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異世界イヌ  作者: 双葉うみ
地下迷宮 吸血姫編
19/57

017話 吸血鬼

 吸血鬼がこちらを睨んで窓を叩いていた。


「どういうこと⁉ いつもは一日一回の襲撃だったのに、今日は二回目⁉」


 アリスは混乱している様子だった。

 どうにもこれは彼女にとって想定外の出来事らしい。

 しかし、ここで現状に困惑し続けても意味が無い。

 相手はもう目の前だ。


「手伝うか?」

「いえ、それは……」


 アリスは眉間に皺を浮かべて、視線を逸らす。

 先程の説明には無かったが、そう言えば何故、彼女は吸血鬼に対して手出し無用と言ったのだろうか。

 吸血鬼は彼女にしか倒せない?

 だとしたら、それはとても厄介極まる相手だが、しかしそんな敵が本当に存在するのか?


 ――するかもしれない。


 サリユの知り得る吸血鬼の知識でそんな伝承は聞いたことがない。

 しかし、それも前世での知識。

 この世界ではまた違った進化をしているかもしれない。

 と、ここで自問自答して、手をこまねいていても時間の無駄――というか、意味のない事この上ない。

 ならば、直接、訊いてしまえばいいだろう。


「吸血鬼は俺の魔法では倒せないのか? それとも君にしか倒せないとか、そう言う制限があるのか?」


 サリユの質問にアリスがすぐさま首を振った。


「いいえ、そういう訳ではありません。ただ……」


 サリユの疑問は解消された。

 どうやら吸血鬼打倒に関しては彼女の私情の問題のようだ。

 恐らく、先程聞いた彼女と父の過去が何やら因縁として彼女の心情に楔を打っているのだろう。


 では、どうするか?

 決まっている。

 こちらも、はいそうですか、で納得は出来まい。

 自分の命がかかっているのだ。

 防衛のためには彼女には悪いが吸血鬼に危害を加えるのもやむを得ない。


「お前の深い内情までは聞いていない。だから、理由を言いたくなければ、それでいいさ。けれどな、こっちも自分の命がある。攻撃されたら、それなりの防衛はさせてもらうぞ」

「……はい、そうですね……構いません」

「ああ……」


 アリスはどこまでも苦しそうに言葉を紡いでいた。

 それほどの因縁が? とも思ったが、やはり他人の私情に踏み込むべきではないだろう。


「それで、どうする?」

「どうする、とは?」

「いや、このままじゃマズいだろ……あいつをどうにかしないと」

「そうですね……はい、分かりました。私は外に出てあの吸血鬼を倒しますので、サリユ様は家の中で待っていてください。もし万が一、私が殺されて、吸血鬼が侵入するようでしたら、その場合はご随意にお願いします」

「何と言うか、俺は結局、手を出せないのか……?」

「そうして頂けると嬉しいです。けれど……私に強制力はありません。全てはサリユ様の自由です」

「……君が力尽くで俺を屈服させたり、言うことを聞かせる事も出来そうだが? 君は強そうだし」


 サリユの言葉にアリスは苦笑しながら首を振った。


「ご冗談を。私も自分がそれなりに強い自信はありましたが……こうしてサリユ様に会った今ではその自信も過信だったのだと思っております。あなたはお強い……。失礼ながら『鑑定』の魔法でサリユ様の能力を拝見させていただきましたが、私なんか足元にも及びません。それに今の私ではサリユ様の全ての能力を見ることは叶いませんでした。恐らく、少しだけ垣間見た程度なのでしょう。しかし、たったそれだけでもあなたが強いのは分かりました……」

「ふーん、そうか……」


 なるほど、『鑑定』という魔法が存在するのか。

 自分も使えれば色々と便利そうだ。

 事前に相手のステータスが確認できるのだから、そうすれば近寄ってはいけない強者を知ることが出来るし、互角の相手にも優位に戦いを展開できる。


 けれど、アリスの言から察するに「能力を拝見」ということは、案外、自分の想像するステータスの確認とは違うのかもしれない。

 数値などではなく、まさしく相手が所持している能力の種類だけ? いや、もしかしたら魔力も測る事が出来るかもしれないが、何と言うかオーラのようにしか目に見えなかったりするのだろうか……。


 いや、待て。

 だとしたら魔力量を知るなら『魔力感知』があるではないか。

 この『魔力感知』の魔法? スキル? に関しても謎が多い。

 これはあの謎の声によって獲得できたものだが、その力の詳細は正直、理解できていない。

 何故、『魔力感知』なのに第七階層の全体図を把握できたのか? 

