閑話 手掛かりは意外な所に…
今回は閑話です。こちらも進めておかないと本編にも影響するので…。
あれから更に月日が経ちもう一年近くになる、それでも私達はゆう君の事が諦めきれずにいた。
暇を見つけては何か手掛かりが無いかと探し回ったりもして来たのだが、その中で唯一と言っていい情報が例の水晶だった。
あの水晶あれから何度か試してみたがもっともゆう君に近い情報を得る事が出来た。まず私こと葉津梛が持つ水晶はどうやら人間の五感の一つである触覚を感じ取れるみたいだった。そして妹の和津梛が持つ水晶は聴覚を持ち合わせているようで聞き取る事ができるようだった。
そしてその触覚を感じ取れたり聴覚を持って聞き取る事が出来る相手はどうやらゆう君のようだった。なぜ私達の前から居なくなってしまったゆう君の声を聞いたり感じてる感覚をこの水晶から受け取れるのかは知らないが、それでもゆう君を慕っている私達姉妹に取ってはとてもありがたい事だった。正直この水晶からゆう君を感じ取れる事が私達姉妹に取って精神安定剤の様になっていたから…。
さて情報を得られる事が出来たのは今の所それだけであり他にはあまり大した情報を得る事は出来ないでいた。この水晶にしてもずっとその感覚を感じ取れる訳ではなくたまにしか感じ取れなかった。
どうしてたまになのかは全くわからず四六時中持っていても感じ取れないのに、持ち歩く事が出来ない時などに大切に保管してるとまるで用があると言わんばかりに私達の前に現れてはその感覚を共有するという条件を特定するのが非常に難しいものだった。
そして相変わらずろくな情報を得られずに日々をなんとなく過ごしていたある日の事だった。私達の前にあの日…大兄がなくしたと言っていた水晶の一つが唐突に私達の前に戻ってきたのだ。ある人物と共に、その人物は私達にとってとっても馴染み深い人だった。それは……。
「皆さん、神楽坂静梛長い旅よりようやく戻って参りました。」
そう言って我が家兼神楽坂工務店の事務所に入ってきたのは、我が家の長女である神楽坂 静梛23歳である。この姉、大学を出るのと同時にすぐ神楽坂工務店の事務職として働き始めたのだが…ある人物に頻繁に結婚しようと言い寄られそれが嫌になりある日突然姿を消したのだ。
そして家を出てしばらくしてからだった、「今海外を転々として色んな事を勉強中です。落ち着いたら帰って参ります。」の手紙とどこの国かもわからない土産を送りつけたのち連絡が途絶えていたのだ。
その連絡が途絶えている間にどうやって調べたのかは知らないが、結婚しようと言い寄っていた人物が別の人と一緒になったのをどうにかして知ったらしくこうして帰省した次第である。別に帰ってくるのが悪い訳では無いのだが、人を散々心配させておきながら割とあっさり帰ってくるんだなと思った。
「あら?皆さんもしかして私が長い事家を開けて居たので忘れてしまわれたのでしょうか?困りましたね…私帰る場所はここしかありませんと言うのに。」
「…はぁ~静姉どうしたの?じゃないよ!どうして今の今まで連絡をしてこないのさ!もうみんな心配を通り越して呆れてるんだよ!」
「まさに姉さん…葉津梛姉さんの言う通りですね…静梛姉さん…一度だけではなくせめて月に一度でもいいから連絡が欲しかったです。」
「えぇ、でもねぇ…私あの様に言い寄ってくる方はあまり好きになれません。ですので頻繁に連絡を取り合えばあの方は必ず私を追いかけて来られたでしょう…そうなってしまえば追い払うのが面倒でしたので…。」
むぅ~確かに静姉の言わんとするのはわからないでもない、何せその言い寄っていた男…それはもう静姉が居なくなった後は、もう毎日の様に家を訪れていた。しつこいぐらいに何度も何度も来たのであとはこちらがイライラし始めたぐらいだった。あまりにも何度も来るので「姉はもう帰ってきません!」と言ったら急にテンションが下がり、その次の日から全く来なくなってしまったのだ。
何が切掛で来なくなったのかは知らないが、私達としてはとてもありがたいと思ったのだった。
