表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界創造  作者: プラトー
第9章
90/112

神歴第二十六の年 月下の約束

ハットはその提案を快く引き受けた。





夏も終わりに差し掛かり、薄黄色に光る…顔を出し始めた山際の月が、少し秋を思わせる温度の夜風に吹かれて、柔らかな光を届ける。


そんな月明かりの下、


ハットはアイザック、メハムと久しぶりに兄弟で集まり、近頃オーズが作ったという酒を酌み交わしながら語らっていた。



新大陸のこと、アイザックの新しい裸芸のこと、鍛錬の時にケセフとギデオンの打ち合いが壮絶すぎることーーー取り留めもなく、思い付いたことを話し、笑い、驚き、ゆったりとした時間を過ごしていた。




「愛し、守るものへの思いの強さが本当の強さになるんだー。」

いつもより遥かに饒舌なメハムが、ケセフの口調を真似て言ったあと、不服そうに口を尖らせる。


「それよりも強いやつを倒した数。それが結果的に守った数で、それが強さだと思うんだ。」

と。


「おめえは真面目過ぎるんだよ。もう少し俺みたいに柔らかく生きろよ。なんだっていーじゃねえか。お前は良くやってるよう!」

メハムの頭をぐりぐりと擦りながらアイザックが言う。


「そうだねえ…危機から命を救う守ると、愛するものの行先を守るのはまた違うよね。どちらも難しく甲乙つけ難いことだと思うよ?」

ハットはにこやかに続ける。


「強さも、愛も、独り善がりなどでなければ…人の数だけあっていいと思うんだ。主もきっとそう思っておられる。」


新大陸を旅して、どこか大きく、大人になったハットが、そう言って二人に微笑みかけると、一瞬の静けさが訪れた。




「…んんん、俺は弱っちいからお前らの言うことは半分も分からねえ。メハムはつまりどうしたいのよ?」

と、アイザックがふらふらとしながらメハムを指さして言った。


「強い奴ともっと戦って、強くなって…。」

メハムがぼんやりとした表情で、しかし目に光を宿しながら言う。


「その先だよ先!強くなってどうしたいのさ。」

そう続きを急かすアイザック。


「あの日見た、圧倒的な力、その安心感。守られて愛される感覚。それを与えられる様になる。」

メハムは一息に、しかし一言一言を大切そうにそう言った。


「でもまだ足りない。」

とも。


メハムは、途轍もなく強大な敵を打ち倒して、成長して尚、自らの弱さを感じていた。


「でもまだ足りない。もっと強いのと…まだ…」


言いながら段々と首がぐらぐらとして、ついには寝息を立て始めてしまった。



「なぁ、ハット。俺はお前の付いてったギデオンがどんなに凄いかわからねえ。」

ぽつり、とアイザックが言った。


「けどな、こいつは凄え。戦闘狂だなんだって言われてるけど、こいつはこいつでなりたいものに向かってるんだ。」

メハムに膝掛けを掛けてやりながら言う。


メハムは日々、鍛錬をして、村に近づく前に昏きものを一人で打ち倒し、また鍛錬に励む、血の滲むような努力をしてきたことをアイザックは知っていた。


それが、果てしなく、満たされない力への渇望であることも。


「だからな、こいつのこと俺たちで、みんなが認める最強にしてやれねえかな。こいつ不器用だから。仏頂面にびびっちまうやつは俺が笑わせてさ。

そこにお前も付いてきてくれりゃ間違いねえんだ。」


笑いを捨てて、真剣な目つきで、ハットに迫るアイザック。


「メハムを大事に思う気持ちはすごくよく分かったよ。付いて来るっていうのは、つまりどういうことかな?」

にこやかに、しかし誠実に、兄弟の願いを叶えたい思いが伝わる様な声色でハットは応えた。



アイザックは、大きく息を吸い込んで、


「俺らの町を作ろうと思うんだ!」

と、突拍子もないことを、大真面目に言ってのけた。



…どうしてそうなるのか、と考えたが答えの出なかったハットが理由を尋ねる前に、その表情から察したアイザックが説明する。



「いやいや、わかる。疑問はわかるぜ兄弟。俺は思うんだ。こいつが戦って守る姿を間近で感じられて、さらに村の外側を守る形に町を作ったら、村の奴らにも感謝される。村を目指してくる敵も倒せるし一石三鳥だ。」



一理なくはない。

そうハットは思った。


ケセフやヨナの存在で村は守られているが、いつまでもその防御が持つとは限らない。


また、神殿に通じる村の道を守る意味でも、外郭を固めることは利点がある。



「なるほど、よくわかったよ。何人か賛同してくれる人を探して、ある程度の規模のものにしよう。」

ハットは提案をした。


「おい、それってつまり…いいのか?」

先程までの勢いをなくして、恐る恐るといった様子でアイザックが尋ねる。


「ああ、面白そうだしね。」

ハットはその提案を、快く引き受けた。



夜風が背中を押すようにして吹く。


中天には、白く輝く月。

その柔らかな光が三人を包み、静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