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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
地下迷宮 吸血姫編
34/57

S02話 冒険

 評議国を発って、ニヶ月が経とうとしていた。

 その間、勇者一行は魔物退治や事件の数々を解決してきた。

 竜の群れの討伐に、国家転覆を企んでいた騎士団長との対決など、彼らの噂、もとい現代の英雄譚は瞬く間に周辺国家で有名となった。


 そして、現在、勇者たちはカルルク村というところに滞在していた。

 この村は今、蜥蜴人(リザードマン)の群れに農作物を奪われる被害に遭われていた。

 勇者たちは近くの都市でこの村の依頼を受諾。

 そして、今に至る、ということだ。

 

 勇者たちはこの村で一番の宿屋に宿泊していた。

 しかし、一番と言っても所詮は村落という枠組みの中で。

 宿屋の部屋は簡素なもので、必要最低限のものしか置いていなかった。

 ベッドがあるだけ、マシと言うべきか。


 ここ二か月の旅では、野宿も珍しくない。

 女性一人いるのだから、そこは少し考えものだが、特にこれと言って、パーティ内で不満は出なかった。

 皆、旅慣れをしているというか、一人ぐらいは不平を言うものとばかり思っていたが、案外、拍子抜けだった。


 この中では圧倒的にルクスが旅諸々(もろもろ)に慣れていない。

 前世では寝たきりだ。

 そもそも、身体を動かすこと自体に違和感を禁じ得なかったが、それもここ二か月で修正できた。


 というか、転生したこの身体の性能が、違和感など吹き飛ばすほどの高性能で、何でもできるんじゃないか、とさえ思ってしまう。

 まあ、(おご)りは危険だが。

 しかし、そう思えてしまえるほどには、この身体は凄かった。


 まず、身体の頑強さ、筋肉量。

 一見して細身に見えるのだが、その筋肉はあくまで見せるものではなく、実用的なものとしての役割なのだろう。

 力を加えてみれば、その筋肉の硬さが尋常ではないことが窺え知れた。


 そして、内に秘める魔力量。

 これも凄まじい。

 自分でも、その底が見えない。

 無尽蔵とさえ思える。

 ルクスは剣での戦闘を主とするが、十分、魔法師としても活躍できる魔力量を保有していた。


 だからこそ、ルクスは旅慣れていないにもかかわらず、その身体をもって、ここまでの道中を倒れることなく進むことが出来たのである。


 今日は久しぶりの宿での宿泊。

 もちろん、エミリスは別部屋だが、他三人の男連中は同部屋である。

 金の心配はないのだが、結局、交代制で一人は起きて、怪しい者が近づかないか、監視をするため、別部屋であろうが、交代の時間になれば起きて監視をしなければいけないのだ。

 そのため、わざわざ別部屋にしても意味がない。


 このような監視は野宿の時はもちろんだが、このような宿でも、それは決まって行っている。

 逆に、人が集まる場所は警戒のレベルが上がる。

 

 勇者一行と言うのは、それだけで目立つ存在だ。

 その名声の影響で、好意を持つ者だけでなく、悪意をもって近づく連中も後を絶たない。

 狙われるタイミングとしては、寝静まった時が一番、危険なのである。

 

 そういうこともあって、一人は必ず、部屋の外で待機することになっている。


 そして、現時刻は夜の八時。

 宿屋の一室にて、四人は長机に広げられた地図を眺め、明日のことについて話し合っていた。


蜥蜴人(リザードマン)がいるのは、おそらくこの辺り」


 そう言って、エミリスが指さすは、村のはずれにある沼地だった。


「まさしく、蜥蜴人(リザードマン)がいそうな場所だな。それで、敵の数は?」

「使い魔で確認できただけでも百匹はいる群れでした。ここを拠点に村のような集合体を形成しているようです」


 大剣使いのリゼルの質問にエミリスが答える。

 どうやら蜥蜴人(リザードマン)はかなりの大群らしい。

 今は、農作物などの被害に収まっているが、このままでは近い将来、この村の崩壊だけにとどまらず、都市への影響もあると推測された。

 その結果、評議会加盟国『グリッセア』は評議国に――厳密には評議国の冒険者組合(ギルド)――要請したところ、白羽の矢が立ったのが、勇者一行という訳である。


「けれど……ただの蜥蜴人(リザードマン)の群れにしては規模が大きすぎる。何か要因がありそうだけど?」


 笑みを交えて、問いを投げかけるのはこのパーティの最年長、ロッセルである。


「そうですね、恐らく……上位種がいるのでしょう。蜥蜴王(リザードキング)、もしくは蜥蜴姫(リザードクイーン)。最悪の場合、竜人(ドラゴニュート)なんてこともあるでしょうが……まあ、それは、ありえませんか……」

竜人(ドラゴニュート)か。確かに、そうそう、お目にかかれないらしいな。話によると竜よりも厄介だとか」

「僕も文献でしか知らないな」


 各々が竜人(ドラゴニュート)について言う。

 竜人(ドラゴニュート)は三人の言う通り、数年前に発見されたのを除き、何十年も確認されていなかった個体である。

 魔物で言う『権獣』のような存在だ。


竜人(ドラゴニュート)というやつは、そこまで強いのか?」

「えっ?」


 ルクスのあっけらかんとした質問に、エミリスは咄嗟に間抜けな声を出してしまった。

 他二人も声には出さないものの、エミリスと表情は同じである。


「お前、竜人(ドラゴニュート)を知らないのか?」

「ああ」

「マジか?」

「マジだ」

「マジかよ」


 ルクスは意味が分からないという顔で、眉間を狭める。

 何故、三人は驚いているのだろうか。


「確かに竜人(ドラゴニュート)は珍しい存在だが、ここ最近はそれだけの意味だけじゃない。知らないか? ゼルマス王国の王都に魔物が侵入した事件。その魔物を率いたのが――竜人(ドラゴニュート)

