「あ…あのさ…暁人くん?この音って…。」
──ガバッ!!
──ギシッ…ギシッ…トンッ…
「いひひひひっ…。」
急にベッドから飛び起きた朱梨さんは、ベッドからそっと降りると、ニタニタといやらしい笑みを浮かべると、小さく不気味な笑い声をあげながら…部屋のドアの方へと向かい始めた。
──ガッ…チャッ…
「ひっひっひっひっ…。」
──ギィィッ…
朱梨さんは不気味に笑いながら、僕の部屋のドアを少しだけ開けた。
──ギシンッ…!!ギシンッ!!ギシンッ!!ギシンッ…!!
ドアが閉まっていると、案外聞こえてこないだけで、開けると物凄くリアルな音が色々と聞こえてきた。
「あぁ…。凄い…。」
朱梨さんが、そっと自分の右手をパジャマのズボンの中へと突っ込んだのが見えた。勿論左手は自分の胸に添えて。
「ん゛っ…ん゛ん゛っ…!!」
思わず…僕は鼻を鳴らしてしまった。本当は、そんな朱梨さんの姿を暫く見守っていたかったが、英莉菜もいる手前、収拾がつかなくなると判断した。
「はっ…!?ゴメンなさい…。」
──ガッ…チャッ…
──ギィィッ…カチャ…ッ…
謝りながら朱梨さんは、左手で部屋のドアをそっと閉めた。右手は…ズボンの中でまだモゾモゾしているようだった。
「もう…お兄ちゃんのバカバカバカバカ…。」
実はその間…英莉菜はここぞとばかり、ベッドの上で僕に全身を胸が変形する程密着させ、抱きついていた為、小声で怒られてしまった。こういう幼い面をたまに覗かせるので、英莉菜は可愛すぎる。
──チュッ…チュッ…チュッ…チュッ…
「朱梨さん、まだ右手でお楽しみみたいけど?私は、お兄ちゃんで楽しんでるもん。」
英莉菜はこれでもかと言うくらいに、僕にキスを連発してきた。
「結以さんと健吾さん、お兄ちゃんみたいに…つけずにしないのかな?」
「確かに…そうだよな。どうやってるんだろうな…。」
「健吾さんは、お兄ちゃんのパパだし…やっぱりバケモノなのかな?」
なかなか父親のものなんて、見る機会無いんだよなぁ…。僕は両親とはスーパー銭湯に行った記憶がない。実際湧いてる温泉を使ってない店は無駄だと言われている。
それと、静岡に住んでるので、温泉は色々とあるのだが…近すぎる故、なかなか足を運ぶ機会がない。遠方から誰か来た時に、連れて行く時くらいだろうか。
小さい頃お風呂に入る時は、いつも結以さんと一緒だった。健吾さんとは入った記憶が殆どない。
だから、僕と一緒なのか、それ以上?それ以下?そんな事すら、健吾さんの実の息子なのに知らない。
「健吾さんの見たことないんだよなぁ…。」
こういう時は、素直に白状した方が色々と楽だ。知らないものは知らない。
「私、結以さんに今度聞いてみよっか?」
「そんなこと聞けるチャンスあるのか?」
「うーん…。わかんないけどぉ…そんな話になった時にでも?…っていうか…あれ…ヤバくない?」
ベッドの上で、隙間がないくらいに僕に密着して抱きついている英莉菜と、話していたので気付かなかったが、朱梨さんがドアに耳をピッタリあてて、右手でお楽しみ中だった。
「邪魔しちゃったら悪いだろうな…きっと。」
「結構ヤバめだねぇ…。重い子かもねぇ…。まぁ、私程ではないでしょうけど?」
サラッと英莉菜も爆弾発言してくれてるが、僕は聞き逃さなかった。
三十分後───
「はっ…!?」
慌てて、枕元のスマホを手に取り画面を見る。
流石に初めての事ばかりの一日で、僕は疲れたのか十分程寝てしまっていたようだ。気付くと英莉菜は僕に抱きついたまま、スヤスヤと可愛い寝顔を見せている。
そう言えば、朱梨さんは二十分位前になるだろうか、お手洗いに行くと言い残し部屋から出ていった筈なのだが…。その時点で、既に英莉菜はウトウトしながら眠気と戦っていた。僕もつられて眠くなってきてはいたが、朱梨さんが戻ってくるまで待つ事にしたのだが、十分過ぎた時点でも戻って来なかった。そして遂に、僕も英莉菜も夢の世界へと誘われたんだと思う。
──カチャッ…
──ギィ…ッ…
「明日も学校だから、朱梨さんもさ?英莉菜みたいに…もう寝ようぜ?ふあぁっ…。」
正直、もう寝たい。と言うか、凄い眠気で起きてられない。こういった時、ブラックコーヒーを飲もうが、カフェイン入りのガムを噛もうが、大抵勝てない。
「もしかして、寝ないで私のこと待っててくれたの…!?」
「まぁ…そんな感じかな。英莉菜寝ちゃったし、身体動かせないし、起きてるのもう…限界。まだ、何かしたい事あれば、してくれてていいけどさ?寝る時は、電気だけ消しておいてくれるかい?」
正確には一回寝て、今は何とか起きてる感じだけど。それぞれの家のライフスタイルがあるから、相手への強要は良くないと思ってる。例えば…朱梨さんが二十四時過ぎまで、いつも起きてるって事だってあるだろうから。
「あ…あのね?暁人くんは…深夜アニメどうやって観てるの?」
「あー。そこのTVの録画予約機能で、民放とBS撮ってるから、高校から帰ってきて教科の課題とか終わった後で観てるよ?」
そうだった。本当にうっかりしてた。朱梨さん、二次元オタクだったな…。
「そ、そうなんだ?!私は…家のTVに設定してある動画配信サービスのサブスクで観てるんだ。ってことは…アニメ不毛の地なのに、リアタイで見れる場合もあるってこと!?」
「そういや、今日から始まるタイトルもあったかもな?TVつけて番組表見てみなよ?勿論、BSのほうね?」
あー、何言ってんだ僕。25時くらいまで寝れないの確定だろ…この流れって。
「えっ!?い、いいの?!」
まぁいいや…朱梨さん可愛いので許す!!それに、Bまでしてくれたし。あー、眠いから起きてらんないや…。
「ふあぁぁぁっ…。あとは任せた!!」
「ちゃんと、電気消す…。」
心地良い英莉菜の胸の感触が、更に眠気を誘っていて、段々声が遠くに聞こえてき…た…。