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第4章 「心霊現象のプレリュード」

 消灯された子供部屋の中では、オレンジ色にボンヤリと光る補助灯が殊更に明るく見える。

 天井の中央で頼り無く光るオレンジ色の点を見つめて、果たして何十分が経つだろうか。

「眠れない…全然、眠れないなぁ…」

 この呟きも、もう何回目になるんだろうな。

 満腹になるまで晩御飯を食べても、お父さんの書斎の本棚から引っ張り出してきた活字ばっかりの本を読んでも、全然眠くならないよ。

 あんまり夜更かししていたらお母さんに怒られるから、深夜テレビを見る訳にもいかないし…

「あーあ…明日も学校があるから、早く寝ないといけないのになぁ…」

 こうしてボヤけばボヤく程、異常な興奮状態で目が爛々と冴えて来ちゃうんだよね。

 それもこれも、そろばん教室の帰りに聞いた薄気味悪い怪談話のせいなんだけどさ。

「足売り婆さんもテケテケも、どうして話を聞いただけの人の所へ来るんだろう?曽根ちゃんや私の家に来たって、何の解決にもならないのに。」

 こうして静かにベッドで横たわっていると、昼間の怪談話の事をどうしても考えてしまうよ。

 人間っていう生き物は、未知の存在に対して恐怖を抱くらしいね。

 一九世紀に活躍した、ラルフ・エマーソンっていうアメリカ人の思想家の受け売りだけど。

 そう考えると、怖いと思った物や存在についてアレコレと考えるのは、恐怖を克服しようとする意志の現れなのかも知れないなぁ。

 未知の存在が怖いのなら、その正体や特性を解き明かして既知の存在にしちゃえば良いんだから。


 だけど、幾ら考えても一向に答えは出てこないの。

 普通の女子小学生に過ぎない私の浅知恵じゃ、どれだけ頭を捻っても仕方ないのかもね。

 オカルトマニアの鳳さんみたいに、専門的な知識でもあったら違ったんだろうけど…

「そもそもテケテケや足売り婆さんは、自分達の事が噂になっているって、どうやって嗅ぎ付けているの?携帯かパソコンで、ネットにアクセスしてエゴサーチでもしているのかな?」

 それどころか、新しい疑問が次から次へと浮かんでしまい、頭の中が段々とこんがらかって来ちゃうんだよね。

 小人閑居して不善を為すとは、今の私みたいな状況を指すのかな?

「ああ、もう!テケテケでも足売り婆さんでも何でも良いから、とっとと出てこいっての!」

 この思考の無限ループにウンザリした私は、破れかぶれで怒鳴っちゃったんだ。


 恐怖と苛立ちで精神的な限界を迎えた私が爆発させた、挑発紛いの捨て鉢な絶叫。

 これが引き金になったのか、部屋の空気がガラリと一変したんだ。

「な…何なの、これは?」

 風も無いのに窓ガラスがガタガタと激しく震え出したかと思えば、木材がギシギシと軋むような不気味な音が鳴り響く始末。

 私の家は鉄筋コンクリート造りのマンションだから、木材が軋むなんて有り得ないよね。

「うっ…くっ、臭い!」

 そうこうしているうちに、今度は噎せ返るような強烈な悪臭が私の部屋中にムッと立ち込めたんだ。

 生臭さと鉄臭さが入り混じったような悪臭は、血の臭い其の物だったね。

「こっ…これが鳳さんの言っていた、霊障ってヤツなのかな?」

 霊臭やラップ現象等の知識は事前に伝えられてはいたけれど、いざ本物を目の当たりにすると度肝を抜かれちゃうね。

 だけど、いつまでも驚いてばかりはいられないよ。

 オカルトマニアな元同級生からの受け売りだけど、今こうして発生している霊臭やラップ現象は、幽霊や妖怪といった超自然的存在が現れる前触れらしいの。

 要するに、これからが怪奇現象の本番って訳だよ。

 鬼が出るか、蛇が出るか。

 出来る事なら、何も出てきて欲しくないけど…

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