「そして、当時、王国筆頭騎士であり、人類においても最強の剣士と名高かった、あのガレス・ウェルナーでさえ、重傷を負わされ、最終的には取り逃がしてしまった」


 ゼルマス王国、建国以来の大事件。

 魔物の数は数匹だったにもかかわらず、そのどれもが上位種の魔物だった。

 また、ガレス・ウェルナーを竜人(ドラゴニュート)に抑えられてしまったがため、その他の魔物を対処することが出来ず、最終的には大きな被害に繋がってしまったというのも要因の一つである。

 魔物の侵入を想定していなかった王都の都市構造や監視体制にも問題はあったが、ガレス・ウェルナー以外に上位種に対抗できる騎士がいなかった、この点も問題として取り上げられた。

 それが十数年前の話。


「それ以来、評議会により蜥蜴人(リザードマン)は亜人種から魔物へ区分変更。あの事件以来、人間の亜人に対する目も変わったね」

「そんなことがあったのか」

「本当に知らなかったんだね」


 ロッセルは肩をすくめて、首を振った。


「ガレス・ウェルナーという男は強いのか?」

「ああ、強いよ。それも、相当だ。ゼルマス王国の秘宝、聖剣・ゼーラフに認められた男。それだけでも類を見ないって言うのに、彼は剣術の三流派を扱えるらしい。それも、現代剣術みたいな標準化されたものじゃない。それこそ、三流派が生まれた当時のまま、その剣術を使えるらしいよ」

「へえ、それって、聖典流と鬼想流と龍玄流か?」

「そうだとも。聖典流は現代でも見慣れているけど、他二つはまずもって現代人には扱えないと言われているからね。相当な手練れ、いや、最強だよ、ガレス・ウェルナーは。まあ、噂だけど」

「なんだよ、実際見たわけじゃないのかよ」


 ロッセルは「仕方ないだろ、会ったことないんだから」と言って、ヘラヘラと笑う。

 しかし、ロッセルの言ったことは間違いではない。

 ガレス・ウェルナーの噂はどれもが下手な噂のようなものばかりだが、そのどれもが真実である。

 

「ということです、ルクス様。そんなガレス・ウェルナーでも苦戦を強いられた相手です。もし、単独で竜人(ドラゴニュート)に会った場合は無理をせず逃げてください。他の二人もいいですね?」

「ああ」


 エミリスの指示に三人は声を合わせて返事をした。

 

「それじゃあ、明日の作戦を言います」


 そうして、作戦会議は深夜まで続いた。



――――――――――――



 村はずれの沼地には(わら)でできた住居のようなものが点在していた。

 それはまさしく、本当に村のように見えた。


「ここで暮らしてる訳か」

「けど、どうして突然、ここで? やっぱり、上位種なのかな?」


 リゼルの呟きにロッセルが疑問を口にする。


「そのような疑問は一旦忘れましょう。まずは、蜥蜴人(リザードマン)の殲滅です」

「まずは、って、どんな、まず、なんだよ。けど、乗った。早く、やっちまおう」

「待ってください。最初はルクス様に先行してもらいます。お願いします、ルクス……様?」


 エミリスは振り返り、ルクスに声をかけようとしたが、そこには誰もいなかった。

 そして、同時に大きな金切り声が沼地の方から聞こえてくる。


「指示される前に行かれたのですね。さすがです」

「いや、お前はあいつにだけは甘いな」

「いえ、正当な評価です」

「……どう思うロッセル?」


 ロッセルはいつものように肩をすくめる。


「それじゃあ、勇者様が派手にやってるんだ。俺たちも行くぜ!」


 そう言って、リゼルも飛び出してしまった。


「まったく、あの人には、沼地から逃げようとする蜥蜴人(リザードマン)を始末する役割を振ったはずなんですけど?」

「いいよ、それは僕が一人でやるよ。それに魔法の方が取り逃がしが少ないからね。君はリゼルについて行ってくれ」

「……分かりました。ロセッル、任せましたよ」

「ああ」


 ロッセルは沼地と村の間に広がる林に身を隠し、逃げる蜥蜴人(リザードマン)を始末する。

 エミリスはリゼルのサポートをしつつ、先行したルクスと合流。

 

 そうして、蜥蜴人(リザードマン)の討伐作戦が始まった。



――――――――――――



 相手が動くよりも先に、剣を振り、蜥蜴人(リザードマン)の首を跳ねる。

 沼地には藁の住居を囲うように迷路のような通路が形成されている。

 それに、足場はもちろん沼だ。

 動きにくい事この上ない状況だが、しかし、ルクスは足に魔力を込め、地面と同じような足取りで進んでいく。

 

 通路を進んで数秒後には蜥蜴人(リザードマン)が現れる。これの繰り返しである。

 そこらの魔物より知能もあり、武器を扱うので歯ごたえはあるものの、やはり、一撃で斬ってしまうので、物足りない。


「こんなものか? やっぱり蜥蜴王(リザードキング)とかいう奴を探した方が楽しめそうだな」


 ルクスは凄まじい速度で進んでいた足を止め、辺りを見回した。

 通路の壁は粗悪な木材でできており、ちょっとした雨風で吹き飛ばされそうだ。

 なら、そこまで力を込めなくてもいい。


 ルクスは手に持つ剣を横に振り回した。

 ルクスを中心に円を描く斬撃が放たれる。

 

