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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
古国 ガルチュア編
50/57

S18話 邪神

 ルクスはーー


 瞳を金色に輝かせる。


《認証プロセスを簡略。ーー龍剣解放》


 ルクスは迫り来る触手を次々に切り刻んだ。


「こんなものか?」


 ルクスの声にキミシマユウキは首を振る。


「なわけ、あるかよ……」


 またも空間の傷口から触手が生え出てきた。

 そして同じくルクス目掛けて迫り来る。


「同じじゃないか」


 ルクスは先程同様に剣を構えて、攻撃してくる触手を切り刻もうとした。

 しかし、同じ結果にはならなかった。


「切れない?」


 同じ力で同じ角度で剣を振り下ろした。

 しかし触手は切断できなかった。


「対応できなきゃ魔術師として半人前。舐めないでよ」


 キミシマユウキは微笑んだまま、薙刀で空間に次々と傷口を生み出していく。


「切れない触手。再生する触手。あんたじゃ、格が違う!」


 その言葉を聞いて、ルクスはニヤリと口の端を吊り上げる。

 そんなこと言われたら……。


 ーー絶滅させたくなる。


「何よ、その顔? キモッ」


 キミシマユウキはルクスの笑みに気味の悪さを覚えながらも、現時点の優位性を疑うことはなかった。

 これを覆せることはあり得ない。


「もう一段階、解放する」


 彼の言葉を受け、剣がーー龍剣が返答する。


《了。身体構造変換。再統合……完了。魔力適応、最適化。ーー龍剣解放》


 龍剣の宣言によって、ルクスの身体が変化する。

 見た目は変わらない。

 しかし、中の構造がまるっきり変わる。


 それは存在としてはーーもう別人と言っていい。


「何それ? 本当にキモい。何なのよそれ」


 その事実に、この場でキミシマユウキだけが気付いた。

 その異様さに。

 その奇怪さに。


「何者なの、あんた? 人間……じゃない?」


 その問いにルクスは答えない。

 ただ彼女を見据えて、剣を構える。


「出し惜しみはしないわ!」


 キミシマユウキはルクスを睨め付けながら、それを始めた。


「地に堕ちし、恐怖の体現よ。海底より、這い出るは根源的、死滅宇宙ーー周知の事実にして、万人に根を張る、四大霊にして、水を司る正義の象徴よ。旧支配の尊重されし、この呼び声は……ああ! ああ! ああぁぁ!」


 キミシマユウキが何事かぶつぶつと呟く。

 狂ったか?

 いや、あれは詠唱だ、とルクスが思い至る。


 空間の傷口から無数の触手がルクスに放たれた。

 その速度は先程のロッセルの『炎の矢』以上である。

 それをこの至近距離で受けるルクス。

 それは絶望の攻撃だった。


 だが、ルクスは触手を切った。

 先程、切断が叶わなかった触手をいとも簡単に切った。


「やっぱり、さっきとは別人。意図的な制限を課してる? 違う。あれはまるっきり変わってる。上限を解放したんじゃない。違うモノに創造し直した?」


 ルクスの変化について推察してみるが答えはでない。

 彼女は首を振って、気を取り直した。

 今は彼を……。


 ーー殺す。


 ーーそれだけに注力しよう。


 それに、とキミシマユウキは再度笑みを作る。


(準備はできた)


 キミシマユウキは背後を薙刀で大きく縦に一線ーー振り下ろして、空間に傷を作った。


「こっから本番だから!」


 彼女の声が『謁見の間』に響く。

 その声はルクスだけでなく、リゼル、エミリス、ロッセルにも届く。


「こっから……? ん! そうか、そっちが上限を定めていたのか!」

「そーいうこと」


(ここからが本当に本当の本番なのよ!)


 彼女は最後にその魔術(・・)の名を叫ぶ。


「ーー『邪神降臨(コズミック・エラー)』!」


 キミシマユウキが作った空間の傷口を裂くように、その奥から何かが現界しようとしていた。

 

 まず、這い出てきたのは醜く灰を被ったような色をした触手である。

 その触手は生理的に気持ちの悪い動きをしながら、クネクネと忙しなく震えているように見えた。


 そして触手を携えて、出てくるのは本体。

 その姿は見ただけで吐き気を催すーーいや、魔に疎い者が見たならば失神、もしくは心の臓を止めるほどの恐怖を覚える。


 それは存在だけで精神を犯す。

 それは存在だけで世界を犯す。

 それは存在だけで宇宙を犯す。


「人にはどうすることもできないのが神! だとしたら、コレはそれ以上! どうにかする可能性もない! この根源的恐怖は私たちにどうすることもできない! いやーー私だけがそれを支配できる! 私が、私が! 私はようやく、私の力を証明できる!」


 キミシマユウキは笑う。

 この時をどれほど待ったか。


 もう見てほしい人はいない。

 あいつは死んだ。

 私より優れていると評されていたくせに、死んだ。


 馬鹿が、馬鹿が、馬鹿がぁぁあ!

