第三の年 神歴第一の年
深い闇の中、神は一人、恐怖に震えていた。
信じた人々に裏切られ、自らの存在意義を見失った。
人々に寄り添うことも、彼らを突き放すことすらも許されない――
その狭間で、神は絶え間ない苦悩に苛まれていた。
『私はなぜ存在するのか?世界を創る意味はあるのか…?』
永遠とも思える時間の中、神はこの問いに囚われ続けた。
果てしない暗闇に包まれながら、神は何度も自問自答を繰り返した。
滅びゆく運命を避けるため、いっそ世界を造らないほうが良いのではないか。
あるいは、人を造ることさえも間違いだったのか――。
やがて神は決意する。
やはり今度こそ、滅びることのない世界を創り出すのだ、と。
人々に困難を与え、その困難に立ち向かうための奇跡もまた与えよう。
そして、人々が祈りを通じて神に力を与え、永遠に続く世界を築くのだと。
こうして第三の世界が誕生した。
神は敢えて試練をもたらし、同時にその試練を乗り越えるための救済も授けた。
人々は困難の中で祈り、祈りが神に絶大な力をもたらした。
神はその力をもって、世界が再び破滅へと向かうことを防いでいた。
しかし、神の計略は完璧ではなかった。
人々の中には、善良さと醜悪さ、利己性と利他性、そして無関心と敬虔さが入り交じっていた。
神はこれらを上手に操り、世界の均衡を保っていたが、それでも人々が互いに傷つけ合い、命を奪い、痛めつける光景は、神の心に少しずつ深い傷を刻んでいった。
人々は試練に耐え、成長し、より逞しくなった。
しかし、その過程で彼らの信仰は揺らぎ始めた。
度重なる困難に、神への祈りに疑念を抱く者たちが増え、次第に神の存在さえも疑い始めたのだ。
神がその異変に気づいた時には、すでに手遅れだった。
疑念が渦巻く世界では、やがて終焉の気配が漂い始めた。
人々は神の存在意義を疑い、祈りを捨て去り、困難を乗り越えるたび蓄えた、独自の力で生きることを選んだ。
そしてついには、再び滅びへと向かう扉を開こうとしていた。
神はこれまで以上の力をもって、その運命に立ち向かった。
何度も崩壊しかけた世界を立て直し、人々の祈りを再び集めることに成功した。
しかし、一度崩れかけた信仰は簡単に元に戻るものではなかった。
神が集めた祈りの力で世界を再び修復しようとしたその時――
終焉は、静かに、そして確実に訪れた。
祈りの力が神に集まる瞬間、それはあたかもすべての希望が一つに結ばれるかのような感覚だった。
しかし、その祈りの力は、同時に神の存在を消し去る引き金となった。
祈りの源であったはずの人々が、最後には神を完全に否定し、その祈りさえも神を断つための力に変わっていたのだ。
「親愛なる神よ、世界よーーーあなたに永劫の禍を。
どうか貴方と世界に不幸あれ。」
その瞬間、神は自身が滅びゆくことを感じた。
『また…か…。』
静かに、自らが消えていく感覚を味わいながら、最期にその祈りを捧げた者を見た。
すでに事切れていた少女を、自らの救済が及ばなかったせいで、悲痛な祈りを捧げることとなった少女を…全てが崩壊するその瞬間まで、神は悲痛な表情で見つめていた。
神は第三の世界もまた失われたのだ。
人々は三度、神を見限り、滅びへの道を選んだ。
神は、ただ黙って…最後の祈りと共に、その結末を受け入れた。
そして、暗闇の中で再び消えていった。
祈りも、世界も、すべては無に帰し、ただ静寂だけが残された。
そして、その闇の中で――神は再び、創造の可能性を考え始める。
終わりなき、永遠の輪廻の中で。