MONSTER CRUSTACER HUNTING JET 集会所クエスト:甲 【討伐】荒野の金剛殻
「それじゃ、今日はチビの寝かしつけ 頼んだよ」
「明日お休みだからって、徹夜したりしないでね。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
妻と娘が寝室に引っ込むのを確認し、買ったばかりの最新ゲーム機器の電源を入れる。買ったその日にアップデートは済ませたはずだから、直ぐに起動するだろう。……と、思っていたら。
「おいちょっと待てよ、またアップデート来てんのかよ」
昔は電源入れたら、すぐ読み込んで始められたのになぁ。
モニターに映るローディングバーを眺めながら、友人知人に勧められた流行りのゲームシリーズ最新作『MONSTER CRUSTACER HUNTING JET』――通称『クラハンJ』について脳内でおさらいする。
【世は大甲殻類時代! 最強の甲殻類を狩り尽くせ!】
キャッチコピー通り 強く巨大に進化した甲殻類が繁栄する世界で、甲殻類モンスターを狩りながら装備を更新し、さらなる強敵を目指すハクスラタイプのハンティングアクションといったところか。狩りゲーは独身時代にはよくやっていたが、ここしばらく触っていなかったから 確実に腕は落ちているだろう。
「えっと、ボイスチャット……は、どうやるんだ? あ、なるほど。勝手に繋がるのか。いや、今のゲーム機、便利だなー」
そうこうしているうちにアップデートも完了し、タイトルロゴがデカデカとモニターに出てきた。
やっと操作に慣れたばかりだが、今日はオンラインで誘われている。先日の飲み会で渡されたパスワードを頼りに メンバー募集中の鍵付きルームに入ってみた。
『こんばんは。ルーム:パンゲニアはここで大丈夫ですか?』
「ようやくFちゃん来たー!」
「こんばんはー! ボイスチャット、繋がないんですか?」
「うおっ⁉ びっくりした……。これ、もう喋れるのか」
聞き覚えのある友人二人の声がスピーカーから飛び出してきた。無事にログイン出来ているようだ。
「みんな集会所に来てますんで、Fさんも早くこっちに来て下さい」
「え? D君も入ってんの? どこよ」
どうやら 他の面子はすでに揃っているらしい。こだわり抜いてキャラクリした自分の分身『ブリガン』を、集会所へと向かわせた。
***
そこは未開の地に造られた 原始的な雰囲気の広間だった。粗末な木組みの屋根の下に、ポツリポツリと 素朴なテーブルセットやベンチが並んでいる。
「よーっす! Fちゃん、まーたゴリマッチョなオッサン作ったの? 『ヨロシクね、ブリガン』」
真っ先に俺のブリガンに気付いて手を振ってきたのが、昔なじみで腐れ縁のSのハントマンだろう。いかにも奴の好きそうなロリ巨乳の金髪美少女だ。身に着けている装備も、性能ではなく見た目で選んだものだと思う。
「『ああ、よろしく頼む。エレ』……クルダの闘士から取った?」
「スゲェ、よく分かったね! エレ姉だよ」
「で……隣りにいる裸族は、まさか、D君……?」
頭上に『アスカ』と表示されている、顔を覆面で隠しただけで他に何も装備していない 下着姿の女性ハントマンがペコリと頭を下げるジェスチャーをした。
「あ、どうも初めまして。D君の同僚のRっていいます。FさんとSさんの事はD君からよく伺ってますよ」
「え? ああ、初めまして。四人目はTさんだとばかり」
「Tさん、ダンジョンゲーしかやらないみたいよ。ローグライクとかダンジョンクロウルとか」
意外や意外、まさかの新メンバーがしれっと紛れていたとは。
「この俺を差し置いて知らないオッサンと遊んだり知らないオッサンと飲みに行ったり知らないオッサンとゲームの約束したり知らないオッサンと交流を深めてたり勝手なことばかりしてちょっと許せなかったんで、これからは俺も参加させてもらおうかなーなんて。そんなわけなので、よろしくお願いします」
「ヤダ、ちょっとこの子コワイ」
「初対面のグループに裸族で乗り込んで来る時点で 既に怖かっただろ」
また変な奴が増えてしまったか。「ところで」変な奴を連れてきた当人が見当たらない。さっき声はしたから中身は居るのだろうが、アバターはどこにいるのだろうか。集会場内を見回しても、NPCがまばらに何人かいるだけだ。
「D君、来てるんだよね? フィールド出ちゃってる?」
「ここにいますよ! 何で気付いてくれないんですか⁉ 」
「いや、どこだよ……賑やかしのNPCしか……って、お前かー‼ 」
居た。NPCの中の一人に『つくねチーズ』と頭上に表示されているモブハントマンがいる。よりによってキャラクター名『つくねチーズ』かよ。
「ずっとここで待機してたのに、誰も気付いてくれないとか酷いですよ!」
「いやー、モブ過ぎて 名前出てるのに分からなかったよ。でも、何で『つくねチーズ』?」
「……Sさんは自分の胸に手を当てて、己に問いかけてみてください」
「……ロリ巨乳って、良いよね」
コレはダメだ。Sの奴、先日の飲み会で勝手にD君のつくねチーズを食っちまったこと、綺麗さっぱり忘れてる。
「いや、まあ、忘れてるなら忘れてるでいいです」
怒らないのが逆に怖いな。
「ちょっと遅くなりましたけど、無事合流できたので クエスト開始しますね」
画面が暗転し、切り替わる。
【討伐】荒野の金剛殻 Now loding......
