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国立図書館・12

リリアはジルを見上げた。


「いいえ。そんな事ありませんよ。心配してくれたんですよね?でも、ロペスさんもそうだったと思います。私がジル様と余り仲が良くないと伝えていましたから。もし次に会う機会があれば、謝ってくださいね。私も謝っておきますから」


「わかった。会う事があれば、そうしよう」


ジルは頷いて納得した様だった。

ジルは、リリアを馬車から降ろすと、じっとリリアを見つめてから馬車に乗り込み去って行った。


リリアは、ジルの馬車が道の先に消えるまでずっと見送っていた。












我々は預言者タナトゥス様が受けた神の啓示を元にエデンを目指します。


その為には立ちはだかる幾多の困難を乗り越えなければならないのです。


しかし、その乗り越えた数だけ魂は磨かれ、浄化されるでしょう。


そうして辿り着いた先にエデンは開かれるのです。


我々の行く先に、ベルク神はいつも微笑みと慈愛を下さります。


タナトゥス様が示された道は、けして楽な道ではありません。


数多の犠牲を払うでしょう。


時には道を間違えてしまった邪教徒が阻む事もあります。


しかし、タナトゥス様は仰いました。


———我々の行く先に必ずエデンがある様に、ベルク神はいつも見守っている。


そう仰ったのです。



———タナトゥス予言の書 著・マルク———













リリアはその日、国立図書館に向けて馬車に乗っていた。


街並みは灰白色の煉瓦で統一されている。

建物は等しく灰白色の煉瓦で構成され、高さが揃えられるようになったのは、今から三百五十年程前のロマネスコ・二世の時代だ。

当時の主流は木造建築であったが、原理派と、もう一つの宗派であるカッシーリ派との第二次宗教戦争が起こった際の戦場が、この街だった。

苛烈を極めた戦いは、街の全てを尽く焼き尽くした。

民間人含めた多大な犠牲を払った戦争は、この街を皮切りに、聖教国でも同時多発的に起こった。

結局、このロマネ王国と聖教国の友好国である、ワルサワ国並びにアルメティア国の介入により、カッシーリ派を退けた。

そして、それまではロマネ王国にも三分の一程居たカッシーリ派の教徒達は改宗を迫られ、迫害された。

幾らかのカッシーリ派は、ロマネ王国を去った。

カッシーリ派が盛んな連邦国方面に逃れたと聞くが、リリアは詳しくは知らなかった。

余りにも昔の話だからだ。

しかし、街並みがこうなった理由は知っている。

当時の焼き尽くされた街並みを忘れず、新たな時代を築こうとロマネスコ・二世が厳しく定められた条件の元、街並みは一新し、煉瓦造りになったらしい。

美しい街並みは、この街のシンボルだ。

と同時に、追憶のシンボルでもある。


そんな街の路面は、灰色の煉瓦が敷き詰められている。

その為ガタゴトと揺れがあり、尻が痛い。

リリアは我慢しながら、ひたすらに耐えた。


街並みの先、ひたすら巨大な建物が見えた。


このロマネ王国随一の蔵書を誇るロマネ国立図書館である。


これもロマネスコ・二世の時代に当時の一流建築家や芸術家を集めて造られた建物だ。

美の結晶だ。

その国立図書館の奥には王城が見える。

リリアは、図書館の奥に聳え立つ宮殿を見る。


本当に、ベルク神の系譜な訳では無いと思う。

神の子などと、夢物語だ。

それでも畏怖してしまうのは歴史の深さがそうさせるのだろう。


一度夜会で見た王族は妃殿下を除き、皆老婆の様に白髪であった。

妃殿下であっても、系譜ではあるらしく、白髪に近いブロンドだ。

ビスクドールの様な作り込まれた美しさ。

この世の者とは思えない美しさがあった。


ガレル公爵家も王族の系譜を持つ家系だ。

最初にロマン王の忠臣であったヴァン・ガレルにロマン国王の娘が嫁ぎ、数代に渡り血を分け合った。

その内奇妙な事に子が出来にくかったり奇形を有する子が生まれる様になった。

その為、何代かに一度、ヴァン・ガレルの側近であった四代侯爵家から血を取り込む。

それは大変名誉な事である。

バルドー家は、ここ二百年の間ガレル公爵家に嫁いだ者が居ない。

久々に指名されたバルドー家は大いに湧いた。

それがリリアとジルの政略結婚だ。


ジルは淡い金髪を持つ。ガレル家の証である。


尊ぶべき血筋なのだと主張する髪。


それが、ジル・ガレルなのだ。


国立図書館の前で馬車が停まる。


リリアは降り立ち、図書館へと歩みを進めた。


荘厳な建物は四角く厳しい顔の彫像達が等間隔に並んでいる。

見下ろされている様だ。


石造りの建物は、牢獄の様にも感じる。


あの物語の男の様に。


捕らえられてしまいそうだと感じる。



運命という牢獄へ———。









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