 魔力だけを感知するという訳ではないのだろうか?


(うーん、謎が多い。しかし自分で考えても答えが出そうにないのも事実。こういう時は知ってそうな奴に直接聞くに越したことはないが……そうだな、アリスに訊くか? いや……そうだ! 聞くなら、まず最初にあいつに確認を取るべきだ。あの『謎の声』に……。おーい、聞こえるか? というか聞いていたか? 出てきてくれー!)


 そうして、祈りも込めて念じて見れば……その思いが伝わったのか、あの謎の声から返答があった。


《『魔力感知』は読んで字のごとく、魔力を感知する魔法です。地下迷宮ヴィグリス第七階層の全体図が把握できたのは地面や壁などにも微量ながら魔力が宿っていたため、『魔力感知』で俯瞰図が確認できました》


(お、おお! 答えが返ってきた! えっと、それって……この第七階層だけじゃなくて、どの地面も壁にも魔力ってのは宿っているものなのか?)


 調子に乗って、続けて質問してみれば、この疑問にも答えが返ってくる。


《いいえ。魔力が宿っているのはこの地下迷宮の影響だと考えられます。原因は理解できませんが、この場所特有のものだと考えて良いと判断します》


(ふーん、なるほど、なるほど。そういうことか……。それで、ついでにお前が何者なのかも聞いていいか?)


《…………》


 この流れの勢いで一番に気になっていた疑問を呈してみたが、やはり回答はなかった。

 それから声を掛けては見るものの、先程が嘘のように今度はうんともすんとも言わなくなってしまった。


「サリユ様……?」

「あ、ああ、すまない」


 アリスは突然黙ってしまったサリユを不思議に思って、怪訝な顔をしていた。


「それで、本当に行くのか? 君に危険はないのか?」


 サリユの言葉にアリスは苦笑して首を傾けた。


「分かりません。自分の強さには自信がありますが……万が一はいつだってあるので……」

「それなら、君が殺されそうになったら助けるよ」

「いえ、それには及びません。大丈夫です」


 アリスは言葉を被せるような勢いで、首を振って、頭を下げた。

 何故、そこまで頑なに自分だけの手で解決しようとしているのだろうか?

 いや、そもそも彼女は解決しようとしているのか?


 彼女の父親が吸血鬼のなれの果てにいつ頃なってしまったのかは正確には分からないが、大魔法使いの仕業ということはつまり、神話の時代の話ではないだろうか?

 つまりは――数千年? それとも短く見積もっても数百年だろうか?

 だとしたら、彼女はそんな長い年月の間に何をしていたのか?


 百年以上あれば何かしらの成果が見えても良いはずだが、彼女の話を聞く限り、アリスはこの家を襲ってくる吸血鬼にしか手を出していないように思える。

 それともサリユが知らないだけで、彼女も彼女で父親を打倒するために敵地に乗り込んでいたりするのだろうか。


 現状では情報不足もあり、皆目分からないが……しかし、彼女の態度から察するにどうにもそこまで積極的には見えない。

 実の父親を手にかける、なんて、したい者など存在しないだろう。

 しかし、同時に楽にさせてやりたい――安らかに眠ってほしい――という想いだってある筈だ。


 それに、吸血鬼のなれの果てになってしまった父親は果たしてアリスの知る父親なのだろうか?

 それはもう父親とは似て非なる別の存在ではないだろうか。

 分からない……分からないが……どうにもサリユには彼女の態度、様子が納得いかなかった。


「分かった……そこまで言うなら勝手にやってくれ」


 サリユは仕方なくため息を吐きながら彼女の言葉に同意したが――実際、彼女が危険な目に遭った場合は有無も言わさず、助けに入る気だった。

 アリスはもう一度サリユに深く頭を下げると、遂に玄関の扉に手をかけ、扉を開き、僅かなスペースからすり抜けるように、外に出て、すぐに扉を閉めた。


 サリユはアリスが外に出たことを確認すると、窓から彼女の雄姿を見学することにした。

 吸血鬼は未だ窓にへばりついたまま、涎を垂らしているが、その後ろからアリスの姿が近づいている。

 吸血鬼はアリスの存在に気付いていない。


 アリスは忍び足で吸血鬼に近寄った。

 そのままアリスの掌から血が滴ったと思えば、その血が大きく、長く伸びて、すぐさま剣のような形状に変化した。

 アリスは血液の剣を頭上に掲げ、振りかぶった。

 そして、そのまま吸血鬼の後頭部に目がけて、その剣を振り下ろした。

 血液の剣が吸血鬼の頭に直撃する。


 ――『血剣(ブラッドソード)


