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純&恭平 CHAPTER1

―――(純視点)―――


 三月。桜が咲き乱れ、花びらが美しく散ってゆく季節だ。気温も少しずつ上がっていくため、ポカポカとした陽気を感じられるようになるのもこの時期になる。そして、『卒業』という二文字の重大な行事が小学校六年生、中学校三年生、高校三年生に迫っているときでもある、


 「もう明日で卒業かぁー。中学校の三年間って、長いようで短かったなぁー・・・・・・」


 錦河にしきがわ中学校三年、永島ながしま すみは、小学校時代からの『大』が付くほどの親友、浦前うらまえ 恭平きょうへいと一緒に登校中、中学校生活の三年間の回想にふけっていた。なにしろ、明日が終われば中学校に別れを告げることになるのだから。


 「ほんと、それ」


 若干純の斜め後ろを歩いてきている恭平が、思うことが全く同じだという風に、うんうんとうなずく。


 思い返すと、純の中学校生活三年間は、言ってしまえば『普通の中学生』となんら変わらない。純は純で、別に他の人とは違う特別な過ごし方をしたいとは思っていないので、普通に良い三年間だったのではないだろうか。普通の体育大会、文化祭、修学旅行・・・・・・。全て楽しい行事だったが、別にライトノベルやマンガのような事件的なものは、当然のことながら起こっていない。


 (他に、まだまだ大きな行事はした気がするけど・・・・・・)


 「ちょ、すみちゃん、前、前!」


 中学校生活に思いをはせていた回想モードから一瞬にして現実に帰って来た純の目の前に、大きくて無機質な灰色の物体が迫っていた。そして、その次の瞬間には、『ゴツン』という鈍い音とともに、純の前頭部、簡単に言うならばおでこの部分に、激しいとまではいかないまでも、かなりの痛みが走った。思わず口から声が漏れる。上を見上げると、電線を支えている灰色の電柱が目の前に高くそびえたっていた。


 「痛っ・・・・・・」

 「大丈夫・・・・・・そうだね、うん。たんこぶも出来てないし」


 『勝手に大丈夫って決めつけたらだめでしょ!』と脳からの信号が送られてきたが、流石に脊髄ぐらいで強制シャットアウトされた。例えば、『自転車にひかれた』ならまず110番か119番かは忘れたがとにかく緊急事態なので大丈夫ではないのは分かり切っているとして、今回のような『頭を電柱にぶつけた』ような事態の場合、大丈夫かどうかは本人以外はあまり分からないだろう。電柱に頭をぶつけただけで特に何かが起こるというわけではないと思うが。


 不満は若干あるにしても、もう純達は中学三年生で、あと一か月もすればほとんど高校生活をスタートさせる高校一年生になる。これくらいのことで不平不満を垂らすほど子供ではない。


 「きょうちゃん、目の前に電柱があったのに気づかないって、漫画の最初のワンシーンみたいじゃない?」

 「ヘタしたら、赤信号も気づかずに渡ったりしてね」

 「まさかあ」


 自分から言い出しておいてなんなんだが、本当に今自分が漫画の中のバカな主人公キャラなのかと疑ってしまう。それぐらい、電柱に頭をぶつけることは食パンを口にくわえて交差点で男主人公が美少女と偶然遭遇するぐらいベターな出来事なのだ。恭平の言った『赤信号を渡ってしまうかもしれない』という話も、本当にやってしまっていたかもしれない 


 今いる位置からは少し遠いが、いつも登校時に通っている横断歩道が見える。朝の通勤の時間帯だからだろう、車が慌ただしく行き交っている。車が横切っているということは、当然信号は赤だ。仮に、あの中に無意識で突っ込んだとしたら・・・・・・。そんなことはあり得ないと分かってはいるものの、背筋が少し寒くなる。


 「こんな車が走ってたら、流石にボーっとしてても気づくと思うよ?」


 はっきり言って、いくら回想にふけっていたとはいえ、これだけ車が頻繁に通過すれば音と光で確実に気づく。それに、万が一純が気づかなかったとしても、恭平が絶対に止める。止めない方がおかしい。


 「いやいや、人間、集中してるものがあるときって、意外と他の事には注意がいかないものだと思うよ?」


 ド正論が恭平から返って来た。そういうことじゃない。確かにドが付くほどの正論だが、それだと純が赤信号に突っ込む迷惑な人に成り下がってしまう。そこは正論じゃなくて、『仮にその状態になっても止める』、みたいな事を言ってほしい。


 「じゃ、もし・・・・・・」


 ドン。


 純がまさに心に上がったことをそのまま言おうと思った、その瞬間。背中に重い衝撃が走り、恭平の身体が純から見て右手の方にずれた。それと同時に、歩道も右にずれ、純が車道に放り出される形になった。


 (あれ、これって。きょうちゃんと歩道が急に動いたんじゃなくて、もしかして私が車道に・・・・・・)


 本来ならば地面の歩道のアスファルトをしっかりと踏んでいるはずの足には、何も触れていなかった。そして、目の前には、一台の大型トラックが純へと猛スピードで突っ込んできていた。


 純の頭の中がいきなり真っ白に埋め尽くされる。状況を整理しようにも、まず今の状況が理解できない。なぜ自分が大型トラックの目の前にいるのか。どうして、自分が車道に出てしまっているのか。考えれば考えるほど、混乱する。目の前の大型トラックも止まって見えるが、逃げようとしても自分の身体が鉛のように重く、全く動けない。自由落下など存在しないかのように、体も宙を舞い続けている。純は、パニックに陥った。


 (なにこれ。どういうこと?)


 そして、少しずつ、時間が進んでいくのを純は感じた。間違いなく、自分の身体は地面に向かって落下し続けている。そして、目の前のトラックも、間違いなく自分に近づいてきている。逃げたい。でも逃げれない。


 (私は、どうなるの?)


 純が最後にそう思ったのを合図に、一気に時間が加速したような感覚を純は覚えた。そして、純の身体は容赦なく大型トラックへと吸い込まれていき・・・・・・。


 純の意識は、そこで途絶えた。

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