第三の年 神歴第一の年
まもなく新たな年を迎えようかという頃、
冬になってしまう前に。と、
少女は森の中の草原の真ん中にある大きな木の根元、そこに建てた家からの引っ越しを始めていた。
新たな家は「奇跡」で作り出すことができた。
白い大きな門が聳え、神を讃えるかのようにして、美しい装飾が、大きな屋根のすぐ下に金色に輝いている。
色彩鮮やかなガラス製の窓からは、まるでこの世のものとは思えぬ美しい光が、ある一室に注ぐように作られていた。
そこは少女が人や動物に「奇跡」を施すための場所。
凛とした神聖な空気が漂い、しかし色とりどりの光によって包み込むような暖かさと、喜びに満ちた空間となっていた。
その部屋の窓を背にした天井まで届く背もたれを持った純白の椅子。
そこが今の少女の定位置となっていた。
何故あれほど神を憎み、恨んだ少女が、神そのもののようになっているのかを明らかにするには、ここまでの月日にを知る必要がある。
それはあの日、レーリアが少女こそ神であると言った日。
少女は曇天の半夜に天を目指してふわりと飛び立った。
雲の切れ目から時折覗く星々と月を目掛けて徐々に速度と高度を上げていく。
この夜から、彼女のその身体から煌めく光の粒子が漏れ出るようになった。
そのため、遠くからそれを見ていたものが居れば、流れ星が空を駆け上がって行くように見えたことであろう。
雲の中へ突っ込んで行き、視界が灰色に包まれる。
水滴が少女の美しい銀髪を濡らし、服が身体に張り付いたが、それも厭わずに、ただ真っ直ぐ天へと飛んだ。
視界が開け、雲の上。
頭上には満点の星空が、まるで大河のように連なっている。
その一際輝く星と、月との間へと迷うことなく飛んだ。
やがて大空の遥か上、雲を遠く眼下に臨む場所。
一度だけ、ただ一度だけ神との邂逅を果たしたその場所に辿り着いた。
やはり変わらず神の姿はなかった。
しかし、少女にはあの頃と違ったものがあった。
「知識」である。
以前「知識」に、神の居場所を問うた際、
「知識」は一言、
「ここではない。」
とだけ返答したのだ。
少女はこの場所で、再び「知識」に問いかけた。
神は何処か。
と。
「もうここに居る。しかし正しくは、まだ総ての権限を持たない。」
それが「知識」の答えであった。
そうして、その権限をどのようにして知るのか、も断片的に伝わってきたのであった。
少女は、
「やっぱりね…レーリアと、お前が正しかったんだな。」
と、諦観故にとも、冷静にとも取れる声色で、静かに目を閉じて言った。
そうして、一呼吸置いた後、
「私は、この世界の為に、私が成すべきを知りたい。その為の奇跡を起こす。
対価は、成すべきことを成す!つまり私のこれからを捧げよう!
叶えて貰おうか!」
そう高らかに叫んだーーー