 勝手に死ぬな!

 私が凄いってことを認めろ!

 クソがぁああ!!


 だけど私は認めない。

 だったら、世界に轟かせる。

 宇宙に轟かせる。

 異世界に轟かせる。


 見ていろ。

 私が優れている、と認めさせてやる。


 その為のこの神ーー邪神だ。


「吐け。死せよ。この世の全ての恐怖をここに!」


 何だかハイだな、と高揚感に支配されていることを自覚する。

 けれど、それでいい。

 それでいい!


「勇者さん、あんたにコレが止められる?」


 キミシマユウキの問いにルクスは笑顔で返す。

 その表情にキミシマユウキは目を見開いた。


「元々、そのつもりだ」


 より一層、瞳の輝きを増す。

 金色に輝くそれは何を意味するのか?

 どうして輝くのか?


 同時に彼が持つ剣も輝く。

 神聖な光だな、と二人の戦いを傍観するエミリスは理由なく直感的に思った。

 光魔法に長ける彼女がそう思ったのだ。

 そこには意味がある。


 そもそも光魔法とはーー


「いくか」


 その呟きは誰に向けたものだったのか。

 それはーー


《了。次元螺旋進化ーー龍剣解放》


 またもルクスの中身が変わる。

 書き換わる。

 変貌する。


「やっぱり、その身体? がおかしいのね。まあ、いいわ。コレには勝てないもの!」


 その邪神の姿はタコのような顔に口から蠢く触手を生やしている。

 身体は無数の触手で覆われ、その実体は確認できない。

 

 そして、赤い眼。

 六つの赤い眼が『謁見の間』を、この世界を睨む。


 その巨体は『謁見の間』を半分ほど支配する。

 と言っても巨体全てはこの世界に現界できないようだ。


 空間の裂け目の奥には未だ、邪神の身体が眠っている。

 その上で、この身体は邪神の真の姿ではない。

 これは王獣の身体を使った邪神による介入である。


 邪神は宇宙の外からこの世界を見つけた。

 そして、どうすればこの世界に手出しが出来るかと考えた。

 その時、自身と同じような存在定義を持つ生物を見つけた。


 それがこの王獣だった。

 姿形が邪神と相似していたのだ。


 そうして邪神は何億光年を超え、次元を超え、世界を渡り、その王獣が自分自身であると定義した。


 その結果、王獣は邪神の端末としてこの世界で働くことになった。

 また、海底都市に眠るとされる邪神もまた、邪神の端末の一つに過ぎない。


 だが、そんな思惑とは別に動いていたのがキミシマユウキ。

 彼女は邪神の思惑を利用して、自身の願望を叶えようとした。


 そして今ーー


 キミシマユウキの計画は着実に進んでいた。


(だったのに……こいつのせいで計画が破綻しようとしている)


 ルクスはキミシマユウキが知っている魔術理論の外側にいる。

 この異世界に来て、魔法は魔術の下位互換だと結論づけた。

 その結論に関しては間違っていない。

 

 しかし、それ以外に関しては油断できないものが多かった。

 その一つに剣術があった。


 剣術は元の世界でここまでの地位を築いてはいなかった。

 それほどまでに影響力がなかったのだ。

 魔術に劣るーーというか、魔術と比較するのもおこがましい、それほどの対象だった。


 ただのチャンバラ。

 魔術師からしてみればお遊びに等しい。


 確かに剣というのは魔術界においても大きな意味を持つ。

 神話において剣とは度々登場する重要なアイテムだ。


 しかし、それは剣が特別であって、それを扱う技にではない。


 だが、この世界では剣の技ーー術が特別なものとして確立していた。


 だからこそ、キミシマユウキの想像を超える可能性がある、油断できない概念なのだ。


 そして剣術だけではない。


 この勇者だ。


 こいつは何者だ?

 何なんだ? この男は。


 世界のバグ……ではない。

 その性能は完全にこの世界の摂理から外れているはずなのに、世界に認められている。


 無理矢理?

