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第53話 ごめんなさい

すいません!今回はいつもより少ないです。

 今俺は夢を見ている…何故それが分かるのか?それは今ここで周囲を見ている今の俺とは別にもう1人の『俺』が居るからだ。そしてそのもう1人の『俺』は昔の俺だ、もう1人の『俺』は18ぐらい頃の俺だろう。


 18の頃に務めていた会社だな…懐かしいと思いを馳せるような思い出ではない。むしろ辛い思い出の始まりだった。この会社に務めるきっかけは…覚えてないな…。誰かの紹介だったような気がする。俺は昔から物覚えが悪くこの会社に入社した頃も覚えの悪さからよく叱られていた。初めの一年ぐらいは教えてくれていた人も怒りながらも仕方ない、そんな感じで接してくれていた。だが、俺は2年経っても3年経ってもうまく仕事が出来ずにいた。しっかりと話は聞いていたし、こうやるんだ!と言われればその様にやってみて言われるだけじゃなく自分で考えて動くようにもしてみた。



 だけど…取る行動の全てと言っていいほどに裏目にでた。失敗失敗それを何度も繰り返し続けたせいで俺はその会社で疎まれるようになった。何をやってもうまくいかず結局4年目を迎えようかと言う時に会社の社長直々にこう言われた『役に立たない人間を雇えるほど内に余裕はない、君に恨みはないが辞めてくれないか?』と。

 その再現と言わんばかりにもう1人の『俺』がそう言われてるのを見てなんとも言えない思いが蘇ってくる。その時の感情が思い出されて辛くなってくる…あの時は怒りを覚えるよりもただ辛かった。どうして自分はこんなにも何も出来ないんだろう…自分では頑張ってるつもりなのに…何が悪いんだろう?そんな事ばっかりを考えていた。



 その会社を辞めた後も俺は色々な職場を転々とした。何処へ行っても良い成果を挙げる事はできなかった。そして、俺は一番長くそして一番辛い体験をする職場に勤める事になる。

 その職場の環境は壮絶だった。朝は5時から出勤して皆が出勤するまでに清掃を終わらせるように言われ、皆が出勤するとお茶入れ等の雑用を命じられる、少しでも社長の機嫌が悪かったりすると入れたばかりの熱いお茶を顔に掛けられたりもした。普段から罵倒は当たり前それに続いて暴力も日常茶飯事だった。



 何度も何度も辞めたいと思いそれを社長に伝えると必ずこう言われた『役に立たないお前を拾ってやったのを忘れて辞めたいだと?お前は何様のつもりだ!役に立たないお前は死ぬまで俺の為に働くべきだろうが!』そう言われて殴られ蹴られてそれが何度も続いて何かを訴えるのをやめた…。



 俺はその行為を神楽坂工務店の社長である大樹さんに拾われるまで人としての尊厳すらも失った生活を続けていた。こんな生活を20年近くも続けていたからなのか…俺は人を信用できなくなっていた。自分に寄ってくる人は簡単に信用してはいけない、近づけるのも駄目だ!いつかきっと手のひらを返してくる!そんな脅迫観念にずっと囚われ続けて生きてきた。



 そんな俺だったが大樹さんの経営する神楽坂工務店に務め始めてからは少しずつ…ほんの少しずつではあるが人としての自信を取り戻す事が出来た。こんな俺に工務店の皆はとても優しかった…とても優しかった…そして俺はそんな優しかった皆を置いて自らの不注意で起きた事故が原因で異世界へと渡った。



 後悔が山ほどある…いろんな事が中途半端だったから…職人としても大樹さん連枝さん二人の弟子としても男としてもだけど何よりも人として…俺は成長出来ていなかった。



 そして異世界に来ても中途半端だった…リィサを傷つけた、レナリアさんを傷つけた、ユリーナさんを傷つけた、シェイラをウィリルをルティアをモモリスをニーナをモニカをそしてシファとセラを傷つけた…以前俺が嫌っていた人物がしたのと同じ事を…他ならぬそれで苦しんでいた俺自身がしてしまった。



 それなのに…そんな俺なのに…卑怯にも逃げようとした俺を…皆がその体が傷ついてでも俺を助けようとしてくれている…信じてもいいの?今度こそ…俺を捨てたりしない?裏切らない?意味もなく殴ったりしない?蹴ったりしない?