**
次に画面に現れたのは、見渡す限りに広がる赤い荒野だった。実写かと思うほど、いやリアルより鮮やかで劇的に美しい景色だ。遠くに大人しそうなモンスターっぽいものが、のんびり草を食んでいる姿も見える。
「あ、そうそう。R君、見た目はこんなですけど変態なんですよ!」
「いや、見た目が既に変態だと思うけど。ねぇ、Fちゃん」
「うん。変態でなかったら何なのかと」
「いやいやいや、そうじゃなくって、変態的に上手いんですよ。だから縛りプレイとして、防具禁止してるんです」
裸族は彼の趣味じゃなかったのか。いや、趣味と言えば趣味なんだろうが。
フィールドに出ると、それぞれのハントマンにも装備している武器が抜き身で表示される。俺ことブリガンは防御を優先して大盾を備えた槍、金髪美少女のエレは巨大なハンマー、裸族のアスカは片手剣の二刀流、中身の入っているモブ つくねチーズは大型銃火器。俺以外ガード捨ててるな。
「ちなみに今の俺、キーボード操作なんで」
流れるような乱舞攻撃を披露しながら、アスカは耳を疑う台詞を吐いた。
「ね? 変態でしょ?」
「変態だ(✕2)」
紛う事なき変態の所業。それなら多少 俺がミスったところで、無事に金剛殻ゴトゥは討伐出来るだろう。
さて、その討伐対象はどこに潜んでいるのかな。
「マーキングボール持ってる人、います?」
支給品ボックスを覗いていたアスカが、唐突に声を上げた。今回の支給品には含まれていないが、ちょうどつくねチーズが持ち込んでいたらしい。
「僕が持ってる。見つけてきてくれるの?」
「ちょっと離れても構わなければ」
特に異論は出ない。アスカなら単独行動で落ちそうにないし、その間に残ったメンバーでアイテムの補充や調合を進めておけば良い。皆に了承を得て、アスカは隣のエリアに消えた。
「ゴトゥは落とし穴、効くよね」
「電撃罠も使えますよ」
「爆発樽はいるか?」
「量産しといて。アイテム満杯になったら、俺にちょーだい」
「余裕があれば、予備の弾薬も持っててもらえると助かります」
せっせと道中で素材を拾い、調合したアイテムをやり取りする。動きの軽いエレに爆発樽を全部持たせ、罠はつくねチーズが、回復等の消耗アイテムは俺が持った。
エリア移動も進み 着々と準備が整ってきた頃、画面左上のマップにモンスターマークが表示される。
「お、見つけたんだ!」
「R君が戻ってきたら、肉焼きましょう」
言うなり つくねチーズは手近なイノシシ型モンスター『モスコ』に銃弾を放った。が、さすがに一撃では仕留められない。不意打ちに怒ったモスコは攻撃してきたつくねチーズではなく、振り返ってすぐ目についたエレに突撃していった。
「ちょ待ーー! 何でこっちに来るんだよ‼ 」
「日頃の行いのせいじゃないですか」
「んぎゃー! ふっ飛ばされたあああ‼ 体力ゲージが半減したあ‼ 」
「あーあ、見た目で装備選んでるから」
「うるせぇ NPCが!」
間違いなくわざとだな。ついでに言うと、もう一発くらい 何かされるな。
