第三の年 神歴第一の年
神の記憶に流れ込む光景は、悪夢そのものだった。
人々の所業は、かつての純粋さや敬虔さを失い、今や悪魔的とさえ言えるほど利己的で、暴虐に満ちていた。
嘲りの声が世界を支配し、彼らは他者を蹂躙し、奪い合うことに何の躊躇も持たなかった。
世界は技術力によって文明の頂点に達していたが、その技術により、世界は破壊へと向かっていた。
全世界が戦争に巻き込まれ、途轍もない威力の兵器が地上を瓦礫と死の灰で覆い尽くし、爆風はあらゆる生命を奪い去った。
作物は枯れ、獣は息絶え、大地は灰で覆われた。死者の亡骸に貪りつく者まで現れ、その狂気は底知れぬ絶望へと人類を導いていた。
神は、これが自らの創り上げた世界であることを信じたくなかった。
かつて彼が愛し、祝福を与えた人々が、このように堕ちてしまったことが、耐え難かった。
『もう、この世界はダメだ…私と共に滅ぶのだ…』
神の声は絶望に染まっていた。
自らが見捨てたことが、この結末を生んだのだという罪悪感に押しつぶされそうだった。
『人を見捨ててはいけなかった。これは私の罪だ…やり直せるならば、やり直せるならば!!』
輝きを失いつつある自分自身を見つめながら、神は慟哭した。
存在の崩壊がゆっくりと進み、力が失われていくのを感じた。もう何も残っていない、そう思ったその時だった。
俯いた神の目に、地上から一つ、また一つと弱々しい祈りの光が集まり始めた。
それは、文明を失い、理性を捨てた人々が、この世の惨状を憂い、滅びを願って捧げた最後の祈りであった。
彼らはもはや神の救済を信じていないかもしれなかったが、心の底では、何かが終わらなければならないと感じていたのだ。
『おお…なんと言うことだ。滅びを前に我が子らが私の救済を求めている…』
その祈りの光は、神の胸に深く沁み込んでいった。
それはほんのわずかな祈りだったが、神はその一つ一つを感じ取り、吸収していった。
神の体は再び、威光を取り戻し始めた。弱っていた力が蘇り、その存在は再び光を放ち始めた。
『よろしい、おまえたちの望みを叶えよう。』
その声が、荒廃した世界に響き渡った。
星々が夜空から空を砕きながら降り注ぎ、大地が裂け、海が怒涛のように押し寄せてすべてを押し流した。
炎と嵐が荒れ狂い、天と地の境が崩壊していく。
人々の祈りに応え、神は世界そのものを終わらせた。
『もう、私の存在意義はなくなった。総べる世界もない。』
そう呟いた神は、自らが消え去るのを静かに待った。
力尽き、崩壊した世界と共に消滅するはずだった。
しかし、何も起こらなかった。暗闇が彼を包み込む中で、神は気づいた――
終わりが、訪れていないことに。
『なぜ…?』
神は疑念を抱きながらも、思わず口に出していた。
『光あれーーー』
そうして、光があった。
神は衝撃を受けた。自らが語り終えたはずの言葉が、再び力を持ち、暗闇を裂いていた。新たな光が生まれ、そこにまた世界が形作られていく様子を目の当たりにしたのだ。
『世界は、また始まりを求めている…』
神は呆然としながらも、その現実を受け入れざるを得なかった。
彼は理解した。自らが存在する限り、世界は終わらないのだ。
創造と破壊は永遠に続く輪廻の中にあり、彼自身がその始まりであり、終わりでもあるのだ。
『私は…また始めなければならないのか。』
神は自らの役割を再び悟った。
滅びと再生、その永遠の循環こそが彼の使命であり、彼の存在意義だった。そして、彼は新たな世界を創るため、再び立ち上がった。
光は消えず、未来へと続いていく。神の存在と共に。