 ミシミシ、と肉が千切れて血が飛び散る音が窓の向こうから聞こえてくる。

 直撃そのままに剣は吸血鬼の頭を斬りつけ、サリユから見て吸血鬼の目と目の間で、剣がめり込んでいく。

 なんともスプラッタな光景ではあるが、アリスはそんなことには微塵も構わず、吸血鬼から剣を抜き取った。


 その勢いのまま、次は胴体を横から斬りつけ、次は肩から斜めに、次に股から一直線に下から……と、アリスは踊りでも舞うように赤黒い剣を振り回した。

 その結果、吸血鬼の身体は傷だらけ――に止まらず、幾つもの肉片へと変貌していた。


 やはり、彼女――アリスは相当な手練れのようだ。

 サリユは自分の方が強い、とは到底考えられない。

 今の剣捌きから見ても戦いに慣れている様子だ。


 しかし、だとすれば、ますます今までの問題の進展の無さに疑問が生じてしまう。

 それほどの力を有しているのであれば――そんなアリスならば、何かしら問題の解決とまではいかないにしても、進展はあるだろう。


 アリスは吸血鬼が死んだことを確認すると、血液の剣を球体に変化させて、その球を吸血鬼の亡骸に近づけさせた。

 球はバク、バク、と徐々に大きくなると、散らばった吸血鬼の肉片をもろとも全て飲み込んでしまった。

 散らばった吸血鬼の肉片を吸収し終えると、血の球は急に小さく縮まった。

 その光景を確認し終えて、アリスは手をはたく。

 ――同時に血の球が四散して消えた。

 アリスは窓を開けてサリユに笑顔を向ける。


「終わりました」

「そ、そうか……」


 彼女と最初に出会った時にも確認していたが、やはり彼女は強い。

 流石、神代の住人と言ったところだろうか。

 サリユより弱いというのは少し買い被りすぎというか、自己に対して過小評価が過ぎるようにも思えるが……。

 もしかして、謙遜だろうか。


「お疲れ様」

「はい、ありがとうございます」


 一々丁寧にお辞儀するアリスにサリユは微かに嘆息を吐いた。

 その後、アリスは家に戻り、何事も無かったように湯を沸かして紅茶を二人分入れて席に着いた。

 サリユは椅子に上がって、有り難く紅茶を頂いた。

 甘酸っぱい温かい匂いが鼻腔をくすぐり、心が落ち着く。


「それにしても凄い魔法だな、その血の魔法?」

「ああ、これですか」


 アリスは恥ずかしそうに笑いながら、掌に赤黒い球を出現させた。


「それは、君の血液なのか?」

「はい、そうですね」

「……それって、有限だろ? つまり、その魔法を使っている間は君の身体から一定量の血液が減っているってことになる訳だから……使い過ぎたら――」

「ああ、それは心配に及びません。この血は私が作った異空間からその都度、出しているのです。なので私の身体の血液は一切として減ってはいないんです」


 そうなのか。

 しかし、だとしたら――


「その血は誰の血なんだ?」

「そうですね……この血は魔物や吸血鬼を狩った時に得た血と、もう一つは私の血です。先ほども仰ったように私の血は毎日回復するのです。いや、回復というか――増加と言った方が適当でしょうか。毎日、一定量だけ血が増えます。流石に自分の身体に増え続ける血をストックできるだけの容量はありませんので、『異空間』に収めています」

「なるほど、そう言うことか」


『異空間』というのは、サリユの所持するスキル『収納』みたいなものだろう。

 しかし、そうか……『収納』にそう言う使い道があったのか。

 サリユはなるほど、と頷いて自分にもそういった戦闘方法がないか考えてみる。


 例えば爆発を『収納』のスキルでしまって、魔法発動の際のロス時間なしに爆発を起こすことが可能だろうか……?

 いや、そもそも爆発の状態を維持して『収納』できるのだろうか?

 そんな疑問に頭を悩ませていると――なんと、あの謎の声からまたも返答があった。


《それは可能です。しかし、単一の異空間内で爆発を閉じ込める場合、同じく異空間内に存在する他の物資に影響があります》


(影響? それはどんな感じ?)


