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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
古国 ガルチュア編
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S05話 思惑

 ルクスと姫は露店街を抜け、閑静な住宅街に来ていた。

 この都市は一平面に建物が建っておらず、立体的に、傾斜地に住宅が段階的に建っている。

 そのため、この土地は階段が多く、上り下りが激しい。


 そんな住宅街を抜け、裏路地に入る。

 そこには、「占い」と書かれた看板や(のぼり)が掲げられた店が並んでいた。


「こっちっす!」


 姫は先行し、奥の店を指さした。

 ルクスは姫についていき、その奥の店へと向かう。


 店に入ると、そこは暗く、怪しい雰囲気を醸し出しており、間接照明が淡い光を反射させていた。

 店の奥には肩肘をつき、煙草を吸っている女性がいた。

 女性は眠たげな(まなこ)を擦り、咥える煙草を口から放して、欠伸をした。

 

 ぼさぼさの髪に、やにの臭い。

 しかし、女性の見た目は不潔に反して、美人だった。

 長身で、細身。

 まつ毛も長く、目は切れ長でぱっちりとしている。

 いや、けれど、やはりその美人な見た目を差し引いても、不潔だ。

 魅力もプラスマイナスゼロと言ったところか。


「こんにちはっす! また来たっす!」

「ん? なんだい、あんたか? もう一人は……初顔だね」


 煙草を吸い殻に押し付け、火を消す。

 女性は咳をしながら、「何の用だい?」と眉間に皺を作り、言った。


「ちょっと占ってもらおうかなって」

「占い? 占いなんか信じてんのかい?」

「いや、ここ占い屋っすよね?」

「そうだよ」


 女性は口をへの字に曲げながら、「しっし」と手で追い払う仕草をした。

 しかし、姫はそんな女性の嫌悪感を無視するように、勝手に席に着いた。


「私は座って良いなんて、一言も言ってないよ」

「ここは客を品定めしてるんすか?」

「そうだよ、だから帰りな。今日は気分じゃないんだ」

「気分で仕事すんな」


 姫は女性の苛立ちにも怯まずに、ずけずけと言い返す。

 そんな姫の物怖じしない態度に、女性は根負けしたのか、それ以上、悪態を言うのをやめた。


「で、本当に占いをすんのかい?」

「はいっす!」

「仕方ないね……」


 女性は嘆息を吐きながら、机の上に置いてあったカードを手に取った。


「カードでいいかい?」


 姫は笑顔で頷いた。

 女性はカードをぐちゃぐちゃと混ぜて、机の上に、散るように広げた。


「何を占う?」

「そうっすね……」


 中空に視線を向けながら、口をすぼめる姫。

 そんな姫の視線が、中空からルクスへと移動する。


「この(かた)! ルクス様と私の未来を占ってほしいっす!」

「未来? 相性じゃなくて? どういうことだい?」

「そのままの意味っすよ。二人の未来を見てほしいっす!」

「私は、予言者じゃないんだ。そういうのは、未来を視れる魔法使いに頼みな」

「良いじゃないっすかー。確定された未来じゃなくて、占いをしてほしいんす」


 女性はまたも、ため息を吐いて、肩肘をつきながら、ぐちゃぐちゃにしたカードの中から一枚を抜き取った。


「おっ! やる気になったすか?」

「違うよ。でも、このまま、ここに入り浸られても嫌なんだよ。さっさと帰んな」


 そう言いながら、何だかんだ、真面目に占いを始める。

 見たところ、前世で言うタロットカードのようなものだろうか、とルクスは考える。

 しかし、カードに描かれている絵は前世での記憶とは大きく異なるものだった。


「龍か……」


 女性が手に持つカードには翼を持つ、白色のドラゴンが描かれていた。


「次は……」


 女性はもう一枚、カードを引く。


 そのカードには――何も描かれていなかった。

 

 いや、描かれていない訳ではないのか?