 風の魔法を付与し、聖典流の『(シュデン)』の威力を倍増する。

 そして、軽く剣を振るだけで、次の瞬間には迷路は半壊していた。


「よし、これで見晴らしがよくなった。さて、親玉はどこだ?」


 開けた沼地を見渡し、蜥蜴人(リザードマン)の首魁を探す。

 前日の三人の会話を聞く限り、蜥蜴人(リザードマン)が群れを成している要因に上位種の存在があるらしい。

 さて、その推測は当たっているのか。


「ん?」

 

 目に留まったのは藁の住居の奥に建つ、小屋のような建物。

 それ単体で見れば、見すぼらしい小屋そのものなのだが、他の藁の住居と比べれば、一際(ひときわ)、建物の出来が良い。


「あそこか」


 見つけてすぐ、ルクスはその建物へと視線を合わせる。

 足に込める魔力を高める。

 同時に、力を加え、膝を折る。

 

「よし」


 バネのように身体を使い、ひとっ飛びで目的の場所へ飛んでいく。


 建物に近づくにつれ、そこに蜥蜴人(リザードマン)が数体、そして建物内に、闇に蠢く何か、がいることを視認した。


「あれは……?」


 勢いそのままに飛びながら、数体の蜥蜴人(リザードマン)を真っ二つにする。

 蜥蜴人(リザードマン)の身体からは大量の血が噴出した。

 そういえば、転生してこの方、魔物を斬っても怖くない。

 前世の精神のままなら震えて、数回は吐いていたに違いない。

 恐らく、これも神龍が用意したこの身体の影響なのだろうか。


「よっと」


 空中で回転し、勢いを殺して、地面に着地する。

 どうやら、斬り殺した数体の蜥蜴人(リザードマン)はこの建物を守っていたようだ。

 では、そんな建物には何があるのか。

 否、何がいるのか。


「ルクス様!」


 後ろからエミリスの声が聞こえる。

 リゼルとエミリスがルクスのところまで追い付いてきたようだ。


「おうおう、ルクス、ほとんど残ってねぇじゃねぇか」

「早い者勝ちだ」


 リゼルはこれ見よがしに、大袈裟にため息をつく。

 ルクスは視線を後ろに向けて、軽く笑った。

 そうして、三人揃ったところで、遂に、蜥蜴人(リザードマン)の親玉の登場である。

 建物の奥、暗闇から姿を見せたのは赤色の鱗で身を覆う、蜥蜴人(リザードマン)――にしては今までの、どの個体よりも身体が大きい。


「あれは……まさか!」

「おいおい、嘘だろ⁉︎」


 そして、身体だけではない、他の蜥蜴人(リザードマン)とは決定的に違う点が一つ。


 その蜥蜴人(リザードマン)には両翼が備わっていたのである。


竜人(ドラゴニュート)ですね……」

「最悪の予想が当たっちまうとはな」


 リゼルとエミリスはそれぞれ、身体を強張らせ、緊張を露わにしていた。


「あれが、竜人(ドラゴニュート)か」


 対して、ルクスは口の端を吊り上げる。

 骨のありそうな敵との出会い。

 強敵と言える相手はいつぞやの騎士団長、以来か。


「あれはやばい。おい、一旦、逃げるぞ、ルクス!」

「そうですね。いきましょう」

「いや――」


 ルクスは振り返らずに、真正面の竜人(ドラゴニュート)に視線を向け続ける。


「俺は少しやってから、そっちに追いつくよ」


 中段の構えをして、相手の動きに注意する。

 攻撃でも、防御でも、どちらにも対応できるようにこの構えを選択した。

 さて、相手はどう来るか。


「まったく、お前ってやつは……」


 悪態をつきながら、ルクスの隣で大剣を構えるリゼル。

 その後ろでは足を震わせながらも、彼らのサポートをするためにエミリスも残った。


「いいのか?」

「よくねぇよ。けど、俺だって竜人(ドラゴニュート)と戦ってみてぇ。死にたかねぇけど、ここで逃げたらカッコわりぃだろ」

「そうか」


 一周回って楽しくなってきたリゼルを見て、ルクスも胸の高鳴りを隠さない。

 

「ついてこれるか?」

「誰に言ってやがる」

「行くぞ」

「おう!」


 掛け声と同時、動いたのは竜人(ドラゴニュート)だった。

 狙ったかのように、一番、油断しているであろうタイミングを突いてきた。

 片手に持つ剣の先端をルクス目掛けて、突き刺す――刺突。


「おっと!」


 それを防ぐは、自身の身体と同等の大きさの大剣。

 リゼルは大剣を地面に突き刺し、剣身で竜人(ドラゴニュート)の刺突を防いだ。


「グルルルルゥゥゥゥ。やるな、人間」

「喋った!」


 竜人(ドラゴニュート)が唸り声を上げたかと思えば、次の瞬間、こちらに向けて言葉を放ってきた。


「まあ、そりゃあ、数年前までは亜人で知られてたからな。普通に喋れるぞ」

「そうなのかよ」


 驚くルクスだが、そんな彼に竜人(ドラゴニュート)は続けて話しかけた。


「随分、余裕そうだな。まさか、俺に勝てるつもりか?」

「ああ、そのつもりだ」

「……はっはっはっはっは! ほう、それは蛮勇か? 少しは身の程を知った方がいいぞ!」


 言葉とともに、竜人(ドラゴニュート)がまたも刺突を繰り出してきた。

 しかし、リゼルも剣身の角度を変え、その刺突に対応する。

 

