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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
古国 ガルチュア編
36/57

S04話 接触

「そうですね。王獣は突然、遺跡に出現したのです。それまでも、魔物の出現は確認されていましたが、どれもが、地下迷宮、終末塔(ヴィグリス)の三階層以上で発見されたもの。地上にも、生存が確認された魔物ばかりなので、特段、気に留めていませんでした」


 古国、ガルチュアはシエロ遺跡を中心に発展していった。

 このシエロ遺跡は遥か昔、神話と呼ばれる時代に栄華を極めた地下帝国なのではないか、と最新の研究では主流である。

 

 何故、地下に住んでいたのか。

 どのように地下に空洞を作り、建物を建てたのか。

 その材料はどのようなに運び込まれたのか。

 

 様々な謎が、未だ解明されていないが、学者たちはこぞって、人生をこの遺跡研究に費やしている。

 それほどの魅力が、このシエロ遺跡にはあるらしい。


 エミリスはリゼルとロッセルとともに、発掘隊に王獣消失の詳細を訊ねに来ていた。

 この国に来た目的は、王獣について調査することである。

 そもそも、旅の目的は王獣討伐。

 この二か月、冒険者組合(ギルド)からの依頼(クエスト)や国家転覆の事件などの解決に奔走していたが、本来の目的は違うのだ。


 しかし、ようやく、王獣の手掛かりを掴めた。

 この手掛かりは、是が非でも手放すことは出来ない。

 

「何故、それが王獣だと断定できたのでしょう?」


 エミリスは正面の男――名をピオネロ――に問う。

 ピオネロは瞬きの少ない瞳を、こちらに向け続けながら、口元は吊り上げられている。

 どうにも、その笑顔は嘘っぽいように感じられた。


「その魔物の姿が伝承そのままだったのです」

「伝承……?」

「はい、こちらをご覧ください」


 後ろに控えていた男が一冊の本をピオネロに手渡した。


「ありがとう。……こちらです」


 ページをぱらぱらと捲り、とあるページで手が止まった。

 ピオネロはそのページを開いて、こちらに見せる。


「これは複製なのですが、書かれている内容は本物です。ここに伝説の怪物のことが記されています」


 ピオネロが指さす箇所を見れば、その怪物の姿形、生態に関して描かれていた。

 

 その怪物は地上を移動し、しかし、水中も素早く移動することが出来る。

 また、水中と言っても、深海に棲息していたという記述もある。

 姿は触手を幾つも生やし、背には黒く不気味な翼を持っていたと言う。

 いや、その姿はたびたび、変化していたらしい。

 発見されるたび、目撃情報の姿は違う。


「……? 発見されるたびに、姿が違うと書かれているのですが? これって、どうして同じ王獣だと分かったのでしょうか?」


 姿が違うのであれば、まったく別種の魔物だと思うはずだ。

 だが、この書物には姿が変化する、と書かれている。

 

「これはですね……次のページに書かれています。……ここですね」


 ピオネロが指さす。

 そこには、文章ではなく、絵が挿入されていた。


「タコ……?」

「そうです。この怪物は決まって、頭部がタコのような形状をしているのです。そして、この国に現れた魔物も同様の特徴を有していました」

「そうですか」


 タコの魔物。

 多くはないが、存在はする。

 しかし、彼の物言いだと、それらの魔物とは一線を画すのだろう。


「その魔物も頭部がタコのようだったと……?」

「そうです。それも、規格外の大きさでした」


 話を聞くと、その魔物はかなりの巨体で、遺跡を暴れまわったという。


「今は、遺跡の復旧作業に追われていまして、今日も発掘隊は慌ただしくしています」

「なるほど……」


 王獣は遺跡内で出現したらしい。

 発掘隊には多数の死者を出し、遺跡内の被害も甚大。


「その王獣はどこから現れたのでしょうか? 遺跡のどこから……?」


 さて、ここからが本題だ。

 王獣はどこから出現したのか。

 そして、どこへ消えたのか。


「それが、分からない、らしいのです。突然、遺跡に出現し、そして忽然と消えた。そう、報告を受けています」

「……? あなたは、その場にはいなかったのですか?」

「ええ、残念ながら、出現した際は他の場所にいました。ですが、隊員の一人がその王獣の姿を魔法で映写しました。それを映した紙がこちらです」


 ピオネロは懐から一枚の紙を取り出した。

 その紙には、恐怖そのものが映し出されていた。

 そう、それは――恐怖なのだ。

 身の毛がよだつ。

 吐き気すら覚える。


「これは……」


 こんな化物がこの世に存在するのか?

