その日
「その日」は私の誕生日だった。
全てが雪に覆われるスノーリーフの月、ふたつの月が西に輝く15番目の日。
普段は忙しくて滅多に別邸に寄れない領主の父、中央学院で歴史学の教師をしている一番目の兄、剣術が得意で溌剌とした二番目の兄、魔術の研究が好きなおっとりとした三番目の兄、そして病気がちだが優しい母……みんなが予定を合わせて、私の8歳の誕生日ために集まってくれた。
別邸の広間で家族とご飯を食べたのは半年ぶりだろうか。暖かい栗のスープに、色とりどりのテリーヌ、食べ応えのある鶉の丸焼き、デザートには私の好きな林檎のパイも出てきた。
食事を終えると暖炉のある部屋に一番上の兄の手を取って駆けていく。その御転婆に侍女は思わず口を出したが、母がとりなしてくれる。
一番上の兄と暖炉の前で紅茶を飲みながら、誕生日の贈り物にもらった本を読んでもらう。それは建国物語で邪竜を倒す王子様が出てくる本だった。
結末を前に、私が眠くなって目を擦り始めたのをみると、一番目の兄は私を抱き抱えて、部屋まで送ろうとした。
その時だった。悲鳴が聞こえた。バタバタと何人かが駆け出す音も。
なんだろうか。
眠気で重くなった瞼をあけた瞬間、視界が真っ白になった。
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それがキャピュレイ家での最後の記憶だった。