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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
地下迷宮 吸血姫編
33/57

031話 次へ

 何がどうなったのか、よく分からない。

 気付けば、第八階層のあちこちには血だまりがぽつぽつと点在していた。

 

 記憶の最後は剣士と戦って……うん?

 どうなったんだっけか?

 剣士との戦いの顛末さえ、覚えていない。

 

『七曜』の一つ、『Accelerating expansion of the universe』を使用し、その効果が切れて……。

 やはり、覚えていない。

 何一つ、そこからの記憶が断絶しているのだ。


「気づかれましたか、サリユ様!」


 血だまりが出来ていない芝生に黒い布が敷かれており、その上でサリユは横になっていた。

 そんなサリユに声をかけたのはルルだ。


 どうやらルルは気を失っていたサリユを守っていたようだった。

 その証拠に、サリユたちがいる場所には結界が張られていた。

 恐らくルルの仕業だろう。

 結界だけでなく、自力で防御魔法も展開している様子だった。


「すまん、一切合切、状況が掴めていないんだが……」


 サリユの疑問にルルは瞬時に答えた。


「どうやら、吸血帝とあの(むすめ)の戦いが終結したようです」

「アリスが勝ったのか?」

「そのようです」


 そうか、アリスは(しがらみ)を克服したのか。


「そういえば、あの剣士はどうした? 戦いはどうなったんだ?」

「クゼンには逃げられました。申し訳ございません」

「逃げたのか……」

「はい。吸血帝とあの娘の戦いの影響の最中(さなか)、取り逃がしました」

「まあ、逃げてしまったものは仕方ない。そもそも、俺が力尽きたのが悪いしな」

「そんなことはありません! この私が不甲斐ないばかりに……」


 ルルは首を垂れて、サリユに陳謝していた。

 しかし、サリユからすれば、謝れるいわれはない。


「顔を上げろ。お前に落ち度はない。これは俺の落ち度だ。いいな?」

「……主がそうおっしゃられるならば」

「ああ、それでいい」


 少々不満そうな顔を滲ませながらも、ルルはサリユの言い分に従った。

 

 しかし、それにしてもこの第八階層の変わりようには驚く。

 これが、アリスたちの戦いの余波。

 どのような激戦が繰り広げられていたのだろうか。


「……いや、待て。そういえば、アリスはどうした?」


 そうだ、当人であるアリスはどこにいる?

 辺りを見回すサリユ。

 どこに視線を移してもアリスの姿を確認できない。

 そもそも、この階層にいたはずの魔物すら一匹も見当たらない。

 

 まさか、重症なのか?

 確かに、その可能性はある。

 吸血帝という存在はそれほどの強敵のようだった。

 しかし、その疑問にもルルは丁寧に教えてくれた。


「あの(むすめ)は今、グリーセスを弔っています。従者としては主人に付き従うのが使命であるにも関わらず、自己判断で勝手に許可しました。申し訳ございません。しかし――」

