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純 CHAPTER4

 「ん・・・・・・」


 ついに中学校卒業式が行われる日。純は、突き刺してくる朝陽で、目を覚ました。


 「あれ、目覚まし鳴ってない」


 昨日の晩、純はきちんと7時ごろに目覚まし時計をセットした、はずなのだが。何か嫌な予感が純を襲い、純は恐る恐る目覚まし時計の時間を確認する。


 「ひ、7時40分・・・・・・」


 本来起きたい時間より40分もオーバーしてしまっていた。家族は普段この時間にはもう家を出てしまってるので、純が自力で起きなければいけない。いざというときの保険が効かないのは辛い。


 これくらいの時刻なら、まだ小走りで行っても十分間に合う。学校には。


 (これじゃ、恭くんといつもの待ち合わせの時刻に間に合わない!)


 素早く制服に着替えて、朝食は食パンをくわえていく、という選択肢もあるにはあったが、走りながら食パンを完食できるとは到底思えないし、それは漫画の中のテンプレであって、現実世界でやるべきことではない。


 時間があるときはは自炊をしている純だが、今日は自炊をしているヒマは無い。ひとまずは食パンをトースターに突っ込む。


 そして、自らは急いで制服に着替えようとする。が、こういう時に限ってブレザーの下に着るカッターシャツのボタンがなかなか閉まらない。強引にしようとすればするほど、余計に時間がかかる。


 「チーン」


 トースターの音が鳴るが、純はボタンに悪戦苦闘していたせいか、音に気付かなかった。


 しばらくして、ようやく純はボタンをはめると、超特急でトースターへと向かった。


 (うっ、焦げ臭い)


 煙は出ていないが、焦げているようなにおいがトースターから漂ってくる。そのにおいを裏切らず、トースターの中には真っ黒な四角い物体が鎮座していた。完全に炭化、とまではいっていないものの、食べられる代物ではない。


 時間は事情にお構いなしに流れていく。しかし、朝食抜きも辛いといえば辛い。純は、心に決意を固めた。


 (もう、食パンをくわえて行くしかない)


 『漫画かよ』と突っ込まれても仕方がない。そういう状況なのだから。


 純は食パンを口にくわえたまま、ダッシュで家から飛び出した。忘れずにカギ閉めもきちんとしている。


 今の純の状態と、漫画の遅刻でよくあるシーンとの相違点とすれば、トーストではなく焼いていないただの素の食パンだということである。


 むろん、普段よりかなり遅れている純を恭平が待ってくれているはずはなく。


 (やっぱり、恭くんは行っちゃったかあ)


 遅刻ギリギリの時刻、近くに駅があるわけでもないので、幸いにも人の目は少ない。純は、ほとんど誰にも自分の姿を見られることなく、学校につくことができた。食パンは無理やり完食した。

最後の朝のHR終了後、教室には『卒業』と『受検』の漢字二文字の熟語がひっきりなしに飛び交っていた。なにせ、純たちは今から1,2時間後には卒業証書を校長先生から受け取ることになるのだから。受検も、一週間後にはやってくる。


 「恭くん、ごめん!目覚ましを寝過ごしちゃって・・・・・・」


 「そういうことか。気を付けてくれよ、まったく」


 (また、言い方がキツイなぁ)


 恭平の言い方に違和感がある。昨日もそうだったように、何か違う。


 「でも、ついに卒業だね」


 「そうだね。今日が終われば、もうそれでバラバラ」


 「恭くん、受検大丈夫なの?」


 「そっちこそ、どうなの?」


 たわいもない話が続く。肝心の想いを、いつぶつけるかに迷う。


 「私は、一応受検勉強はしてるし、何回も模擬テストを受けてるから、絶対とは言えないけど大丈夫だと思う」


 「俺は・・・・・・。勉強は一日に何時間もしているから、大丈夫」


 「ふーん」


 (恭くんって、そんなに勉強してたっけ?)


 三年生の初めから恭平から勉強の話は何十回もしているが、『何時間も勉強をしている』とは聞いたことがないような気がする。確証はないので、理由としては弱い。


 そして、そんなことよりも、純には今恭平に伝えておきたいことがある。


 「そ、それよりも」


 「何?」


 「・・・・・・恭くん。きょ、今日、卒業式が終わったら、私と一緒についてきてくれない?」


 純は恭平に、ストレートに話題をぶつけた。というよりかは、そうすることしか出来なかった。ここで回りくどく自分の想いを伝える術を、純は思いつけなかったからだ。


 そして、返答が来る。


 「なにかは分からないけど、いいよ」


 (よし、第一関門突破!)


 純は、心の中で小さく、『よし』と発した。


 恭平がここで『NO』と言ったら、当然ながら計画はつぶれる。その時はその時で別の方法を考えるつもりだったのだが、それは杞憂となった。


 「ギュグルルルルルルー」


 さきほどまで一種の緊張感に襲われていた純。今、緊張感が少し緩んだ故に、脳が恭平のこと以外も認識し始める。何を認識するかというと、自分の体の異常だ。


 (お腹が痛い!)


 「・・・・・・大丈夫?」


 様子を見てもおかしいのがわかるのだろう、恭平が心配してくれる。が、


 (恭くんのことで勝手に緊張して、勝手にお腹を壊したなんて、口が裂けても言えない)


 「卒業式前でちょっと緊張しちゃったみたい。トイレに行ってくる」


 腹痛の理由をごまかした純は、全速力でトイレに向かっていった。こんなときも、廊下はきちんと走らずに。

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