「しかし…静梛姉さんが今回帰ってきたのは何か用があって帰ってきたのでしょうか?静梛姉さんの場合例の方が居なかったとしてもいずれは工務店から出ていきそうな感じがしていましたので、帰ってきた事自体が珍しいといいますか…。」
「そう言えばそうだよね。ある程度落ち着いたらすぐにでも誰かに嫁ぐなりするか、もしくは自分で起業するなりしそうだったんだけどね~。」
「…成程そういう事なら答えは簡単ですよ?」
「そうなんですか?何かウチでやり忘れた事でもありましたか?」
「えぇありますよ?とても重要な事が…。」
「へぇ~静姉がやり残した事かぁ~なんだろう?」
それを聞いた私と和津梛はこの後静姉が発言した言葉にとても驚かされると同時に絶対に認められない事だった。それは…。
「私は是非とも優良君とお付き合いをしたいと思いましたので、ここに帰ってきた次第です。」
「な!」
「はぁ!」
「あら?どうしましたか、二人共…私何か変な事を言いましたか?」
「ちょ、ちょっと待って!静姉!なんで急にゆう君と付き合いたいなんて言い出したの?」
「そうです!今までそんな気配を全く見せなかったじゃないですか!」
「あら?私皆さんに何も説明しておりませんでしたか?」
「「何も聞いて(ない!)(ません!)」
「…そうでしたか?まぁそれならば今説明すれば問題は無いですね。私は以前より…ちょうど優良さんがここに初めて大樹兄さんが連れてきた時から私は好きになっていましたよ?」
「「えぇ!?」」
その言葉に驚きを隠せない私と和津梛はほんの少しばかり放心してしまった。しかし、放心してばかりも居られない、なぜなら…私達はゆう君がどうなったのかを今から静姉に説明をしなければいけないからだ。…正直どういう反応を見せるのかわからなくて怖い。
この姉、神楽坂静梛は普段はとても理知的で性格は穏やかでちょっとやそっとの事ではそうそう怒ったりはしないし、普段から見せる冷静な部分を崩す事もなかなか無い。そもそも怒った所を見た事が無いのでどうなるのかが全くわからないのだ。
今回の事に関して言えばただ居なくなってしまった事を説明するのではなく、なぜそうなってしまったのか?から説明しないといけないので、もしかしたらその時一緒に仕事現場にいたであろう大兄や連兄を槍玉に挙げる可能性もある。
まだ泣きながらだとか悲哀に満ちた表情をするならマシかもしれないが、怒り狂ったりする可能性が無いとも言い切れないので、今から説明をしなきゃいけないこちらとしては戦々恐々の思いだったりする。
「そう言えば…優良さんはどこにいらっしゃるのでしょうか?もしかしてまだお仕事中なのでしょうか?もしよければ、どこにいるのか教えてくれませんか?」
「えっと…それは…その…。」
「優良さんは…いませんよ…。」
私達の様子に違和感を感じたのか、それを気にした静姉が私達にどうしたのか?と尋ねてきた。
「ゆう君はね…居なくなってしまったの…どこに行ったのかは…私達も知らない。」
「葉津梛姉さんの言う通りですよ、静梛姉さん…優良さんは私達の前から消えてしまったんです。」
「葉津梛さん、和津梛さん、詳しい説明を…。」
「分かりました…静梛姉さん。」
私はゆう君の事になると相変わらず感情が昂ってしまい、うまく説明できる気がしなかったのである程度は冷静で居られる和津梛が説明をする事になった。
和津梛は静姉にゆう君がどういう経緯でいなくなる切掛になったのかを初めから消える瞬間までを説明していったが、その途中和津梛も耐えられなくなってしまったのか。目に涙を溜めながらも説明をし終えた。
説明を聞き初めた時からずっと目を閉じて聞いていた静姉は聞き終えるの同時に目を開けるとそのまま私達二人に近寄り抱きしめてきた。
「ちょ、ちょっと静姉?どうしたの?」
「…静梛姉さん?」
「二人共辛かったでしょう?目の前で好きな人が居なくなってしまう……その場に居なかった私では理解できないでしょうけど、でもね…もう無理をしなくても良いんですよ?」
「え?無理って、あれからもう一年近くなるからそんなに無理はしてないよ?」