 違う。

 

 ちゃんとした過程をもって、世界に認められている。

 世界に祝福されている。

 

 こんな歪な存在が?


(おかしいはずなのに、それが普通だって、世界が(・・・)定義づけられている? そんな馬鹿な労力の使い方がある?)


 あり得ない。

 普通の思考力ならそんな考えに行きつかない。


 でもーー


「そのデカブツを斬る」


 ルクスは走った。

 王獣目掛けて、彼は走った。


 キミシマユウキは迷う。

 このまま王獣ーー邪神に任せるべきか、それとも自分が……。


 自分?

 どうして?


 そうだこの邪神は絶対的な力を有している。

 なのに自分が手を出してどうする。


 怯えている?

 不安?


 キミシマユウキはそこで、はたと思い至った。

 自分は彼に対して恐怖を覚えているのだ、と。


 未だ傷もつけられておらず、邪神だって倒されていない。

 今、優位な立場に立っているはずの自分だと言うのに、不安?

 どうして?


 その答えは出ない。


 ルクスは剣身を下げ、振り上げる構えを見せる。

 その剣の構えは聖典流の聖級剣技が一つ、『夢斬(メリサ)』だろうか。

 


 いや、違う。

 あれは龍玄流、奥義が一つーー


 ーー『龍王(リュウオウ)徳叉迦(トクシャカ)


 その剣技は龍玄流の中でも特異なものである。

 それは聖典流で言えば、聖級剣技。

 鬼想流で言えば、秘伝剣技……みたいなもの。


 正確に言えば違うが次元としては同じ高次元の剣技として知られている。

 それを扱える剣士は当然のことながら限られているが。


 しかし、彼はその剣技を全て使えた。

 彼の身体は特別だ。


 リゼルと似ているかもしれない。

 普通の人間の身体ではない。


 それは剣士として最適された身体であり、そしてそこに神龍の力が宿っている。

 だからこそ魔法も扱えるのである。


 それは最強の身体だった。

 しかし、身体がどんなに頑強であろうと、そこに適する魂がなければいけない。

 一般的な人間の魂ではこの肉体に耐えきれず圧死するだろう。

 それほどに魂と肉体のバランスとは重要なのである。


 赤子の頃より、肉体は徐々に魂に適したカタチに変形、もとい成長していくのである。


 つまり、どんなに肉体を鍛えようと、魂が強くなければ意味がないのだ。

 だからこそ、肉体に限界が訪れた、と誤認してしまうのだ。

 鍛えるべきは肉体だけではない。

 魂も鍛えるべきなのだ。


 その点、ルクスは魂も特別だった。

 彼は魂だけで異世界間を渡ったのである。

 そんな例は類を見ない。


 その上で神龍が用意した肉体である。


 彼は真の意味で勇者になり得るポテンシャルを秘めていた。


「神がなんだ。前世の俺に何もしなかった存在のことか!」


 ルクスは沸々と怒りを露わにする。

 前世とは決別したつもりだった。

 しかし、そう簡単に過去を抹消することはできない。

 記憶というものは、憶えていたくないものほど鮮明なのだ。


 ルクスが放った斬撃は邪神を襲う。

 それは弩級の斬撃。

 純粋な攻撃。


 搦手ではなく、真正面から斬撃を放つ。

 その圧倒的なエネルギーが暴力という性質となって、邪神の身体を粉微塵にしようとしていた。

 

 そして、身の危険は邪神だけではない。

 邪神の手前に位置するキミシマユウキもその斬撃の脅威に晒されていた。


「さっきの斬撃とは比べられない……。でもっ……!」


 キミシマユウキは自身を守るように無数の邪神の触手を絡ませ移動させた。

 そうして触手の壁が出来上がる。


 それだけではない。

 それだけであの斬撃が防げるとは到底思えない。

 

 キミシマユウキは邪神に指令を送る。

 自身が時空間に溜め込んだ魔力を邪神に供給し、斬撃に立ち向かおうとした。


 邪神の口から膨大な魔力が集まっていく。

 その魔力は禍々しく輝き、その脅威を悠然と語っていた。

 そこから放たれる魔力の放射線。


 しかし、その魔力の塊は単純なエネルギーではなかった。

 邪気と呼べばいいだろうか?

