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名探偵は謎解きよりもスイーツをご所望です!  作者: 古浜夕
ラブ・パニック
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恋愛運無しの女

「それも嫌なら、もっとたくさん、選択肢がある。ほら、好きなの選びなよ」


 唖然とする私に、先輩は自分のスマホを向ける。画面には男の子の写真が並んでいる。


「君が好きそうなのを選んだ。十人いる。せめてこの中の誰かにしなよね。全くもって腹立たしいけど、それなら許すから」


 スクロールされる画面を見つめながら、私は未だに、何が何だかわからない。


「……先輩は、一体何を?」


 やっとのことで尋ねると、先輩は神妙な顔でこう告げた。


「僕を選ばないっていうのは全くもって理解できないけど、理解できない君もまた、愛らしいと思うよ。だけど、蘇芳准は辞めなさい。このリストに載ってる奴は、僕が厳選して、女の子を幸せにできると思った男たちだから……」


 後半部分は、もう頭に入ってこなかった。

 先輩は、私が蘇芳くんとデートするのが嫌なだけで、他の誰かとデートしても構わないのだ。

 それはつまり、私のことを好きなんかじゃないってことで、先日、毛利先輩から言われたことはやっぱりただの勘違いで、私の気づいたばかりの恋心は早くもつぶれかけてしまってるってことで……ああ、もう、本当に恋愛運、最悪だな!


 少しの沈黙が落ちた後、ぼおっとした頭に湧いてきたのは、素朴な疑問だった。


「どうして、そんなに蘇芳くんを嫌うんですか?」


 沙織おすすめの逸材だ。きっと良い子なのだろう。それに、顔も雰囲気も、私のタイプだ。こうなったら、好きになれるように、頑張ってみるのもありかもなあ。

 投げやりな気持ちでそんなことを思っていると、先輩が急に真顔になる。


「久世先輩?」


 尋ねると、先輩は見たこともないような気まずそうな顔で、「ああ」と、小さく頷いた。それから何やら考え込むように俯いて、数秒後、思い切ったように口にする。


「あいつは、きっと、君の思うような男じゃないよ」

「はあ……」


 よくわからないまま呟いて、不覚にも、吹き出しそうになる。それって、蘇芳くんに騙されてるって、言いたいのかな? でもだって私は本当に、彼のことを好きでも何でもない。彼から好かれてなくても、構わないのだ。

 金銭トラブルが発生するとか、何らかの実害があるなら話は別だけど、その心配もないだろう。


「とにかく、蘇芳准とのデートは諦めて。男と遊びたいなら、僕が選んだ候補から選ぶこと。いいね?」


 いい、わけ、ないでしょう?

 小さく息を吐いて、私は先輩を見る。


「彼、沙織の友達なんです。ドタキャンなんて失礼なこと、できません。こうまで先輩に言われても私がキャンセルしないのは、彼が好きだからとか、男の子と遊びたいからとかじゃないんです」


 きっぱり言うと、先輩は大きなため息をついて、「やっぱりそれが、ネックなんだよな」と呟いた。それから、低い声で続ける。


「じゃあ、こうしない? 君が今後、蘇芳准と手を切れば、僕は沙織ちゃんと真剣に付き合おう。もちろん、浮気はしない。君が蘇芳准の誘いを断ってから、そう、月曜日に告白するよ。これでどうだ!」


 両手をひょいと挙げて、にっこり笑った先輩をぼんやり見つめながら、


「へ?」


 間抜けな声が出た。

 先輩はうん、うん、と頷くと、私をじっと見つめる。


「とにかく、蘇芳准のことは諦めるんだ。好きじゃないなら、簡単だろ? 沙織ちゃんには失礼以上の貢献をするんだから、いいじゃない。もちろん、僕の方からも言い繕っとくから」


