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新世界創造  作者: プラトー
第10章
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神歴第二十七の年 不測

「うーん…少しまずいぞ。」

と、突然歌を止めた白鯨が速度を緩めながら言った。


「どーしたのおじいちゃん!」

と、ルーアが尋ねる。


先ほどまで穏やかだった空に、進行方向から見て北東の方角からわずかに黒い雲がかかり始めていた。


「ちょっと曇って来てますが、そのことですか?」

と、シャムスも問いかける。


白鯨は暫く尾鰭を軽く揺らしながら考え、

「おそらくこの後大きな時化が来る。」と、低く唸る様に言った。


「だからかな?何だかすこーし風がおかしい気はしてたんだよねえ。何処か避難出来るところはあるかな?」

嵐の海、逃げ場もないというのは少し危険だと、流石のルーアも考えて、白鯨に問いかける。


「少し聞いてみよう。待っておれ。」

と言うやいなや、白鯨は喉を大きく膨らませて、空間が震えるほどの大きな音を出し始めた。


高い様な、低い様な、色々と複雑な旋律が響く。

緊張感と、荘厳さの漂うような音であった。


「今のなんですか?」

ヨナの子の一人が問いかける。


「おお、海に住まうものの仲間に、色々と聞くために呼びつけたのじゃよ。」

と普段の陽気さとは異なり、海の王らしい威厳を見せながら言った。


暫くすると、大きな魚や、蛸や、人の体に魚の鰭のついたようなものまで現れて、何かを白鯨に伝えては去っていった。


「ねえ、おじいちゃん。今人みたいなのが泳いでなかった?」

ルーアが驚きながら白鯨をつんつんとつつき尋ねる。


「ん?おお、あれは人魚じゃな。」

と、事もなげに応える白鯨。


「その人魚が何なのかということと、初めて見るからびっくりしたということをルーアは言いたいのだと思いますよ?」

と、横からシャムスが解説を入れる。


「ほっほっほ。お前さんたちの知らんことはまだまだ沢山あるのじゃて。無論、わしにもな。」

と、からからと笑う姿に、何を言っても仕方ないかとそれ以上の追求を諦めた。


そうして、「ところで、凌げるようなところはあったんですか?」

と、ヨナの子が問いかける。


「ああ、きちんと聞いておいたぞい。ここを少し北に行ったところに、それなりに大きな島があるらしい。」

と、大きな目をそちらにやりながら応えた。


「じゃあそこにお願い!」

いよいよ空が暗く、波が荒くなりだしたので急ぎ伝えるルーア。


「ほっほっほ、そうじゃな。急ぐとしよう。」

と、白鯨は勢いよく泳ぎ始めた。


いよいよ波が甲板を超えて打ち寄せ、帆が千切れんばかりに音を立てながら、四方八方に大きく揺れる。


シャムスとルーアの力で、船と一同に吹きつける風や波を弱めながら進む。

「こわいこわい!」

「と、とばされる!」

と、不安がるヨナの子たちを元気付け守りながら何とか嵐を避けて、島に到着出来た。


「ありがとうおじいちゃん!」

言いながらすぐに、皆を連れて島に向かうルーア。


「うむ、わしもそろそろ海の底に向かうとしよう。如何にわしでもこれは流石にまずいからのう。」

と、挨拶もそこそこに深くへと潜る白鯨を見送った。

そうして、猛烈な風に翻弄されながらも、シャムスの能力で硬い木の家を海から少し離れた丘の近くに作った。


「大丈夫でしょうか?ルーアさん。」

と、ヨナの子供達が不安そうにしている。


強い風の音と、降り出した雨の音、木の家が時折軋み揺れる。


「大丈夫!シャムスの木はすごく強いから!ギデオンも褒めてたくらいなんだよ?」

と笑いかけるルーアの言葉に、皆少し落ち着きを取り戻した。


「しかし、無事新大陸に着けるでしょうか。」

と、小声でルーアに言うシャムス。

皆を不安にさせない様にして、気遣いながらも、懸念を伝える。


そんなシャムスに、ルーアは笑顔を見せながら、

「大丈夫!きっとこれも必要なことなんだよ!わくわくに出会うために!」

と、この状況すら楽しむ心構えを見せた。


「あなたは本当にすごい人です。…そうですね、まずはこの場を乗り切って、その先は楽しんでいきましょう!」

と、気持ちを切り替えたシャムス。


夜になり、まだまだ嵐は続くのであった。

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