第５２話 心の傷
今回書いてる話は人の心情を表すのはこうも難しいものかと思いました。あと２話ほど続くかもです。改めて思う事やはりシリアスは難しい…
光が徐々に収まっていくなかセラが俺の手を強く握っているのがわかる…ん？何で俺に触れているんだ？さっきのキスは契約上必要な事だから出来た訳じゃないのか？…それともこうやって触れる事ができるのは当たり前に出来る事なのか？気になるのでちょっと聞いてみよう。
「え～と…セラ？少し聞いてもいいかな？精霊ってこうやって普通に触れるものなの？」
俺の質問にセラは不思議に思ったのか、自分の体をペタペタと触った後に俺の方に向いて、ん？という表情をしている。いや…そんな顔されてもな、ただ可愛いなとしか思えないんだが…。
「何で私触れるの？ユーラ私に何かした？」
「いや俺に言われても…わからないから聞いてるんだけど？」
何が何やらさっぱりわからない、一体どうなってるんだろう？当の本人が知らないような素振りなので、この状況を説明できる人がいない。どうしたら良いんだろう…。
「あれ？急に現れたね？ねぇユーラくんこの子誰？」
「ん？あれ？モニカ…セラの事が見えるの？」
「見えるのって…見える物は見えるよ当たり前でしょ？何を言ってるの？ユーラくん。」
「それってもしかして他の皆も見えてるの？」
「えぇ…見えてるわよ、ユーラ。だけど、どうしてそんな事を聞いてくるのかしら？」
「あぁ…それなんだけどね？…。」
皆の疑問を解消する為に一から事情を説明していく事にした。それにしても何がきっかけでセラは皆に見られるようになったんだろう？
俺は一連の流れを皆に説明し終えてから、もう一度皆に話を聞いてみたのだが話を聞くというよりも俺が説教を受ける形になっていた。その理由はというと…。
「ねぇユーラ？今は以前に比べれば少しはマシになってはいるけどね？…それでも『流石に契約する意義がないから』という理由で契約を拒否したのはどうかと思うわよ？」
「そうだぞ！ユーラ殿。そのような事を言ってはセラ殿が可哀相ではないか！幾ら結果的に契約をしたからといってもその発言はどうかと思うぞ！」
「ん～そうだねぇ、私もそう思うかなぁ。もう少しまともな理由ならまだしも意義がないって…それってある意味存在を否定されたのと変わらないよ？ユーラくんはもう少し人とのコミュニケーションを図る事をしたほうが良いね。この分だと今までも知らず識らずの内に言葉で人を傷つけていた可能性があるよ？」
「それは…あるかも知れませんね。かくいう私もユーラさんの言葉にショックを受けた事がありますから…あの時はあまりのショックで目の前が真っ暗になりましたから…。」
リィサに始まりシェイラ、モニカそしてレナリアさんと連続で言われてしまったので、流石に凹んできてしまった。…でも確かに俺が何気なく言った言葉はセラを傷つけてしまったのは間違いないだろう、その証拠にセラは一瞬悲しい表情をしていたからな。きっとあれはもしかしたら自分も契約できるかもしれないと思っていたのに、かなり辛辣な言葉で返されたゆえの表情だったのだろう。
いつまでも向こうに居た時に受けた仕打ちを引きずるのは良くないのはわかっているのだが、どうしても知らない人物だったりすると、自分の身の回りに近づけたくないが為につい強めの言葉で相手を突き放してしまう…初めて虐げられた頃から俺はそうやって自分の身を守ってきたのでその時の行動が今だに抜けないのだ。俺はどんなに物理的に強くなったとしても精神的には１０代の頃から何も成長はしていないのだと思う。
今の自分の周りにいる人達はあの時とは違うのはわかっているのだが…それでもそう簡単に２０年以上も辛い目に遭った事を簡単には覆す事は難しい…あの時の思いがある限り俺は何度も同じ事を繰り返してしまうかもしれない。それに俺自身どうしていいのか全くわからないのだ。
酷い事を言っているのは分かる…でもどうしても近づけたくない！という思いの方が強く前面に出てくるのだ。その結果が強い言葉として口から出てきて相手を牽制する…そうなってしまうんだ。
リィサとこんな形に落ち着けたのは本当に偶然だったとしか言いようがない。そしてリィサが居たからこそレナリアさんとユリーナさんも俺について来る形になったのだ。そう偶然なのだ。