「その剣、頑丈だな。だが……!」


 竜人(ドラゴニュート)は続けざまに刺突を繰り返す。

 一撃一撃が強烈な威力だというのに、その上で連続して繰り出されれば、さすがのリゼルの大剣も防ぎ切れない。


「リゼル、大剣を外せ!」


 ルクスの声とともに、リゼルは大剣を地面から抜き、その場から離脱する。

 次の瞬間、その後ろからルクスが飛び出した。


(リュウ)(キバ)


 その剣技は龍玄流が一つ、龍の牙を彷彿とさせる鋭い一撃。

 竜人(ドラゴニュート)と同じく、ルクスも刺突で対抗する。

 

「何⁉ それは、龍玄流か⁉」


 両者の刺突が激突する。

 力は拮抗。

 体格差は竜人(ドラゴニュート)に分があり、体勢的にもルクスの方がやや劣勢である。

 しかし、ルクスはその圧倒的な筋力と魔力量で、竜人(ドラゴニュート)の刺突に押し負けず、よく粘っていた。

 だが、竜人(ドラゴニュート)には剣だけでなく、その硬質な尻尾も武器となる。


 竜人(ドラゴニュート)の尾がルクスを薙ぎ倒そうと迫りくる。

 ルクスは竜人(ドラゴニュート)の刺突を受け止めるのに精一杯だった。

 もちろん、その尾の攻撃を受ける(すべ)など持ち合わせていない。

 しかし、そこにすかさず、リゼルが大剣を振り回して、竜人(ドラゴニュート)の尾を止めた。

 

「重いぞ、こんちくしょう!」


 リゼルの大剣は竜の鱗や牙などから生成したものである。

 その硬質さは頑丈を当然とし、どんな魔物でも斬ることが出来る切れ味を誇る。

 しかし、竜人(ドラゴニュート)の尾はその大剣と激突しながらも、傷一つ付くことなく、当の竜人(ドラゴニュート)もビクともしていない様子だった。


「エミリス!」

「分かってます! ルクス様、どうぞ!」


 エミリスの詠唱によって、魔法が発動される。

 発動した魔法は『走力向上』、『筋力向上』、『魔力向上』、『精神安定化』、『潜在能力開放』など、仲間の能力を上げるものである。


 それと同時に、『聖なる壁(プロテクション)』をルクスとリゼルの前に展開。

 そのまま、『聖なる壁(プロテクション)』を押し出すように移動させ、壁ごと無理矢理、竜人(ドラゴニュート)との距離を離した。


「神聖魔法か。なら、狙うはその女か!」


 竜人(ドラゴニュート)が離された距離を詰める。

 沼地を平地で走るが如く、疾駆する。

 突撃するはエミリスだ。


「させるかよ!」


 しかし、みすみすエミリスを狙わせる訳がない。

 間に入って、竜人(ドラゴニュート)の突進を止めたのはルクスである。

 

(リュウ)(アギト)


 上下の斬撃が同時に対象を襲う。

 二つの斬撃は、まったく同じ瞬間に繰り出される。

 常識的な身体の動きでは不可能な芸当であり、それは一種の次元操作の域である。


 龍玄流とはすなわち、人間の常識では考えられない剣技の数々を指す。

 つまり、人の器では扱うことすら叶わない剣術。

 しかし、ならば、どうしてそのような、人には扱えない剣術が三流派の一つとして広く知れ渡っているのか。

 それはひとえに、その剣術が驚異的だからだ。


 どの剣技も魔法の領域に至り、通常、剣だけでは行き着かない領域を超えている。

 中には魔法以上の妙技もあり、龍玄流はその性質上、広く浸透することはないが、羨望される剣術として有名だった。

 

 ルクス自身は龍玄流を取得する条件である、剣龍との剣の打ち合いをしていない。

 しかし、神龍が用意したこの身体は、無条件で龍玄流を扱える。

 

 そんな龍玄流の剣技の一つ――『龍・顎』が竜人(ドラゴニュート)を襲う。

 竜人(ドラゴニュート)は真正面からその剣技を睨み、迎え撃つ姿勢をとった。

 右手には剣。

 左手には盾。

 右手の剣を上空に向けて振り、左手の盾で下からの斬撃を防ぐ。


 ルクスにとって最高の剣技の一つを防がれた。

 

「これを無傷か……」


 竜人(ドラゴニュート)との戦いはまだ続く。



――――――――――――



 五年前、蜥蜴人(リザードマン)の国があった。

 国と言っても、人間国家のような大きなものではなく、数百匹の村や、よく言って都市レベルの小さなコミュニティと言ったものである。

 

 だが、蜥蜴人(リザードマン)にとっては唯一の故郷であり、国としての誇りがあった。

 蜥蜴人(リザードマン)はその姿形から魔物のように忌避されることもあるが、頭脳は人間のそれを超えることもしばしば。

 彼らにとっては人間も同じ地面に住む隣人だと思っていた。


 しかし、十九年前、とある竜人(ドラゴニュート)が引き起こしたクーデターによって、状況は一変する。

 その竜人(ドラゴニュート)は数匹の上位種の魔物とつるみ、一国の都市に多大なる被害を与えた。

 竜人(ドラゴニュート)の言い分は、人間の差別意識の改善だと言う。

 確かに、人間による亜人差別は百年前を境に激化していた。

 

 それに不満を覚える亜人も数多い。

 だからこそ、人間の国々が設立した評議会に亜人国家は所属していない。

 だが、だからといって、人間と敵対する意志はなかった。


 五年前、蜥蜴人(リザードマン)の国は突如として消えた。

 その頃には人間との交流も断絶しており、その国の消失は人間たちに知られることもなかった。


 数人の人間と一体の龍が突然、国に現れ、そして一方的に国民を惨殺した。

 龍の強さは折り紙付きだが、人間たちの強さも常軌を逸していた。

 