 そんな事を考えながらずっと自身が作り出した『殻』に閉じこもっていた。そんな俺を救おうとしてくれるのは彼女達だけじゃなかった。あのいつもの…俺の心を落ち着かせてくれる声が聞こえてきた。



『ユーラちゃん…いつまでそうしてるつもりですか?怖いのはわかります。きっと痛かったでしょう、辛かったでしょう。でも今のあなたは1人ではないのですよ?あなたの側に居るのは皆あなたを思ってくれる優しい子達ばかりでしょう?さぁ、いつまでも閉じこもっていないでその手を伸ばしなさい。見守ってくれてるのは私達だけじゃないですよ?1人で立ち向こうのが怖いならあなたの周りにいる子達に助けを求めなさい…きっと力を貸してくれますよ。

 さぁ、あなた達もユーラちゃんの手を取って上げなさい。彼はあなた達が手を差し伸べるのを待っていますよ。』



 やはりその声は俺を落ち着かせてくれる…まるで何処かで聞いた事があるような気持ちになる…安らぎを与えてくれる…俺を追い詰めない優しい声だ…戻らなきゃ…おじいちゃんを…おばあちゃんを…俺を守ろうとしてくれる彼女達を…これ以上悲しませたくない。

 でもどうやって戻れば良いんだろう?まるで夢を見ているようで、どうすればこの夢から目覚める事が出来るのかわからない…。



 何か…何かきっかけさえあれば起きられそうなのに…体も思うように動かない上に…いざ何かをしようとすると思考が定まらない…でもただ1つだけ出来そうな事がある…。

 手を伸ばそう…周りは真っ暗で何も見えないけどおばあちゃんが言ってくれた言葉のとおりにひたすらに手を伸ばそう…俺の目に映るのは暗闇だけど…きっと…。



 何も見えない暗闇に向かってなんとか手を持ち上げると、温かな空気のような物に触れてる感覚がある。これは一体何なのだろうか?わからないけど取り敢えずソレを掴んでみようとするが、感触はあるのに掴む事ができない。もっと…もっとだ!目一杯手を伸ばしてみる。今何かに触れた?

 何かはわからないが、ここでじっとしていても何も変わらないので一生懸命に手を伸ばす、きっと彼女達がそこに居るはずだ…頼む皆!俺をここから連れ出してくれ…皆の力を貸してくれ!



 もう一度何かに触れた場所に向かって手を伸ばすと…その場所から光が差してきた。その光から見えるのは…誰かの手?誰かはわからないけど、その手に向かって自身の手を力の限り伸ばす。

 あと少しなのに手が届かない!俺に力が足りないのか?やっぱり俺は役立たずなんだろうか?そう思った瞬間だった。おじいちゃんやおばあちゃんとは違う不思議な声が聞こえてきた。



【諦めるな優良、我が息子よ…。お前には力があるその手を伸ばすのだ、お前の愛する者達はお前の直ぐ側に居るその目でよく見るのだ。そして手を伸ばせ、私もお前に力を貸そう。だから諦めるな。】



 不思議な声だった…でも何処かで聞いた事がある気がする声、その声に押されるように目を凝らしてみるとさっきまでは見えなかったリィサの姿が見えた。更に目を凝らすとレナリアさんもユリーナさんもシェイラ達もいて皆が俺に向かって手を伸ばしている。



 手が届きそうなのに!後少し!おばあちゃんの声とさっきの不思議な声の御蔭で距離が近くなったがあと少しが届かない!もう少しなのに…!だがそこで俺を力づけてくれたのはリィサ達だった。



「ユーラ…もし今起きてくれたら私達全員でユーラがしたがっていた事してあげるから起きて!」



 現金な事に俺はその言葉を聞いた瞬間俺は更に力が入りその手を伸ばす事が出来た。その瞬間ガラスが割れる様な音と共に俺はリィサの手に触れる事が出来た。やっと…皆の場所に戻れた…。



 リィサの手に触れて安心できた俺はまた意識を失った。



 目が覚めると俺は皆に囲まれるように寝ていた様で、俺が目が覚めたのがわかると皆が一斉に寄ってきた。



「ユーラ…大丈夫?気分が悪かったりしない?何処か痛い所があるとかは?」


「…一応大丈夫みたいだ、皆ありがとう。俺が倒れてあの殻に閉じこもっていた時もあんなに無茶してたみたいだったし…本当に…ありがとう。それと…。」



 そうして俺は思っていた事を実行する事にした。そうしないと俺はいい加減な人間になってしまいそうだからだ。これ以上逃げる訳にはいかないから…。



「皆今までごめん!俺はこれまで皆に最低な行為ばっかりしてきた。横柄な態度を取ってみたり偉そうにしたりして来たせいで不快な思いもしたと思うんだ。それだけじゃなく他にも色々嫌な思いをしたと思う…だからここで皆にちゃんと謝っておきたいんだ。ずっと嫌な思いをさせてきて本当にごめんなさい!」



 皆の前に立ってしっかりと頭を下げて謝った…今までずっと俺は皆をしっかりと信用する事ができなかった。それが結果的に自分自身の横柄な態度だったり上から目線になったりと自分が最も嫌いな人種になってしまっていた。

