神歴第二十七の年 変化
春ももう中頃。
新大陸でも、花々が咲き乱れ、甘い香りが漂っていた。
半月と少しほどで到着した新大陸は、出発した時と何やら趣が異なっていた。
その変化に気付いたのは、前回来たことのある白鯨、シャムス、そしてルーアであった。
リリはじめ初めて新大陸に来たもの達は、
「ここがそうなんだね!」
「変わった建物があるね!」など口々に興奮気味に話している。
「のう、お嬢ちゃん。ボケたのかもしれんが…わしが最後に見た時はあんな建物はなかった気がするんじゃがのう?」と、白鯨が小さくうーんと唸りながら言う。
少し遠くに見える丘に続く道の近くに、何やら明らかな人工物ーーー家のようなものがいくつもあった。
全貌はわからないが、どうやら木と土か何かで作られたものであることが伺えた。
「そうだねぇ…。おじーちゃんボケたりしてないと思うよ?あたしも知らない。」と、いつもの好奇心を抑えて、珍しく少し緊張感を持って応えるルーア。
シャムスは、腕を組みながら顎に手を当てて、「んんんん…」と、唸りながら考えている。
「どーしたのさ?」
「いや…確かに見慣れないのですが、私たちの建てた家や教会も、なんだかちょっと豪華になっていませんか?」
「えー?あ!ほんとだ!!かっこよくなってる!!」
教会と、皆が過ごした家は海を見下ろす丘の上にあり、ちょうど浜辺からよく見えた。
過剰と言うほどではないが、なにかの彫刻が追加され、華美な様子になっていた。
「どうやら敵性が強いなにかに占領されたということではなさそうですね。」竜族の話を聞いていたので、人とは違った理由で作られた種族が他にもいることは知っていた。
皆が皆友好的とは限らないことも、その話からわかったために、警戒していたが、むしろ祀っている様子があることから一定の文明と知性を持っていそうなことが伺えた。
「とりあえず…行ってみよっか!」敵対していなさそうということで警戒を解いたルーアが、皆に声をかけ、いつも通り意気揚々と歩き始める。
「あ!おじーちゃん今回もありがとねー!」と、振り返りながら白鯨に手を振るルーア。
「ええんじゃよー!気をつけてのう!何かあったら海辺まで逃げるんじゃぞー!」と、鰭をパタパタとさせて潜っていく白鯨。
少しずつ全貌が見えてくる家のようなもの。
木々を板状にしたものと、植物の茎か何かを被せた屋根で作られた簡易なもの、土で固めた壁に、石を薄くしたようなものを載せた少し立派なものと、様々な種類があることがわかった。
「ルーア、全くの無警戒なのは危険かもしれません。いざという時は皆を守りながら引きましょう。」と、シャムスが慎重に言う。
「うーん、そうだね!でも、ちょっと近付いてわかったけど嫌な風は吹いてない。きっと大丈夫だよ!」にこっと笑顔を浮かべて言うルーアに、シャムスはどきっとして顔を赤らめた。
「わ、わかりました。でも私は手放しで信用できません。警戒はしておくことにします。」と、早口に答えたのであった。