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新世界創造  作者: プラトー
第8章
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神歴第二十五の年 大樹

少し大人しくなった二人を連れて、砂浜の森との境目、木陰が日差しを遮り、風が吹き抜ける場所で、座り話をしようと試みた。



ルーアの持つ果物を物欲しそうに眺めたあと、子どもたちのお腹が鳴った。


ひとまず落ち着かせるためにも、果物と、持っていた食料を少し分け与えて、ゆっくりとハットが話しかけた。


「言葉はわかる?君たちはずっとここにいるの?」


問いかけても、唸る様に何かを口籠るだけであった。


それでもハットが根気よく、和かに話しかけると、



男の子がシャムス、女の子がカマル

であることだけはわかったが、それ以外は身振り手振りであった。


言葉を殆ど知らなかったのだ。



どうやら二人はこの島に二人きりであったようだ。


大きな木の根元に住んで、小動物や果物を食べて生き延びてきたが、


いつしか現れた、大きな黒いナニカに追いやられ、逃げ延びて島の反対側に来た。


大きな木も、少しずつ黒く染まり、動物が居なくなった。


反対側は黒いナニカがいるため戻れない。


食べるものにも困り始めた頃、ルーアとハットを見かけ、やられる前に…と、粗末な弓矢を撃ったのだ。


概ねその様なことがあったようだ。



説明を終えて、久々のまともな食事をとって落ち着いたのか、二人はうとうととし始めた。



「なあ、こいつらが何なのかは…とりあえず置いておいて、だ。その黒いやつ…間違いなく昏きものだな。」


ギデオンは瞳に力を込めて、聖気を猛る勢いで放ち始めた。


「ええ…きっと。辛い思いをしてきたのね。」

と、ハンナが二人をそっと撫でた。


いつのまにかハットの服にしがみついて眠っていた。


ハットも、

「どうにかこの子達の家を取り戻しましょう。」

と、珍しく笑みを消してそう言った。


「じゃあ決まりだね。ギデオンと私は島の反対側に。何かあったら船まで戻って、おじいちゃんを起こせばきっと大丈夫。」


と、ルーアが言って立ち上がった。


「ギデオン、ルーアさん、気をつけてね。」

ハンナが心配そうに言うと、


「大丈夫だ。守るものが増えた俺は、絶対に負けない。」

と言って、決意を込めた瞳の光はそのままに笑ってみせた。






島の反対側。


海岸沿いの洞窟の中の、岩壁がごつごつと張り出した波の打ち付ける細い道を抜け、鬱蒼とした森の中へ出た所から、空気が変わった。


鳥の姿も声もなく、森全体が重苦しい空気に包まれている。


「こりゃ間違いねえな。ルーア。」


「うん、わかってる。」


ギデオンは、リュノクスに焔を灯すと、辺りを警戒して構えながらルーアに声をかけた。


一歩後ろに居たルーアも、投擲用の小さな剣を持って木に登り、辺りを見まわした。




木の上からは辺りがよく見えた。



森の中央、一際大きな木が聳え立っている。

普段はそれはもう立派な木なのであろう。


しかし、今はその枝葉を暗く、黒く染め、風に吹かれるたび、ボロボロと先端から崩れていた。


そして、その周囲の木々は枯れ果て、倒れて、そこに瘴気が漂っていたのだ。



「ギデオン、この木を真っ直ぐ行った辺り。多分白鯨のおじいちゃんを何人か並べたくらいの所に、大きな木があったよ。」


木を降りて、大木が毒されていることも、瘴気がその辺りに満ちていたことも、ルーアはギデオンに伝えた。


「わかった。行くぞ。」

ギデオンはそう言うと、真っ直ぐ歩き始めた。




ソレは、4本足の獣の形を模しており、身体に不釣り合いな、巨大な爪を有していた。


尾の代わりに気味の悪い触手が蠢き、周りには黒ずんだ骨や羽が散らばっていた。


「居やがったな。とっとと仕留める。」


そう言うや否や、ギデオンはリュノクスに纏わせた焔を、より猛々しく燃え上がらせて切り掛かった。



胴体を深く焼き切られた昏きもののは、

