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もし神様がいるなら、この荒廃した世界を救ってほしい。  作者: Naichu
第二章 瘴気渦巻く街
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~番外編~ある女性の憂鬱

司令官オーダーの指令とはいえ、人間に"教える"事はこれが初めてである。機械種同士ならデータ交換で終わりだが、対人間だとそれはできない。


教える対象はエレナという女性の機人種ヒューマノイド。そして教える内容は魔導強化。どうやら機人種ヒューマノイドでありながら魔導が使いこなせていないという。理由は分からないが、初めはデータの内容を言語化すればこの機人種も習得出来ると判断していた。


だが実行してみると、この機人種ヒューマノイドの吸収効率が低い事が判明した。今までの結果を分析した結果、私が口から出すデータ量をこの人間は50%、いや40%も把握してない事が判明した。このペースでいけば、実践レベルまで到達するのに3日と18時間かかる事が推察される。作戦の事もあるし、司令官オーダーに連絡をしておいた方がよいと私は判断した。


それに…かの機人種ヒューマノイドは時折意味不明な行動をとる…。


「…またですか。想像力が足りないんです。」

「…ごめんなさい、みーちゃん。」

「…それでさっきから"みーちゃん"と呼んでますが、それは私の事ですか?」

「うん。」


ここも理解不能である。つい30分程前に私を"ミア"と呼んでいた。でも今は"みーちゃん"に変更して、私に言っている。何が違うのか…。同じ呼称であれば差異はないはずである。


以上の事例から総合的に判断すると、この機人種ヒューマノイドは私達機械種にとって理解不能な生き物である。


とはいえ、今後の作戦の事もある。理解不能な種族でも今は司令官オーダーからの指令通りにこの機人種ヒューマノイドに魔導を使いこなせるようにする事が最優先事項である。


私はなかなか魔導を使いこなせない機人種ヒューマノイドを再び指導し始めた。


「…再度伝えますが、魔導は周りのナノマシンを使いこなせるようになる事が基本です。その為にはあなた自身が周囲のナノマシンを感じるようにならないといけません。」

「分かってるんだけど…。でもねみーちゃん、私感じるようにはなってると思うの。こう…煙のような感じなのは分かるんだけど、それをエネルギーに変換するっていうのがよく分からないんだもん…。」

「ナノマシンを感じれるようになっているのであれば、後はナノマシンと共鳴してエネルギーを抽出、もしくは別のエネルギーに変換させればいいのです。」

「…それ!それが分からないの。」


…この機人種ヒューマノイドのこの表情はマイナスの感情を表現していると分析できる。人間の眉の動き、目の大きさ、口角から分析すると、私が話した"共鳴"や"抽出"という言葉の後にこの機人種は表情がマイナスに傾いた。つまり…"共鳴や抽出という言葉は困る、悲しい"という事である。


つまりは"共鳴""抽出"という言葉がこの機人種ヒューマノイドの成長の妨げになっていると判断できる。そしてこれらの単語で共通しているのはどちらも抽象名詞であるので、今度は具体名詞で指導開始してみることにする。


「…仕方ないです。別の方法で教えることにします。あのヒトヒューマンから聴取した内容によると、以前数回程右手から放電を放ったという事ですが、本当ですか?」

「うん…。」

「ではその時の状況を頭の中で想像してもらう事にします。放電現象を発した時どういう気持ちの時だったのですか?」

「えーっと…1回目はアキトが悪い人だと思って"懲らしめてやる!って思ってたかなぁ。2回目は敵にやられそうになって、"何とかしなきゃ!"って思った…?」


1回目と2回目の共通点は…。


「…つまり感情が高まった時に起こっているわけですか。」

「そう…なるかな。」

「それらの事例を客観的な視点から、感情が高まった時に無意識に周りのナノマシンと共鳴して放電現象を起こしている事が判断できます。」

「な、なるほど。」

「では以上の事から実際に自分の感情を高めてやってみてください。私はその間に司令官オーダーに報告しなければいけない事があるので一時的に退出します。」

「分かった。頑張ってみる!!」


…表情がプラスに傾いた。やはり具体名詞での説明の方がこの機人種ヒューマノイドは理解しやすいと判断できる。


しかしこの説明は負荷が大きい。具体名詞での説明は時間もかかるし説明方法の選択肢も多い。処理量は多いが作戦実行を最優先とする為、このまま継続するべきと判断した。


ウィーン…


訓練している機人種ヒューマノイドを確認し、訓練室を出た私は廊下を右に曲がり突き当たりのエレベーターから地下5階の司令室に向かった。


地下5階に到着した後、エレベーターを出た突き当たりの部屋が司令室である。NN回線《※》を使用し、司令官オーダーはこの部屋に1人のみいる事は判明している。


ウィーン…


扉が開くと、司令官オーダーは私を迎えてくれた。


「やぁMID08A。どうだい?エレナさんの調子は?」


人型の機械種同士での会話を介した情報のやり取りは、人間らしく振る舞うようにあらかじめプログラミングされている。私もそれに従う事にした。


「…駄目です。あんなに時間かけて教育しても彼女に伝わらないなんて…。もう想定外です。」

「ははは。人間らしく顔に出てるよ。まぁ仕方ないさ。エレナさんは機人種だけど、頭まで機械化が及んでないのだから。人間の感情的な部分に左右されるのはどうしようもないさ。」

