神歴第二十七の年 新種
朝になり、まだ風は強く吹くものの昨日の嵐は去っていった様であった。
雲は速く流れ、海もまだ白波が高くたっている。
「うーん、こりゃもう一日二日はここに居なきゃだよねぇ。」
と、伸びをしながらルーアがあくび混じりに言う。
「そうですね、流石に白鯨様もまだ海の底でじっとしておられるのでしょうし。」
森にあった鮮やかな色の木の実を持ってきて差し出しながら言うシャムス。
ヨナの子たちは木の実や果物に齧り付きながら、
「そうだね、ちょっと果物も食べないといけないしね」と、気楽なことを言っている。
「ただじーっとしてるのも勿体無いから、ここを探索してみよう!」
「「「おー!」」」
と、いった具合で島の探索が始まった。
シャムスやカマルのいた大樹の島とはまた異なる植物相をしており、棘の生えた木や、人ほどの幅のある大きな葉を付けた草などがあった。
「みてー!綺麗な色のとかげ!」
と、ヨナの子の一人が青竹色の見事な体表が光る蜥蜴を捕まえてきた。
捕まった割には大人しく、腕にぴったりとくっついて、「きゅっきゅっ」と鳴いている。
「きゃーちゃんって名前にするね!」と、その少女がにこやかに言うと、蜥蜴も「きゅー」と可愛らしく鳴きながら同意している様だった。
「いやでも、連れて行くのはどうでしょうか…流石に新大陸とでは環境が違うかもしれませんし…」と、唯一常識人なシャムスが言うと、
ルーアが、「それはそうだけど、きゅーちゃんが大丈夫ならいいでしょ!それにどう見たって懐いてるよ?」と、何とも主観的に答えた。
こうなったルーアは聞く耳を持たないことを知っていたため、この場は引き下がることにしたシャムス。
そうして一匹のお供を加えて島の探索の続きを始めた。
海沿いの多様性に富む森から更に奥。
二刻ほど歩いたところで、大きな何かを引きずったような跡を見つけた。
「これは何か大きな生き物の痕跡ですね。足跡も大きい。」
見ると、シャムスが言う通り、引きずった跡の両側に時折大きな窪みがあった。
どうやら四足歩行の生き物らしい。
「こーんなおっきな体の生き物、白鯨のおじいちゃんの他にみた事ないよ!」
どんな生き物なんだろうね!と、顔を輝かせて、冒険を楽しんでいるルーア。
「大丈夫?」
「すごいねぇ!」
「大きいって…食べられたりしないの?」
「ちょっと怖いよね。」
と、ヨナの子達も口々に言う。
「そうですね、仮に好戦的であったり、危険だと判断すれば逃げましょう。いざという時は、皆を守って船まで退避します。」と、シャムスが丁寧に説明してやると、怖がっていた二人も表情の強張りが取れ、ゆっくりと頷いた。
その時、ズルズルと何かを引き摺る音と、木々がめきめきと倒れる音。
ーーーーァアア!
それに続いて大きな咆哮が聞こえて、皆表情が強張った。
「なんか向こうから良くない風が吹いてるね。見に行こう!」と、ルーアが返事を待たずに駆け出していく。
「あぁ、もう!皆は必ず僕の後ろに居てください!守りますから!」と、ルーアの後を追いながら、一同に声をかけた。
ヨナの子たちも走ってついて行く。
流石に野山を駆け回っているだけあって、なかなかの健脚でシャムスの後を難なくついてくる。
と、皆が走り出すのに合わせて、きゅーちゃんがヨナの子の腕を離れて、自ら参考方向に向けて勢いよく駆け出した。
「あ!待ってきゅーちゃん」と、ヨナの子が呼び止めるが、風を切る様な速さで駆けて行ったのであった。