 一日も経たず、蜥蜴人(リザードマン)の国は滅亡した。


 王は死に、姫も死に、その国で戦士を務めていた竜人(ドラゴニュート)は最後の王の勅命により、命からがら、百程度の蜥蜴人(リザードマン)とともに、隠し通路から国を脱し、逃げのびたが、その先も決して安寧とはいかなかった。


 百人の蜥蜴人(リザードマン)(まかな)える食糧など簡単に手に入る訳もなく、魔物を狩猟しようとしても、この世界では人間に見つからずに暮らすなど不可能に近い。

 身を隠しながらの生活には限界があった。

 

 それでも、百人の蜥蜴人(リザードマン)は五年間、よく見つからずに生き延びれたものだ。

 それもひとえに竜人(ドラゴニュート)の才覚がなせるものだろう。

 何人かの犠牲は負ったものの、蜥蜴人(リザードマン)たちは今日まで生きていけた。


 しかし、それはただ生きられたという結果に過ぎない。

 やはり、その生活は困窮を極めるものであり、日々、少ない食糧で分配しながら、どうにか命を繋ぎとめているだけであった。

 その命の糸は細く、いつ途切れるかも分からない。


 蜥蜴人(リザードマン)の精神も限界だった。

 そんな極限状態で、遂に人間に手を加える者も現れた。

 しかし、それを責める者は誰一人いない。

 そもそも、何故、人間はあれほど豊かな暮らしをしているのか?

 

 憎悪が腹の底を煮えたぎらせる。


 竜人(ドラゴニュート)が人間に危害を加えた?

 ならば、人間が人間を殺した場合、同じようなことをするか?

 何故、俺たちだけが……!

 何故、私たちだけが……!


 理不尽だ。

 おかしい!

 

 だから、もう、手段を選ばない。

 いや、もう選べる余裕などない。


 竜人(ドラゴニュート)は人間を憎む。

 人間を恨む。

 人間さえいなければ、自分たちは今も平和に暮らしていたのだと、叫ぶ。


「龍玄流……。お前ごとき人間が扱っていい剣術ではない!」


 竜人(ドラゴニュート)は片手の剣を掲げ、力強く振り下ろす。

 斬撃は通常、上から下、縦一線に描かれる。

 しかし、その斬撃はどんな魔法か、上から下だけでなく、下から上の二つの斬撃が同時に発生した。


「それは!」


 そう、先程、人間の剣士が繰り出した『龍・顎』だ。

 竜人(ドラゴニュート)も龍玄流を扱える。

 そして、その斬術は人間よりも精錬されている。


聖なる壁(プロテクション)!」


 だが、竜人(ドラゴニュート)の斬撃を神聖魔法の障壁が防ぐ。

 ただの魔法障壁と比べ、神聖魔法の障壁は概念を防ぐ。

 つまり、威力を相殺しているのではなく、攻撃という事象そのものに干渉しているのだ。

 どのような威力を放とうが、神聖魔法の前では無意味。


 しかし、攻撃の概念強度が高ければ、いかに神聖魔法でも防ぐことは叶わない。

『龍・顎』に関しては、一時的な次元操作をしているものの、龍玄流の中でも、基礎的な剣技に入る。

 概念強度はそこまで高くない。

 結果、女の『聖なる壁(プロテクション)』でも防ぐことが出来たのだが……その障壁には若干の亀裂が生じた。


「離れて、二人とも!」


 女の声とともに、障壁が砕かれた。

 破られるはずのない、『聖なる壁(プロテクション)』が破られた。


「その程度の壁で、俺の剣技を防げると思ったか? 俺の剣技は剣龍様に鍛えられ、今日まで(おご)ることなく鍛錬し続けた自分の力だ! 威力だけではない! 概念強度も、もちろん鍛えたに決まっている!」

「嘘! そんなこと、あり得ないです!」


 概念強度を鍛えるなど、通常の手段では不可能だ。

 しかし、竜人(ドラゴニュート)はそれを可能とした。

 技本来がもつ、概念強度に頼らず、基礎的な剣技においても概念強度を強くさせる。


 それは身体的な鍛錬ではなく、精神の鍛練である。

 並みの精神統一では成し遂げられない。

 だが、竜人(ドラゴニュート)は人間への憎しみを糧に、その激しく猛った精神をコントロールした。


「今の俺は強い! 人間などに後れは取らない!」


 もう、あんな奴らには負けない。

 あのような悲劇は繰り返さない。

 蜥蜴人(リザードマン)の復興を。

 復権を。

 

 人間のいない世界を!


「怖気づいたか? なら、こちらから行く!」


 動きが鈍った人間たちに竜人(ドラゴニュート)の剣と尾の二刀が炸裂する。

 尾で横一線の斬撃を与え、剣で的確に前衛の二人を仕留める刺突を繰り出す。

 男の一人は大剣を盾にするが、先程の竜人(ドラゴニュート)の連続刺突により、大剣も限界が来ているだろう。


 もう一人は剣で応戦してくる。

 この男の剣は中々のもので、ポテンシャルは高い。

 しかし、現時点では竜人(ドラゴニュート)の方が戦い慣れしている。


 真正面から繰り出される男の純粋な剣を、熟練された剣術でいなしていく。

 経験の差が違う。

 蜥蜴人(リザードマン)の寿命は人の寿命の三倍ほど。

 竜人(ドラゴニュート)ともなれば、その三倍。

 つまり、九倍。


 竜人(ドラゴニュート)と男とでは生きている年月からして違うのだ。

 戦いは才能に左右されることは決してない。

 圧倒的な暴力が勝敗を決めることもあるが、往々にして、戦局を有利にする要素は――経験だ。

 