俺が自分で狙ったのではなく偶々そうなった…結局俺の心は向こうで虐げられていた時からずっと止まったままなんだ…だからこそ相手の心を鑑みようとしないのだと思う。ただ自身を守りたいから…ずっと臆病なまま…何も変わっていないんだ。
「ユーラ？どうしたの？急に黙り込んで…そのね、全部が悪いって言ってる訳じゃないのよ？ただもう少しだけ相手の事を考える事をしても良いんじゃないかな？って思って言ってるだけなのよ？」
「ねぇ…ちょっとユーラくん？顔色が凄く悪くなってるよ？大丈夫？ちょっと私達も言い過ぎたかもしれないね。少し休んだほうがいいよ…ね？」
リィサとモニカが何かを言っているけど…なんだろう？もしかして俺が何も言わないから怒っているのかな？どうしよう？どうすればいい？どうすれば怒られない？どうすれば殴られない？どうすれば蹴られない？怖い…どうすればいいんだ？わからない…わからないよ…怖い…誰か助けて…。
その思いを最後に俺は意識を失った……。
◇
「「「ユーラ！（くん）（殿）」」」
私達と話している最中にユーラの顔色が悪くなっていったと思った時だった。何も言わずに黙っていたユーラが突然倒れてしまった。その場でユーラと話していた私とモニカそれとシェイラは一斉にユーラに駆け寄った。一体どうしたと言うんだろうか？今まで魔物と戦っていた時ですら倒れるどころか傷ついた事すら無いというのに私達と話しているだけで急に倒れてしまった。
もしかして知らない内にユーラを精神的に追い詰めてしまったのだろうか？しかし魔物と戦うだけの胆力を持ち合わせているユーラが私達と話をしているだけでここまでになるのだろうか…。
いけない！考え事は後にして今はユーラを介抱しなくちゃ！そう思いユーラの側に駆け寄ろうとした時だった。私達３人は見えない何かに弾き飛ばされてしまった。
「キャッ！」
「うわっ！」
「！今のは…何？リィサちゃんとシェイラも大丈夫？」
私とシェイラは見えない何かに弾き飛ばされてしまったが、モニカだけは素早く身を引いて体勢を構えていた。他の皆は私達３人を見て何事かと身構えている、その内の１人である風の大精霊と呼ばれていた名前は確か…セラさん…が顔を真っ青にしてユーラを見ている。もしかして彼女と契約したが為にユーラは何かしらの影響を受けた？駄目だ、状況がわからなさ過ぎる、一体何がどうなっているのだろうか？
「一体どうしたんですが？何故ユーラさんは倒れてしまったんですか？」
そんなの私が聞きたいぐらいだ。だが本当に理由がわからない…そうだ。確かさっきセラさんがユーラの方を見ていたわね。彼女は倒れたユーラを見て青ざめていたからもしかして何かしらの理由を知っているのかもしれない。ユーラの周りで騒いでいる他の皆を尻目に私はセラさんに近寄り話を聞いてみる事にした。
近づいてみると先程よりも顔が青ざめているのがよくわかる…それにしてもユーラと契約？をするまでは全くその姿を見る事が出来なかったのに、契約をした思われるあの光の後から急に姿を見せた。そんな存在が今顔を青ざめさせて立ち尽くしている光景は不思議に思えるものだった。
いけない！考え事してる場合じゃなかった、早く何故ユーラを見て青ざめていたのかを聞いてみないと。
「あの…セラさんで良いのよね？私はユーラの恋人でリィサと言います。」
「私は風の大精霊のセラです、それとシファの姉でもあります。よろしくお願いしますね。」
「えぇ…よろしく…その挨拶も大事だけど今はそれよりもユーラの事で聞きたいのだけど良いかしら？」
「私で答えられる事なら…。」
「取り敢えず聞いてもらえるかしら？まず聞きたいのは何故ユーラがいきなり倒れたか？なのだけど何か心当たりは無いかしら？」
「正直に言ってわからないわ…契約相手に負担を掛ける様な事だけは私は絶対にしていないわ。でも…でも契約した事が原因じゃないとは絶対に無いとも言い切れないの。それに私も初めて契約するから…どうしたら良いのか…。」
「ごめんなさい…別にあなたを責めてる訳じゃないのよ…たださっきユーラを見て顔を青ざめさせていたから…何か知ってるのかと思って…。」
「うぅん…私も…もしかしたら自分が原因なのかな？って思ったから、だから私が契約しようなんて言わなければこんな事にならなかったのかなって思ったら急に怖くなったの…その…ごめんなさい。私が彼に契約して欲しいなんて言わなければ…こんな事にならなかった筈なのに…。」
