第十三話 妹(自称)と女友達と過ごす夜に③
四月八日、二十時十五分頃────
ああ、ここは天国だろうか…。と思う程の、僕にとっては夢のような空間に、我が家のお風呂場が今まさになっていた。
英莉菜と朱梨さんという、どこの誰が見ても美少女と呼ばれる二人が、お風呂場の床に敷かれたマットの上へ寝かされている僕の頭上で、あられもない姿で立っているのだ。
「はい、お兄ちゃん?身体の隅々までぇ…ゴシゴシしましょうねぇ?」
英莉菜と朱梨さんが立てた、お風呂場での計画は三つ。
一つ目は、二人の言うことを僕は必ずきくこと。
二つ目は、二人で僕の身体を手洗いすること。
三つ目は、僕が二人の身体を手洗いすること。
そして、今から二つ目の計画が実行されようとしていた。
「じゃあ…私、ここから…洗いますね?」
確かに…朱梨さんはそう言った筈だった。そっとマットへ腰をおろした朱梨さんは、僕の大事なところをジッと見つめている。
──ギュッ…
「えっ?!」
「さ、さっき…うちのママからね?こうやってあげると良いよって…アドバイス貰ったんだ。」
ああ、ヤバいヤバいヤバいヤバい!!ここまでグッと堪えて我慢してきたのに…。僕の中の均衡が崩れてしまい、もうフルバーストの発射体勢に入ってしまった。
「そ…そんな顔近づけたら、あ、危ないから!!」
「ダメでーす。暁人くんは、私と英莉菜ちゃんの言うことは絶対遵守…あ、そうだ!!石川朱梨が命じる!暁人くんは、私と英莉菜ちゃんの言うこと聞きなさい!!」
はぁ…。こんなところで、アニメネタしなくて良いから…。と思ったら、テンション下がったのか発射体勢が解除された。もしかして、僕がヤバいときはアニメネタ…ありなのか?
──ゴシッゴシッ…
「ほら…?そこに置いてあるオリーブ石鹸とか…つけないのかな?」
「今から、私がすること暁人くんはよーく見ててね?」
「へ…?」
五分後───
「けほっ…けほっ…。」
ああ…なんて言うか、色んな意味で生きてて良かった!!付き合ってまだ一日も経っていない…僕とはまだ女友達の朱梨さんに、押し切られるカタチで関係がBまで進んでしまった。それで、朱梨さんはこの状況だ。
「あーあー。お兄ちゃん、やっぱり私のこと除け者にするよねー?」
あんな光景を目の当たりにして、平然と僕に向かってプンプン怒っている英莉菜は、色んな意味で凄いと思うよ。本当に…。
「はぁ…はぁ…。え、英莉菜ちゃん。バトンタッチしよ?私…ちょっと休憩したい…。」
「はぁい!!朱梨さんは無理しないでねぇ?お兄ちゃんにはぁ…無理して貰うけどぉ?」
あー、これ。英莉菜が嫉妬の鬼になってる可能性高いぞ…。今日で僕、終わりかもしれないな…。
──ギュッ!!
「早くぅ…バケモノになってよぉ…?全然、元気ないじゃないのぉ!!」
ああ、大丈夫かもしれないぞ。フィンランド発の大人気アニメに出てくる、生えたてのニ○ロニョロみたいになってるから。これも朱梨さんのおかげだ…。
「朱梨さん、本当にありがとうね!!」
「え…いえ…。本当は…もっと進みたかったんだけど…何だか、疲れちゃって…。」
さっきも言っていたけど、朱梨さんはお母さんから…僕の為に色々とアドバイス貰ったんだろうな。でも…朱梨さんが思っていた以上の過酷さに、きっと…メンタルにきてしまったのだろう。無理強いはよくない。何事も…同意の上で成り立つのだ。
恐らく、そんなセンチメンタルな道理は…異世界からやってきた英莉菜には通用しないだろう。同意なく勝手に僕の妹(自称)になった癖に、自分の置かれた妹(自称)という不遇ポジションに嘆いている程だから。
「じゃあさぁ…?元気にさせちゃえば良いんだよねぇ…?」
また聞いたことのない言葉の魔法でも使って、強制的にバケモノ化させるつもりなのか?
