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バルドー家・20


「風が暖かいな。もう夏だな」


ジルは呟いた。


「ええ。夏は苦手です」


「ああ、そうだったな。君がまだ十歳くらいの頃、貧血を夏場起こして倒れたことがあったな」


「ありましたか?そんなこと」


「以前は私が行く日は侯爵邸のエントランスの外に出て待っていてくれたんだが、君が暑さにやられて倒れてからは応接間にいる様に言ったんだ。君は少し怒っていた様だった。まだまだ幼かったんだな」


懐かしそうにジルが懐古する。

ジルは、リリアが冷たいと思ってばかりいて避けていたが、昔から心の底まで冷たかった訳じゃなかったのだ。

そういえばそんな事もあったと思い出した。

リリアが目を背けた事が、二人の関係を冷めた物にしたのだろうか。


「リリア」


ジルに呼ばれて視線を移す。


「君が今持っている悩みは何れ解消されるだろう。その時、悔んだり自分を責めたりしないと誓ってくれ。私は、どんな結果になろうとも、満足している。それだけは覚えていて欲しい。そもそも二度同じ機会が巡ってくるなど、普通有りはしないのだ。今回の逆行は、私にとってはおまけの様なものだ。だから、私の事を気に掛けて大切な事を見失う真似はしないでくれ」


真剣な面差しだった。

リリアは、言葉も無く頷いた。


「今、私の知っている未来よりも事が早く起こっている。でも心配しないで欲しい。必ず君は私が守るから」


「ジル様がタイムスリップしたと言った日に語ってくださった事、本当は違うんですよね?」


リリアには確信めいたものがあった。


「それは言えない。だが、心配しないで欲しい。君は自分の心にだけ従って欲しい。そして、ただ生きる為の選択をして欲しい」


「分かりました」


頷いて、二人並んで馬車に歩き出した。

ジルは余り多くは語らずに何かを考えている様だった。

侯爵邸に到着すると、ジルが言った。


「来月頭に王城で第一皇子の立太子記念祝賀会がある。君に一緒に参加して欲しい」


リリアは首肯すると馬車から降りた。


夏の明るい夜の中、馬車が道の先に吸い込まれて消えるまでリリアはじっと見守った。













ジルとヴェンクリフト・アベルに行った翌週、ヴェンクリフトが屋敷に訪れた。

ドレスのデザイン画を持って来たらしい。


「レディ、こんにちは!またお会い出来て大変光栄です」


ヴェンクリフトは片腕を胸に、もう片方を背中に回し礼をした。


「ようこそいらっしゃいました。またお会い出来て嬉しいです」


リリアが笑顔を浮かべて挨拶すると、ヴェンクリフトは早速革のケースから紙束を取り出した。

ジルは今日は居ない。


「取り敢えず、先ずは白色のドレスから決めましょう!」


ヴェンクリフトは、五枚の紙をリリアの前に広げた。

どれも溜め息が出る程美しい。

リリアの細身の背丈の高い身体に合う様なデザイン画ばかりだ。

ナタリーがそっと茶をリリアとヴェンクリフトの前に置く。


「お嬢様、どれも素敵ですね」


笑顔で嬉しそうだ。


「迷ってしまうわ。本当に素敵だから」


「じっくり検討してください。改善点を仰って下されば手直し致しますよ」


ヴェンクリフトは、失礼、といって上着を脱ぎ、シャツの袖をまくった。

ヴェンクリフトの上着はナタリーが預かった。


「古から伝わる運命を占うカードで、白というのは始まりや純粋、光という意味があるそうです。正に結婚という門出には欠かせない重要な色であります。今回のドレスでは、その人生、運命をモチーフにした物を描いてきました」


ヴェンクリフトが紹介した五枚の紙に描かれているドレスは、どれもヴェンクリフトならではの宝石をふんだんにあしらったデザインが特徴だった。

実際に出来上がったドレスはさぞ美しいのだろうと容易に想像出来た。


「これか、これ。どちらかにしたいです。ジル様にも見ていただきたいので。それから決めても?」


「勿論!大変結構ですよ!」


ヴェンクリフトはリリアの選んだデザイン画を見て満足そうだ。


「次はこちらです。ピンクは愛情、幸せ。イエローは輝き、繁栄などの意味があります。あとは……これはカードでは余り良い意味は無いのですが、レディを見た時に真っ先に浮かんだデザインなのです。勿論選ばなくて結構。見てくださるだけで良いのです」


ヴェンクリフトはピンクの愛らしいドレス画とイエローの爽やかなドレス画と一緒に黒に銀糸が走るまるで夜空の様なドレス画を差し出してきた。


「まあ!素敵です。確かにお嬢様に似合いそうです」


横から覗き込んだナタリーが歓声を上げる。


確かにとても素敵なデザインだった。


薄くベールを一枚被せた眩いばかりの星空のドレス。

そんな印象だった。


「素敵。こんなに素敵なドレス見た事がありません」


思わず感嘆の息を漏らす。


「必ず気に入って下さると思いました。しかし、これはもう少し簡素にして夜会用に仕立てるのがよろしいかと思います。余りにもカードの意味合いがよろしくありませんので」


ヴェンクリフトはそう言った。


「因みに意味は?」




「闇、終わりです、レディ。しかし、悪い意味ばかりではありません。転換期と捉える事も出来ます。結婚式にある意味相応しい色とも言えるでしょう」


ヴェンクリフトは年相応の余裕を見せた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ジルは何を知っているのでしょう。 う~ん。気の持たせ方がお上手です。
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