「こうやって問い詰めてる私が言う事じゃないのかもしれないけど…あまり自分を追い詰めないほうが良いわ。ユーラだってあなたがそんな風にしてたらきっとそう言うと思うわよ？」
「ありがとう…でも本当にどうしたら良いのか…。」
期待してセラに話しかけたのだけど当てが外れたわね。一体ユーラに何が起きたというのかしら？私がどうしたら良いのかと考えているとレナリアさんから声が掛かった。
「リィサさん！ちょっとこちらへ来て下さい！」
「どうしたの？ユーラに何かあったの！」
「ユーラさんを見て下さい、まるでユーラさんを包むかのように半透明な球体があるんです。」
「あれは…一体何なの？」
「わかりません…ただ何故急にあの様なものが…。」
私とレナリアさんがユーラを包む球体が何なのかを話していると横からセラさんがユーラを見ながら私達では知り得ないだろう事を教えてくれた。
「あれは…拒絶してる？誰にも近寄って欲しくない…そんな気配を感じる。」
「セラさんそれってどういう事なのかしら？アレが何か分かるの？」
「いえ…アレが何かまではわからないけど…ユーラから感情が漏れてきてるの。まるで全てを拒絶するような誰にも近寄って欲しくないという意思を感じるの。」
「感情を感じる…何故そんな事を感じ取れるの？何かの魔法？」
「違う、魔法ではないの。私達精霊という存在は自分達以外の生物の感情を自然に読み取る事が出来るの。そして今のユーラからは誰にも近寄って欲しくないというかなり強い意思を感じるの。」
「もしかしてあの球体って…。」
「多分ユーラだと思う…。誰にも近寄って欲しくないから、あの球体で自分を守っているのかも知れない。」
「そんな…ユーラさん…。」
「私達があんな事を言ったからなの？私達の言葉がユーラを追い詰めたの？」
私達のやり取りを側で聞いていたモニカ達が私達の推測を聞いてショックを受けていた。ユーラの為を思って発言したつもりだったが、その発言のせいでユーラがあの様な状態になっているのだ。彼女達だけじゃない私自身もかなりショックだった。
「私達があんな事を言ったから…ユーラ殿が…。」
「私達はもしかして調子に乗っていたのかな？ユーラくんならどんな事を言っても大丈夫だって勝手に思い込んで…あれだけ強いなら問題ないだろうって…。」
「…私も自分と一緒なら良いなってユーラの事考えずに契約勧めたから…きっと師匠達だけのせいじゃない…。」
自分達が何をしたのかを何を言ってしまったのか…私達は確かに調子に乗っていたのかもしれない、思い返せばユーラはよく悩んでいた。どうすればいいのか、と。それなのに特に長く一緒にいた私は気付くべきだったのかも知れない、ユーラはもしかしてずっと何かを思い悩んでいたのかも知れないと。そして、今は時既に遅くどうしたら良いのかわからない状況になっている。
どうにかしないと…私達いえ今は一番長く一緒にいる私がどうにかしないと！でも、どうしたらいいのかがわからない。でも！わからないからと言って何もしないのは有り得ない。何をすればいいのかわからなければ取り敢えずあの球体をどうにか出来ないか試してみよう。
私はおもむろにユーラを包んでいる球体に近寄りその球体に触れてみた。
「！待って下さい、リィサさん！その球体に触れては駄目です！」
私が球体に触れた瞬間私の手は思いっきり弾かれた。っくぅ！もの凄い痛みが来た。まるで棍棒で思いっきり叩かれた様な痛みだ。でも、ここで諦める訳にはいかない。きっとこんな風にユーラを追い詰めたのは私達だ。痛いからって引き下がる訳にはいかない！
「―バチン！…―バチン！っくぅ！ハァハァ…ユーラ起きて…私が言い過ぎたなら謝るからそこから出てきて話をしましょう？お願いだから…―バチン！ッッ！…出てきて…ユーラ…お願いよ。」
「リィサさん！その様な無理をしないで下さい！危険です、この様な無茶をユーラさんが望む訳ないです！」
「そんなのわかってる！でも…それでも何もしないで見てるなんて私には出来ないのよ！」
「リィサさん…それでも危険過ぎます！」