「そうですね、葉津梛姉さんの言う通りですよ。私達は何も無理はしてないですよ?静梛姉さん。」
「なら…なぜ二人は泣いているの?」
「え?…あれ?何で?どうして…私もう…大丈夫だと…。」
「私もです…吹っ切れたと思っていたのに…どうして?」
私と和津梛は二人共いつの間にか泣いてしまっていた…もう一年も経つから和津梛の言うように吹っ切れたとまでは言わないけど、少しは立ち直れたつもりだった、それなのにどうして…。
「二人共きっとこう思ってるんじゃないですか?『一年も経てば少しぐらいは落ち着く』と。だけどそれは本当に諦めがついてる人が思う感情ではないですか?葉津梛さんも和津梛さんも優良さんの事を諦めきれてますか?もし二人が優良さんを諦めきれていないのなら、優良さんがいなくなってしまった事を思って泣いてしまうのは当たり前の事だと思いますよ?」
「静姉…」
「静梛姉さん…私…いえ私達は…。」
「今はとにかく優良さんを思って泣いてしまえば良いんです。そうすればまた優良さんを探す為に頑張れるはずですから。」
その言葉で私達は大きな声を上げて泣いた…。自分でもびっくりするぐらいに…きっと自分でも知らない内にストレスを溜めていたんだと思う。静姉に抱きしめられ泣いても良いと言われて初めて私と和津梛は本当の意味で泣く事が出来たのだと思う。
どれだけの時間泣いていたのか…私と和津梛はいつの間に泣きつかれて眠ってしまっていたようで、気付いた時には静姉に膝枕をされた状態で頭を撫でられていた。
「少しはスッキリしましたか?葉津梛さん。好きな人を思い続けるのは悪い事ではありませんが、少しは自分も労らないと優良さんに出会う前にあなたの方が先に参ってしまいますよ?」
「静姉…うん、ありがとう。これからはもう少し気をつけるよ。和津梛は…まだ寝てるかぁ、ねぇ静姉…静姉はゆう君が消えたって聞いてどう思った?」
「そうですね…すぐに思ったのは現代日本においてそのような人が消えるという現象が自分の身内に起きた、という事に驚くのと同時に恐怖を感じましたね。優良さんがそのような現象に巻き込まれた事に関して言えばなぜ優良さんなのか?ですね。」
「う~んなんていうか…そうじゃなくてさ?哀しいとか辛いとかムカつくとかさ…そういうのは無いのかな?って思ったんだけど。」
「そういう事ですか…それならば…変な言い方になりますが…私が見てない時で良かったと思いましたね。」
「?それってどういう意味なの?」
「もし私が優良さんが消える場所に居たとしたら…私は発狂していたかも知れないからですね。それほどに私は優良さんに好意を抱いているんです。まぁだからといって今の優良さんがいなくなってしまった状況に納得してる訳では無いですよ。」
「そっか…静姉もそこまでゆう君の事が好きなんだね?」
「えぇ初めてでしたね。男性を目にしてこの人ならと思えたのは…。何故か不思議と側に立っているのを想像しても違和感を感じませんでしたからね。もう一度逢いたいと思って帰ってきたのですが…ままならないものですね。」
「静姉……せめてゆう君との思い出でもあればいいのに…。」
「それは…特に優良さんと何かをした覚えもなければ、何かを貰うような機会にも恵まれませんでしたからね。後悔が今になって押し寄せてきますね。」
「静姉…せめて私達が持ってるこの水晶が残っていれば…ゆう君との繋がりが持てたかも知れないのに…。」
私はそう言いながら胸元から以前の件以来ずっと私が持っている青い水晶をネックレスにしたものを取り出した。
「あら、綺麗な水晶ね。どこで手に入れたのでしょう?」
「実はこれね?ゆう君が居なくなった後にゆう君が使っていた部屋のベッドに置かれていたらしいの。それでね全部で青と赤と緑とそれから…えっとそうそう黄色と茶色があったの。だけどね今は私が持っている青の水晶と和津梛が持っている緑の水晶以外は無くなっちゃたの。」
「無くなった…ですか?それはどういう風に?」
どうしたんだろうか?気の所為かも知れないけど静姉が私が答えるのを凄く心待ちにしてる気がする…何かあるのかな?