こっちまでとばっちりを食らわないうちに、後ろからモスコを槍で突いて倒しておく。生肉を剥ぎ取りしておきたいが、アイテム袋が一杯だ。
「アスカさん、無事戻りましたよー。やっこさん こっちのエリアに向かって移動開始したんで、次のエリア辺りに罠とか仕掛けておきましょう」
「さっすがR君! 有能!」
「惚れてくれても良いんだぜ」
「待ってろ、ゴトゥちゃーん‼ マイスイートカニ〜!」
「つくねチーズ、エリア移動しちゃった」
「自分で肉焼くとか言ってたくせに。次のエリアで焼くか」
しかし、次のエリアに入ったら入ったで、つくねチーズの姿がない。もしや。
「ふおおおお‼ 相変わらずゴトゥちゃん、美人さんだねええ‼ 紫の鋏脚がとってもセクスィーだよおお‼ 」
「やべぇ、アイツ ヤドカリスイッチ入りやがった!」
つくねチーズの中の人――D君は甲殻類が美少女に見えるという特殊な視界を有しており、『クラハンJ』も彼にとってはロリから熟女まで多彩に取り揃えたギャルゲーらしい。美女を物理的にハンティングするゲームとか常人には理解できない世界だが、この際それはおいておこう。
好みのタイプのヤドカリが近くのエリアまで来ていると知り、つくねチーズはついうっかり引き寄せられてしまったようだ。
「相手ボスだし、ひと通り堪能したら戻って来るでしょ」
「うわああ、ゴトゥちゃーん! 鋏、痛い痛い痛い‼」
「何か食らってますね」
「ボイチャうるせぇ」
普段は一番マトモなのに、甲殻類絡むと途端に知能が下がるのは何なんだ、アイツ。
「乙る前に戻って来いよ?」
「そろそろマズイか……すぐ撤収します!」
正気に戻ったのか、大した間を置かずにつくねチーズが先エリアより引き返してきた。……体力ゲージ、真っ赤どころかギリギリじゃねぇかよ。
「とんだオテンバちゃんでしたよ〜。回復ドリンク、もらっていいですか?」
お転婆で済ませるのか。
「ずいぶん遊んで来たんだな……ちょっと蹴られたら死ぬだろ」
「つい夢中になっちゃって」
回復ドリンクを選択し、つくねチーズに渡そうとしたところで間にエレが割り込んできた。
そして、何を思ったのか ハンマーを振り抜いてつくねチーズを弾き飛ばす。
「だああ、何するんですか Sさーん‼」
「あれ? 死なない。吹っ飛ぶだけか」
「トドメ刺す気だったんですか⁉」
「あー、武器攻撃はダメージ入らないようになってるんすよ」
エレの乱暴な振る舞いからかばうように、アスカがつくねチーズの前に立つ。
「ダメージ入れたいならキックしないと。二回も蹴れば削れますよ」
「あ、ホントだー」
って、何で二人して 仲間にトドメ刺そうとしてんだよ‼
「ちょっと待って、何でR君まで蹴るの⁉ って、ああああ‼」
『つくねチーズは力尽きました』のテロップが流れた。画面からつくねチーズの姿は消え、キャンプエリアにリスポーンしたようだ。
いやいや、コイツら何やってんだよ。これ、そういうゲームだったっけ?