 そのカードは黒塗りにされていた。


「このカードの意味は?」


 この店に入って一言も発していなかったルクスだが、黒塗りのカードは流石に気になった。


「ん?」


 女性は初めてルクスに視線を向けて、口を開いた。


「これは――無だね」

「無?」

「ああ、何もないって意味ね」


 ルクスの質問に、女性は案外、素直に答えてくれた。


「何もないって、私っすか?」

「そうよ、あんたの未来、何もないってさ」

「えぇー。やっぱ占いっすね」

「どういうことだい?」

「そんなのあり得ないっすよ。つまり、近い将来、私、死ぬってことっすよね?」

「……さあ? 私は占っただけだよ。ほら、占ってやったんだから、金置いて、さっさと出ていきな」


 女性は「ほらほら」と言って、手をひらひらと揺らす。


「ちぇー。あんま面白くなかったっすね」


 姫は銀貨を一枚置いて、店を出た。

 ルクスもそれに続くように、外に出ようと扉に向かう。

 しかし、扉に手をかける直前に、女性に声を掛けられた。


「あんた、ちょっと待ちな!」

「ん?」


 ルクスは女性の声に足を止める。


「あんた、名前は?」

「……? ルクス=リヴァルサンだが?」

「それだけかい?」

「それだけ……とは?」

「いや、ああ……そうだね。うん、なんでもない。引き止めて悪かったね」


 ルクスは少し怪訝な表情になりながらも、店を後にした。

 店の外では姫が待っていてくれた。


「どうしたっすか? なんか話してたっすか?」

「ああ、名前を聞かれた」

「ふーん、そうっすか」


 姫は気を取り直して、先に進んだ。

 もちろん、ルクスの腕に捕まって。


「それにしても、拍子抜けだったすね。もうちょっと、ちゃんとした占いをしてくれると思ったんすけどねー」

「あそこには、よく行くのか?」


 見た感じ、あの女性の対応に慣れている印象だった。

 そもそも、あの女性は、積極的に他人に関わろうとする人種ではないように感じられたが。

 それをあそこまで、手慣れた態度で接するのは、相当の付き合いなのでは、と思う。


「そうっすね。ここ最近は、それなりに……」


 姫は視線を先程までいた占いの店の方へ向けながら、微笑した。


「そんなことより! 次! 次、行くっす!」


 元気な声で先を促す。

 姫はルクスの腕を引いて、裏路地を抜けた。



――――――――――――



「まったく、何だったんだい……」


 女性――リスピィと言う名の、占いを生業とする女は、店の扉を見つめながら、独り言ちた。

 手に持つカードは「龍」

 人生で一度たりとも出ることのなかったカード。


「嫌だね、まったく……」


 カードの意味は救済・転変。

 このカードが出た時、それはすなわち、厄災の前兆。

 救済と聞けば、良い事のように思えるが、その実、救済とは問題の解決にある。

 つまり、問題が起こるのだ。

 問題なくては救済もない。

 これは逆説だ。

 救済があるということは、そこに凄惨とも呼ぶべき悲劇がある逆説なのだ。


 黒塗りにされたカードは「夜」

 それも、星無き夜である。

 別称が「無」だ。

 そこに光と言う名の希望はなく、未来は閉ざされているという意味を持つ。

 

 このカードに関しては久方ぶりの出会いだった。

 そう、あの時以来……。


「こういう運命なのかね、私は……」


 所詮は占い。

 しかし、彼女の占いは外れたことがない。

 彼女の願いも空しく、占いは外れてくれない。


 それこそ、まさに――予言。


 しかし、彼女はその占術の力を毛嫌いする。

 未来を知っているからと言って何になるのか。

 この未来はどうにもならない。

 自分に、未来を改変する力は有されていない。

 そんなこと、分かっている。

 分かっているからこそ、彼女は――


 ――未来を変える努力をやめたのだ。


 一枚の写真を取り出し、目を細める。

 そこにはリスピィともう一人、少女が写っていた。

 二人は笑顔で、こちらに顔を向けている。

 