「軽いな。その剣は正直者だが、こと戦いにおいては生易しい!」


 男の剣を(はじ)く。

 次の瞬間には、男の心臓目掛けて刺突する。

 男の身体はがら空き。

 守るものはない。

 いや、女が邪魔だ。

 また、先程同様、『聖なる壁(プロテクション)』を展開されても面倒くさい。


 使うなら、このタイミングか。


 竜人(ドラゴニュート)は沼地に意識を向け、魔法を発動させる。

 

 ――『泥弾(マッドショット)


 女の周囲、四方八方から泥の弾丸が発射される。

 男二人に庇う余裕はない。

 女は自身に『聖なる壁(プロテクション)』を展開するしかないだろう。

 だが、その場合、目の前の男は竜人(ドラゴニュート)の刺突を食らうことになる。

 さて、どうする?


 しかし、竜人(ドラゴニュート)手管(てくだ)に女は迷うことなく、男の目の前に『聖なる壁(プロテクション)』を展開させた。

 その瞳に、恐れはない。


「何故だ? どうして――」


 躊躇なく、自分の身を犠牲にできる?

 竜人(ドラゴニュート)の刺突は障壁に防がれる。

 その間に、男は弾かれた剣を戻し、竜人(ドラゴニュート)の剣を弾き返した。

 二人の距離が離れる。

 竜人(ドラゴニュート)の攻撃は通じなかった。


「エミリス!」


 だが、女は無傷では済まない。

 その献身は称賛に値するものだが、結果としては竜人(ドラゴニュート)の優勢につながるもの。

 三対一から、二対一。

 それもサポート役を潰せたとなれば、お釣りがくるだろう。

 竜人(ドラゴニュート)は次の手を決めるべく、慎重に二人に視線を向けようとした――が、その時、上空から光の塊が降り注ぎ、その光球によって、『泥弾(マッドショット)』の全てが相殺された。


「ロッセルか……? 凄いな、あんな離れたところから」


 まだ仲間がいたのか。

 苦虫を嚙み潰しながら、現状を把握する。

 前衛二人に後衛が一人。

 そして、どこかに隠れている魔法師が一人。

 上空からの攻撃ということは、いざという時に飛ぶことは危険になった。

 ならば、まず、地上戦で三人を倒す。

 身を隠す魔法師はそのあとだ。


 竜人は盾を構え『(ウォール)』を展開させながら、突進する。

 まず狙うべきは、あの女。

 後々、残せば、厄介極まりない。

 当然、男たちはそれを阻止する。

 しかし、阻む男たちを無視して、突っ込む。


 その間、男二人から攻撃を加えられ、多少の傷はついたものの、『(ウォール)』の影響で最小限のダメージに抑えられていた。


「やべぇ! こいつ止まらねぇぞ! どうする、ルクス!」

「そんなの力いっぱい、止めるしかないだろ! 策なんかない!」

「自信満々にそんなこと言うなよ!」


 大剣の男は遠心力を利用し、大剣を振り回し、竜人(ドラゴニュート)を制止させようとするが、それでも止まらない。

 もう一人の男は攻撃を止め、何やらぶつぶつと呟いているが、無視する。

 魔法でも詠唱する気か?

 だとしても、その前に片を付ける。


 女との距離が短くなっていく。

 そして、遂に、女の目の前まで辿り着いた。

 女はすかさず『聖なる壁(プロテクション)』を展開させる。

 この戦いで何回、『聖なる壁(プロテクション)』をするのか。

 並みの神官では一日、五回ほどが限度。

 彼女もまた、神官として才覚溢れる存在なのだろう。


 だが、戦いにおいては才覚は一要素に過ぎない。

 戦いの決め手はいつだって、経験だ。


(お前らじゃあ、俺には勝てない。若すぎる)


 概念強化させ、その上で、元から概念強度の高い剣技を合わせる。


「まず、お前からだ」


 剣を振り上げ、斬撃を放つ――その瞬間、後方から眩い光が突如として発生した。

 女に注意を割きながらも、片目の視線を後ろに向ける。

 

 それは――男の剣、ではなく掌から生み出された光だった。


「魔法! あれは……!」


 瞬時に、その魔法が身を滅ぼすほどの威力だと理解し、翼を羽ばたかせ、上空に離脱した。


「馬鹿な、あの射線には女もいたはず。仲間を犠牲にするつもりか? いや――」


 そうか、女は『聖なる壁(プロテクション)』を展開していた。

 殺傷能力は高けれど、概念強度は低いのか。

 まさか、意図的に?

 男は掌から光の放射線を生み出し、放射線は女に向かって一直線に繰り出された。

 しかし、その放射線は竜人(ドラゴニュート)の予想通り、『聖なる壁(プロテクション)』によって霧散される。


「お前には学ばせてもらった。なるほどな、魔法や剣技には概念強度ってのがあるんだな」


(なんだと! 戦いの最中で学習したというのか?)