 瞳は深紅に彩られ、気味の悪い触手を踊らせている。

 その触手の中から、人間のような巨腕が二つ、そして、不気味に笑う大きな口が覗く。

 

 得体の知れない恐怖心。

 それは精神の根源的な部分を刺激する。

 奥歯が微かに震える。

 それを必死に我慢する。

 たったこれだけの絵で、心がかき乱される。


「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが?」


 ピオネロがエミリスの顔を心配そうに見つめる。

 それほどに、自分の顔は酷いのだろうか。


「少し、休憩しましょう。やはり、これを見せるべきではありませんでした」

「それは、どういう……」

「この王獣はその姿、存在そのものに相手を恐怖させる力があるようなのです。発掘隊の幾人かも、その姿を見ただけで泡を吹き、気を失いました。この映写も奇跡に等しい。よくぞ、撮ってくれました」


 オーラ。

 確かに、魔法の中には相手を威圧し、無力化させるものがあるらしい。

 これは、そのような魔法の一種なのだろうか。

 いや、これは魔法ではない。

 魔法はその者の実際の身体に作用する。

 しかし、これはただの絵だ。

 エミリスは絵に恐怖したのだ。


「お二方は大丈夫ですか?」


 ピオネロはエミリスの後ろに立つ、リゼルとロッセルを窺う。

 二人は頷き、同時にエミリスに視線を向けた。

 エミリスの顔は蒼白、本当に気分が悪そうだった。


「薬と白湯を持ってきてください」


 ピオネロは部下らしき男に声をかけた。


「席を外します。気分が良くなられたら、お呼びください」


 そう言って、ピオネロは部屋を出た。


 エミリスはソファに横になって、身体を休めた。

 頭痛も酷く、出された薬と白湯を飲み、どうにか痛みを和らげる。


「すみません、二人とも」

「いいや、謝る必要ないよ。それに僕たち、さっきまで、立ってるだけだったしね。何の役にも立ってない。いや、まあ、立ってはいるのか」

「つまらないですね」

「ははっ!」


 ロッセルが軽口を言い、リゼルも彼の言い分に頷いた。


「そうだなー。正直、俺もルクスと同じく、こういうのは苦手な口なんだけどよぉ」

「護衛が必要なんですよ。それくらいは働いてください」

「へいへい。けど、それなら、ルクスも連れて来れば良かったじゃねぇか?」

「駄目ですよ。ルクス様はこういった交渉を得意としません。あの方は正直ですから」


 エミリスの言にロッセルも、うんうん、と首肯する。


「だね。ルクス君はこういう場で無言を貫くことも出来ないしね。連れて来なくて正解かもね。でも、エミリスちゃんは良かったの? 今頃ルクス君は姫様とのデートを楽しんでるんじゃないかな?」

「……何か、問題でも? 確かに、ルクス様が外出されると、たびたび事件に巻き込まれますが、でも、大丈夫でしょう。ルクス様の実力なら、まずもって……」

「そういう話じゃないんだけどなぁ」


 ロッセルは瞳を閉じて、苦笑する。


「けれど、さっきの王獣の絵、凄かったね」

「ええ、気味が悪かった」

「まあな。俺も反吐が出そうだった」

「そうか、リゼルもそうだったんだね。僕もだよ」


 間接的に怪物の姿を見ただけで、あの破壊力である。

 実物を見た時、エミリスたちはどうなってしまうのか、想像したくない。

 

「でも、こうなると、やっぱりルクス君には来てもらうべきだったかな。彼も僕たち同様の反応を見せるのか、知るべきだった」

「そうですね、その点は同意です」

「彼も、同様の精神作用を受けるとなると、実際に王獣と戦う場合、苦戦どころじゃないからね」

「でもよぉ、その王獣は消えたんだろ?」

「そうだね……」


 王獣が出現した、だけだったら、問題はシンプルだった。

 解決方法は、その王獣の討伐で事が済むのだから。

 しかし、今回は王獣の出現に合わせ、消失も起きてしまった。

 王獣はどこに行ってしまったのか?