「あらら、一乙しちゃったねー」
「残機減ったほうが張り合いでますよ。合流するまで 肉でも焼いときましょか」
「ヒャッハー! 焼き加減レアだぜー! ブリガンにあげる」
「生焼けじゃねぇか‼ 自分で食えよ!」
残っている面子で生肉をこんがりさせたり焦がしたりして 食後のガッツポーズをしていると、体力ゲージの戻ったつくねチーズが追いついた。地団駄を踏むジェスチャーで怒りを表現している。
「今の、トドメ刺す必要ありました⁉」
「若者よ、この世の中 必要か不要かだけで判断できることばっかりじゃないんだよ」
「この場では判断できることでしょーが‼」
勝手な行動にお仕置きしただけ、だよな、うん。多分そう、きっとそう。
「とにかく。ゴトゥも近づいて来てるみてぇだし、そろそろ罠張ったり 爆発樽仕掛けたり 討伐準備始めようぜ。つくねチーズのアイテム欄空いたら、弾薬渡すわ」
「了解です。僕が落とし穴置いたら、周りに爆発樽並べて下さい」
左上のマップ上のモンスターマークが、またエリアを移動した。金剛殻ゴトゥは、次のエリアまで迫っている。
つくねチーズが仕掛けた落とし穴を囲むように、エレがせっせと爆発樽を並べる。俺とアスカはエリアの端ギリギリの位置で、巨大ヤドカリの到来を待っていた。
「たーる。たーる。たーる。たーる。」
別のゲームの台詞を唱えながら、表示限界までエレは爆発樽を並べ終える。そのタイミングを待っていたように。
「ファイヤーッッ‼」
つくねチーズの咆哮と共に 砲撃が放たれる。エレを巻き込み、爆発樽が次々に爆ぜ上がった。
「んぎゃあああ‼ てめぇ、やりやがったなああ⁉」
「汚ぇ花火になりやがれぇ‼」
いや、だから! そういうゲームじゃないでしょ、コレ‼
『エレは力尽きました』。今からボスが来るっていうのに、またこのテロップが流れてしまった。崩折れたエレがリスポーン地点へと消えていく。
「……さて、これで後がなくなりましたね。気を引き締めていきましょう」
「お前がそれ、言うの?」
『クラハンJ』は プレイヤーがトータルで三回 力尽きると、そこでクエスト失敗となる。つまり、次 誰かが倒れてしまうと、ゲームオーバーだ。
最初からゆるくやっていく方針ではあったけど、仲間内で潰し合うとか聞いてないぞ?
「来た! ゴトゥ、エリア移動して来ましたよ」
「カモーン、ゴトゥちゃーん! ダーリンはここだよー」
「てめぇのスイートハニーを討伐すんのかよ」
緊迫したBGMが流れる。まだエレが復帰していないというのに、金剛殻ゴトゥはその巨体を現した。
「あの娘はゴトウヤドカリをモデルにした甲殻類モンスターであんなに艶っぽいのに本来は冷水系の海底に生息するタイプの奥ゆかしいヤドカリなんですよ。でもちょっとズボラなところもあって背負う貝殻が割れてても気にしなかったりこっちが宿を気にしてあげないと……」
「うん、分かった。早口過ぎて 何言ってるか 聞き取れなかったけど」
「そんな君が大好き」
「あと、食べると美味しいです」
本物がどうなのかは知らないが、確かにゴトゥは紫の鋏といい暖色カラーの体色といい鮮やかで派手なヤドカリだ。少しばかり欠けた貝殻を背負い、触角を忙しなく揺らしている。
俺とアスカで、落とし穴を回り込むようにして誘導する。
「よし!」上手い具合に罠が発動した。巨体の半分が砂地にめり込み、ゴトゥの動きが鈍った。
「鋏脚と貝殻が部位破壊出来ます! どっちを狙いますか?」
「鋏のが良いだろ、攻撃力落とせるし」「貝殻‼ 裸が見たい! 脱がせたい‼」
「オッケー、貝殻ね」
「俺の意見は」
とはいえ、二人とも普通にやってれば 俺よりも上級者だ。任せておいても大丈夫だろう。
肉質との相性の悪さを感じさせない削りっぷりで、軽やかにアスカは乱舞攻撃を叩き込む。当然 避けるものと判断して、後方からつくねチーズの貫通弾も断続的に飛んでくる。お世辞抜きに上手いな、この変態ども。
「もうすぐ落とし穴から出てくると思うので、次の罠仕掛けます! ブリガンFさんは、ゴトゥちゃん動いたら引き付けておいて下さい」
「お、おう」