 潜在能力は高いと思っていたが、ここまでとは。

 男が上空に飛ぶ竜人(ドラゴニュート)を見上げ、にやりと笑った。

 

 思っていた以上の強敵だ。

 これほどに苦戦するとは思わなかった。

 だが、まだだ。

 まだ、形勢は十分こちらに傾いている。

 それに、偶然とはいえ、地の利も得た。

 上空から魔法を放てば、安全に相手の消耗を待てるだろう。


「ん? いや、そうか!」


 しかし、上空に来るのを待っていたかのように、竜人(ドラゴニュート)に対して、光の球が放たれる。

 隠れている魔法師の存在。

 先程の男の強力な魔法に驚き、失念していた。

 

 竜人(ドラゴニュート)は次々に放たれる光の球を空中で旋回しながら、避けていく。

 そこまで速度のある攻撃ではないので、避けられないことはないが、如何せん、休む暇なく放たれる。

 これでは、攻撃に転じられない。


 だが、魔法師以外は空中戦になれば、手も足も出ないだろう。

 あの男の掌からの魔法は注意するべきだが、そう何度もあれほどの威力の魔法は放てまい。

 ならば、相手が気を抜いた瞬間、『泥弾(マッドショット)』で攻撃するか。


 そうして、光の球を避け続ける竜人(ドラゴニュート)だが、魔法は途切れる気配がない。


「くそっ、どんな魔力量なんだ!」


 だが、限界はあるはずだ。

 待て。

 ここは焦らず待ち続ける。


 しかし――


「よう!」


 突然、目の前に剣士の男が現れた。


「何⁉」


 どういうことだ。

 どうして、この男がここに?

 その疑問はすぐに解消された。

 男の足元には見覚えのある大剣があった。


 まさか、大剣の上に乗った?

 そして、もう一人の男が大剣を投げ、ここまで飛ばしたのか。

 なんという出鱈目(でたらめ)な作戦か。

 しかし、その作戦は上手く機能していた。


「終わりだ」


 人間が!

 何故、ここまで!


「終わる訳がない! 俺は、俺たちはまた平和に暮らすんだ!」

「そうか、残念だったな」


 負けるものか。

 負ける訳がない。

 人間に蜥蜴人(リザードマン)が! 竜人(ドラゴニュート)が!


 龍玄流、基本であり、最大の剣技。

 両者は示し合わせた訳ではない。

 しかし、それは皮肉か、運命か――両者の繰り出した剣技は同じものだった。

 その剣技の名を――


 ――『(リュウ)(ザン)


 二つの斬撃は最初、拮抗していた。

 しかし、徐々に竜人(ドラゴニュート)の斬撃が押されていった。


「何故だ⁉」


 その剣技の熟練度は圧倒的に竜人(ドラゴニュート)に軍配が上がる。

 だが、男はそれを上回る天賦の才で竜人(ドラゴニュート)の斬撃を超えた。

 

 男の斬撃に押し負け、地上に叩き付けられる。

 斬撃と、重力によって、身体は一気に損傷した。

 しかし、まだギリギリ身体は動く。


「まだだ! まだ、終わっていない」


 竜人(ドラゴニュート)は叫びとともに、上半身を上げようとした。

 だが、それを男は許さない。


「天廊」


 男は上空から、手に持つ剣を投擲した。

 剣は一直線に竜人(ドラゴニュート)の胸を貫く。


「まだ、この程度で!」


 剣が胸に突き刺さりながらも、血反吐を吐いて叫ぶ。


 諦めない。

 諦められる訳がない。

 こんなところで立ち止まる訳にはいかないのだ。

 竜人(ドラゴニュート)はそれでも、なお立ち上がろうとした。


 だが、上空の男はそれをも許さなかった。


「お前は強いよ、竜人(ドラゴニュート)。けどな、俺には、俺たちには勝てない!」


 男は風魔法を使って剣と同じように、一直線に竜人(ドラゴニュート)目掛けて飛び降りてきた。

 拳を向ける。

 狙うは竜人(ドラゴニュート)の胸に突き刺さる剣の柄頭。

 男は重力と風魔法の勢いとともに、剣の柄頭を殴った。

 胸に突き刺さる剣がより深く、竜人(ドラゴニュート)の中に侵入する。

 

 胸から血がだらだらと垂れる。

 口からは、もう先程から、止めどなく血が溢れていた。

 

 死ぬ――


 その感覚が脳をかすめる。

 いや、脳を支配する。

 致命傷だ。

 早く、手当てしなければ、命を落とす。


 しかし……。

 そこでふと、竜人は意識が客観的になっていくのを自覚した。

 これが死に際というものなのだろうか。

 身体全体が軽くなっていく。

 意識すらも遠くに……。


 竜人は地に伏しながら顔を前に向け、辺り一体に視線を移した。

 そこには自分と同じく地に伏す仲間たちがいた。

 いや、仲間たちではない。

 仲間だった者たちだ。

 

 あれらはもう生きていない。

 仲間の亡骸なのだ。


(仲間はもう誰もいない。残っているのは自分だけ)


 その事実を思い知らされる。

 最後の最後で、残酷にもその事実が胸を締め付ける。

 こんな終わりは嫌だ。

 こんな最期など認めない。


「ああ、嫌だ……。嫌だ嫌だ。まだ、俺は……」


 ――人間どもに復讐できていない。


 竜人の声はか細くも、はっきりと空気を舞った。

 

 そうして、竜人(ドラゴニュート)の意識はそこで途切れた。



――――――――――――



 蜥蜴人(リザードマン)の群れを討伐した翌日。

 一行はグリッセアの都市に向かっていた。

 今はその道中。

 一行は馬車に揺られていた。

 

「それにしても、強かったな、あの竜人(ドラゴニュート)