 そんな過去にリスピィは(すが)る。


 未来ではなく過去に、彼女の心は囚われている。



――――――――――――



 王の執務室には、その部屋の主たるガンベルノ三世と、古国ガルチュアの宰相がいた。

 ガンベルノ三世は執務室の窓から、ガルチュアの都市を眺望する。

 王城からの眺めは絶景だ。

 入り組んだ作りのこの都市は、毎日の発見で溢れている。

 抜け道と言うものが多数存在し、目的地に行くために様々な道筋が検討できる。

 

 そして、そんな都市を上から眺めれば、複雑な迷路を俯瞰するが如く、それはある意味、人間が作りし神秘すら感じる。


「王獣は見つかりそうかね、宰相?」

「さて、現時点ではどうとも言えません。しかし、今日は発掘隊に話を聞きに行ったそうです。これから、と言ったところでしょう」

「そうか……」


 ガンベルノ三世は難しい顔を作り、舌打ちをした。


「見つけてもらわねば、困る。わざわざ、勇者に来てもらったのだ。それ相応の働きを見せてもらわねば……」


 彼には力が必要だった。

 その力で遺跡の謎を解き明かす。


 彼もまた、考古学に取りつかれた一人の人間。

 今は毎日を政務に忙しくしているが、最終目的はこの国の中心に眠るシロエ遺跡を探検すること。

 しかし、それには力が必要なのだ。

 遺跡には様々な危険が隠されている。

 その危険は人間の力では回避できないものもある。


 あの遺跡を攻略するには、人間の器では限界なのだ。

 だからこそ、王獣の力を欲している。

 あの力さえあれば、遺跡の謎も解き明かせる。

 ようやく、小さき頃からの彼の願いは叶うのだ。


「王獣の力をコントロールする(すべ)は手に入った。あとは、王獣……それだけだ」

「はい」

「勇者一行には最大限の協力をしなさい。良い機会だ。王獣と接敵した場合は、彼らに王獣の力を削いでもらおう。そして、弱ったところを……」

「その後の、勇者一行は、どのような処遇にいたしましょうか?」

「そうだな……最終的に生きててもらっては困る。王獣を手中に収めれば、勇者も恐れるにあらず。その時は――殺してしまおうか」


 宰相は頷いた。


「しかし、それも王獣が見つからなければ、仮定の話に過ぎない。王獣が出現したときは運命とさえ思ったのだが……」

「どこへ、消えたのでしょうか?」

「そんなの決まっているだろう。発掘隊が隠しているに違いない」

「となると、彼らは王獣をどのように匿っているのでしょうか? 我々でさえ、王獣をコントロールする手段を見つけるのに、長年の月日を費やしました。そして、その手段は決して真似できない」

「そうだ、それが分からぬ。分からぬからこそ、手をこまねいている」

「そのための勇者ですか」


 ガンベルノ三世は不敵な笑みを作り、ゆっくり頷いた。

 噂に聞く実力ならば、不測の事態にもそれ相応の対応を見せてくれるはずだ。

 自分たちは、ただそれを待つだけでいい。

 最後に笑うは、自分たちなのだ。


「さて、ちゃんと働いてもらうぞ、勇者よ」


 王城から、二人の人物を視界に捉える。

 姫と勇者。

 それを見つけ、ガンベルノ三世はまたも、にやりと笑みを浮かべた。


 王獣の出現は偶然だった。

 しかし、彼らにとっては運命そのものだった。

 準備してきたものが、こんなにもタイミングよく()まるとは。

 この機会を逃す道理などない。

 

 遺跡の謎を、解き明かす。

 幼少の頃からの夢が、あともう少しで叶えられる。

 王など、どうでもいい。

 権力など、どうでもいい。

 彼の欲はどこまでも探求心に溢れている。

 

 それが彼の本質だった。

 王族でなければ、とうに、こんな肩書は捨てている。

 彼はただ、遺跡の深みを知りたいのだ。

 あの奥には何があるのか。


「もう少しだ。もう少しで、我は……!」


 未だ掌には何もない。

 だが、あとほんの僅かで、その手中には、大願が握られる。

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