第二十七の年 長
鬼族の里となった新大陸の海沿い、少し行くと山がある丘の途中、風通しの良い一角。
中央の道を進んだ先の丘の上の教会。
その手前に周囲の家よりも比較的大きな建物があった。
木彫りの鬼族を模った飾りが屋根と壁の間にあしらわれて、威厳が漂っている。
聞くと、魔除けのためのものであるらしい。
そのようなものもあるのだなぁと思いつつ、中に通された。
履き物は家の中が汚れないように入り口近くで脱いで、引き戸の先は草を編んで作られたような床の部屋であった。
「なんだか良い匂いだね!」ルーアが言いながら招かれるまま中に入っていく。
一同もそれに続くと、部屋の奥に一際大きな鬼族が腰掛けていた。
「おんしらが人族か。」地響きのような低い声。
赤黒い肌に、大きな角を持ち、片目を開けて頬杖をつきながらこちらを見ている。
先ほどの赤鬼と青鬼が両側に控えている。
おそらくここの長なのであろうその鬼族に、
「ええ、そうです。昨年にこの先にある教会と家を建て、そこに住みながらこの地の昏きものを退治したものです。」と、シャムスが簡単な自己紹介をした。
「昏きものを倒したと…?」鬼族は煙管に火をつけ、数口すぱすぱと吸ったあと、大きく息を吐いて繰り返した。入ってきた時よりも眉間に深く皺が刻まれる。
あまりの眼光に、(これは話す内容を間違えたか…?)とシャムスは内心冷や汗をかいた。
ちらりと横目でルーアを見ると、じっとあの眼光を見返している。
なんで冷静なんだ…と、焦りながら答えを探して目線が彷徨う。
ふと、鬼族の長の傍に、掌ほど幅のある、身の丈ほどの剣が鞘に入った状態で置いてあるのが目に入る。
この場で斬り合いになる想像がよぎり、喉が乾き、鼓動が早まり、無意識に拳に力が入る。
口を開こうとした時、ルーアが先に声を発していた。
「そうだよ!獣のような鳥のようなやつ。仲間と協力して倒した!それよりおじさんは誰?私はルーア!」
「ちょっ…それはダメです!違うんですこの人はこんな口調ですが!「はっはっは!聞いたか?これは愉快じゃの!そうか、アレはおんしらか!!」
「…へ?」明らかな言葉と人選の誤りに焦って訂正しようとしていたシャムスは、長の想定外の反応に、思わず間の抜けた声を出した。
「昏きものとやらは、わしらの一族の仇でもあったがじゃ。」煙を細く吐き出しながら、苦々しげに言う。
赤鬼と青鬼も顔を俯かせて拳を握りしめている。
「じゃが!」長は顔をあげ、こちらをみながら膝をうったあと、頭を深々と下げた。
「それを討ってくれたのがおんしらなら、わしらの恩人も同然。感謝してもしきれん。」
言葉に合わせて赤鬼と青鬼も床に付くほど頭を下げた。
「おじさんたちも大変だったんだね…。いいよいいよ。」ルーアが穏やかに言うと、鬼達は頭をあげた。
「あまりにこんまい女子たちと、か細い男だけやったき何者か思うて失礼した。さて、おまさんたち…この度は何用で来られたがえ?」先ほどまでの覇気を仕舞い込み、独特な口調ではあるが丁寧に問いかけてきた。
「そんなに簡単に信用しても良いのですか?疑いはしないのですか?」とんとんと進む話にシャムスが逆に問いかける。
「おお、ほれなら大丈夫ちや。おんしと、ルーア。神殿から感じる力と似た力を感じるき。嘘ではなさそうやとわかったきな。で?」と、長はにこやかに答えつつ、問いへの答えを求めた。
「今回はね、この大陸を冒険しにきたの!前に来た時見られなかったものが見たくてね!」と、ルーアが先ほどの問いかけに答えた。
「はっはっは。見られんかったもんか!そらぁようけあるろうや!わしらにも会わざったくらいやきな!」
そう言いながら立ち上がると、ゆっくりしていくと良いと言いながら赤鬼と青鬼に一同を案内させたのであった。
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