「ーーーッ」


悲鳴も忘れて飛び上がり、尾でギデオンに攻撃をしかけつつ距離を取った。


「ちっ…仕留め損ねたか。」


「ギデオン!仕掛けてくるよ!」


ルーアが言うや否や、昏きものが飛びかかってきた。



稲妻のような速さであり、その悍ましいほどの爪が、ギデオンの眼前に迫っている。



ギデオンは愛剣リュノクスに注ぐ聖気を増して、爪ごと昏きものを炎に包んだ。



この世のものとは思えない様な苦痛の声を上げた。



身を灼かれながらも、呪詛の様な唸り声をあげてルーアへ飛びかかる昏きもの。


「させるか!」


ギデオンは再度、周囲が揺らめくほどの熱量を込めた一撃を加えた。


しかし、その体が二つに別れたにも関わらず、上半身だけでルーアに飛びかかる昏きもの。


触手を広げて、逃げ場を無くし、確実にルーアを仕留めようと爪を振り上げたところで、



「来るような気はしてたんだよね!」



ルーアは、風の様に軽やかな動きで飛び上がると、木々を蹴りながら駆け上がった。


そうして、宙に舞うと、手に持っていた小さな剣を二つ、昏きものに放った。


吸い込まれる様に、昏きものの目へと直撃する剣。


「おおおおおおおおおぉぉ…」

悶えて転がった所に、ギデオンがとどめを刺した。



崩壊していく欠片すら燃やし尽くして、戦いは終わった。




目を覚ましたシャムスとカマルを連れて、ハットとハンナがやって来た。



ギデオンは丁度聖気で辺りを清め終わったところであった。



「ハット、もう少し早く来てくれれば…俺はこういうのは苦手なんだよ。」

やや疲れた表情は、戦闘よりも浄化に苦労したからであろう。



「ごめんね、残りは僕がやるから。」

ハットはにこにことしながら謝った。


そうして祈りを捧げ、すぐに離れたところを浄化し始めた。



ハンナは、シャムスとカマルに、

「黒い怖いのはギデオンとルーアがやっつけたから、もう大丈夫よ。」


と、優しく声をかけた。



シャムスとカマルは、よくわからないといった顔をしていたが、辺りがギデオンとハットの浄化によって、


清浄な空気と、光に包まれていくのを見て、表情を綻ばせた。



二人の案内で、辺りの瘴気を浄化しながら大樹の元へとたどり着いた。



元々青葉を茂らせて、雄大な姿を見せていたであろう大樹。


絡んだ蔦や、根元にある粗末な小屋ごと、濁った黒に染まり、葉は枯れ落ち、根は縮んで浮き上がっており、見る影も無くなっていた。



シャムスとカマルは、膝をついてぽろぽろと涙を流し始めた。


「くぅぅ…」


喉がきゅっと鳴る様な声を漏らしながら、草を掴み、大樹を見ながら泣き続けている。


きっと説明しきれなかった思い入れや、住処を失った辛さ、死ぬかもしれない恐怖が蘇った…色々な感情が合ったのであろうと思えた。



「ねぇ、ギデオン。この木、少し聖気を感じないかい?」

と、ハットが言うと


「奇遇だな。俺もそう思ったんだ。奴が長く居たにしては侵食が軽いのはこいつのおかげか。」


ギデオンは思案しながらそう答えた。


「んで、お二人さん。この木なんとか助けられるの?」

ルーアが尋ねると、


「…いや、流石にこの木だけ侵食が酷すぎる。おそらく森への影響を肩代わりしていたんだ。

ここまで来るともう…。」

笑みを消してハットが口ごもりながら言った。



「このままだと、苦しみながら朽ちるのを待つだけだ。」

ギデオンが表情を消して、リュノクスに焔を灯した。



「待って!あそこ!光が!」

ハンナがギデオンの腕を掴んで引き留めながら指差した。




その指し示す先に、淡い緑の光があった。


大樹から滲み出る様にしながら集まった光が、徐々に一つになり、ゆっくりとこちらへ向かって来た。




あれは…聖気の類か…害意はないが…


ギデオンは引き留められた体制のまま、仕掛けるべきか否かを考えていた。



光が目の前まで来た時、急に声が頭の中に響いた。



《ありがとうーーー神の子、人の子らよ。》と。

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