「分かってるよ。それに、俺はそんなことで癇癪を起こしたりしないぞ。どんだけ器、小さいんだよ」

「寛大なる御心、感謝いたします」


 未だ、サリユはルルとの距離を図りかねている。

 そもそも、前世でもコミュニケーションの類は無いに等しいというのに、いきなり尊敬の対象にされても困るというものだ。


 いや、通常の交流方法を知ったところで、この悪魔に対しては無意味かもしれない。

 この悪魔――ルルは普通の枠組みからは大きく外れているのだから。

 存在自体はもちろんのこと、こいつの性格は普通という名の秤では計測できない。


 結局、まあ、どうにかなるか、と思うしかないのだが。

 最終的に主従契約を承認したのは、サリユ自身だ。

 今から、取り消しなどした際には、この悪魔、何をするか分からない。


 と、そんなことは正直どうでもいいのだ。

 サリユがコミュ障なんて、今に始まったことではない。

 レムスが特別だったのだ。

 これから、少しずつ、アリスとルルの距離を縮めていこう。

 それよりも、今は、アリスの因縁にけりがついたことを素直に喜ぼう。


「アリスのところに行こうか」


 のっそりと立ち上がり、ルルに声をかける。


「はい、かしこまりました。ご案内します」


 そう言って、ルルの後に続いた。

 今になって気付いたが、自分の身体が回復されている。

 恐らく、ルルが治してくれたのだろう。

 クゼンとの戦いの損傷は酷いものだった。

 それを、傷一つなく回復してくれたのだ。

 ルルにはあとで、感謝をしておこう。


 そうこう思っているうちに、アリスのもとに辿り着いた。

 アリスがいた場所は瓦礫の山だった。

 考えるに、あの灰色の城があった場所だろう。

 そこは見る影もなく、血だまりとともに、瓦礫が散在している。


 そんな瓦礫の山の手前にアリスは手を合わせて、瞳を閉じていた。

 アリスの前には白い十字架が立てられている。

 

「簡素ですが、グリーセスの墓です。あの娘と私で作りました」

「そっか」


 そういえば、ルルもアリスの父とは面識があったらしい。

 それなりに思うとこはあるのだろう。


「お前も手を合わせてきていいぞ?」


 サリユはアリスの背中を見つめながら、ルルに言った。

 ルルは苦笑しながら首を振る。


「いいえ、大丈夫です。そもそも悪魔が死者を弔うのもおかしな話ですから」

「それもそうか」


 そうして、サリユとルルは静かにアリスの黙祷を見守った。



――――――――――――



「この度は、本当にありがとうございました!」


 アリスはサリユに対して、深々と頭を下げた。

 サリユはそんなアリスに「顔を上げろ」と言って、恐縮するアリスを落ち着かせる。


「俺は大したことはしてないぞ。結局、最後は気を失っていたらしいしな」

「そんなことは!」

「いいや、お前の力さ。お前が変わりたいと思って、変わったんだろ?」


 そういうものだ、とサリユは思う。

 契機がどうであれ、結果論は得てして自分の力のおかげだ。

 最後は自分の手柄、というと俗物的だが、単純に言えばそういうことなのだ。


「心は晴れたか?」


 サリユの問いにアリスは目を細めて、小首を傾げた。


「さて、どうでしょう。でも、少しだけ、肩が軽くなったように感じます」

「そうかい。なら、した甲斐があったんじゃないか?」

「肩が軽くなっただけですよ?」

「ああ、それでいいんだよ」

「はあ……?」


 不思議そうな顔をするアリスにサリユは微笑を浮かべて、空――第八階層の天井――を見上げた。

 地上の空と何ら変わらない空――と言っても、前世でもサリユはあまり、外に出ることはなかったのだが。


 第八階層の天井は青く、澄み渡っていた。

 これも何かの魔法、それとも地下迷宮の不思議な力なのか分からないが、どちらにしても、清々しいものだった。

 これが、本物の空でないとは到底思えない。

 いや、この第八階層に棲息する魔物たちにとっては、これが本物の空なのかもしれないが。

 

 そういえば――


「魔物の姿が見えないな。どうしたんだ?」


 ここまでの道中も、一匹として魔物は見当たらなかった。

 その疑問に答えてくれたのは、またもルルであった。


「それは、この娘と吸血帝の戦いの影響だと思います。恐らく、並みの魔物は死んだのではないでしょうか?」

「え⁉ それって大丈夫なのか? 生態系とか」

「それはご心配に及びません。元々、ここ第八階層には魔物の一匹も棲息していなかったので」

「そうなのか?」


 サリユは視線をずらして、アリスに向ける。

 アリスはサリユの視線に気づくが、彼女もサリユ同様、首を傾げていた。

 どうやら、アリスも知らなかったことのようだ。


「ああ、この娘は知りませんよ。グリーセスたちがここに移り住む前の話です。そもそも、この第八階層は地肌だけが延々に続く、何もない階層だったんです。けれど、セルジュが設置した疑似太陽の影響で、地下迷宮がそれに呼応するように空を作り、緑を作ったんです」