「ああ、ほんと。実際にいるんだもんなぁ、驚いたぜ」


 竜人(ドラゴニュート)との戦いの後、あとからやって来た国の騎士団に後始末をお願いし、ルクスたちは早めに宿に戻り、一同、泥のように眠った。

 といっても、一人は番として起きていたのだが。


 しかし、それほどの強敵だったのだ。

 今まで戦ってきた、どの強者よりも強者だった。

 それは実力だけではなく、戦い方も。


「普通に人間よりも戦いづらかったな」

「だな、魔物に知能がつくと、あそこまで手強くなるんだな」


 ルクスとリゼルはそれぞれ昨日の戦いを思い出していた。

 確かに、彼らの言う通り、ただでさえ強力な魔物に知能が合わさってしまうと、あそこまで苦戦させられる事になるとは。

 エミリスは昨日の戦いを冷静に分析していた。


 あの場での最大の功労者はロッセルだろう。

 彼が他の蜥蜴人(リザードマン)を抑えていなかったら、戦況はより不利になっていた。

 また、竜人(ドラゴニュート)にとっては見えない敵がいるというだけで、行動を制限させられたのだ。

 誰かがいる、それだけで、強力なカードになる。


 そして、リゼル。

 彼は目立った戦績は出していないものの、竜人(ドラゴニュート)との戦いで上手くルクスをサポートしていた。

 彼がいなかったら、ルクスはあそこまで伸び伸びと攻撃を展開できていなかっただろう。


 最後にルクス。

 彼がいなかったら、負けていた。

 これは過言でもなく、真実だ。

 先の戦いは彼のポテンシャルの発揮によって勝利をおさめた、といっても良いだろう。

 やはり、勇者として選ばれただけはある。


 そんな風にエミリスは勝っても満足せず、次に繋げるために、頭の中で昨日の戦いを再現していた。


 そんな三人を尻目にロッセルは昼寝をしている。

 久しぶりに歩かずに移動できるのだ。

 眠らない訳がなかった。


 そうして一行はグリッセアの都市に到着し、冒険者組合(ギルド)で今回の依頼(クエスト)の報酬を受け取った。

 そして、都市に留まることなく、すぐさま次の目的地に向かった。


「そんなに急ぐ必要ある?」


 ロッセルは欠伸をしながら、先行するエミリスに問い掛ける。

 エミリスは大きく頷き、懐から一切れの紙を取り出した。


「先程、組合(ギルド)で評議国からの手紙を受け取りました。それには、こう書かれていました」


 ――古国、ガルチュアにて王獣を発見。しかし、同時に消失を確認。至急、ガルチュアに向かわれよ。


「えっ、それだけ?」

「それだけです。けど、ようやく、本来の目的に関わる情報です。一刻も早く向かうべきです」

「まあ、そっか……」


 彼らの本来の目的……。

 それは、王獣の討伐。

 そう、彼らはそのために旅をしている。


「ふーん。それじゃあ、早く向かうか」


 ルクスの言葉にリゼルと、不平を口にしていたロッセルも頷く。


「勇者様がそういうなら、従うか」


 そうして、四人一行は全人類が故郷の国――古国、ガルチュアに歩を進めた。



――――――――――――



 ――霧の国


「これは大変な事件になってしまったな」


 壁越しに路地を窺い、呼吸を整える。


「まったくよ、こんな事態になるなんて!」


 少女は青年に対して、声を張り上げる。


「仕方ないだろう? 探偵たるもの謎が目の前にあれば、解かざるを得ない。それが探偵という生き物の(さが)さ」

「もう……!」


 その国は霧に覆われている。

 そして、日常的に事件が巻き起こる。



――――――――――――



 ――花海 花の都


「姫よ、海の都の動きがきな臭い。何やら企んでいる様子」

「分かっておる、好きにさせておけ。天地がひっくり返ろうが、わらわがいる限り、この花の都は不滅」

「左様ですか」

「二言はない」


 宰相が下がる。

 そうして、玉座の間には姫が一人。


「まったく、神龍が動きよった。海の都など知れたこと。それよりも、神龍じゃ。何を企んでおる?」


 姫の懸念はただ一つだった。



――――――――――――



 ――とある海域


「船長! こりゃあ、無理ですぜ! 早く引き返しましょう!」

「何言ってやがる! この先に伝説の島があるんだ!」


 荒波の中、一隻の船が海を進む。

 彼らは海賊。

 しかし、略奪行為などしない。

 彼らの目的は、昔々に隠された秘宝を探す――冒険をすること。


「面舵いっぱい! この波を抜ける!」

「アイアイ船長!」


 雨が船を――海賊たちを濡らす。

 海賊たちの先に待ち受けるは――



――――――――――――



 ――剣龍山


「未だ、剣帝には届かぬ。もっと、深く、黒く、玄く……」


 その頂は遠く、しかし、かの剣士――龍は日々を剣に捧げ、鍛錬に励む。

 それこそが彼の生きる意味。

 それだけが彼の生きがい。


 遠くで、とある魔物が叫ぶ。

 

 剣龍山は雨雲に覆われる。

 雨に打たれ、雨に濡れ、それでも龍は瞳を閉じ、集中する。



――――――――――――



 ――千年京


 提灯を手に、暗闇を歩く。

 肌寒い。

 そんな季節だ。


「こりゃあ、早く帰らねぇと」


 駆け足になった男の後ろを闇が動く。

 そして、次の瞬間、男は声もなく、死んだ。


 闇は血濡れた刀を綺麗に布で拭き、鞘にしまう。

 

 ――闇は、夜に紛れた。



――――――――――――



 ――とある荒野


 王獣はそこにいる。

 彼らの旅路を阻み、ともに歩み、しかして、そこにいる。


 バイクの駆動音。

 彼もまた、世界を周る。

 一人の女性のため、彼も旅をする。

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