神歴第三の年 はじまりの繁栄
イーサンとローシュの二人は、少女が天に登った日から、神に造られたという自分たちに出来ること。
自分たちだからこそ出来ることを考えた。
そうして気付く。
ケセフは動物たちと心を通わせる稀有な能力を持ち、レーリアは魂の輝きを見ることができる。
これらの力はただの偶然ではなく、きっと何か深い意味がある。
そう考えた彼らは、自分たちにも何か与えられた力があり、それが何かしらの意義を持っているはずだと確信した。
彼らの出した答えは正しかった。
少女が自分たちの成長の度、『こんなに早いなんて!』と驚いていた事が鍵だったのだ。
早い成長。
それはかつて神の言った、『産めよ、増えよ』その言葉を体現するためだったのだーーーと。
そうして彼らはこの頃までにさらに5人の赤子をもうけた。
少女の手助けは得られなかったが、ケセフとレーリアが助けとなってくれた。
このところ、レーリアは神となった彼らの母を探し歩き、ケセフは何かに懸命に取り組んでいるため、頼ることは出来なかったが、子供達のうち早くに生まれた子、エーレが助けてくれた。
大地に広く、栄える様にと名付けたその子は、ケセフとレーリアよりも早くすくすくと育った。
薄緑に光る髪と、金茶に砥の粉色が散りばめられた瞳と、穏やかで優しい気性を持っていた。
彼女は父母の助けになり、兄弟姉妹の世話を進んで行っていた。
その手際は良く、離乳食のパン粥に温めた牛の乳を混ぜたものや、果汁を麻布で濾したあとに少し形を残した果物を混ぜたものなどは難なく用意してみせる。
生まれて二年と少し過ぎた程度であるにも関わらず、体はかつての少女ーーー今や神となった母に匹敵するほどに成長していた。
その生活に関した力は相当なものであった。
神として降臨した少女が、ローシュにまだ宿っていた魂が、今となってはこのように成長している。
二人は感慨深く見つめると、ケセフとレーリアと同じくらいの速度で育っていく他の子供たちの世話を再び始めた。
春の芽吹きのように子供たちも徐々に成長し、世界に新たな命の息吹を与えているかのようだった。
神として降臨した母を見た日、イーサンとローシュは、ケセフとレーリアとは違う涙を流した。
時折影のある表情を浮かべ、苦悩しながらも自分たちを育ててくれた母。
愛を与えて、常にその力の庇護下に自分たちを置いて、そうして数えきれないものを与えてくれた母。
一度だけ、世界と神に絶望して事切れた話をしてくれた母。
そんな自分たちの母が、新たなる使命を持って、表情から憂いと影が消し去って、希望に満ち溢れ、あまつさえそれを世界中の全てに分け与えていた事。
そうして自分たちを心の底から愛し、導いてからることへの感動と、愛の深さ、なにより何か囚われていた深い闇から解放された様な光景が、2人に衝撃と、この上ない安堵と幸福感を与えたのだ。
少女が二人を深く愛していたように、二人も少女を…母を愛していたのだ。
その時にローシュのお腹に宿っていた魂こそ、エーレであった。
神の降臨の影響か、また何か自分たちの様な役割を持ってか、それは二人には分からなかった。
しかし彼らは、エーレをはじめとする子供たちが、この世界に愛され、愛を与えながら生きることを信じていた。
きっと、この子たちにもかけがえのない役割があるのだ…。
そう思いながら、この時期の草花のようにすくすくと育っていく我が子達の世話に勤むのであった。
子供たちが、神と共に生きる新たな時代を迎える準備のために。