第69話 意外とタフ
少し時間が掛かってしまいました。
セルスが何かを聞きたそうなので、こちらから尋ねてみる事にした。
「セルス…もしかして俺に何かを聞きたい事があるんじゃないのか?」
自分が見ていた事もあってか俺が来るのを予想していたようで、直ぐに俺に聞いてきた。
「ユーラさん…もしかしてここの人達がどうして死んでしまったのか…分かっているのでは無いでしょうか?もし、よければ聞かせてもらえませんか?」
「わかっているというよりは、ある程度予想出来るてるってだけだよ?確証がある訳じゃないよ。」
「それでも構いません、教えて下さい。お願いします!」
「わかったよ、でもどうせなら皆で聞いて欲しい。情報はある程度共有しておいた方が良さそうだからね。それでも良いかな?セルス。」
「はい、それでお願いします。」
俺は一度部屋を出て皆を集めて過去にこの部屋の中で起きたであろう事を話してみた。途中色々な解釈が入りはしたが、概ね俺が予想した通りではないか?となった。
話終えた後にセルスにどうであったかを聞いてみる事にした。すると、俺に話を聞いた事で是非俺達に聞いて欲しい事があると言ってきた。
「それで…俺達に聞いて欲しい事って何?」
「はい…それは…私の事…昔にあった事です。聞いていただけますか?」
「それは…俺達に…人に話しても大丈夫な事なんですか?」
「はい、特に問題はありません。出来れば聞いて欲しいです。」
「セルスが問題無いと思うなら話して貰えるかな?」
「えぇ…先程も言いましたが、聞いて欲しくて言ってますので問題ありません。では話させていただきます。」
◇
私は元からこの場所にいた訳ではありません。元は遠く離れた地にいました。
私はサキュバスの中ではかなりの異端児でした。本来なら人や亜人などと性行為をし、その際に相手の精気を奪いそれを自身の命に変換する事で生きていく種族です。なんとなく予想できるとは思いますが、精気を吸い取られた相手はそれだけで衰弱していくのです。私にはそれがとても嫌な行為でした。ですが、一族の皆は言いました。『相手はいい思いをする、私達はそれを対価に命を得る。これの何が悪いのか?』と。
初めの内は一族の皆が私の考えを自分達と同じにしようとして、色々と説得をしてきましたが私は誰の言葉にも耳を傾けませんでした。そして、日にちが経つにつれ一人また一人と私の説得を諦めていき程なくして私の周りには誰一人残りませんでした。そして…その時を境に皆は私を居ない者として扱い始めました。…辛かったです。今まで皆家族の様に過ごしてきたのに、一族の生き方をする事が出来ない私は、もう…家族ですら無くなったのです。
私もしばらくはなんとか皆に馴染もうとして頑張っては見ましたが…無理でした。どう考えても私には一族の皆の様な生き方を選ぶ事は出来ませんでした。結局私は一族が住まう集落を出て行く事にしました。皆と同じ生き方も出来ない、かと言って皆に無視され続ける事にも耐えられませんでした。
このままここにいてもしょうがない…そう思い一人集落を後にしました。私は旅人としていろんな場所を渡り歩きました。小さな村を訪れてみたり時には大きな街では運悪く正体がばれて人間に囚われそうになって逃げたりした事もありました。自分で言うのも何ですが、私はかなり容姿が整っているのでよく人間にも亜人にも狙われました。国の王族、貴族、亜人の集落の長、強者を語る者達、とても様々な人種の者達に何度も狙われ続けた私は日を追うごとに人を信用できなくなっていきました。
私は人里から離れる事にしました。出来れば森の中がいいと思い各地の大陸を長い年数を掛けて渡り歩きようやくたどり着いたのが、この地でした。ようやく安らげる…そう思っていましたが、この地には既に先住民がおり、また別の場所を探さねばならないといけないのか…そう思っていましたが、この地に住んでいた人々はそんな私を快く迎え入れてくれました。
毎日が楽しかったです、汗水たらして働くのも大変ですが生きてる事を実感させてくれました。この地でならサキュバスとしてではなく人として生きていけるのではないか…この時まではそう思っていました。
ある日の事でした、村人の一人に私は呼び出されました。とても大事な用があるといわれたのです。その人は男性で私が密かに恋い焦がれていた人でした。しかし、色々と理由を並べてみても私は所詮サキュバスなのです。彼に告白する様な事はせずに静かに過ごすつもりでいました。
そう決めていたので、彼からの呼び出しは私にもしかしたら…と思わせてくれるものでした。彼に連れられて来たのは綺麗な聖杯が設置されていた広場でした。この村における聖杯は守り神の様なものでとても大事に扱われていました。聖杯から湧き出る水は聖水で、飲めば病気にかからない浴びれば魔物避けにも使え、そのまま聖杯に満たしておけば村そのものが聖域になり魔物を寄せ付けない領域に変化するというものでした。
