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第2話

「それにしても、よかったです! まさか転生者さまと出会えるなんて!」


俺と少女は、遺跡の入り口に立つ。

湖のほとりからそう遠くない場所にあったこの遺跡には、草木が生い茂り相当古い物であるように思える。


「転生者さま、転生してきたばかりで申し訳ありませんが…先導、お願いできますか?」


少女は二つあるカンテラを俺に渡し、一方は自分で持った。

元の世界では居ても居ないような扱いを受けていた俺、頼られるのは慣れていないが、不思議といい気分だ。


「よーし! 俺に続け!!」

「はい!!」


少女はあどけない笑顔を見せる。

異世界ライフの第一歩として、ここで頼りない姿を見せるわけにはいかない。

勇気をもって遺跡の暗がりの中へと足を踏み入れた。



────



石造りの道が続く。気合を入れて乗り込んだはいいものの…何もない。

本当に、何もない。

手持ち無沙汰になった俺は、いきなり遺跡に潜り、自己紹介もしていなかったことに気づく。


「なあ君、名前はなんていうんだ? 俺の名前は…」

「あっ、転生者さま!!」

「…えっ?」


直後、体に巨大な何かがぶち当たる感覚がする。

否が応でも思い出されたのは、あの夜のトラックに轢かれた感覚。

──死ぬ。一度経験したことによる直感が脳を埋め尽くす。


身体が押しつぶされる感覚と共に轟音が響き、俺の意識は闇に消えた。



────



「……さま! 転生者さま!!」


少女の声で意識が覚醒する。

今度こそ完全に死ぬか、また異世界転生か…。そう思っていたが。

…もしかして、生きている?


「よかったー! 目を覚ましてくれました! やはりあなたは転生者さま!」


生きている。予感は確信に変わった。

だがそれにしては、体は指一本たりとも動かせない…。

身体を動かせないほどの怪我を負っているのか?


「いま剥がしますねー。」


…剥がす?


「えいっ!!」

「うわっ!?」


身体が宙に浮くような…いままで体感したことのないような感覚が身体中を駆け巡る。

なんだこれは…!? 酔う…!

数秒もしないうちに揺れる感覚は収まり、だらりと身体の力が抜ける。

相変わらず指の一本も動かせないままだ。


「えーと…どういう状況かわからないと思いますので、説明しますね…」

「転生者さまは、ぎゅーんとスイングしてくる丸太トラップで潰されました。ものの見事にぺっちゃんこです。」


待った。


「それなら、なぜ生きている?」

「えーとですね…ペラペラのぺっちゃんこなのです! 今の転生者さまは!」


ぐわん、ぐわん。

身体が、視線が揺らぐ。

それは言葉に衝撃を受けたのではなく、

少女が俺の体をふにゃんふにゃんと洗濯物のように揺らがせたせいだと理解するのには、

数秒のタイムラグがあった。


…様々な思考が駆け巡る中、俺の口をついて出た言葉は…


「…ト○とジェ○ー?」


…きょとん、とした表情で少女は首をかしげる。

ちょっと考える様子の後、その表情がぱっと明るくなったと思うと、


「なるほど! 転生者さまの世界にある概念ですね! それで合ってると思います! たぶん!」


少女は納得した表情でうんうんと頷く。

よくそこまで納得できたな。


しかし…俺自身もこの状況をどうにか納得させなければならない。

俺はトラップに押しつぶされて、カートゥーンアニメのリアクションのようにペラペラになった。

異世界転生では、転生時に何らかの能力をもつことがよくあるシチュエーションだ。

おそらくそれが俺の「能力」なのだろう。


「このままペラペラじゃあ困っちゃいますよね…

 …そうだ!」


俺が思考を巡らせていた刹那。

唇にやわらかい感覚が触れる。


口付け。

い、いきなり何をしているんだ!?

そう思うか否かに、次の行動は起きた。


「ぷうーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」


俺の体に何かが入り…急激に膨らんでいく!?


「ふうっ、ふうっ、ふうーーーーー!!!」


やっと理解できた。

少女は風船のように、俺の体に息を吹き込んでいる。


しばらくなすがまま、息を吹き込まれていくのが続き…


「…ふう! これでもとどおり、ですね!」


口を離した少女がにっこりとほほ笑む。


「さすが転生者さまー、言い伝え通りです!」


先程までペラペラだった俺の体は、嘘のように厚みを取り戻し、

腕も、脚も、問題なく動かすことができる。

四肢の動きを確認するような動きを見て、少女はやさしい笑みを浮かべている。



…待て。


膨らまして元に戻すためとはいえ、俺はこの少女とキスをしたのではないか?

元の世界では彼女いない歴=年齢の俺、人生初めてのキス…?


「…どうされました?」


ハッと我に返る。動揺を感づかれてはいけない。

顔をぶんぶんと振り…


「よし!先に進むぞ!」

「はい!!」


あまりにもたくさんの事が起こりすぎて、

半ばヤケを起こしながら俺は再び歩みを進めた。


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