「なるほど、そういうことだったのか」

「はい。特にこの木々たちは下の第九階層から生えてきたものです。もしかしたら、ここよりも、第九階層の方が影響が及んでいるかもしれません」

「下の階層から生えてきたものなのか? ということは……」


 どんだけ、でかいんだよ、この木⁉


「そう、セルジュからは聞き及んでいます」

「そうか……セルジュ・キルク・クローノスか」


 かの大魔法使い。

 そして、アリスの父を吸血帝のした張本人。


「アリス。次はセルジュを目的にするか?」


 何とはなしにサリユは聞く。

 先程、ようやく百年のあれこれに一応の幕引きをしたばかりだが、正確に言えば、まだ終わりではない。

 そう、元凶であるセルジュの打倒がまだ残っている。

 しかし、アリスはサリユの問いに首を振った。


「いえ、特に、もう復讐をするつもりはありません。これからはサリユ様が許す限り、お供したいと思っています。今はそれだけです」

「……そうか?」


 アリスがそれで納得しているなら、いいが……。


「けれど――」


 だが、アリスの言葉は終わっていなかった。


「けれど、もしサリユ様と同行した途中でセルジュと接触した場合は、その限りではありません」

「なるほど」


 アリスは口の端を上げて、不敵に笑っている。

 それに釣られてサリユも笑った。


「そうか。その時は俺も協力する」

「ありがとうございます」


 そうして、第八階層の出来事は、ここで一旦、決着した。

 さて、それでは次の話をするべきだ。


「ここで、俺の目的を言う必要があると思う」


 サリユはかしこまって二人に言った。


「俺はこの地下迷宮の最下層、第五十階層を目指している」


 サリユの言葉に二人は頷く。


「そして、なんで五十階層を目指しているのかと言えば――」


 そこで、サリユはこれまでの経緯を二人に話した。

 転生したことから、レムスに会ったこと、そして、レムスが人の手によって殺されたこと。

 転生したことは正直、言うか迷ったが、これから長い付き合いになると考えたら、隠し事は多少、無い方がいいだろう。

 

「そういう訳で、俺は長老様とやらにレムスが死んだことを伝えたいと思うんだ」


 そこで話は一区切り。

 話を聞いた各々は、それぞれ様々な反応を見せていた。


 アリスは眉間に(しわ)を深めて、ルルは深く頷くのみだった。

 そんなルルが手を挙げる。


「一つ、よろしいでしょうか?」

「ああ」

「サリユ様の朋友、レムス様がおっしゃっていた長老様というのは、もしかして神獣の一体ではないでしょうか?」

「神獣……?」


 聞いたことがない単語だった。

 確か、レムスから『権獣』については教えてもらったが、言葉面を聞く限り、権獣よりも上の存在のように思える。


「神獣というのはこの世界を創世した四体の獣のことを指します」

「その一体が地下迷宮の最下層に?」

「と、聞いたことがあります。といっても、もう何千年も前のことです。それを話していた悪魔も、とうに死滅して久しいので、発言の真偽も分からないのです」

「そうか……いや、教えてくれてありがとう」

「いえ、信憑性の欠ける情報で申し訳ございません」


 だが、ルルの提供した情報は重要なものかもしれない。

 そもそも、世界を創世した獣?

 そんな話、それこそおとぎ話の類だ。

 しかし、大魔法使いが現に存在していた。

 その神獣が実際にいるというのも、頷けるかもしれない。


「それで……」


 そこでおずおずと声を出したのはアリスだ。

 サリユとルルはアリスの方に視線を向けた。


「サリユ様は人間たちに復讐されるのでしょうか?」


 アリスの質問にサリユは少し、瞼を上げた。

 言葉にはしてこなかった。

 自分がどうしたいのか、それは決まっている。


 ――レムスの無念を晴らしたい。


 死んだレムス自身が望んでいないとしても、サリユは復讐するだろう。

 しかし、それは同時に人間との決別を意味する。

 

(俺は、本当はどうしたいんだろうな……)


 前世での記憶がちらつく。

 アキラとの思い出。

 それを思えば、復讐などしない方がいいに決まっている。

 だけど……。


 この世界はどうしようもないほどに、元の世界とは違う。

 

 ――決定的に違うのだ。

 