そんな特別な場所に呼び出された私は少し…いえかなり浮かれていたのかもしれません。しかし私は自分がどういう存在なのかを今一度考えるべきでした…そして、もう少し人を疑う事をするべきだったのかもしれません。
そうすればあの様な思いをせずにすんだかもしれません。まぁ過ぎた事を言っても仕方ありませんね。続きを話す事にしましょう。
呼び出された場所で待つ私の前に彼が現れました。その姿を見た私は、はたから見れば完全に隙きだらけだったでしょう。その隙きが私を絶望に陥れました…彼の後から女性が現れました。
私は動揺しました、何故?とその時の私は自分に脈があると思っていたので、彼が女性を連れて現れた事が信じられないと思いました。そして、彼は私の正面に立ちこう言い放ちました。
『誰が魔物を恋人になどするものか!俺が気づいてないとでも思ったか?思わせぶりに行動してたら気づくに決まってるだろ?俺にはちゃんと人の恋人が居るんだ。魔物は魔物らしく人に使われていれば良いんだよ!』
いきなりその様な事を言われた私は戸惑うの同時にとても恥ずかしい気持ちになりました。気づかれていた!?そんな素振りは見せていないつもりでしたが、気づかれていた事がとても恥ずかしくなり私の心はすごく乱れました。…そしてその隙きを突かれました。
頭に強い衝撃を受けた!と思った瞬間、私はそのまま意識を失ってしまいました。
次に目覚めた時には、私は両手を縄で縛られて吊るされていました。ズキズキと痛む頭から判断するにおそらく彼らに背後から殴られたのでしょう。しかし、彼らの目的がこの時はまだわかりませんでした。
今更ながらに周囲を見渡すと村の男性達に囲まれていました、もしかして私はこの村の男達に性行為の為にこのように乱暴な手段で囚われたのだろうか?そう思っていました。しばらくこの状態でいましたが、何とか力が入ってくる様になったので、取り敢えずこの状況から抜け出そうと魔力を込めて縄を引きちぎろうとしましたが、それは叶いませんでした。どれだけの魔力を込めても魔族特有の身体に物を言わせて腕力だけでちぎろうとしても出来ません。
おかしい…いくら私が女でも魔族ですから腕力はそれなりにあります。人間の成人男性を軽々といなすくらいの事は十分できます。それにこの縄も大した太さはない、私の親指程度の太さなのに…一体どうなっているのか?その答えは私を囲む男達を押しのけるようにゆっくりと歩み出た長老が答えた。
『何故そんな細い縄が千切れないか不思議か?ならば教えてやろうぞ。それはなぁあの聖杯より湧き出る聖水を染み込ませているからだ。魔族のお前を抑え込むのにピッタリであろう?』
『こんな事をして…私をどうする気ですか?』
『ふふ…それはのぅ、お前には新たな生贄になってもらおうと思うてのぅ。そこにある聖杯にはな?何事もなく聖水が湧いてくる訳ではない…ある条件が必要でのう…クックック…。』
『まさか…。』
『おや?薄汚い魔族のくせに気づいたのか?そうじゃ!この聖杯に生贄を捧げる事によってこの聖杯は恵みある聖水をワシラにもたらしてくれるのじゃよ!ただし!ただの生贄ではいけない、多くの魔力を持つ女…しかも処女でなくてはならないのじゃ。今までは3年おきに村の者から選別しておったが…今回は幸運にもお前がワシラの前に現れた!なんという幸運か!これで村の娘達を犠牲にせずにすむ。その点だけはお主に感謝してやろう。』
『そんな…それじゃあ最初から私は……。』
『そうじゃよ!最初からお前は生贄にする為だけにこの村においていたのだ。過去に何があったのかは知らんが、お主…人との繋がりに飢えていたようだったのでな?それを村の者達にいい含めておいたのじゃ!皆協力的だったよ…なにせお前を犠牲にすれば自分の娘を差し出さずに済むのだからなぁ!ヒャッヒャッヒャ!』
私は絶望しました…結局私は誰にもまともに相手にはされていなかった。人として必要なのではなくただの生贄として必要だった…それを聞いた私は既に抗う事をやめました。ただただもう疲れ果ててしまいました。集落からでた直後ならまだしも各地の大陸を歩き渡り追い回されるようにこの地にやってきた私はもうどこかに逃げ出そうとする意思を持つ事は出来ませんでした。
囚えられたままの私に村人達はどこから持ってきたのか白銀に輝く鎧を持ってきていました。その鎧を私に装備させはじめました。その直後でした…私の体は全く動かせなくなり喋る事もできなくなりました。鎧を装着させた後村長が私に言いました。
『これで完全に動けなくなったであろう?おい!お前達!この魔物を聖棺に収めるのだ。此度の生贄は人ならざるものというのもあって、今までとは違いかなり長い期間もたせる事ができるだろう。』
『………。』
『ヒャッヒャッヒャ!どうやら喋る事も出来ないようだな?その聖鎧の効果は凄いであろう?その聖鎧はなぁ、昔にここを訪れたと言われる冒険者が着ていた鎧だそうでな?魔を打ち砕く力をもっているそうだぞ、お前の様な魔物をな!しかし…今回に限っては良い事だ、せいぜいこの村を守る為の犠牲になるといい。』
