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怪しい夜

夜。


‥‥この集落は地下にあるので、昼夜問わず常に明るいのかと思っていたが、外に出てみるとさっき見た光景とは全く異なっていた。

ここに来た時は少なくとも周りが見れる程明るかったはずなのに、今外に出てみると数メートル先は真っ暗で何も見えない程暗かった。後でエレナに聞いてみると、この集落は昼と夜で天井の照明の明るさが変わるらしい。昼は農作物の栽培もある為、明るいが、夜は住民の生活リズムも考慮し照明は暗くなるらしい。


夜の時間帯では住民達は皆家の中で配給で配られた野菜を使って食事を作ったり、明日の仕事の準備をしたり、もしくは家族と談話したりして生活している。またこの時間帯は侵入者等の外敵から身を守る為、扉や窓を鍵をかけ外出も禁止となっているらしい。家自体とても強固な為、例え外敵が襲ってきても大きなシェルターの役目をするらしい。大戦後ヒトから迫害、拉致され続けてきた機人種ならではの集落のルールのようだ。


「外は誰もいないと思うけど、気をつけて。」

「ああ、分かってる。それで‥これからどうする?」

「多分‥お姉ちゃんはまだ長の家にいると思うの。だからまずはそこに行こうと思ってる。」

「分かった。それで‥その長の家ってどこにあるんだ?」

「あれよ、あれ。」


そう言ってエレナは前方より少し上側を指差した。


「‥いや‥暗すぎてみえねぇよ。」

「え?あれが見えないの?」

ーーそうだった。エレナとトンネル内で初めて会った時、真っ暗のトンネルの中をランタンも何もつけないでやって来てたんだっけ。もしかして、ここでの生活の影響で、夜目が利くようになってるのかもな‥‥


「‥ここから遠いのか?」

「‥遠くはないかな。広場の近くだから‥そんなに時間かからないと思うけど‥」

「ふむ‥」

「今私達がいるこの区画は住宅エリアなんだけど、ここを抜けた集会エリアまで行けば、そこからは大丈夫だと思う。」

「‥つまり、この住宅エリアを誰にも見つからないように通ることができれば良いわけだ。」

「うん。アキト、ちょっとこっちきて。」


そう言ってエレナは家の裏手に回り、俺を手招きした。そして近くにあった石でこの集落の構造を地面に書いて説明してくれた。


「えっとね‥ここの集落は真ん中に大きな広場があって半分は住宅エリアで、もう半分は農業エリアになってるの。住宅エリアには広場から三本道が伸びていて、その道の両側に家が並んでるの。」

「ほうほう。」

「私達がいるのはここ。」


そう言って、エレナは描いた図の端を指差した。


「‥広場から一番遠いな。一番の近道は家と家の間の小道を進んで広場に着くことだけど‥‥」

「‥それは危ないかな。住宅エリアのど真ん中を見つからないように行かないといけないし‥」

「だな。なら‥小道を避け住宅エリアの隅を迂回していけばどうだ?例えば‥」


俺は、エレナが書いた図に長の家までの経路を矢印で示した。


「‥それが一番バレなさそうかな。」

「よし、じゃあ早速行くか。」


俺はそう言って隣の家を見た。ここからその家までは数メートル離れており、家の中にいる人は二階に今はいるらしく、二階からの明かりが地面に生えている草むらを照らしていた。


俺はその照らされている草と家の壁との間に出来た日陰の部分に入り込み、ゆっくりと物音を立てずに匍匐前進をした。幸いな事に地面に草が生えている為、多少の物音はしたが二階にいる人の耳には入らない程度の音のようだった。


隣の家の裏手まで行って、辺りを見回した。

ーー気配も視線もない。この調子で行けば何とかなりそうだな‥


俺はエレナの方を見て、静かに来るように手招きをした。エレナもそのサインの意味が分かった様子で、俺がさっきやったようにゆっくりとうつ伏せでこっちに向かってきた。


エレナがやって来る間に俺は次の家を抜けるルートを見つけ、エレナが俺の所までやって来たら、俺がそのルートを通っていく‥。


二人で進めば当然物音も大きくなるし、特にエレナはこういう隠密行動の経験はないと思うからお手本も兼ねて俺からやるのがベストだろう。

ーー機獣や大型動物に見つからないようにやっていた事がまさかこんな場面で役に立つとはな‥


ゆっくりと、極力音を立てずに俺とエレナは住宅エリアを抜けていった。そして無事に集会エリアにたどり着いた時には二人とも服が土で汚れていた。


集会エリアにはさっきとは違って草が全く生えておらず、近くの大きな配管から水が流れ落ちて池になっていた。その池に天井からの弱い光が乱反射し、住宅エリアよりは遠くの物がみえた。俺自身もしばらく暗闇の中にいたせいで夜目が利くようになったのかもしれない。


「アキト、あれが長の家だよ。」


エレナは長の家を指差した。ここまで来れば俺も長の家が見えた。住宅エリアにある建物より大きい建物が集会エリアの一部分に建てられていた。立っている場所から推察すると、この広場で住民を定期的に集めて話し合い等をするためのものなのだろう。