「だから何だというの！私はユーラに助けられた、ユーラはそう思ってないかもしれないけどあの環境から連れ出してくれたユーラに私は助けられたと思ったのよ！…私は今までユーラの力になれてると思ってた…けど実際はそんな事なかった！ユーラは…本当はずっと助けて欲しかったのかも知れない！それなのに…私はずっと一緒にいたのに全然気づかなかった！私は自分が情けないのよ！だからどんなに私が傷つこうが今度は私がユーラを助けるのよ！」
私の叫びに皆が唖然としてるようだった。それはそうだろうと思う。私は普段からあまり大声を出したりしないし、不必要に喋りかけたりもしない。そんな人がユーラの為とはいえ大声を張り上げているのだ。唖然とするのも頷けるというものだ。
お願いユーラそこから出てきて！どんなにエッチでもいい、どんなに情けない姿を見せてもいい。私はユーラだからこそ一緒にいたいの！だから、お願い！そこから出てきて…ユーラ！私はあなたと一緒に悩みながら生きていたいの！だからお願い！
「ユーラ殿！私も言い過ぎた…私が悪かったのなら謝る、だからそこから出てきてくれ！本音で私達と向き合ってくれ！私達はユーラ殿が居なかったらどうすればいいんだ！いっしょに…一緒に居てくれるって約束したでしょ！だからお願い出てきてよ…ユーラ！」
あれが本当の…素直なシェイラの姿なんだね。ユーラ…ユーラだからこそシェイラはこんなに本音で喋ってるんだと思うよ？皆だってきっとそうだよ。ユーラを誰も１人になんかしたくないはずだから…お願い出てきてよ…ユーラ。
私達は皆でユーラを起こそうとして球体に触れる、そして痛みと共に弾かれる。正直とても痛い、手が腫れ上がってるのではないかと思うぐらいに…でもここで私達が諦めてしまったらもう２度とユーラに会えないような気がしたから…だから痛くても我慢をする。ユーラともう一度話をする為に…。
その時だった、何処からか声が響いてきた…そしてこの声は以前聞いた事のある声だった。
『ユーラちゃん…いつまでそうしてるつもりですか？怖いのはわかります。きっと痛かったでしょう、辛かったでしょう。でも今のあなたは１人ではないのですよ？あなたの側に居るのは皆あなたを思ってくれる優しい子達ばかりでしょう？さぁ、いつまでも閉じこもっていないでその手を伸ばしなさい。見守ってくれてるのは私達だけじゃないですよ？１人で立ち向こうのが怖いならあなたの周りにいる子達に助けを求めなさい…きっと力を貸してくれますよ。
さぁ、あなた達もユーラちゃんの手を取って上げなさい。今のあなた達なら彼を救えるはずですから。』
そう言われて球体の中に居るユーラを見てみると横たわっているのは先程から変わらないが、ほんのかすかに手を持ち上げてる様な気がした。あの手を掴んであげればユーラはきっと出てきてくれるはずだ。なんとなく…ただ何となくそう思えたので私達は一斉に手を伸ばした。
誰の合図があった訳でもないのに、私達はほぼ同時にユーラに手を伸ばした。
私達の伸ばした手が球体に触れてバチバチと音を立てながら私達の手に痛みを伝えてくる。あまりの痛みに手を引っ込めたくなるが、ユーラとこれからも一緒にいたい一心で球体の中にいるユーラに手を伸ばしていると、わずかにだが手を入れる事が出来た。きっと思いが足りない…何故だかそう思えたので、心の中でユーラとしたい事を思い浮かべながら差し込んだ手に力を入れていくと更に手が中に進んでいった。後もう少し皆にもこの事を伝えよう。
「皆よく聞いて！ユーラとしたい事を思いながら手に力を入れてみて、そうしたらもっと手が中に入っていくわ。やってみて！」
私の言葉に皆が目を閉じている。きっとユーラとしたい事を思い浮かべているのだろう。皆の手が徐々に球体の中に入っていく、もう少しだ。あとひと押しが足りない。…ふと一瞬閃いた、普段の私なら絶対に言わないであろう事を…これを言ったからといってユーラが起きるとは思えないけど、こうなれば一か八かだ。どうせこれで起きなかったとしても私が恥を掻くだけだ。それなら…。
「ユーラ…もし今起きてくれたら私達全員でユーラがしたがっていた事してあげるから起きて！」
私がそういった瞬間ユーラを包んでいた球体が弾け飛んだのだった。
ちょっとゴタゴタした表現になってるかもしれませんが、作者に表現できる限界です。もっと色々学ばねばいけないと思いました。