それだけ言うと長老は立ち去って行きました。残された私は男達により棺の中に収められました。それと同時に言いしれない眠気が私を襲ってきました。…抗えない…そして私は長い眠りにつく事になりました。とても…とても長い眠りに……。
◇
「後は皆さんが知っている通りです、私は何の因果か生き残ってしまいました…こんな私に神様はどうしろというのでしょうね?同族にも無視されて人には忌み嫌われた、こんな私に…。」
そこまで話したセルスは涙を流しながら俯いてしまった、その生き方は…自分も似たようなものを覚えた。誰からも嫌われて会社に努めて居た頃にとても良く似ている。セルスの方がより酷い境遇にあるが、少しばかりの共感を覚えたのは確かだ。
だが、それでも彼女になんと言葉を掛けて良いのか、わからなかった。だからといって本当に何も声を掛けないのは駄目だよな?と言う訳で…。
「セルス…俺は君が味わった辛さは正直わからない…けど、こうやって生きてるんだ。昔にされた事を忘れろとは言わないけど、もう一度やり直してみるのはどうかな?セルスの事を考えずに勝手な事を言っているのはわかっているけど…どうだろう、今度は俺達と一緒に行動してみないか?」
「ユーラさん…でも私は魔族で…サキュバスだし…その…人と違って…その、えと、あの…ぃをいただかないと生きていけないと言いますか…その。」
「うん?ごめんセルス、途中何て言ったのか聞こえなかったから、もう一度教えてくれる?」
「で!ですから!…その…男性の…ですね?…いをいただかないと生きいけないのです…。」
「………。」
俺の気の所為でなければ、男性の性がないと生きていけないと聞こえたが…マジ?でも、待てよ?それだとおかしくないか?さっき鑑定した時に見たらセルスの称号に上質処女とあったのを覚えている。今まではどうやって性を得ていたのだろうか?
「え~と…セルス、聞きたい事があるんだけど…今から聞くのはセルスにとって答えづらい質問だと思うんだけど、出来たら聞かせてほしいんだけど良いかな?」
「…私に答えられる事でしたら…どうぞ。」
真面目な顔つきになったけど…そんな真剣な顔して答える事では無いと思うよ?
「じゃあ…今までは、あ~どうやって男性から性を得ていたのかな?ってね?」
「それは…その…恥ずかしい話ですが、人からではなく魔物から吸収していました。人の男性から得るのはどうしても…その性行為をしないといけなかったので…していません。その…それにですね?出来れば初めての相手は…好きになった男性としたいなぁ……って思ってます。………。」
何やら俺を見つめるセルスの目が妙に艶っぽい…何故だ?俺は何処かでフラグを立てたのか?全く見に覚えがないんだけど…リィサ達の手前簡単に受け入れる訳にはいかないので、今はスルーしておこう。
「そ、そうですか。答えづらい事を聞いてすいませんでした。こ、これから俺達と行動していればそういう人も見つかるかもしれませんね!それで、どうしますか?セルスさん。」
「はい…そうですね。でも、意外と身近に居るかもしれませんけど…。」
謎のロックオン…マジで何処でフラグが立ったのか?完全に狙われているよ?しかし、ここはリィサ達が止めてくれるはずだ。そう思いリィサ達を見てみると…あれぇ?なんか目が期待してるように見えるのは気の所為か?
「セルスさん…大変だったんですね?でも、これからは大丈夫ですよ。ユーラさんは優しい方ですから、私も前に襲われてる所を助けて貰ったんですよ。きっとセルスさんの事も何とかしてくれますよ!」
先程から意気投合していたレナリアさんが積極的にセルスを仲間に引き入れようとしている。ちょっと待って?今セルスを仲間に入れると、彼女も君等と同等に扱わないといけなくなりませんかね?
「レナリアさん少し落ち着いて?勝手に決めては駄目よ?こういう事はちゃんと許可を得てから話を進めるのが筋よ?だからまずは確認を取らないといけないわ。」
そうだそうだ!良いぞ!リィサ!その調子で止めるんだ!流石に俺だって自重はするんだ。これ以上は無理です。
「と聞いていた通りだけど…あなたはどう思っているかしら…セルス。」
あれ!俺に聞くんじゃないの?なんでセルス?俺の意見は?
「ユーラは聞かなくても大丈夫よね?だって可愛いくてスタイルのいい女の子…好きでしょ?」
「うん!大好き!…って、ち、違う!それは誤解だ!…よ?」
誤解だ!と言った瞬間に全員が一斉に視線を向けてきた…怖いよ…そんな目で見ないでよ。数の暴力だよ…勝てるわけないじゃん。くそぅ…。
「どう?一緒に来る?セルス。」
「ハイ!皆さんがよろしければお願いします。私も…今度こそ…幸せになりたいんです!」
過去にかなり酷い目に合ってる割に思いの外アグレッシブだな。彼女の性格なのか分からないが、暗くなるよりはいいのかな。こっそりセルスを見ると視線が合った。そして……ちょっと!あの娘今舌なめずりしたよ?俺大丈夫だよね?異世界に来て初めて性的な危険を感じる日になりました。
あまり時間を掛けないようにしたいのですが、時間のやりくりがとても難しいです。




