一月頃
10数年前のことでした。
「おーよしよし。」
「ワンワン」
「お父さん! なんでラッキーを家の中に入れているの!?」
そこにいたのは、明らかに酔っぱらっている父と、庭で放し飼いにしている犬のラッキーがいた。家に入れないようにしていたはずが、飲みに付き合う相手が欲しくて引っ張り込んだらしい。
父が大好きなラッキーは初めての家の中で大喜び。尻尾を振って父の足元でお座りをしている。
「いやだって、ラッキーが見上げてくるから……はい」
「それ唐揚げじゃん!!」
その後、ラッキーはガラス戸を自力で開ける方法を覚えてしまい、夕飯時になると家族の足元でお座りをして待つように。
わんこの上目遣いに誰も叶わず、肉の大半を取られることになる。
そして現在。
「ほら、ちゅーるだぞ。」
「にゃー」
「お父さん! おからはもう一本あげているから、もうあげちゃだめ!」
「大丈夫大丈夫。」
くろすけ改めおからは、男の人が怖いのか、父が近寄るとすぐに逃げ出してしまう。
一番近くに寄れるのが、ちゅーるをあげる時だとわかっている父は、ついつい手ずからあげてしまうのだ。こんな時はチューブ状にしたペットフード会社に文句を言いたくなる。
甘え鳴きを覚えたおからは、せっせと鳴いて自分の好物も差し出させん、ともくろんでいる。
「あ、食べ終わったら帰った。」
「この辺がまさに野良ちゃんって感じだな。」
父は寂しそうに、おからがいた庭先を眺めている。
ラッキーは、人が大好きでどんな相手にも、尻尾を振って撫でさせてくれたが、おからは、猫の気質もあって、決して触らせようとしなかった。
生きた生き物の温かさに飢えている両親は、また生き物を飼いたいと保護犬を探したりしてはいるものの、年齢などを理由に断られがちだ。そんな時に姿を見せたのがおからだった。
両親がおからに夢中になる理由もわかる気がした。
「でも、ちゅーるは1日一本だからね。」
「だめ?」
「だめ。」
時々、悲しくなることもあるものです。
ストックが切れましたので、不定期更新になります。