《現在、スキル『収納』によって異空間内に閉じ込めているケリュネフロガなどの魔物の肉に関しては消滅する確率が限りなく100%に近いでしょう》


(そうか……そりゃあ、そうか)


 何だかんだ言って、返答してくれるこの謎の声に感謝しながらも、しかし何者かは分からない、という矛盾。

 さてはて、この声を信じて良いのだろうか、とサリユは眉間を寄せた。

 しかし、今は有益な情報を提供してくれる協力者として迎えるべきだろう。

 というか、そう考えた方が幸せだ。

 無理に敵と認定して、この声の情報に疑心暗鬼になっても精神的によろしくない。

 ならば、信じてしまえばいい――というと、どうにも楽天的すぎて、最後に裏切られた時の絶望が凄まじそうだが、しかし今のサリユにはこの情報を信じる以外には道はなさそうだった。


 だが、それにしてもこの謎の声曰く、『収納』で爆発を異空間内に閉じ込めることは可能だそうだが、しかしその代わりに食料などを消滅させてしまうのは、本末転倒というか、爆発を『収納』させるメリットよりもデメリットの比率の方が高い。


 いや、待てよ。

 謎の声は「単一の異空間内では」と言っていた。

 ならば、単一ではない異空間内では、どうなのだろうか?

 答えは決まっている。

 影響はないはずだ。

 その結果から導き出される方法論は――

 一つ以上の異空間を使えるかどうか、ということ。


(おーい、謎の声さん。もしかして『収納』のスキルは一つの異空間だけじゃなくて複数の異空間も使えるのか?)


 サリユの質問に一瞬の間もなく、答えが返ってくる。


《可能です。『収納』による異空間生成は魔力量に応じて生成個数が変化します。現在は五個の異空間を生成できますが、アリス・ヴリコラカス・セミルメラの異空間使用を解析・参考にした結果、スキル『収納』よりも最適な異空間生成を可能に出来ます》


(な、なんだと!)


 いつの間にそんなことをしていたんだ、この謎の声は!

 というか、本当に何者だ?

 サリユの中にこの人物が存在するのだろうか?

 分からない。


(それって盗み見じゃないのか? ちょっと罪悪感が……)


《いえ、これは私の能力を最大限生かした結果です》


 謎の声はドヤァという感じで自信満々に大言を吐いた。


(そうですか……)


 よく分からない奴だ、とサリユは思った。

 何者かは語らず、しかし自分の為に協力はしてくれる。

 それも所謂、ズルというか抜け道のような手段を取ったとしても、サリユの利益を考えてくれる。

 やはり、こいつは味方なのか?

 サリユは首を傾げながらも、何度目かになる質問を投げかけてみる。


(お前は何者なんだ?)


 そしてその答えは――もう決まり切っているように無言……のはずだった。


《……それは、分かりかねます》


 返答してきた。

 驚きだ。

 まさか答えが返ってくるとは。


 しかし――分からない、と来たか……。

 さて、それはどういうことだ?

 自分で自分のことが分からない?

 それともこの答えは何かを言い逃れるための虚言――とはどうにも思えない。

 サリユはどうにもこの謎の声が悪い奴には思えなかった。

 良い奴かという判断も出来ないが……悪人には思えない。いや、思いたくない。


 だが、今のところはこれ以上の問いかけは禁物だろうか。

 それに、サリユ自身どのように返していいか分からない。

 ということで、サリユはこの謎の声に対する問題を先送りにした。

 そして今は目の前の話だ。


「そうか、異空間を使って……吸血鬼はどんな奴でもそういった芸当が出来るのか?」

「いえ、そういう訳では……。そもそも私は正確に申しますと吸血鬼とは違うのです」

「違う?」

「はい」


 血を扱う種族と言えば吸血鬼なのではないだろうか?

 そもそも、その認識が違ったのか?


「正確には私の種族は『吸血姫』です。つまり、吸血鬼よりも上位の種族に進化しています」

「ああ、そう言うことか。進化――なるほど」


 この世界にも進化という概念があるのか!