つくねチーズの予測に違わず効果時間が切れ、ゴトゥは落とし穴から這い出してきた。挑発ジェスチャーを向けてから、ひたすら大盾を構えてガードに徹する。
「今度は電撃罠 置きますね。爆発樽も欲しいな」
「エレさん、今 どこすか?」
「ココダヨ」
「どこだよ」
ガードの上からでも、ゴトゥの鋏は結構な威力だ。地味に体力ゲージが縮んでいく。
「はい、準備完了! 誘い込んで下さい」
「ん? ちょっと待った! 貝殻、割れそう」
「なな、何だってー⁉ 早く、早く脱がせて!」
おっと(いろんな意味で)危ない。変質者丸出しの台詞と容赦ない砲撃が撃ち出される。俺が手を出すまでもなく、ヤドカリの巨体に見合った馬鹿デカい貝殻が砕け散った。
「やったー‼ 生御御腹ー! エロいね、やらしいね」
「ブリガンさん、今のうちに 剥ぎ取りどーぞ」
「お、おう……」
破壊部位の剥ぎ取りを譲ってくれるのはありがたいが、ボイスチャットに流れてくる荒い鼻息のせいで集中できない。【甲殻(小)】【甲殻(小)】【剛甲殻】か。思っていたほど良いものは落ちなかったな。
「欲しいの獲れました?」
宿を失ったヤドカリを軽くあしらいつつ、アスカは声をかけてくる。このまま電撃罠まで誘い込むつもりだろう。ダメージは全く受けていないわ 武器の切れ味ゲージはいつの間にか全快してるわ、一人だけ別モードでプレイしているのではなかろうか。
「悪い、せっかく譲ってもらったのに イマイチだった」
「残念。じゃ、次は鋏 落としますか」
「鋏脚落とすんだったら、僕【アメジスト殻】欲しい」
「良いですか、ブリガンさん?」
「こっちは全然 構わんよ」
普通にやり取りをしているだけで、しっかりゴトゥは電撃罠にハマっている。コレなら怒りだす前に仕留められるかもしれない。
「爆発樽担当、現時点を持って復帰いたしました!」
よし、エレも追いついた。いくらなんでも 後がない状態で巻き込み爆破はしないよな。
「待ってました! 痺れてるうちに並べて並べて‼」
「よっしゃ、任せろ! たーる。たーる。たーる。たーる。たーる……」
「みんな、そろそろ離れて下さい! 着火します!」
爆発樽から十分な間合いを空ける。
爆発炎上が終わったタイミングを測って、俺も突撃をかましてやろう。
電撃罠の痺れ効果が切れると同時に、砲撃音が飛ぶ。次々に樽は爆発していった。
「大分削れたので本体を落とさないように、鋏脚に攻撃を集中しましょう」
「難しいなぁ……取り敢えず、鋏殴るわ」
「待った、エレ。突撃やってみる」
「りょーかい」
俺の一撃くらいなら、倒し切るまでは行かないはずだ。
「行くぜ!」派手に煌めく紫色の鋏に向かって、ガード無視の突撃を放つ。
――手応えが、ない。
走り抜けた後で、気が付けば目の前からゴトゥの姿が消えている。
「ブリガンFさん、上ーっ‼」
「どっちでもいいから回避回避‼」
え、待って待って、回避? え? どれだっけ?
想定外の事態に焦り、コマンドをド忘れしてしまった。ヤバイ、とにかく移ど――……
『ブリガンは力尽きました』
[ QUEST FAILED ]
嘘だろ?
マジで? 今、何が起こってた?
「あちゃー。良いとこまで行きましたけどねー」
残念なリザルト画面を挟んで、集会所に戻される。
「セクスィーな生御御腹が拝めたからヨシ!」
どうやら 爆破直後に飛び上がったゴトゥの押し潰し攻撃を、モロに食らってしまったらしい。
「俺 何にも獲れてないし。もっかいやろ、もっかい」
「……スマン、余計な事して」
「何 言ってるんですか! 余計なことなら みんなやってたじゃないですか」
「むしろ余計な事しないと ヌルくてやっちゃられねっすよ」
幸い誰も怒ってはいないようだ。マイクを離し、ホッと胸を撫で下ろす。
「ウォーミングアップも済んだことっすし、次はちょっとガチで行きますか!」
「今度は鋏脚から部位破壊して【アメジスト殻】絶対 取ろう」
「Fちゃん、回避はバツ押すんだよ。覚えた?」
「……はい」
そして 再び、【金剛殻 ゴトゥの討伐】に挑む。
それぞれが多少の 余計な事を楽しみつつ、無事 ゴトゥの討伐は達成した。
徹夜はするなと言われているが、秋の夜は まだ長い。
――もう ひと狩りだけ、行って来ようか。