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第3章 「都市伝説好きな少女からの忠告」

 曽根ちゃんが一足先に帰ってしまった事で、私の連れ合いは鳳さんだけになってしまったの。

 このオカルトマニアの元級友と二人っきりというのは、正直言って勘弁願いたいシチュエーションだったよ。

「人払いも出来た事だし、次は人助けに取り掛かろうかな?」

 鳳さんって、本当に私を手助けする気があるのかな?

 この頃になると、鳳さんが化け物じみた存在に思えてきたよ。

 黄色い通学帽の穴からニョキッと生えた黒いポニーテールが風にそよいでいる様も、まるで爬虫類の尻尾が蠢いているみたいだし…


 薄気味悪いテケテケの都市伝説を聞かされた事で、私の精神はかなり乱されていたの。

 しかし鳳さんは、そんな私に更なる追い打ちを仕掛けてきたんだ。

「ところで池上さんは、『足売り婆さん』って名前を聞いた事はあるかな?」

 何とも薄気味悪い固有名詞だね。

 だけど、そんな不気味な名前を喜々として口にする鳳さんの方が、私にはよっぽど薄気味悪かったよ。

「えっ、何それ…?足の無い幽霊でも面倒なのに、足を売ってくる御婆さんもいるの?そんな薄気味悪い話、聞いた事無いよ…」

 嫌悪感を隠しきれない私の答えを聞いた鳳さんは、満足そうな微笑を浮かべて何度も頷いたんだ。

「初耳なら好都合だよ、池上さん。この足売り婆さんは、もんぺを履いた御婆さんの姿をした妖怪で、人間の足が入ったカゴを背負っているんだ。それで目が合った人を捕まえては、『足、いるかい?』って聞いてくるんだ。」

 その禍々しい名前に違わず、何とも薄気味悪い話だね。

 こんな薄気味悪い話をニコニコと笑いながら捲し立ててくる鳳さんも、相当に不気味だけど。

「ここで『いります。』って答えたら、カゴの中に入っている足を身体に無理矢理つけられちゃうの。一方、『いらない』って答えて答えたら、足を引き千切られて奪われちゃうんだ。」

 足売り婆さんが背負ったカゴの中に入っている足は、そうやって奪って集めたんだろうね。

 武蔵坊弁慶の刀剣類みたいな物かな。

「足を引き千切ってくるなんて、テケテケと同じじゃない…どう答えても足に何かされちゃうなら、黙っていた方が良いのかな?」

「それだけは止めた方が良いよ、池上さん。『無視された』と思って、足売り婆さんが怒り狂うからね。それで全身をバラバラにされて殺されちゃうんだ。それから、足売り婆さんもテケテケと同じように、話を聞いた人の家にやって来るからね。」

 首を左右にブンブンと振り、私の提案を退ける鳳さん。

 不気味で血生臭い話の内容とは裏腹に、その語り口は如何にも楽しげだったの。


 テケテケだけでも勘弁願いたいのに、足売り婆さんなんて妖怪の話まで聞かされてしまうなんて。

 どちらの妖怪も家まで押しかけて危害を加えて来るんだから、タチが悪いったらありゃしないね。

 本当にもう、冗談じゃないよ。

「だったら私、どうすれば良いって言うの!鳳さん!」

 正直言って、もう限界だった。

「『いります』と答えたら足を付けられるし、『いらない』って答えたら足を千切られる。それで無視したら殺されちゃうんでしょ?こんなの八方塞がりじゃない…」

 私がヒステリックな叫び声を上げた次の瞬間、テンポの早い足音が私達を追い抜いていったの。

 追い抜かれ際にチラ見すると、不機嫌そうに眉を潜めたお姉さんが早足で歩き去っていく真っ最中だったんだ。

 こんな薄気味悪い話を立ち聞きしちゃったんだもの。

 嫌な気分になるのも、そりゃ仕方ないよね。

「あのお姉さん、口裂け女だったら面白いだろうな…」

 見ず知らずの通行人を不快にしたというのに、鳳さんったら全く悪怯れた様子がないね。

 こんな問題児がいるクラスを受け持った先生は、苦労するだろうな…


 そんな問題児が意外な素振りを見せたのは、次の瞬間だったんだ。

「ああっ、いっけない!こんな事言ってる場合じゃないんだ!今の私は、テケテケの脅威から池上さんを守るのに専念しなくちゃね!」

「こっ…声が大きいよ、鳳さん!」

 こちらがビックリする程に素っ頓狂な大声を上げ、後頭部をバリバリと掻き毟る鳳さん。

 先程まで醸し出していた怪しい雰囲気が嘘みたいな、至って人間らしい仕草だったよ。

「さっきまでの話は、これから話す本題に必要な前振りだったんだ。薄気味悪い話ばっかりして申し訳無いけど、ここから言う事を頭の片隅に置いといて!悪いようにはしないから!」

「う…うん!」

 その真剣な眼差しと語り口に、私は引き込まれていったんだ…

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、足売り婆さんとテケテケを鉢合わせて、足が欲しいテケテケに足売り婆さんから足をつけさせてあげるんですね。 これが正しい化け物には化け物をぶつける、ですね。 多分、望んだようにはな…
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