「ロッセル、発掘隊の隊長……ピオネロという男の発言に嘘はありませんでしたか?」


 エミリスはロッセルの瞳を見つめ、質問した。

 彼の瞳は特別だ。

 相手の嘘を見抜き、真実であるか問い(ただ)す。

 その眼――異能の名を『真眼』と呼ぶ。


 彼の眼には二つの能力が備わっている。

 一つは真実か否かを判定する。

 もう一つは相手に真実を話させる強制能力。


 しかし、その強制は一つ目の能力によって、嘘が断定された場合に発動可能。

 つまり、二つの能力は密接に繋がりを見せており、片方の能力だけでは真の意味での能力発揮とはいかない。

 と言っても、大抵は一つ目の嘘の判別だけで事足りている。

 それだけで、彼の眼の能力は万能なのである。


 そんなロッセルは瞳に手を(かざ)し、首を振った。


「あの男、嘘は言っていなかったんだよね」

「そうなんですか?」

「うん、嘘偽りは判定されなかった。彼の発言は全て真実」

「と言うことは、彼らは本当に何も知らないのでしょうか?」

「うーん、さあ? そう結論を急ぐのもどうかな? 彼はただ嘘を言っていなかっただけに過ぎない。本当のことを言っていないだけかもしれない」

「何か隠し事があると?」

「かもね。でも、やましい隠し事があるなら、僅かながらに僕の真眼も反応するんだけど……その反応もないんだよね」

「どちらにせよ、彼ら発掘隊には警戒しましょう。少し、彼らを探る必要があるでしょう」

「だね」


 エミリスは身体を起こし、首を回した。

 話をして、気が紛れた。

 体調が幾分か回復したようだ。


「リゼル、発掘隊長を呼んできてくれませんか。話の続きをしましょう」

「分かった」


 エミリスに言われ、リゼルは扉を抜け、隣の部屋に行った。


「さて、あともう少し、有益な情報を手に入れましょうか」



――――――――――――



「怖いですね。真眼とは珍しいスキルをお持ちだ」


 ピオネロは別の部屋で、エミリスたちの会話を盗聴していた。


「けれど、その部屋を隅々まで確認されなかったのは、不用心と言わざるを得ませんね」


 エミリスたちも決して、油断していた訳ではない。

 しっかりと、魔法的な仕掛けがないか確認していた。

 しかし、その部屋には魔法による干渉はないが、盗聴器などの装置が隠されていた。


「いけませんね、魔法に頼りすぎるのは。ですが、それも無理ありませんか。このような機械よりも、魔法の方が、手軽で汎用性がありますから」


 ピオネロはヘッドホンを外し、席を立った。

 扉の横には先程までいなかった男が屹立していた。


「戻られたんですね」

「はい、つい先程、一分二十三秒前に現着しました」

「そうですか、気付きませんでした、すみません」

「いえ、声を掛けようか迷ったのですが、盗聴音声の方が優先度が高いと判断しました」

「そうですね……。それで、どうでしたか、勇者様は?」

「はい。今のところはこれと言って、目立った行動はしていません」

「なるほど……。今は別の方が?」

「はい。任せて、こちらに来ました」


 男の名をダスカロイ・フォルゲン。

 ピオネロの優秀な部下の一人である。

 発掘隊では副隊長を務めている。

 

 ピオネロはそんなダスカロイとともに部屋を出ようと、扉のドアノブに手を掛けようとした。

 しかし、すんでで立ち止まり、後ろに視線を向ける。


「そう言えば、ご苦労様でした」

「えっ……?」


 ピオネロの後ろに立っていた部下の男が、疑問の声を出した瞬間――男の首は弾け飛び、爆散した。


(キャージュ)


 ピオネロの一声とともに、血が飛び散る男は魔法でできた四角形の空間に収められ、小さく圧縮させられた。

 そして、男は小さくなって、そのまま点となり、消えた。


「まだ、あまり使いこなせませんね。せっかくあの方に教わったというのに……」


 先程まで部下の男がいた場所を見つめながら、ピオネロは呟く。


「良かったのですか? まだ、生贄などに利用できたのでは?」


 ダスカロイがピオネロに聞く。

 ピオネロは首を振って、笑みを浮かべた。


「いけませんよ。この方は私に嘘を言うように促したのです。この方の言う通りにした場合、今頃、勇者一行には、隠し事がばれているところでした。それを一回のミスとして許しても良かったのですが、今はそういう状況でもないでしょう? リスクは少ないに越したことはありません」

「そうですね……隊長のおっしゃる通りだと思います」


 ダスカロイは頷き、先行して扉を開け、ピオネロを先に通した。


「ありがとうございます」


 扉を抜けた先は階段になっており、その先で廊下を抜け、幾つかのの部屋を移動すると、エミリスたちと話した応接室へと戻れる。


「まず、最初にダスカロイの紹介をしないといけませんね」

「はい」

「そのあと、あの方々がどのような質問を振ってくるのか……。どのような質問にも、誠実に答えなければいけません。確認する必要はないと思いますが、嘘は駄目ですよ?」

「承知しています」

「それと、真摯に答えてください。心は純粋に」

「難しいことを仰られますね」

「仕方ないのです。あの真眼はそこまで見抜くようなので」

「分かりました、肝に銘じておきます」


 二人は静かに廊下を進んだ。

 進んだ先には、別の部下が待機している。

 部下はこちらに軽く会釈して、扉を開けた。


「さあ、ここを乗り切れば、あともう少しです」

「はい」


 ピオネロの言葉にダスカロイが返事をする。

 ピオネロの表情は変わらず、笑顔だった。

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