 あれだけ嫌だった事を自分がしてしまった事に後悔した。だけど後悔だけしていてもなんの意味もない。だから、皆にしっかりと謝って許しを得ない事には俺は前に進む事ができないと思った。



 俺は頭を下げた状態で皆の返答を待つ事にした。もしこれで嫌われてしまったとしてもそれは俺が今まで取ってきた態度が原因なのだ。しっかりと俺自身受け止めなければいけない。

 ずっと頭を下げていたら不意に誰かに下げたままの頭を抱えられた。何を?と思っていたら力強く抱きしめられた。どうやら胸に抱きかかえているようだ。



「ユーラ…確かに今までユーラに言われた言葉で傷つく事も何度もあったわ。その時はこのまま逃げてしまおうかと思った事も何度もあったわ。でも…それだけじゃなくてちゃんと優しい時もあったから何度も迷ったわ。でも…結果として私はユーラと一緒にいる事を選んだの…理由は色々とあるけど、でもいつかちゃんとしてくれると思ったからこそ一緒にいるのよ。そして、ようやく自分自身と向き合う事ができるようになったのね…やっぱり一緒にいて良かったわ。ユーラこれからもよろしくね?」


「ユーラさんが私に対して言った言葉はキツイものもありましたが…優しさもあったのも確かな事です。だからこれからはもう少しだけ人付き合いをしながらそういう事を学んでいくのもいいと思います。」


「私は~あまり気にしてないので特に言う事はないですけど~…でもこれからは『人』を学ぶのは良いと思いますよ~。」


「こっちは私が代表して言わせてもらうなら…そうだね…ユーラくんの全部が間違ってる訳じゃないからさ?あまり気負わずにゆっくりと直していけばいいと思うよ?第一さぁ~私達だって人に強く言えるほど完璧でもないし、必ずしも正しいとは限らないからね。だから…まずはゆっくりと行こうよ?焦らずにじっくりと…ね!…ハイ!もうこれでおしまい!あまり暗い雰囲気は引きずるもんじゃないしね!さぁ私の胸に飛び込んでくるんだ!ユーラくん!お姉さんが癒やして上げようじゃないか!」


「…………ありがとうみんな…すぐには変われないかもしれないけど…でもこれからはもっと人との付き合いをよく考えてみるよ。いい方向に進めるように…。」


「あーーっもう!だからそんなに暗くなったら駄目だって!ホラ!こっちにおいで私の胸で癒やしてあげるから!こうやってムギュー!と。」


「あーー!師匠!いつもいいとこばっかり取って卑怯ですよ!私だってユーラ殿にして上げたいのに!」


「…私もお礼を兼ねてユーラにムギュってしてあげたいから…師匠変わって?」


「オレもだ!なんか今のユーラはこう…ム、ムギュってしてやりてぇ!(はぁ~今のユーラさんは落ち込んでいる姿が可愛らしいです…。)」


「あたしもしてあげたいけど…競争率高いわね。もう少し空いてからのほうが良いかもね?」


「私もしてあげたいわね。今のユーラさんはこう…私の胸をキュンとさせる愛らしさがあるわ。」


「私達の出る幕はなさそうね?それともレナリアさんもユーラにしてあげたいかしら?」


「…こうムギューとしたら嬉しいのですか…男性を癒やすのはああやって差し上げるのですか…勉強になりますね…。」


「…聞いてないわね、ユリーナは?あの中に入ってユーラを癒やしてみる?」


「モチロンですとも!私もユーラさんを癒やしますよ~。ユーラさ~ん。」


「これならユーラは大丈夫かしらね?今は皆に譲っておくとするわ。私は後でゆっくりと癒やしてあげればいいし…あなた達はどうする?セラさんとえ~と「シファだよ!」…そうシファはどうするの?あの中に混じってくる?」


「え~と確かに今の私は触れる事が出来るけど…私は彼女達のように豊かなモノを持ち合わせていないから遠慮しておく…見てるだけで絶望感が凄まじいから…フフ。」


「シファは…あとでいっぱいすりすりするからあとでいい!」


「そう…それじゃしばらくはこっちで見ていましょうか?」




 完全に落ち着くのにまだ時間が掛かるであろう俺を、癒やすための順番待ちをしてる事にはまったく気づかずにひたすら皆の胸に埋まりながら今までの事を反省しつつこれからはどうして行くのか?それと今回のお礼もしないといけないなぁと考えながら今は皆に甘えていたのだった。


話の上で必要とはいえシリアスな内容は難しいです。しかし!これからはシリアスが減ると思います。やはり暗い話よりは明るく楽しい話が好きなので!

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