 サリユは笑みを浮かべて、驚愕よりも興奮が感情を支配した。

 ずっと犬ころだと思っていたが、これはもしかして、もしかすれば、もっとカッコよくなれるのかもしれない。


「進化、か。それってどうすれば出来るんだ?」

「それは……それは……」


 そこでアリスは口ごもって俯いてしまった。

 何か、言いたくないことなのか。

 アリスはどうにも隠し事が多い。

 いや、隠し事自体があるのは決して悪いことではない。

 どんな者にもプライベートがあって、嬉々としてそういったことを語りたくない者もいるに決まっている。


 だから無理には聞かない。

 そこでサリユは話を変えることにした。

 話題は……こちらも気になっていたことに踏み込もうか。

 いや、しかしアリスが……。


「はあ」


 サリユは小さくため息を吐く。

 何故、どうして、ここまで自分はこの娘に気を使っているのだろうか?

 それはたぶん――本能的にこの娘が可哀想だと思ったからか……?

 分からない。

 分からないことだらけだ。


 そもそも、前世ではずっとアキラとしか交流がなかった。

 それに加えて会話という観点では、サリユは誰ともそういったコミュニケーションを取っていない。

 元来――というかサリユには他人と関わる経験がまったくとして無いのである。


 なのに、その上で気を使うか……。

 馬鹿らしいな。

 ならば、シンプルに聞いてしまった方が楽でいい。

 それに、その方が問題を複雑化せずに済む。

 サリユは少し吐息をして、口を開いた。


「それにしても、一日に二回目の襲撃は初めてだったんだな」

「はい、そうですね……。今回が初めてで、正直驚いています」

「そうか……もしかしたらあちら側――お前の父親に何か変化があったのかもな」

「変化……ですか? それは具体的にどういった?」

「いや、流石に詳しいことは分からない。けれど、心変わりか、もしくは状況の変化か――まあ、何かしらの変化が無いと、今までの行動を変える理由は思いつかないだろ?」

「それも、そうですね……」


 アリスは微笑みながらコクリと頭を垂れた。


「けれど……それにしても、この関係と言って良いのかな? 父親が吸血鬼の成れの果てになって、眷属を君に襲わせるようになったのはいったい、いつ頃からなんだ?」

「それは……ちょうど百年ほど前だと記憶しています」

「百年前! 予想していたはずだけど、いざ実際に言われると驚くな……。けれど――それじゃあ、やっぱりこの疑問を訊かないといけないな……。アリス、お前はこの百年もの長い年月の間、何をしていたんだ? お前の話を聞く限り、どうにも父親の問題にほとんど進展を感じられないんだが……。それはどういうことだ?」

「……!」


 アリスは目を見開いた状態でサリユを驚愕の表情で見つめた。

 同時に唇をかみしめて、苦しそうに顔を微かに歪めた。

 それほどに、言いたくない事実でもあるのか?

 いや――隠し事が実際にあるのだとしたら、言いたくないというのは当たり前か。


「言いたくないなら言わなくていい。再三言うようだが、俺のその姿勢は変わらない。結局、俺には関係のない話だ。これはただの興味。君にとって深刻な事実を無理に口にする必要はどこにもない」

「いや、言いたくない訳ではありません。ただ……これを話すのは単純に自分が惨めで恥ずかしいことを否応なく自覚させられるので……嫌なのです」

「嫌……か。なら、無理に話さなくても――」

「けれど! 話させてください! あなたなら、サリユ様なら、話しても良いかもしれません!」

「俺なら……?」

「はい……」


 アリスの頬が微かに朱に染まっていた。

 しかし、それも一瞬で、すぐに暗く、重い影が顔にさした。

 サリユは悪いことをしたかな、と少し反省をする。

 しかし、それも一瞬だ。

 結局、これは彼女の問題であり、彼女が話すかどうか、なのだ。


「正直、これは……こんなことになってしまったのは全て私のせいなのです……。全て……私が覚悟を持てず、決意をできず、そして今も優柔不断に迷っている……。少しだけ長い話になるかもしれません。それでも構いませんか?」

「ああ、大丈夫だ」


 サリユはゆっくり首を縦に振る。

 そうして、彼女は語り始めた。

 今度は表面的な過去の話ではなく――深く、辛いその話を。





  名前:サリユ・ギー・フェンリル

  種族:魔狼族

  魔法:『狼の遠吠え』『毒霧』

     『火の一線』『中位回復』

     『光線放射』『黒線放射』

     『山羊の鳴き声』『魔力低下』

     『体力低下』『酩酊付加』

      ?

 スキル:『思念伝達』

     『軟体』

     『加速』

     『魔力感知』

      ?

     『観測者?』


  名前:アリス・ヴリコラカス・セミルメラ

  種族:吸血姫

  魔法:『血の一線』

     『血剣』

      ?

 スキル: ?

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