表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

教会・26


その日帰ったのは夜も更けてからだった。


ジルは色々調べてみると言っていた。

リリアに出来る事は何も無いのだろうかと考えてはみたが、余り妙案は浮かばなかった。

寝台で横になっていると、様々な考え事が頭を巡り中々眠りにつけなかった。

漸く外が白み始めた頃、少しの睡眠を手に入れた。



それから七日後の事である。

ジルからは連絡は来ず、逆に時間がかかる事が事態が悪くなっている証拠の様に思えた。

そろそろリリアからジルに進捗を伺ってみようと考えていた頃だ。

朝、起きると屋敷が俄かに騒がしい気がした。

身支度を整え、屋敷の騒ぎの在り処———エントランスホールに行くと、父ヨゼフが出て行く所だった。


「リリア」


母エリザベートが不安そうに階段の途中で立ち止まっているリリアを呼んだ。


「リリア、大変な事になった。ここも安全では無いかもしれない。エリザベートと準備が済み次第街を出て領地に向かって欲しい」

「何事ですか?」

「反乱だ」


リリアはどきりとした。

ジルに聞いていたより事態は早く進展している。


「私は王城へ向かう。リリア、母様を頼んだぞ?」

「お父様!」


ヨゼフは一つ頷いて屋敷を後にした。


「リリア、大丈夫よ。さ、準備をしましょう」


エリザベートが言う。


結局、リリア達は明日出発する運びとなり屋敷はひっくり返した様な大騒ぎになった。

反乱軍は、街の中をゲリラ的に動いているらしく、安全な場所は街中には無さそうだった。

夜中に銃撃の音が上がり、リリアは叫びたい気持ちを抑えてエリザベートと固まって眠る事になった。


翌日早くに馬車にエリザベートと乗り込んだ。

侯爵家所有の馬車で一番質素な目立たない物を選んだ。

街中は朝早くだと言うのに、喧騒が蔓延っている。

特にロマネ国立図書館のある方角は火の手が上がっているのか、黒煙が見えた。

そのすぐ近くには王城がある。

父がいる。

ユングも居る筈だ。

そして、ジルも———。

リリアは混乱しながらも自分に言い聞かせていた。

父とジルは前の時間軸では死んでいない。

そして、ユングも多分大丈夫だろう。

リリアが死んだだけなのだ。


———大丈夫、私が間違いさえしなければ、大丈夫。


ユングには会わないつもりだ。

どんなに懇願されようとも誘いには乗らない。


ジルを悲しませたくない。

リリアはそう心に決めていた。


街から避難する長い行列に混ざった。

凄い数の馬車や歩きの人間が少ない家財を持って大軍を成して移動していた。

中々進まぬ行列に焦りだけが増し、怒声が上がる。


数日前までの静かな景色が嘘の様に地獄と化してした。


幼い子供が泣き叫んでいる。

武器を手にした男達が黒いローブを纏い行軍している。

若い娘が倒れた老人を支え、何事か喚いている。

それを邪魔そうに押し倒し、我も我もと先に進む人間。

人間。

人間。

人間。

総てのありとあらゆる負の感情が洪水となり濁流となり、街中を渦巻いている。


エリザベートは気丈にリリアを抱き締めながら、大丈夫と呟いていた。

しかし、その声は震え小さく頼りなかった。

不安の芽が人々の心に育っていた。


悲鳴。

怒声。

遠くの銃声。


カーテンを閉め切った馬車の中で二人が震えていると、馬車の扉が何者かに破壊された。


「リリア・バルドーだな?同行願いたい」


リリアは、心中で咄嗟にジルに詫びた。

あれ程気にかけてくれたのに、無駄になってしまう。

足音の様に静かにリリアに忍び寄って来た。

死の気配が。












「手荒な真似はしたくないんだ。リリア、一緒に来ると言ってくれ」


リリアが母を置き去りに、あの教会に連行されるとロペスがいた。

神父———恐らくヒュブノスも居る。


「計画は寸前で破綻した。ユゼフファルスコット殿下が継承権放棄を予定より早く申し出た。エデンに至る鍵を手にする為に反乱を起こしたが、セルケト家が持ち出そうとした時にガレルが企みに気付き水際で防がれた。後はユゼフファルスコット殿下を殿に革命を起こすしか手立ては無い。だが、殿下は貴女が共に居ないと動かないと申される。もう我々には時間が無い。一緒に来て頂きます」


ヒュブノスはいつもの微笑みを狂信的に歪めている。

リリアは冷や汗が頰を伝うのを感じる。

こちらの恐怖心を悟られまいとリリアは極めて冷静に対峙した。


「ユゼフファルスコット殿下はどちらですか?」

「殿下は今こちらに向かっています。時間はさして掛からずに来られるでしょう。それまでに貴女の返事を聞いておきたいのです」

「殿下と直接話すまでは決め兼ねます」


なんとか時間稼ぎがしたかった。

ジルは前回の時間軸ではリリアの死には間に合わなかったと言っていた。

しかし、総てを知っているジルならば流れが早くなっているとは言え必ず来てくれるという確信があったからだ。

それもユングが来る前でなければいけない。

かなり微妙な戦だったが、リリアはジルを信じていた。


「それはなりませんね」

「リリア、お願いだ。一緒に来るといってくれよ。お前を殺したくねえんだ」


リリアは目を見開く。


リリアを殺したのは、ユングでは無かった?


絶体絶命の事態に、指先から冷たくなるのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