0 唯一の肉親が殺されたというのにあんまりだと思った。
お手に取って頂き有り難う御座います。10万文字のミステリーです。
唯一の肉親が殺されたというのにあんまりだと思った。リタは目の前の青年が信じられなくて、眉を顰めながら質問をする。
「……申し訳ありません。もう一度言って下さいますか?」
自分の言葉に目の前の青年――ウェズリーは露骨に面倒臭そうな表情を浮かべた。何も葬式会場でそんな顔してそんな事を言わなくたって良いじゃないか。顔の造りが整っているからか余計思う。
「爺さんの屋敷の売却手続き、君がやっといてくれる? 僕は忙しいし、爺さんの事が嫌いなんだ」
ぼさついた金髪の青年は先程口にした台詞を一言一句違わず言い直し、どこかうんざりしたように鼻を鳴らした。
「じゃ、もう帰るから。そういう事でよろしく」
ウェズリーは短くそう言い、振り返る事なく出入り口へ戻っていく。自分に言ってきた事も信じられなかったが、祖父の葬式に数分しか居ないのも信じられなかった。この青年は今人気の小説家で忙しいのだろうが、それにしてもあんまりだ。
あっという間に姿を消した青年の事を考えると、様々な感情がこみ上げてくる。悲しい、悔しい、人でなし。今棺で眠っているデヴィッドは、あの青年の事を常に気にしていた。デヴィッドのメイドだった自分はそれを良く知っている。それなのに孫の方はどうだろう? 気付けば視界が滲んでいた。
「相変わらずな男ねえ……」
ぽつり、と近くに居たデヴィッドの友人が溜め息交じりに呟いた。何時もあんな態度なのだと知っても、この気持ちが晴れる事は無い。
「っ……」
鼻を啜ってからリタは顔を上げた。あんな青年にデヴィッドの後処理を任せられない。自分がやるしかない、と決意を固める。
――これがリタと、後に自分の新たな主人となるウェズリーとの、最悪な出会いだった。