第83話 新築屋敷説明会
ようやく書けました。
屋敷のあちこちを集団で移動しながらロビー、風呂場、厨房、トイレと色々と説明していると皆口をあんぐりとしていた。唯一違和感を感じなかったのはリィサ達だけだった。彼女達が違和感を感じなかった理由は俺が持つ【惑わしの馬車】のトイレや風呂場で見慣れているからだ。
だが一度も見た事の無い人達が、これまた大変だった。一箇所ごとに驚きの声を上げ、これは何?あれは何?と質問攻めにあいながら一つずつ丁寧に説明していった。特にゴリラ侯爵一家の騒ぎようが凄かった。ここが自分達の新しい屋敷になるんだとものすごくはしゃぎ周りイルディオさんやメイドの人達も巻き込んでいた。特に喜んでいたのが風呂場でこんなに広く作ってくれたのか!と大喜びだった。主に侯爵とクラレさんが・・・。きっとあの二人の頭の中には既に良からぬ事でいっぱいなのだろう、お互いにくっつきあってイチャイチャしてるし。この感情がアレか・・・爆発しろってやつなんだな?初めて知ったよ。
それにしても、ここまで喜んでくれるのは嬉しいものだ。向こうに居た時は、見習い程度でしかなかったから言われた作業だけをこなしてるのが精一杯だった。この世界に来て自分が思うように色々な物を作るようになってそれが人に喜んでもらえるというのはなんとも言えない気分だ。
さて―屋敷の説明に戻ると次に喜んで貰えたのはトイレだった。なんと言っても今までのトイレは穴を掘ってそこに落としてるだけのような物だった。それを定期的に処理して使用を続けるというまるで田舎のトイレであるポットン便所を思わせるものだった。それが、だ。俺が作ったトイレは水洗式の洋式便器を設置したものなので今までの様に穴を掘って使う物では無くなったし、何より定期的に処理作業を依頼する必要が無くなった上喜ばれたのが臭いに関する事だった。この世界のトイレは衛生的にも良いとは言えない物で、リィサ達も【惑わしの馬車】のトイレに慣れてからはずっとそっちを使う様になった。臭わないし衛生的で見た目も綺麗とくれば以前のトイレはもう使えないだろう。
そんな事もありこの新しいトイレは彼らにとって革命とも言える物だったようで、とてもありがたい!と大喜びであった。なんせこのトイレを説明し終えたあとに侯爵から追加で報酬を出させてほしいとまで言われたくらいだ。一応ある程度もらえる事になってはいるが、無理はしない程度で良いと伝えておいた。
次に喜んで貰えたのは厨房だった。便利さがとても高評価だった、主にメイドや料理人の方達にだ。
まず流し台だが、以前の物は石造りのもので排水も排水口があるとかではなくそこに水を貯めて汚れたら水を捨てに行き新たに水を貯めて洗い物をするを繰り返すのが、この世界の常識だった。しかし、俺が作った無害化機能付シンクは排水口もしっかりと設けてあるだけでなく、現代におけるディスポーザーとも言える物まで備えてあるのだ。そのあまりにも便利な使用に一部のメイドさんや料理人の人は感動のあまりに泣いてしまう程だった。
自動排煙装置と火力調整付の魔力コンロもそうだった。まず火力調整付のコンロに関して言えば以前の様に薪を焚べて火を起こさずに使える上になんといっても火力を細かく調整できる事が良かったようだ。これで火加減を間違える事なく料理が出来るし、ちょっとしたお茶などを沸かす際にもわざわざ薪を焚べていちいち火を起こさないですむのが非常に助かるとも言っていた。そして自動排煙装置だ、これに関してもかなり好評で煙が厨房に篭もらないというのはかなり仕事がやりやすいと言っていた、薪を使用しての料理は薪からでる煙だけでなく、料理そのものからも煙が出るものもある上に調理中の匂いが強い物もあって結構しんどかったらしい。だがこれがあれば煙も目に染みないし、匂いが強い調理をする際にも衣服に匂いがうつらずに済む、と大変好評であった。
おぉ!そういえばメイドさん達に好評といえば外壁に使った【発温石】もそうだった。この地域は普段はとても温かく非常に過ごしやすいのだが、時折急に冷え込む時期があり、その時は寒くてとても辛いと言っていた。何故辛いのか?それは彼女達の衣装に原因がある、彼女達メイドの衣装は意外と薄手で透ける程まではいかないが、現代で言ってみれば年中夏仕様みたいな服装なのだ。だからといって袖が短すぎるとかスカートの丈が短すぎるとかではなく、単純に薄いだけなのだ。しかも、メイドやイルディオさんの様な家主やその家系の世話をする人達は日中は掃除や洗濯、食事の配膳などの仕事がない場合は屋敷のあちらこちらで待機していつ呼ばれても良いようにしておかないといけないらしい。そうなってくるとどうしても何処かで待たないといけない時がある。そしてそれは温かい時は良いのだが、寒い時期になると部屋以外の廊下やロビーなどの場所は外気が吹き込んできてとても寒くてやってられないと言っていた。だが、今回屋敷に採用した【発温石】のお陰でそれも随分緩和されそうだと喜んでいた。
今の時点でかなり喜ばれてはいるが使っている内に、やはり使いづらいという事も出てくるはずだ。その場合は遠慮なく連絡してくれるようにいってある。近い内にはここから離れて王都に行く予定なので、侯爵あたりにでも伝えてくれればいいだろう。侯爵も今ではないが近々用事を済ませる為にクラレさんを随伴して王都の屋敷に滞在すると言っていたのでその時にでも聞く機会もあるだろう。
此処までが屋敷に関する事だった、屋敷の新築作業は概ね喜びで迎えてもらえてホッとしている所だった。そして、屋敷の完成に伴いいよいよ報酬に関する話し合いが行われる事になったのだが、ここでちょっとしたトラブルに見舞われた。
「ユーラ殿!今回の屋敷の修理はとても素晴らしいものであった、この依頼に対してそれなりの報酬を考えておる。まず手始めに金を払わせてもらおう。白金貨5枚でどうだろうか?」
侯爵の提示した金額を聞いた俺のパーティメンバーがえぇっ!と大声を上げた。ん?白金貨5枚って幾らくらいだっけ?えぇっと確か銅貨一枚が100円だったな?で、白金貨の銀貨・金貨そして間に大の付くのも合わせて計算すると・・・・・ご、5億円!ま、マジで!そんなに貰えるの!?
