神歴第二十七の年 追い風
穏やかにそよそよと草花を揺らす風と、時折花びらをいくつか巻き上げる様な風が交互に吹いてくる、よく晴れた春の日。
ルーアとシャムス、ヨナの子供たちの中でも男女三名ずつが新大陸行きの船へと乗り込んだ。
ギデオンやハンナ、ハットやカマルといった前回の遠征のメンバーも、村の皆も見送りに来ていた。
ヨナは、「ルーアの邪魔にならないようにね。あと、たまには顔を見せるんだよ?」と、子供たちに言い、
エーレも、「やりたい様にやってくるのがいいわよ。」とにこやかに送り出していた。
皆からそれぞれ見送りの言葉と、餞別をもらい、
白鯨の協力と、強く吹いてくる追い風を受けて、船は勢いよく出航した。
ルーアは、春の…新たな季節の空気と、潮の香りを胸いっぱい吸い込んで、
「みんなー!待っててねー!すっごいどきどき見つけてくるからー!」と、はち切れんばかりの笑顔で、大きく手を振った。
「ほっほっほ。爺さん遣いがあらいのうルーア。」
と、満更でもなさそうな白鯨に、
「またまたー、ちょっと楽しみにしてたくせにー!」
と、じゃれるルーア。
船は前回の帰路並に速度が出ており、ヨナの子達は早速船旅の洗礼を受けていた。
シャムスが船を改良して、揺れを吸収しやすい様にしていなければ、きっと皆新大陸まで持たなかったであろう。
以前来た時と同じ航路を辿り、シャムスとカマルの居た島に少し寄ることにした一同。
もう大樹の姿はなかった。当たり前なのだが、こうして再度確認すると、やはり胸にきゅっと締め付けられる様な感覚がするシャムス。
「ルーア、ありがとうございます。悲しい気持ちはまだありますが、寄ることが出来てよかったです。」
寂しげな笑顔で言うシャムスに、
「あれみて!!」と、少し先で大樹のあったところを指さすルーア。
見に行ってみると、大樹の根元付近。
その中央に、若い木が一本。
細いながらも、他とは異なる生命力を溢れんばかりに放ちながら生えていた。
「これは…大樹様のような感じがする。」
と、シャムスが近寄ると、若木から聖気が、ほんわりと僅かに滲む。
「すごい!すごいね!」
と、はしゃぐルーアに、シャムスは目元を拭いながら頷く。
きっとこの木が更に育ち、いつか大樹になるのであろう。
シャムスは手を合わせて、あの後の出来事の色々を話した。
そうして、少しだけ聖気を注ぎ、木を大きくして、
「また来ますね!」
と、笑いかけながら元気に声をかけた。
事情を書いたヨナの子供達も口々に別れの言葉を告げて付いてきた。
もしかしたら同じ木ではないのかもしれない。
しかし、心の拠り所が、自らを生み出してくれた大樹が、同じものでなくても、この世にいてくれると感じられる事はシャムスにとって大きな心の支えとなった。
足取り軽く船に戻り、新大陸へ向かう航路を進む。
船の帆だけでなく、皆の心にも追い風が吹き、先へ進む力をくれる様であった。