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教会・11



「お待たせしました」


屋敷の門前に馬車を停めて、降りて待っていたジルの元に着いた。

ジルは懐から取り出したシルバーの懐中時計を見ていた。

胸ポケットに仕舞うと、懐中時計のシルバーチェーンが装飾代わりに黒のフロックコートに色を添える。

黒と白のツートーンストライプのパンツがより脚を長く見せていた。


「いいや、待っていない」


嘘をつけとリリアは思う。

懐中時計を見ていたじゃないか。

以前のジルは待たされて苛立っている時に懐中時計を見る癖があったのをリリアは知っている。


「行きましょうか」


リリアは指摘せずにジルの手を借り馬車に乗り込んだ。

教会は町外れに大きな広場を有して立っている。

孤児院も兼ねているから敷地だけは結構広い。

周りには木立がある。

バルドー家含むいくつかの貴族の出資により支えられている。

教会本部は聖教国にあるが、今日行く教会は、この国にある教会としては大きな方だ。


教会に着くと、二人して教会堂の中に入る。

前の人に続き、木製のベンチに座る。

この国の殆どの者が信仰している聖・ベルク神。

聖教国の始まりの神にして、この国の初代建国王、ロマン・フェリスの父であると伝えられている。

つまり、現在の王族は神を始祖に持つ血統だということだ。

ベルク神の教えは解釈の違いや習慣、時に権力争いなどで宗派が別れ、現在は大きな宗派としては二つある。

その二つの宗派ですら、細かな違いがある。

この国は聖教国と同じ宗派に属している為、原理派である。

聖・ベルクが与えたもうた聖典こそが真実とし、信仰している宗派である。

その為、この教会も原理派の教えを説いている教会だ。


祈りの時間が始まり、人々は静かに黙してベルク神へ祈りを捧げる。












「リリア!」


お祈りが終わり、ジルと教会堂から出た所でロペスに声を掛けられた。


「ロペスさん、こんにちは」


リリアが笑顔で返す。


「今日は孤児院には寄って行かないのか?」


ロペスはリリアの前まで来ると、例の如くリリアの頭を撫でる。


「だから、痛いのよ!ロペスさん力が強いから」


リリアが非難するとロペスは笑う。


「悪いな。所でそちらは?」


「ああ、こちらはジル・ガレル様よ。今日はご覧の通り連れがいるから帰るつもりよ。こちらロペスさん。見習い神父様なんです」


「どうぞ、よろしく」


ジルが差し出した手をロペスが取り、二人は握手を交わしている。

平均の成人男性より身長の高いジルよりもロペスの方が高い。

おまけに戦場で培った肉体は衰えを知らず、がっしりしていて更に大きく見える。

ジルは着痩せするタイプなのか、余計にロペスの体格が際立った。

顔立ちも、血筋の所為か繊細な雰囲気のジルと、野趣あふれる如何にも軍人といった印象のロペス。

真逆の様な二人である。


「この人が例の婚約者か?」


リリアの耳元にロペスが近付き囁く。

リリアは首肯で返す。


「私の婚約者に気安く近付かないで頂きたい」


ジルがリリアとロペスの間に割り込み、リリアを背に隠す。


「聞いていた印象と随分と違うな」


ロペスは気を悪くするでも無く、ただ驚いている様だ。


「ああ、彼は……えーと、そうね。変わったの。ここ最近ね」


言葉に詰まりながら説明すると、苦しい気がした。

ジルの背しか見えないリリアには、ロペスの表情は読み取れない。


「そう、私は変わった。彼女のおかげでね」


ジルは背後にいたリリアを片手で手繰り寄せ、すっぽりと抱き締めると、つむじの辺りに唇を当てた。


「何をっ!」


リリアが動揺のまま短く叫ぶ。

頭頂部とはいえキスをされた事もリリアは初めてだった。

十五年間で初めて。

それがこの様な見世物の様な形で済ませるなど、リリアには信じ難い行いだった。


ロペスが咄嗟にリリアを抱くジルの手首を掴む。


「おふざけが過ぎるんじゃねえか?」


「私の婚約者だ。何か問題でも?」


ジルとロペスの間に緊張が走る。

見上げたジルの眸は、以前の様な冷酷な揺らぎが浮かんでいた。


「私は大丈夫です!ですから、どうか」


リリアが不穏な気配を感じて仲裁に入る。


「そうか、口を挟んですまないな。懲りずにまた来てくれ」


ロペスは踵を返して礼拝堂の裏に足早に去っていった。


ジルは無言でロペスに掴まれた手首を見つめていた。













帰りの馬車は散々だった。


ジルは終始無言で、以前のジルに戻った様でリリアは怖かった。

ロペスとジルは馬は合わないだろうとは思ってはいたが、想像以上に相性が悪かった様だ。

しかし、馬車を降りる段になってジルに謝罪をされたのは、少し嬉しかった。

以前のジルからは想像も付かなかった事ではあるが、今のジルならば、納得出来る態度だった。


バツが悪そうに短く、


「君の大切な場所にケチを付ける様な真似をして悪かった」


その一言が嬉しかった。

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