神歴第二十七の年 出会い
丘の手前の林へと続く道の両側に立ち並ぶ家々。
どうやら住んでいる者がそれなりの数いるらしく、窓から煮炊きしているのであろう煙や、湯気がうっすらと見えている。
また、隣家との間に物干し竿が並び、よく風の吹く向きに合わせて大小様々な衣服が干され、それらがひらひらと靡いているのが見えた。
「見たことのないような衣服ですね…屋根材の植物も私たちの住まいには用いない種類のもののようです。」
「そうだったの!?言われてみればちょっと違う!…かな?」
「そうだね、見ないよね。」
「でも、綺麗だよね。」
「そうだね、ふわっとひらっとしてるね。」
生活音まではまだ聞こえないが、確実に誰かの暮らしがそこにあることを皆理解したのであった。
「誰か住んでるならやっぱりちゃんと挨拶して、ついでにご飯でもご馳走に…」
と、ルーアが食い意地のはったことを言うと、
すかさずシャムスが「集るようなことはしないでください。それに、まずは安全確認が先です。」と嗜めた。
しかしルーアは「じゃあ、仲良くなれたらいいんだね!あたし楽しみだなぁ。」と、どこ吹く風であったが。
そうこうしているうちに会話や、調理をする際の食材を刃物で切っているようなトントンと小気味良い音、笑い声などが聞こえ始めた。
何を話しているのかまでは聞こえないが、どうやら穏やかな暮らしをしているらしい。
いよいよ家の近くまでやって来たところで、
「何者かぁ!!」と、突如叫び声がした。
「うわぁ、なになに!?」
と、ルーア初め一同は少し体をびくつかせながら警戒した。
同時に、家々の戸口や窓がバタン!と大きく音を立てて閉められ、ドタドタと走り込んでくる音が辺りに響いた。
「あまり歓迎されていないのかもしれません。いざという時は…」と、シャムスが身構えるのをルーアが止める。
「きっと向こうも余計警戒しちゃうよ。それにあたしたちはこっちの家に戻ってきただけなんだ。堂々としてよう!」
「それは…一理あるかもしれませんが…。」
と、シャムスが口籠ったところで声の主たちが姿を見せた。
皆の視線が少し高いところを向く。
大きい。そして角。それが第一印象であった。
「お主ら何者じゃあ!」
「ここは我ら鬼族の里。何の御用向きか。」
鬼族と名乗る大柄の人型のもの。
額や神の生え際の辺りから二本の角が生えている。
口を開くと大きめの犬歯が見え、筋骨隆々としており肌は赤いものと青いものが現れた。
「すっごいね!ギデオンさんよりちょっと大きいね!」
「見たことない格好だね!」と、はしゃぐヨナの子たち。
「あたしたちは、そこの丘の教会とお家を建てたものだよ!ね!その角ちょっと触っていい?」ルーア興奮を抑えきれぬように早口で、ずいっと迫る。
好奇心が勝っていて、警戒はどこかに吹き飛んでいるルーアに、すこし呆れつつ、
(得物は金属の棒と…細身のそり返った剣ですね。近接は苦手ですが…)
万一に備えてシャムスは後ろ手にした片手の中に大木の種を複数握り込んで、すぐに放てるようにしていた。
「ぬ!近い近い小娘!」赤い鬼族の男が、片手でルーアを抑えつつ、「建てたと申しておるぞ。どうする青。」と、青い鬼族に問いかける。
「教会…そうですか。少しついて来て頂きたい。」
赤い鬼族の男より少し細身な青い鬼族の男は、少し考えたあと、ちらりとシャムスを見た後、皆を先導するように歩き始めた。
「そ、そうじゃな!付いてくるがいい!…やめいと言うとる!」赤い鬼族の男は、ルーアに纏わりつかれながら、その後ろをついて行く。
一同も後に続いていく。
「シャムスも早くおいでよ!」と、呼びかけるルーアに、「はい、今行きます。」と返しつつ、種を服の中に仕舞い込む。
そうして少し遅れて、鬼族の里へと入っていくのであった。