「ああ、するさ。俺は復讐する。その為の力だ」

「……そうですか。私に異存はありません。サリユ様に救われた身。一生、お供します」

「私もです。誠心誠意、この身、果てるまで、サリユ様のお望みのままに」


 アリスとルルの宣言にサリユは「そうか」と言って、微かに笑う。


「それじゃあ、今日はここに一泊し、翌日、次の階層に向かおうと思う」


 サリユの言葉にアリスとルルは頷いた。


「それでは、簡素ながら、一時的な住居をお作りします」


 そう言って、ルルは両手を広げ、魔法を詠唱する。

 詠唱とともに、土からせりあがるように現れるは、漆黒の建物。


「お前、こんなことも出来るんだな」

「サリユ様に野宿させる訳にはいきませんから」


 ルルはサリユに頭を下げながら、僅かに顔を上げて、アリスに視線を向ける。

 そして、にやり、と目を細めて笑った。


「……! サ、サリユ様! 私も料理をします! サリユ様に喜んでいただけるよう頑張ります!」

「お、おう」


 そんなアリスにルルはこれ見よがしに溜息を吐いて、やれやれと首を振った。


「頑張るのは当然として、お前にサリユ様の舌に相応しい料理が作れるのか?」

「作れるに決まっているだろ! それともお前が作るっていうのか!」

「ああ、私が作ってやる。お前よりはましだろう」

「なに!」

「はっはっは。勝負でもするか?」

「望むところだ! 首を洗って待っていろ!」

「洗うのは食材だろう?」

「うっさい!」


 アリスとルルは視線をバチバチと飛び散らせて、敵対していた。

 どうして、こいつらは仲が悪いのだろうか。


「おい、そこまでにしろ。それと、これからは、お互いのことを名前で呼べ」


 それで、少しは二人の関係も改善するだろう。

 たぶん。

 

「い、いや、それは……しかし、サリユ様のご命令とあらば……」

「この悪魔を……名前呼び……」

「ん? 出来ないのか? なら、主従契約も――」

「やります!」


 二人は同時に声を揃えた。

 なんて息ピッタリな二人でしょう……なんてな。


「アリス……」

「ルル……」


 二人は照れくさそうに、頬を染めて、目を逸らしていた。

 なんだか、ラブコメの雰囲気を醸し出しているが……。

 二人の口元を見れば、そんなことはなかった。

 二人は歯を食いしばって、口元を歪めていた。

 そんなに嫌なのかよ……。

 しかし、こういう地道なことからが大事なのだ。

 

「さあ、それじゃあ、ルルが作ってくれた建物に入るか。料理はアリス、頼むぞ」

「はい!」

「かしこまりました」


 アリスは元気な声で返事をして、ルルは深々と頭を下げる。

 未だ、凸凹(でこぼこ)な一匹と二人だが、気長に仲を深めていこう。



――――――――――――



 魔物を斬る。

 魔物を斬る。

 魔物を斬る。


 切り刻み、蹴散らし、肉片へと変える。

 

 第九階層――そこは、第八階層以上の樹海。

 異形の木々は雲を突き抜け、空に向かって、視認できないほど伸びている。

 

 ――神秘の森


 第九階層の別称。

 ここに辿り着いた者はそう呼んだらしい。

 しかし、それも何千年前のこと。

 近年ではまずもって、この階層に辿り着ける人間はいない。

 この男たちを除き。


 ――ガレス・ウェルナー


 魔物を斬る男の名。

 聖剣の煌めきは曇る気配なく、斬撃とともに、流麗に魔物を斬り伏せていく。

 この階層にはたくさんの魔物がいる。

 

 猪の魔物。

 熊の魔物。

 馬の魔物。


 獣以外にも鳥の魔物、虫の魔物、魚の魔物。

 様々な魔物が棲息している。

 それを斬って、斬って、斬りまくるガレス。

 彼にとっては楽園そのもののような場所だった。

 

 幾らでも、飽きるまで魔物を狩ることが出来る、それがガレスの喜び。

 魔物を狩る目的は最愛の人へ捧げる復讐心だったはずだが、今や、目的と感情はすり替わり、魔物を狩ること自体が彼にとっての喜びになっていた。

 いや、成り下がってしまっていた。

 