 決定事項のように言う彼に、反論することもできずにぽかんと口を開けていると、ちょうどのタイミングで、沙織が帰ってきた。


「すみません!何だか遅くなっちゃって……あのお店って、この時間、混んでるんですねぇ」


 困ったように笑いながら、先輩と私にカップを手渡す沙織を、思わずじっと見つめてしまう。


 ーー僕は沙織ちゃんと真剣に付き合おう。


 久世先輩、この子と付き合うんだ。

 思いのほか冷静な心で、そう思う。

 可愛いし、優しいし、女子にありがちなねちっこさもない。沙織が最高の女の子なのは、親友の私が一番わかっている。

 お似合いだ、そう思った瞬間、心臓がぎゅうと締め付けられた。


 ああ、これが昨日のことなら良かったのに。

 毛利先輩から久世先輩の本音を聞く前、私が先輩を好きだと気づく前、沙織を純粋に応援してあげられる時だったら良かったのに。

 もう一度、今度は先ほどよりもしみじみと、思う。

 私って、ホント、恋愛運最悪だなあ。


 その日、作ったコンポートは最悪の出来で、しかし、それすらどうでも良くなるほどに、私の頭はぼーっとしていたのだった。


*


「あの……本当に、ごめんね。蘇芳くん。私、どうしても抜けられない用事ができちゃって」


 その日、家に帰ってから、蘇芳くんに電話した。

 家庭の事情で、明日はどうしても外出できない。

 そう嘘をついて、明日の約束を断ったのだ。

 蘇芳くんはありがたくも、「大丈夫だから、気にしないで」と言ってくれたのだが、


「じゃあ、また今度、誘ってもいい? 百瀬さんの好きな、飲茶が美味しい店、予約するからさ」


 その言葉に、私が黙り込んでしまったせいで、気まずい沈黙が落ちる。


「百瀬さんって、もしかして、好きな人がいる?」


 ややあって、躊躇いがちに、蘇芳がそう言った。


「……いたけど、失恋したの」


 悩んだ末、正直に答えたのは、これ以上嘘をつくのが嫌だったからだ。久世先輩は、蘇芳くんのことを気に入らないようだったけど、私には彼が悪い人には思えない。


「そう、だよね」


 蘇芳くんの、苦笑混じりの声を聞いて、少しだけ、違和感を覚える。そうなんだ! ではなく、そうだよね。

 だけど、久世先輩に思いを抱いて、先程失恋したことは、誰も知っているはずのないことだ。だとしたら、もしかして、結城くんのことを沙織から聞いたのかな?


「沙織から聞いたの?」

「う、あの、え?」


 何の気無しに聞いたのに、予想以上の反応をされて、こちらも驚く。


「……違うの?」

「え、えっと……ちらっと聞きはしたけど、そうじゃなくて、あの、久世先輩、有名だしさ。何となく、そうなるのかなぁって思っただけっていうか」

「!?」


 声が出なかった。

 蘇芳くんは、私の失恋相手を、久世先輩だと知っている。

 誰にも話していない、私の思いを知り、しかも、失恋したことを察している。

 断じて言うが、私と先輩は、校内で噂になどなっていない。

 先輩が倶楽部に勧誘した女子部員として、私はそれなりに有名ではあるが、彼の念入りなカモフラージュ行動により、そういう艶っぽい雰囲気は一切(少なくともみんなの前では)出ていないからだ。

 三年の、先輩のクラスメイトだって、クラスの先輩ファン、小町ちゃんだって、その他の誰にだって、疑われたことはなかった。


 いや、違う。

 ただ一人、私と先輩の仲を疑った人物がいた。

 沙織だ。


 ーー美波、嫌? 私が先輩を好きになったら

 ーー応援してくれる?


 もしかして、沙織は……先輩から送られてきた、メールを見たのかもしれない。

 ハートがたくさんの、口説き文句もたっぷりのメール。

 あの朝、メールを読んでいて、背後にいたのが沙織だったことに、私は安堵した。他の女子だったら、袋だたきにされるかもと、そう思ったから。

 だけど、沙織は久世先輩が好きだったのだ。


 沙織が蘇芳くんに、先輩と私のことを話したとするなら……これまで、不思議に思っていた全てに、説明がつく。


 最低で最悪な、願ってもなかった説明が。


 



 



 


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