 魔力の質が通常のそれとは大きく異なっていた。

 それはもしかしたら、この宇宙とは全く別の論理で成り立つ『何か』だからなのかもしれない。


 ルクスの『龍王・徳叉迦』が邪神の触手を消滅させる。

 一切の抵抗許さず、跡形もなく、斬撃によって滅される。

 

 触手の壁が崩壊したと同時に、その後ろから邪神の魔力光線が放たれる。

 その放射線は間もなくしてルクスの斬撃と衝突する。


 二者の攻撃は数秒の間、拮抗状態に陥った。

 だが、その状態もすぐに解される。


 ルクスの斬撃が徐々に邪神の攻撃を押し始めたのだ。


「これでまだ、足りないの?」


 キミシマユウキは呆れた表情で笑みを見せる。

 ルクスという名の脅威に開き直るしかなかったのだ。


 だが、未だ彼女は絶望していなかった。


「叩き潰す」


 誰にも聞こえない彼女の独り言。

 そんな呟きと同時にルクスが放った斬撃の頭上に巨大な何かーー薙刀が振り下ろされた。


「魔力だけじゃダメ。次元の曲解。そこに連続性も追加する……私のできる全てを使って、時間を稼ぐ(・・・・・)


 それはキミシマユウキの術式『雨ノ時空傷』の応用ーーというより性質の一つにすぎない。

 

 そもそもこの術式はただ空間と空間を繋げるだけではない。

 時空の歪みを利用し、対象を増やすことも、そして、大きさを変化させることもできる。


 それはつまり、解釈である。

 時空の歪みを術式に取り入れ、論理として成り立たせたことによって、世界の解釈を可能としたのである。


 そして、その性質は、あの神(・・・)と同質だった。


 ルクスの『龍王・徳叉迦』は巨大な薙刀によって霧散された。

 その薙刀は『雨ノ時空傷』の時空の連続性によって半永久的に増幅する魔力を帯びていた。

 そのエネルギー量は先程の邪神の放射線と同等。

 

 流石の『龍王・徳叉迦』も二度の強力な攻撃には押し勝てなかった。


「やるじゃないか」

「褒めていただいて、ありがと。すっごい皮肉に聞こえるけど。つーか、やっぱり、あんたおかしいわよ。何それ? さっきの? 理屈が分からない」


 この世界における剣術の力ーーその理屈は確かに不可解だ。

 魔法と同じく、三流派を基礎として、ある程度定型化されているとは言え、そもそもの理屈がよく分かっていないのだ。


 魔法ならば、その現象を引き起こす魔力という前提のエネルギーがある。

 しかし剣術はどうだろうか?

 例えば、鬼想流を極めし者は魔法の領域に足を踏み入れた者もいるらしい。

 だが、その剣術ーー剣技には一切として魔力が消費されていないのだ。


 そして例えば、先程のルクスの斬撃。

 あのエネルギーはどこから生まれたものなのだろうか?

 

 魔力ではない。

 だとしたら他に何かあるのか?


 キミシマユウキは首を振る。

 そんな力があれば、人間はもっと上位の存在となっている。

 

 この世界の人間は元の世界の人間とは少し異なるのか?

 それも違う。

 

 キミシマユウキはこの世界に来てから、その疑問に対して、調べられる限り調べ、実験も行った。

 しかし、その結果、そのような特別な力は見受けられなかった。

 

 だとしたら、考えられる可能性は、この世界には元の世界とは異なる論理が働いている。

 世界のシステムが違うのだ。


(剣術は……まじゅ……魔法に対する制御概念? 分からない。今は答えが出ない。こんな事になるなら、もっと実験すればよかった)


 しかし、未だキミシマユウキはこの勝負に勝機を見出していた。

 それを疑っていない。

 

 確かに一歩、一手でも油断して行動を誤れば、死ぬかもしれない。

 だが、それを間違わなければ、最後に立っているのは自分だ、と確信していた。


「だって、私にはアレ(・・)がある。時間もそろそろ」


 邪神との親和性は十分だろう。

 これならば、この男ーールクスを倒すことも……いや、それだけではない。

 

 最終目的はこの世界の掌握。

 いやーー消滅。


 彼女は生に対して執着がある訳ではない。

 ただ、目的完遂以前に死ぬことを恐れているのだ。

 その後はどうでもいい。


 彼女はただ単に証明したかったのだ。

 あいつに。

 あの女に。


(もう魂は消滅しているかもしれない。そもそも異世界だ。あいつに知らせることなんて出来ないかもしれない。でも、それが宇宙的規模なら! 外宇宙さえ巻き込む力なら! 万に一つでもあの女に知らしめることが出来るかもしれない!)


