神歴第二十七の年 緑の芽
昏きものから竜族の親子を救って、歓迎を受けてもてなされた日の翌々日。
先日の嵐はどこへやら、ようやく空はいつもの青さを取り戻していた。
風も穏やかに吹き、水面は静かにきらきらと輝いている。
この島を出て、元の航路に戻り、新大陸へと向かうこの日に、竜族に見送られながら船へと乗り込む一同。
お守りにと貰った牙や鱗のデザインの首飾りを付けて、竜族の皆に手を振る。
リリときゅーちゃん…ヤロクはひしっと抱き合いながら、別れの挨拶を涙ぐみながらしていた。
突然、「みなさん。この子も連れてってやってくれませんか?」と、ヤロクの母の大蜥蜴ヤレケトが言い始めた。
「え、でもお母さんと離れ離れになったゃいますよ!」と、リリが驚きつつヤレケトに言う。
「それに、行く先には昏きものがまたまちかまえているかもしれませんよね」シャムスも心配そうに伝える。
「ええ、でも仮にも竜の子。私たちは自由と強さを愛しています。この子も広い世界を見て成長するのがいいのかも。そう思ったのです。」にこやかに言うヤレケト。
「ねえ、ぴー…ヤロクはどうしたいの?」リリが腕の中のヤロクに尋ねる。
「キュ………」ヤロクは蜥蜴の姿のまま、ヤレケトを見て、そしてリリをじっと見つめた。
そうして、ぽわっと光を放ち人型になると、
「ヤロク、リリと行く!ヤロク大人なる!」と、元気よく答えた。
「ふふ、行ってらっしゃいね。」そう言ったヤレケトは、エーレを思わせるような母性溢れる表情をしていた。
「わかったよ!そしたらおっきくなったヤロクを連れて帰ってくるからさ、次は他の竜たちとも遊ばせてね!」そうルーアが言いながら走り出した。
「それじゃ、行ってくるねー!!!」と、皆を風に乗せて、ひとっ飛びで海に向けて飛んで行った。
「慌ただしいですねえ。」残されたヤレケトは、大蜥蜴の姿に戻ると、空に向けて光の帯を放った。
船についた一同にもその光の帯の眩い煌めきはよく見え、ヤロクも「いってきまーーーす!!」と、大声で一時の別れを告げた。
「おお、遅かったのう。新入りさんもよろしくのう。では行くぞい!」白鯨が勢いよく水面を切って泳ぎ出す。
島陰が見えなくなっても、光の帯がいつまでもヤロクを、一同を見送っていた。