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新世界創造  作者: プラトー
第5章
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神歴第二の年 原罪

イーサンとローシュの元を離れたケセフは、森の深い場所に小さな小屋を作り、動物たちと共に静かな暮らしを始めた。


彼の優れた力と、動物たちとの深い絆によって、

牛や豚、鶏、馬、山羊などの生き物たちは自然と「飼われる」ことに順応していった。


彼らは乳や卵、時には血肉さえも、自ら進んでケセフやその家族のために差し出すようになった。


だが、ケセフはその愛に満ちた動物たちを、自らの手で糧にすることにどうしても抵抗を感じていた。


心を通わせた相手を、食べるために殺すことができない。彼はその思いに苦しんでいた。


「命を奪わねば、生きることができない自分が、恥ずかしい…」

ケセフは動物たちから提供される命を前に、何度もそう嘆いた。


彼を慕う動物たちは、年老いて命が尽きる時、自らの意思でその身をケセフに捧げた。

彼の命を、自分たちの命で支えたいという深い愛がそこにあった。


だが、ケセフはそれでも慣れることができなかった。

何度命を頂いても、毎回心の奥底に懺悔が渦巻いた。

そして、動物たちに詫びながら、その命を頂いた。


ふと、ケセフの心に一つの考えがよぎった。

「大母様に助けを求めよう…動物たちがこれ以上、自分たちの命を他者のために差し出さずに済むように。」


その思いが彼を動かした。

ケセフは決心し、遠い道のりを進み始めた。

山を越え、森を抜け、そして海岸沿いに三日三晩歩き続けた。


ついに、彼は小高い丘の上に建つ、白亜の神殿にたどり着いた。


神殿は静かに佇み、世界を見守っているかのようにそびえ立っていた。


ケセフはその荘厳な光景に、胸の中に秘めた思いを押しつけるように神殿の扉へと進んだ。

彼の心は、動物たちの命を無駄にしないための祈りと、導きを求める願いで満ちていた。


やがて、神殿の奥から、かすかに聞こえる声が彼を導くように響いた。


『よく来たね。愛しい子。さあ、入りなさい。』


「神様…どうか、私を、そして動物たちをお救いください。」そう言って、ケセフは神の御前に跪き、心の奥から祈りを捧げた。


ケセフの祈りは、静かに白亜の神殿の中へと届いた。


結果的に、彼の願いの半分は聞き届けられた。


しばしの沈黙の後、神の穏やかな声が彼の心に響いた。


「ケセフよ、お前の祈りは確かに届いた。


だが、命とは本質的に奪い合いの連鎖にあるものだ。


すべての生き物は他者の命を糧として生きている。


例え、それが一枚の葉であろうとも、それもまた命の一部である。


生きる者は皆、その命をいただきながら、自らもいつかは他者に命を捧げる運命にあるのだ。」


ケセフはその言葉に打たれ、静かに息を呑んだ。


「では、どうすれば良いのでしょう?

私は動物たちを愛し、彼らの命を奪うことが苦しくてなりません。奪わずに生きる道はないのでしょうか?」


神は優しく応えた。


「奪うことから逃れることはできない。しかし、奪うだけが命の本質ではない。お前は、その分他者に与えることができる。」

ケセフを見つめ、微笑みを崩さずに続ける。


「動物たちが、お前に命を差し出す代わりに、私は彼らの魂に大いなる祝福を与えよう。


彼らは死してなお、深い安寧と長きにわたる魂の安らぎを得ることになる。

お前の愛によって、彼らの魂は光に包まれ、何よりも大きな安らぎの中で生き続ける。」


その慈悲深い言葉に、ケセフは少しだけ胸が軽くなるのを感じた。


しかし、同時に大母様…神の御言葉は、彼に人としての原罪を理解させるものでもあった。


「命を奪わなければ生きられない。それはすべての生き物が背負う罪だ。


だが、その罪を意識し、奪うことの痛みを知り、深い慈しみの心でその命を受け入れるならば、人はより多くの優しさと愛を与えることができる。


お前が動物たちを愛し、その命を大切にする限り、奪うことで得た命は、さらに大きな善をもたらすのだ。」


ケセフは深く頷いた。

神の御言葉は、命の本質と人が背負う罪、そしてその償いについての真実を示していた。


「奪うことは罪であり、悲しみだ。

しかし、その悲しみを乗り越えて他者に愛を与えることが、償いとなるのだ。


奪った命を無駄にせず、その命に感謝し、慈しみ、他者へ優しさを与え続ける限り、罪は清められる。


そして、命を奪うことがあるからこそ、お前は与えることの意味を深く知り、他者を愛することができるのだ。」


心に、魂にその教えが染み渡る。

ケセフの心には少しずつ理解が深まり、彼は再び跪き、静かに目を閉じた。


「神様…感謝いたします。私は、これからも命を大切にし、奪うことの重みを心に刻みます。

そして、奪った分、必ずその倍の愛と優しさを他者に与えようと思います。」


その時、柔らかな光が神殿の中に満ち、ケセフは神の祝福を受けた。


結果的に、彼の願いの半分は聞き届けられた。


もう半分は形としては聞き入れられなかったが、彼の望んだ形とは違う形で救済された。


彼は立ち上がり、神へ礼を述べると、動物たちへの愛と感謝を抱きながら、再び森へと帰っていった。


聖なる光の残滓と、決意をその瞳に宿して。

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