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新世界創造  作者: プラトー
第7章
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神歴第十二の年 神の試練



吹く風の、その向きが変わった。



そして風に乗って、今まで聞いたことの無い、不快な…不穏な音が響いてきたのであった。




その時を待っていた。

そう言わんばかりに。




ソレは、永きに渡り幾多の世界を滅ぼした、人の業。


ソレは、命を弄び、嘲り、嬲り、堕落させる、尊厳の死。


ソレは、醜く、卑劣で、全てを憎む、憎悪の塊。


ソレは、無秩序と、闇と、混沌を愛する、神への叛逆。



凡そ世界にとって最も害となる、腐敗し、周囲を同じく腐らせ、喰らい尽くす病巣の塊の様なものであった。



神とてここまでの醜悪さを求めては居なかった。


全知全能とは言えど、それはあくまで世界の管理者として世界から与えられたもの。



世界を虎視眈々と狙う、世界を内側から蝕むモノ達を完全には防げず、そのモノ達にとって、この昏きものの姿は、その思惑を行動に移すのに丁度良かった。



『光あれーーー』


と、照らされた世界で、常に影の側におり、世界を蝕む時を待っていた。


ある世界では悪魔と、ある世界では滅びと呼ばれたもの達は、四度目の今回こそ、と、準備を進めていた。



神の住まいのある大陸は、浄化され侵入出来ずにいたが、神の力もまだまだ弱く、第三の世界のそれに劣る。


世界を広げるため、人の子の世が始まるこの時を狙って、外の世界で蓄えた力を持って、神の思惑と合わせる様にして、その侵略が始まった。



世界をまた滅ぼすために。




姿形はさまざまであった。


人の罪、穢れから産まれたものは、爛れた様な醜悪な触手と、正気を失わせる様な金切り声をあげる。


嘲り、弄ぶことから産まれたものは、絶望的な力を感じさせる巨躯と、狡猾さを持っていた。


憎悪から産まれたものは、全ての命あるものを蝕む毒で穢れた牙を持っていた。


闇と無秩序から産まれたものは、実体を持たず、闇に紛れて人の心を闇に引き摺り込む力を持っていた。



それらが一斉にその魔の手を伸ばしてきたのだ。





木々の騒めきが、一層酷くなった後、ぴたりと止まった。




「これは…あまりにも…あまりにも害意と穢れに満ちている。子供達をすぐに避難させてください。」

ケセフはいち早く置かれた状況に適応した。


先ほどまでの笑みは消え、その瞳の聖気をこれまで以上に放ち、緊迫した声でイーサンとローシュ、ゼミーラとエーレに指示を出した。


「父さん母さんは子供達を教会へ。


レーリアに状況を話して、ここに連れてきてください。」

イーサンとローシュは頷くと、子供達を抱えて、すぐに駆け出した。


「ゼミーラ、私の剣を取ってきてください。エーレは、皆と共に、神に祈りなさい。どうか救済を、と。」

ゼミーラは、言い終わらないうちに、一瞬目配せだけをして森へと飛んでいき、エーレも柔和な表情から一変し、頷くと、


「兄様、どうかお気をつけて。」

そう言いながら走り去った。



小さな動物達が音を立てて逃げ出していった。


ケセフの側に徐々に動物の中でも力を持つものが集まり始めた。


息を切らして、なんとか辿り着いたゼミーラから、ケセフは二振りの、薄く赤と青に染まった美しい剣を受け取り、片方をギデオンに渡した。


「ゼミーラ、逃げて。」


「分かった…でも、どうか無事でいて。」


そう言葉を交わすと、ゼミーラは悲痛な表情で、なんとか息を整え、走り出していった。






「さて、ギデオン。」

家族であり、弟子とも言える頼もしい弟に声をかけた。


「いつも教えていたこと、覚えていますね?」


「あ、ああ、それがど…「今がその時です。」


ギデオンが言い終わらないうちに伝えられた言葉。

その静かな迫力に思わず息を飲み、その迫力に、これから起こる何か大きなことに、ぶるりと身震いした。





「来ます。」

そう言ったと同時に、ソレが姿を見せた。



丘の向こうから聞こえる金切り声や唸り声、怨嗟の言葉の様なものがはっきりと聞こえ、


丘の上に、深い闇が、染みのように広がった。

混沌より暗く、あたりの光を奪っていく影。


爛れた触手を伸ばした姿、狂気の笑みを浮かべた巨躯の影は、どこまでも醜悪で、毒牙は周囲の命を汚染しながら迫ってくる。



それらが、はっきり見えたのだ。



「さて…ここからは神の伝道師として、使徒として、踏み入ることを許さぬ。

私の愛しきもののために、消えてもらおう。」


途中から叫ぶようにそう言うと、剣を深く握り締め、聖気をまとわせた。

青く、蒼く、ケセフの聖気と合わさり輝く剣で、光の尾を描く様にしながら、全速力で飛んで行った。


そして、その後を、白銀の狼、大木ほど巨大な熊、艶のある黒い毛並みの豹が追いかけて行った。



「なんだよ…あれは。兄さ…師匠、まってくれ。」


ギデオンはまだ飲み込みきれない状況の中、それでも渡された剣を持って、


きっとこれから成すことが、自らの使命。

毎夜苛まれる悪夢が、絶望が来たのだという直感。


我武者羅に強さを求めた蛮勇から、本当の勇気を持たねばならないということの、

その重さと、思わず握り締めた剣の重さに、押しつぶされそうになったが、


『より力を得たものは、そうでないものを守る役割を与えられているーーー』


『神様の導きに従って、か弱きを愛し、守って、その身に愛と正しさを持つ様に。』


自然と口をついてその言葉が出てきた。


「くっそ、分かったよ!」

そう叫びながら聖気を放ち、赤く、紅く染まる剣にまるで燃え盛る炎の様な輝きを纏わせて駆け出していった。


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