「‥あそこにカトレアさんは行ったのか‥」

「うん、今もいるか分からないけど‥」

「うーん‥とりあえず中にカトレアさんがまだいるか確認するしかないな。」

「中に入って‥ってどうやって入ろうか‥」

「直接中に入らなくても分かるよ。外から様子を伺えば大抵はね。」

「え‥?」


俺は家の周りを見回した。外観はエレナの家の二倍程の大きさだが、建物からの明かりが漏れてないし、中から物音も聞こえない。何より人の気配を感じない。


「‥音もしないし、明かりもついてないこら家の中には誰もいなさそうだな‥」

「え‥じゃあお姉ちゃんはもう‥‥」

「‥かもしれないな‥エレナ、この集落の入り口は?」

「えーっと‥‥この家の裏手かな。」


エレナはそう言って裏手の方向を指差した。


「外に出る時、長の許可がないと外に出る事は出来ないの。普通、許可なんて下りないけどね。」

「‥‥ん?そう言えば初めて会った時、長の許可貰ってきてたのか?」

「それは‥まぁ秘密?」


エレナはそう言って俺への目線を避けて、上を向いて人差し指で頬を掻いた。


こいつ‥興味本意で通気口からちょいちょい許可なく外に出てたんだろうな‥‥運が良いと言うか、無鉄砲というか‥


「はぁ‥とりあえずその裏手の入り口に行ってみよう。もしかしたらいるかもしれないし。」

「うん。」


俺とエレナは静かに家の裏手に回った。家の角を曲がると奥に1メートル位の大きさの扉が見えた。その周りを金網のようなものが厳重に覆われていて、人が入れないようになっていた。


「これか‥‥」

「うん。」


俺は扉に近づいた。扉は厚い鉄で出来ており、簡単には開かないようになっていた。


「結構重たそうな扉だな。カトレアさんが開けるにはちょっと難しい気がするけど‥」

「私もあんまりここに来たことなかったけど、近くで見てみると‥何か怖いね。」

「そうだな‥‥ん?」


俺は金網に近づいて、扉に目を凝らして見た。


「‥どうしたの?アキト」

「いや‥この扉、鍵かかってる。」

「え‥?」

ーー何かおかしい。カトレアさんがエレナの家から出て、まだ一時間半。カトレアさんがここを出た後、その長が扉を閉めたのであれば、家にいるはず。でもあの家は明かりも物音もしてないし、気配もなかった。


「ねぇアキト、どうしたの?」


しばらく黙って考えている俺にエレナが話しかけてきた。


「エレナ‥他に入り口はあるのか?」

「ないよ。あの通気口は私しか知らないはずだし‥」

ーーと言うことは‥‥まだカトレアさんはここにいる可能性が高い、ということか。


「エレナ、家の中を調べに行こう。」

「えっ‥どうしたの、急に。」

「多分‥カトレアさんはまだここにいるかもしれない。」


俺は振り向いて、家の方に戻ることにした。

ーー何か‥なんか嫌な予感がする‥‥



家の玄関の所まで戻り、俺はゆっくりとドアノブを回して引いてみた。


‥カチャリ‥‥


「あれ‥?開いてる‥」


ドアが開いた事にエレナは少し驚いていた。


「夜はどの家も身を守る為に鍵をかけてるのに‥」

「‥エレナ、ここからは気を引き閉めていこう。」

「う、うん‥」


ゆっくりと扉を開き、開いた扉の隙間から中を覗いてみた。明かりはついてなかったが、窓から差し込んだ淡い光のお陰で部屋の中がぼんやりと見えた。


「‥やっぱり誰もいないね‥」

「‥エレナの目でもそう見えるのか。」

「うん、奥も人影なんて見えないし‥本当にいないんじゃないの?」

「それは中に入って調べてみないと分からないけど、ここにいる可能性が高いんだよな。と言うことで‥」

「え‥無断で長の家にあがるの!?」


エレナの声の横で俺はランタンをつけてゆっくりと扉を開けて中に入った。


家の中はがらんとしていた。やはり気配は感じとれない。玄関の扉を開けてすぐ応接室のような部屋と奥と右側に部屋が見えた。


「エレナは奥の部屋を見てきてくれない?俺は右側の方を調べてみる。」

「ちょっ、ちょっと。ほんとに調べるの?もう‥」

「ああ、お願い。何かひっかかるんだよ。」


俺はそう言うと、右の部屋に入っていった。エレナも俺の後ろ姿をみて少し不安そうな表情だったが、気持ちを切り替えて奥の方に歩いていった。


右の部屋に入ると、三列の本棚が規則正しく並べられており、本棚には沢山の書物が並べられていた。


「ここは‥書庫のようだな。何の本なんだろう。」


俺は呟き、書庫から一つ本を取ってみた。


「本のタイトルは‥"人械大戦による恩恵"だって‥?」


俺はその本を開いて、内容を読んでみた。


『‥‥人間は古来から学習することで知能を身に付け、高度な科学技術を築き上げてきた。その科学技術によってより豊かな生活が出来るようになった。しかし一方で自分達の生活を優先する余り、自然を破壊し、特定の動物を絶滅に追いやってきた。その為、自ら作り上げた知能を持つ機械によって有害生物と判断され争いが起こった。俗に言う人械大戦である。