「えっと?侯爵様?流石にそれはちょっと・・・。」
家一軒を建てたのは確かに面倒ではあったが、これも自分の修行も兼ねての事だ。あまりに過分な報酬は気が引けてしまう。しかし、俺は遠慮して言葉足らずになっていただけだったのだが、侯爵は勘違いをしてしまったようだ。
「うむ?やはり少ないか・・・イルディオよお前はどう思う?もう少し出すべきだろうか?」
「そうですな・・私の領分では無いので絶対とは申せませんが、白金貨8枚はくだらないかと。」
「やはりそれぐらいはくだらないか・・確かに屋敷の何処を見ても素晴らしい出来であった。特に儂らの寝室は最高の作りであったしな。アレは実に良いものであった、クラレのやつも喜んでおったしな。しかし、それでは幾らが妥当なものか・・。」
ヤバい!ここで多すぎるので減らしても問題ないと言わないと、この侯爵ならそのままポーンと俺に支払ってきそうだ。俺は侯爵に多すぎるので減らしてくださいとお願いしようとしたが、例のダンディさんが俺のよりも先に侯爵に助言をしてしまった。
「ゴリニテ侯爵よ、ケチな事を言うものではないぞ?聞けばお主の娘のカミラ嬢も彼に嫁ぐというではないか。ここは義父として盛大に払ってはどうだ?」
「おぉ!それもそうですな!しかし・・スルト殿参考がてら教えて貰えないだろうか?」
「そうだな・・・立派な外観、見た事もない様な素材を用いた数々の道具に緻密に作られた各部屋、それから察するに・・・うむ、白金貨10枚ってところではないだろうかな?」
「ふむ白金貨10枚か・・・確かに悪くないな。というかこれでも少ない気がするが、ユーラ殿白金貨10枚でどうだろうか?」
決断したかのように準備していたであろう見た目の良い革袋から白金貨を10枚取り出しテーブルに置いた侯爵。愕然である、減るどころか増えてしまった・・しかも2倍に。幾らなんでも貰いすぎだと思い3枚くらいにしてもらおうとしたら、横から手が伸びてきてそれを受け取った人物がいた。
「あら、お父様。こんなに奮発されるなんてユーラさんが認められたようで私とても嬉しいですわ!」
カミラさ~ん?ナズぇ、アナタガウケトルノデスカァ?イカンイカンつい似非外国人みたいになってしまった。取っちゃ駄目だよ!返しなさい、多すぎるでしょ!とカミラさんの手を取りお金を返そうとしたが、【ハイ・テレパシー】でレナリアさんが俺を止めてきた。
『ユーラさんカミラさんを止めてはいけません。そのお金はユーラさんの行動に対する正当な評価です。今はあまり多くは言いませんが、そのお金は今は何も言わずに受け取ってください。受け取ったお礼だけを言えば良いのです。』
『でもですね・・・。』
『駄目よユーラ?レナリアさんの言うとおりよ。今回は何も言わずにお金を受け取って?理由は後でちゃんと話すから、今は、ね?』
『わかった・・・後でちゃんと説明してくれよ?』
『ハイ、ちゃんと説明させていただきます。では後で・・それと今の状況はしっかり自分でどうにかしてくださいね?』
『ん?今の状況って?』
『ユーラ今あなた自分が何をしてるか、わかってる?良く見てみると良いわよ。』
二人に言われて今の自分の状態を見ると・・俺はお金を取ったカミラさんの手を握りそのままの状態で見つめ合う体勢のままだった。その為かカミラさんは顔を真っ赤にしてうつむいており、その状況を見ていた侯爵はフムフムと言って満足そうな笑顔をしていた。そして、その横を見やればクラレさんが頬に手を添えてアラアラとか言ってる。そして更に周囲を見渡せばイルディオさんがハンカチを目に当てて涙を拭っているような仕草をしており、更にそのそばを見ればダンディさんがほんの少しだがムスっとした表情をしていた。ヤバい!これじゃあ嫁さんの両親の前でイチャついてる様にしか見えない!!そしてそんな状況の中で俺が場を取り繕ったうまい言い訳を出来るわけもなく、この場を更に引っ掻き回す言葉を発してしまう。
「か、カミラさん、こ、このお金があればいい結婚式が上げられそうだね?」
「~~~~~~~~!!!は、はい、す、末永くお願いします。」
そんなつもりは無かったのだが、とにかく侯爵やクラレさんに怪しく思われないようにどう切り抜けようとした結果がこれだった。もちろんその言葉を聞いたカミラさんは俺の言葉を聞いて悶絶して今にも気絶しそうになり、レナリアさんやリィサに至っては自分たちはまだそこまで言われてないのにズルいとか言ってくるしで、とんでもない事になってしまった。
そして、俺たちのやりとりをそばでずっと見ていたダンディさんがずっと鋭い視線を俺に向けていたのを俺を含む皆が誰も気づくことはなかった。
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