「えっとね?私は直接みた訳じゃないからわからないんだけど、大兄があの水晶をどういうものか確認する為に専門家の人に調べて貰っている最中に急に宙に浮き出したと思ったら消えちゃったんだって。」
「宙に浮いて急に消えた…ですか。成程、しかし手掛かりは何も無いのですか?」
「う~ん私は聞いてないけど…和津梛が聞いてないかな?でもまだ寝てるみたいだし…後で聞いてみようかな?」
和津梛は今だ静姉の膝枕で頭を撫でられながら寝ているようなので、後で聞き直そうとしたのだけど、どうやらいつの間にか起きていたようだった。
「その気遣いは無用ですよ、葉津梛姉さん私は起きてますから。」
「あれ?起こしちゃった?ゴメンね和津梛。」
「いえ…先程から起きてはいたのですが…その…。」
「ん?何どうしたの?もう少し寝ておく?」
「そうではなくてですね、起きていたのに声を掛けなかった理由なのですが…その久しぶりに静梛姉さんに膝枕をしてもらいながら頭を撫でてもらえたのが懐かしくて…ついもう少しだけと思っていたらタイミングを逃してしまったんです。」
「あぁ成程ね!確かに静姉の膝枕と頭撫では気持ちいいよねぇ。懐かしいなぁ。昔はよくしてもらったよね。」
私と和津梛のやり取りを聞いていた静姉は少し寂しそうな顔をしていた。どうしたんだろう?
「静姉?どうしたの?なんか寂しそうな顔してるけど…。」
「いえ、いくら気に入らない男性に付きまとわれていたとはいえ…一緒に過ごすはずだった時間を失ってしまったのは…辛いものがありますね。その時間は二度と戻らない事を考えると余計にですね。」
「静姉…。」
「静梛姉さん…。でもこれからは一緒に居られるんですよね?」
「はい、そのつもり…ですが皆さんが私を拒絶しなければという条件が付きますが。」
「良いに決まってるじゃん!静姉は私達の大切な家族なんだよ!」
「静梛姉さんが帰ってきてくれて嬉しいの間違いないので、どこかに行かれても困ります。ちゃんと家に居て下さいね。」
「そうですか…そう言ってくれると嬉しいものですね。葉津梛さんそれと和津梛さんもありがとうございます。」
感謝の言葉を述べながらまた私達を抱きしめる静姉、それにしても…むむぅ相変わらず大きな胸だ。明らかに私達二人よりも大きい。昔からとても大きかったもんなぁ。ってアレ?今静姉の胸元に見た事があるものが見えたような?気の所為かな?
「ねぇ、静姉?その胸元にあるもの見せて貰っても良い?何かそれ私達が持ってる物によく似てる気がするんだよ。」
「ん?胸元ですか…あぁこれですか。これ不思議なんですよ。いつの間にか私の荷物に紛れ込んでいたのを、誰かが手違いで私の荷物に入れたのかと思って警察に届けた事が何度かあるのですが、何度届けても私の手元に戻ってくるんですよ。」
これは!まさに私達の手元から無くなってしまった水晶の一つだった。形も全く一緒だし色にしても無くなった内の一つである黄色の水晶だった。
「「ああっ!!」」
「二人共急にどうしたんです?そんな大声を出すと驚くじゃないですか。」
驚くじゃないですか、と言っておきながらその気配を微塵も感じさせない静姉。本当に大物といえばいいのかそれともただ単に冷静なだけなのか…それはともかくとして!
「静姉!これだよ!この水晶が私達の手元から無くなった水晶の一つなの!何で?どうして静姉がこの水晶を持ってるの?どこで手に入れたの?教えて静姉!」
「葉津梛姉さん落ち着いて下さい!幾ら何でも騒ぎすぎです!静梛姉さんにはしっかりと落ち着いて質問しましょう。」
「そうですね、もう少し落ち着いて質問してくれると助かります。ありがとう和津梛さん。葉津梛さんも少し落ち着きましょうね?そんな風に慌てては満足に情報を手に入れる事は出来ませんよ?」
そうだ…落ち着こう。ゆう君に関する久々の情報だったからつい暴走しそうになったけど、これじゃ前の時から何も変わってないよ。落ち着いてゆっくりと静姉から話を聞こう。
「落ち着きましたか?葉津梛さん?」
「うん…ゴメンね?静姉。久しぶりにゆう君の情報が手に入ると思ったから焦っちゃったんだ。」
「大丈夫ですよ。ではこれからこの水晶に関して説明していきましょう。」
ゆう君に関する新しい情報が手に入る…私は静姉の口から少しでもゆう君に関するいい情報が手に入る事を期待して静姉の話に耳を傾ける事にした。
いけるようならちょっと早めにもう一度閑話を投稿しようと思ってます。