「ちょ、ちょっと、ガレス!」


 ガレスの後ろで見守るのは、神官のセルティネ。

 彼らは第七階層で狼の魔物と接敵し、倒したのちに、第八階層を抜け、ここ第九階層に来ていた。

 

 第八階層は難なく抜けた。

 確かに、魔物は強敵ばかりだったが、第六階層の沼地竜、第七階層の狼と比べれば、格段に見劣りするものだった。

 唯一、地下迷宮には似つかわしくない、不気味な雰囲気を放つ城が気になったが、ガレスの意向でその城は無視して、先に進むことにした。


 そうして、やってきた第九階層。

 第八階層も鬱蒼とした森だったが、この第九階層は別格である。

 木々の全長もそうだが、全てが規格外に大きい。

 生える草も、転がる石も岩も、そして魔物も。

 どれもが大きかった。


 最初、この階層に来たときはそんな規格外の光景に不安を抱いたものだが……ガレスの笑顔でその不安は消し飛んだ。

 セルティネの不安とは裏腹にガレスはこの階層に来てから、ずっと楽しそうだったのだ。

 セルティネはそんなガレスに対して、逆に不安を抱いた。

 つまり、不安の方向が変わったのだ。

 この階層に対してではなく、ガレスに対しての不安が上回った。


 あの狼の魔物との戦闘後、ガレスはどこか頭のねじが飛んでいた。

 魔物を斬っても、作業的な印象だったのだが、今は狂ったように喜びを顔に表している。

 そんなガレスが……怖かった。


「ガレス! もう、そのくらいにしたら!」


 セルティネは声を上げるが、ガレスの耳には一向に届かない。

 しかし、そんなガレスを止める者がもう一人。


「それくらいにしてくれるかい、ガレス・ウェルナー」


 真っ白な獄衣に、両手首には真っ黒な手錠を付け、鎖が垂れ下がっている。

 髪の色は水色で、光が透き通って白色にも見える。

 顔はいわゆる優男。

 柔和な笑顔で、一見して女性にも見える中性的な男だ。


「何故だ? 魔物は殺さないといけない」


 ガレスは聞く耳を持たず、魔物を斬っていく。

 だが、男はそれを許さない。

 ガレスの目の前に移動すると、手首の手錠で剣を受け止めた。


「やめてくれ、魔物が死んでしまう」

「そうだ、魔物を死なせている」

「君は魔物をいっぱい殺したいんだろ?」


 男の質問にガレスは頷いた。


「だったら、この辺にしてくれ。理由は前にも説明したろ?」

「……あれは本当なのか?」

「僕が嘘を言うと思うかい?」

「信用できるようには見えない」

「あはっ、それは悲しいね。けど、大丈夫。僕の計画なら、君の望みを叶えられる」

「…………」


 ガレスは男の手首に振り下ろしていた剣を鞘に戻し、踵を返した。


「良い判断だ。まだ人間の知性は欠落していないようだ」

「俺は人間だ」

「ふっ……それは失敬」


 そう言って、男はガレスの後に続く。

 

 ――魔物に乗って。


「セルティネちゃんもどう?」


 男の提案にセルティネは不満げな顔で首を振った。

 セルティネはこの男が嫌いだった。


 そうして、三人は拠点に戻る。

 

 神秘の森は蛍火と呼ばれる光が、あちらこちらで浮遊している。

 その影響もあって、この森は神秘的で幻惑的な雰囲気を出していた。

 だからこそ、神秘の森。

 そして――


 第十階層を目前とした最後の階層。

 この先はそれこそ、地下迷宮の真の姿が待ち受ける。

 ここはその休憩所。

 しかし、でありながら、人間にとっては死地と呼べるだろう。

 魔物の数、大きさ、何もかもが人間を拒絶する。


 だが、三人はこの階層にいた。

 三人は一時的な協力体制をとっている。

 

 ガレスは笑う。

 セルティネは口を閉ざす。

 男はほくそ笑む。


 第九階層――彼らはそこにいる。

地下迷宮 吸血姫編 ‐完‐

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