 キミシマユウキは再度、空間に縦の大きな直線ーー傷をつけた。


 そして、それはーー


 時空の傷口は扉の形に変化した。

 いや、それは扉というより……。


 ーー門


 そう、それこそは、『窮極の門』だった。


 キミシマユウキは邪神の力を利用することで、さらにその深淵、窮極(・・)を求めた。

 そして、偶然にも彼女には彼女特有の術式『神の使役』に加え、一家相伝の術式『雨ノ時空傷』があった。


 この二つを組み合わせ、同時に王獣ーー邪神という要素を組み入れることで、かの外なる神との邂逅を実現させようとした。


 その門に行き着くには『銀の鍵』が必要だった。

 しかし、彼女の『雨ノ時空傷』がその問題を解決する。

 

 そして、かの外なる神との縁は王獣を端末とする邪神によって結ばれた。


 条件は揃った。

 多少なりと邪神を現界し、世界との親和、同じくキミシマユウキとの親和性を高める必要はあったものの、その時間も十分稼ぐことが出来た。


 今ここに、全ての要件は達成され、『窮極の門』が開く。


 その突然の事態にルクスは直感的に先程の邪神の召喚とは異なる危険さを感じ取った。


「おい、また何かを顕現させるのか?」


 ルクスは慎重に状況を観察している。

 しかし、心中は穏やかではなかった。

 本能が叫んでいた。

 あの門の向こうにいる存在はこの世界に呼び寄せてはいけないものだ、と。


「俺の予想が正しければ、そのタコみたいな奴と同種、いや、それ以上の何かヤバい奴があの門の向こうにいるのか? だとしたら、その神は……アレ(・・)か?」


 ルクスはその存在に心当たりがあった。

 しかし、それが真実だとして、そんな存在が本当にいるのだとしたら、今の自分には勝ち目がないことは自明だった。


 実際の強さは分からない。

 だが、目の前にいる彼女ーーキミシマユウキの不敵な笑みを見れば、危険度は高く見積もっていいだろう。

 いや、最悪を想定するべきだ。


 今までの戦いとは違う。

 この世界の存在ではなく、全く別の遠いどこからか来た存在。

 

 ルクスには勝てるイメージが湧かなかった。


(勝ち負けじゃない。これに関しては、あの怪物をこの世界に現界させないための戦いって訳か。だとすると……)


 ルクスはすぐさま門に向かい、剣を振り(かざ)して、斬撃を放とうした。

 しかし、それを見逃す彼女ではない。


 キミシマユウキは薙刀を横一線に振り回した。

 それは『雨ノ時空傷』の影響でルクスの目の前に転移される。

 そして、薙刀は時空を渡っただけでなく、その数を増やし、合計五本の薙刀が一気にルクスに襲いかかってきた。


 ルクスは歯噛みして、その攻撃を甘んじて剣で受け止めた。

 その間にも刻一刻と『窮極のの門』が開いていく。


「リゼル!」


 仲間の声を叫ぶが、生憎とリゼルはテスカトリポカと呼ばれる仮面の怪物と交戦中である。

 そこから離脱する余裕は一切なかった。


 ならば、と他の二人、エミリスとロッセルに視線を向けるが彼女らには邪神の触手が襲いかかっていた。


「どうにも出来ないでしょ? ようやくこれで、詰みね」


 キミシマユウキにとって邪神の召喚も布石の一手に過ぎなかった。

 彼女の真の目的は邪神のそのまた奥ーー深淵に座す、別の邪神。

 かの外なる神が目的だったのである。


 ルクスの健闘虚しく、『窮極の門』は向こうの世界をこの世界にお披露目するべく、徐々と開け放たれていった。


 堅牢で頑強な門の様に、門が開いて動く度に荘厳な重低音が『謁見の間』に響いていた。


「邪魔だ!」


 ルクスはキミシマユウキの薙刀を聖典流の『天斬(ミルス)』で薙ぎ払い、『窮極の門』へ駆け走った。


 しかし、到着には今一歩、遅かった。


「開け、開け、開けーー『窮極の門』! 私こそが『銀の鍵』そのもの!」


 さあ、この世界に顕現せよ。

 一にして全、全にして一なる者。


 門が開かれた。

 奥からは眩い虹色の光が輝いていた。


 そしてーー門から君臨するはーー


「グオオオオオオオオォォォォォオオオオオ!!!!!」


 門から這い出てきたのはローブを被ったーーいや、それはヴェールを纏う……巨人だった。

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