「…しかし司令官オーダー、こんな回りくどい事して人間の協力を得なくても、我々だけで何とかなるのではないですか?」

「…というと?」

「例えば他の司令官オーダーに解除申請を呼び掛ければ解決するはずです。東京の司令官オーダーは他に52人もいますから過半数の司令官オーダーに解除申請を受理するように呼び掛ければ…。何もわざわざ人間を利用しなくても…。」

「…なるほど。それは一理あるね。いやぁ流石知能回路が備わってるだけあるよ。」

「いえ…立場上私は副司令官サブオーダーなので、進言する権利を行使しただけです。」

「なるほどなるほど…。」


司令官オーダーは少し考え事をする動作を取ったが、しばらくして再び問いかけてきた。


「確かにそちらの方もメリットはあるね。実際現状では人間に機械種の情報や技術を与えているからむしろデメリットの方が大きいかな。」

「では…。」

「だけど、他の司令官オーダー達に今回の件について情報共有した場合、私の管理能力について、マイナス材料として取引されかねない。過半数に渡すとして最低28人もこの情報を提供するのは流石にリスクがある。」

「…。」

「加えて今後、チルドレンから指令が来るとも限らない。その時他の司令官オーダーに今回の件について報告されれば一層私達の評価は下がるだろう。」

「…ですが、それであれば余計人間に協力を求めるのは立場的に危ういかと思いますが…。」

「だから少数に厳選しているんだよ。作戦終了後、いつでも処分出来るようにね…。ふふっ。」

「…なるほど。理解しました。そこまで考慮に入れているのであれば私からこれ以上進言することはありません。失礼しました。」

「いやいや、むしろ進言してくれて感謝しているよ。副司令官サブオーダーとしての役割を適切に遂行しているのが分かったからね。では、よろしく頼むよ。決行はさっきの連絡だと4日後と聞いてるから、そのつもりで進めている。それまでにエレナさんの魔導訓練の向上をお願いするよ。」

「…了解しました。」


ウィーン…


司令室を出た私は再び訓練室へ向かう事にした。


司令官オーダーとの情報共有でこの作戦について理解は出来た。その為に残り4日であの機人種ヒューマノイドの魔導技術を訓練し、最低限の実践レベルまで向上させる事を優先事項としなければならない。


先程の説明方法で少しずつ上達していけば…80%の確率で達成できそうだ。すぐにでも実行に移さないといけない。


ウィーン…


訓練室まで戻ると、あの機人種ヒューマノイドは一生懸命に練習していたが、私を見るとこちらに嬉しそうにやって来た。


「みーちゃん!何とか出来るようになったよ!みてみて!」


この機人種ヒューマノイドの"出来た"という表現はどの程度のものなのか。あまり先程と大差ないと予想しているが…。


「では見せてください。」

「うんっ!」


そう言うと、その機人種ヒューマノイドは目を閉じて、両手を下にかざした。その瞬間…


バリバリバリバリ!


電気が激しくショートした音と共に強い放電現象が生まれ、それは数秒間持続する事が確認できた。


放電現象が消えた後、機人種ヒューマノイドは私を見て嬉しそうな表情を見せた。これは明らかに"成功して満足"という事だ。


「…ねっ?」

「…ようやく出来るようになりましたね。これ位の威力であれば機獣ソルジャー相手でも一撃与えれば機能停止になります。もちろん機体によりけりですが。」

「ほんと!?やったー。」

「では次に、その放電現象を飛ばしてみてください。魔導士は中遠距離を保ちながら戦闘するのが基本です。そうですね…的は向こうに置いてある人形でお願いします。」

「うん、やってみるね、みーちゃん!」


そう言うとその機人種ヒューマノイドはまた両手を下にかざして目を閉じた。


…それにしても"みーちゃん"という呼称は先程からこの機人種ヒューマノイドが絶えず使用している。そして、この呼称の度に表情がプラスに傾いている。プラスの表情の後の習熟度はマイナスに比べて高いし、作戦中も使用する可能性は高い。この機に私の呼称だけでなく、作戦を共に実行する人間ヒューマン機人種ヒューマノイドに対しても呼称で呼んだ方が効果的だと判断できる。


しばらくするとエレナさんから白い光が輝き始めた。


バリバリバリバリ!


「では、飛ばしてみてください。」

「…!」


バリバリバリバリ!


「…何をしているのですか?早く。」

「…!!」


バリバリバリバリ!

「……。」


しばらくするとエレナさんの放電現象は消えてしまった。


「飛ばせないみたい。あはは…。」

「…!」

「そんなはずはないです。魔導士は常に魔導を維持できるように集中力と想像力を常に維持する必要があります。」


私がそう言うと、エレナさんは少しの間黙った後、恥ずかしそうに答えた。


「私、集中力あんまり続かないんだよね。でも魔導は前より簡単に出来るようになったし、上々かなー。」

「……!」


結果は失敗に終わっているのに、表情はプラスに傾いている…。これは…"失敗して満足"と判断できるが、私が一番起こり得ない事例と判断していたのだが…これもあり得るのか…。


やっぱり機人種ヒューマノイドは理解不能である…。


~番外編 おわり〜

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