「お兄ちゃん…?だぁいすきぃ…!!」
おいおいおいおい!!僕の予想を大幅に裏切ってくれた英莉菜は、先程の朱梨さんと似たような針路で近寄ってきている。
「お兄ちゃん、ここ…大好きだよね?」
なんで僕が…彼女が出来たら一番してみたいプレイ知ってるんだよ!!てか…そんな情報、どこで知ったんだよ!!土日に貸したタブレットの検索履歴でも見たか?いや…そういうの調べるときは、シークレットモードで見てるし…。
いやいや!!そんなことより、英莉菜がこれからなにをしようとしているか分かってしまった…。
「私はぁ…大丈夫だから!!お兄ちゃんはぁ…大人しくしててねぇ?」
ダメだダメだダメだダメだ!!あ、いや…。英莉菜は実の妹ではないし…なぁ?とりあえず…落ち着こう。
英莉菜は、自分より後に現れた筈の朱梨さんが僕とBするところを見せつけられて、激しい嫉妬心に支配されてしまっているのだろう。
無理にやめさせるのも不公平感が否めない。だから、英莉菜の好きにさせることに、僕は決めた。
「ああ。大人しくしてるからさ、英莉菜?後悔だけはしないでくれよ?」
「はぁい!!」
十五分後───
色々と吹っ切れて、何だかもう清々しい気分だ。このきっかけを与えてくれた朱梨さんには、感謝しなければ。英莉菜が妹(自称)とかどうとかもう、僕には関係ない。好きなものは好きなんだ。
僕のただの我が儘かもしれないけど、英莉菜も朱梨さんも大好きだ。だから…二人とも僕のものだ。
「お兄ちゃん…ゴメンねぇ…。うぅっ…。もう無理だよぉ…。壊れちゃったかもぉ…。」
とまぁ…お尻を押さえながら、うめき声をあげている英莉菜を前にして、こんなこと言ってて良いのかとは思ったが…英莉菜が望んで僕にしてくれた事だから、仕方ないと思うしかない。
でも成果として言えば、僕の想像を遥かに上回る大満足で、安全にフルバーストを決めることも出来た。やっぱり今まで…自分が大好きなプレイを信じてきて正解だったと言いたいところだが、それも英莉菜のおかげだ。
「ちょっと、二人とも…今日は背伸びし過ぎただろ?僕の為に、身体張ってくれて…ありがとうな?二人とも…大好きだ!!だから…無理に焦んなくて良いんだよ。だから、明日からは仕切り直しでさ?ゆっくり…付き合って行こうぜ?」
「そ、そうですよねぇ…あは、あははっ…。」
「うん…。お、お兄ちゃん…?ば、バケモノ…当分いらないからねぇ…?」
百聞は一見に如かずとは、昔の人はいいことを言ったものだ。朱梨さんはともかく、英莉菜はこれで少しは懲りただろう。ほどほどで良いんだよ…ほどほどで。まぁ…僕もかなり今回のことで自分の考え方を、少し見直すことが出来た。
「英莉菜は本当に、大丈夫なのか?顔色悪いぞ?」
「だ、大丈夫…。わ、私…身体洗って先に出るね…?結以さん達に遅いって…言われちゃうからぁ…。」
──ジャアアアアアアアア…
少しよろめきながら、英莉菜はお風呂場の床の上のマットから立ち上がると、シャワーで身体を洗い流し始めた。
「この変態女ぁ!!ほんっと、頭イカれてるんじゃない?!暁人くんお兄さんなのに、あんな事までして!!絶対…私、アンタには負けないから!!」
おぉ?!朱梨さん…一体どうした?早くも、二人の共同戦線に亀裂が入ってしまったのか?英莉菜に対して罵声を浴びせたのだ。
「うんっ!!私って、バカだからぁ…何言われても平気だよぉ?なら、お兄ちゃんに早く…私みたいにさぁ?今ここでぇ…捧げて上書きしてみせて?」
おいおい!!バチバチじゃないかよ…。もう、これ以上は二人には言わせたらダメだ…。
「もうそういうのは、やめにしないか?このまま続けるようなら、僕は二人から手を引くからさ?僕が居るから悪いんだよな?」
こんな事、言いたくなかった。