人械大戦によって人間の数は激減し、科学技術は衰退した。その結果自然破壊は止まり、世界は少しずつ治り始めている。しかし一方で、この大戦によって世界のバランスは変わってしまった。

まず一つ目は大戦中に世界中に散布された超小型自己修復可能な機械である。これは人間には見えないが世界中に徘徊している機械の修復、情報共有などを可能とする。これによって故障した機械は殆どなくなり、世界は機械が徘徊する世界へとなった。

二つ目は‥‥』


「‥大戦前後の内容だな。しかも俺が知ってる情報より細かく書かれている。この"超小型自己修復可能な機械"というのは、多分ナノマシンの事を指しているんだろうな。」


その本の続きを読み始めようとした時、奥の部屋を調べおわったのだろう、エレナが書庫に入ってきた。


「‥ねぇアキト、奥調べてきたけど、やっぱり誰もいなかったよ。やっぱり誰もいないんじゃない?‥何この部屋‥‥こんなに本があるなんて‥」

「書庫‥みたいだな。ちょっと読んでみたけど貴重な資料がありそうだ。」

「へぇ、こんな場所があったなんて、知らなかったな‥。」


エレナは少し驚き、書庫の扉近くの棚に置かれていた本を一冊手に取った。


「なんだろこれ。タイトルがないけど、表紙は新しいし‥‥何について書かれてるのかな。」


そう言ってエレナは本を開き目を通し始めたが、次第に持っていた手が震え始めた。


「‥?どうしたんだ、エレナ」

「こ‥この本‥‥ここに住んでいる人の事が書かれている。」

「‥え?」


俺はエレナの方に行き、持っている本を一緒にみた。


『4月25日

14号住人のタイターの症状が少し悪化している。右大腿部分が痺れているようだ。農業エリアでの作業にはまだ支障は出ていないようだが、家では足をさすっている光景が見うけられた。足全てには侵食痕が少ししか見られない。グレード1と判断。


7月5日

タイターの右足は半分程度浸食が進んでいる。本人からの進言はまだない。右足は既に動けない状態である。麻痺症状から右足不随まで約二ヶ月。侵食速度は比較的早い。グレード2と判断。


12月16日

タイターの身体は下半身が侵食されている。身体を動かすことはまだ可能だが、作業はもうできない。一日中ベッドで生活をしている。グレードは3。肩まで侵食が進めばそろそろ回収も検討しないといけない。


2月8日

タイターを呼び出し、家に運んでくるようにツェリトとジェノに頼んだ。症状は末期でいつ覚醒してしまうか分からない。早めに対応しないといけない。』


「なんで‥こんな‥」

「‥この列の本は多分、ここの住民の記録が納められているんだろうな。」

「だって‥こんな監視みたいなこと‥!」

「監視されてるんだよ、ここの人達は。」

「え?」

「本に書かれた内容から察するに‥‥家のどこかにカメラか何か隠されていて、そこから住人の症状を確認し、記録しているんだろう。」


カトレアさんの症状が末期なのを察知して、タイミングよく家に来るように伝えに来たのはエレナの家に取り付けられたカメラで症状をチェックしていたのだろう。それこそ、この本のタイターのように‥‥。

やはりカトレアさんはここに来ている。そして今長と一緒にいる。一緒にいて何をしているのか?‥‥"回収"させられたと考えた方がいいのかもしれない。

と、同時に俺がいることも恐らく長には知られている‥‥。気を引き締めないといけない。


「でも‥でも何でこんなことする必要があるの?」

「理由は恐らく‥機械化するタイミングを事前に把握して、集落外へ追放する、、事なんだろう。もしくは‥」


そう言いかけて、俺はエレナに言う事を躊躇った。俺が考えたもう一つの理由は彼女には辛いと思ったからだ。それにまだ確証がなかった。


「そんな‥そんなの‥‥」


俺の話を聞き、怖くなったのか持っていた本を落とした。


‥‥コトン‥‥


地面に落ちた時の音が乾いたように聞こえたのに気づき、俺は地面に手を当て、小さくノックを何ヵ所かした。


コンコン‥‥コンコン‥‥カンカン‥‥コンコン‥


「やっぱり‥この地面の下に空洞がある。」


俺はかがんで地面を慎重に見回し、本棚と本棚の間に取っ手があるのが見つけた。


「‥これか。」


取っ手を掴んで開けると、地面の一ヶ所がゆっくりと開きだし、下への階段が現れた。


「なに‥これ‥」


エレナの表情は不安を隠せず、ただ隠し階段を見て動揺していた。俺は腰につけていた銃を取り出した後、エレナを見た。


「エレナ‥恐らくここにカトレアさんがいる。しかし‥ここから危険になると思う。ついてくる覚悟はあるか?」


エレナは俺の言葉を聞いて少し黙ったが、


「‥行くよ。危ないなら尚更お姉ちゃんを見捨てることなんてできないよ。」


そう言って俺に強い意志の目を向けて答えた。


「分かった。気をつけていくぞ。」

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