第3話 女神様はやらかしたようだ
前回よりはちょい多めです。
ここは、異世界【トレワール】を管理する神々が住む場所。そんな場所に女神と妙にそわそわした一人の人間が降り立った。
「ここが【トレワール】ですか。広い割に随分と何も無い場所ですね。ここでどんな事をするんですか?」
『フフフ、まずは落ち着いて下さい優良さん。何かをしてもらう場所はここではありません。まず、ここはこの世界を管理する神々が住む場所です。そして、今立ってるこの場所は、いわば…そうですね…庭先のようなものと思って頂ければよろしいかと。
家に当たる場所は、わかりやすく向こうの単位で言えば100km程向こうにありますね。そこに用があります。それでは、さっそく…。』
そう言って案内を始めようとしたメリセレーネに待ったが掛かる。
『待ちなさい、メルよ。その者を案内する前にすることがあるであろうに。』
その声の主は、今、急に目の前に現れたおじいさんからだ。び、びっくりした!目の前にいきなり現れるとかやめてほしい。こっちは唯でさえ小心者なのに…。一体何者なんだ?このおじいさん達は。
う~ん、年のほどは80~90歳ぐらいに見える。その隣にいる寄り添うようにいるおばあさんもそのぐらいに見えるな。もしかして、この人?達も神様なんだろうか?
『うむ、そのとおりだよ。優良君と言ったかね。儂等は、この世界の神で間違っとらんよ。儂らはこの世界の創造神じゃよ、よろしくの~フォッフォッフォッ。』
どうやらこのおじいさんは、この世界の創造神であるらしい。というかこのおじいさんもナチュラルに心を読んでるな。俺にプライバシーは存在しないのか?、それも今更だな。女神様に考えを読まれてる時点でそんなものはきっと亡くなってたのだろう。グッバイ俺のプライバシー。諦めが付いた所で、おじいさんのそばに寄り添っているおばあさんは何の神様なんだろうか?
『いや、違うよ。優良君儂ら二人が創造神なのじゃ。どっちかがではなく、どちらもが正しいのぉ~。』
『えぇそうですよ。私達二人が創造神なんですよ。紛らわしくてごめんなさいね。』
「い、いえ、とんでもないです。すいません、紹介が遅れました。新石 優良と申します。これからはこちらの世界でお世話にならせて頂きます、どうぞよろしくお願いします。」
たとえいきなりであろうとも、自己紹介はしっかりとしないとな。失礼にも程があると言うものだ。
『あらまぁ~なんとも真面目な方ですね~。ね~おじいさん。』
『あぁよく出来た子じゃなあ。礼節をわきまえておる、いい事じゃな。』
よかった、どうやら第一印象は悪くないようだ。せっかくの新しいスタートが躓かずにいけそうだ。でも待てよ、まだ止められた理由を聞いてないな、安心するのはその理由を聞いてからだな。
『メルよ、そろそろ優良君にこの世界に連れて来た理由を説明するといい。分かりづらい事は儂等が補足しよう。』
『えっ!そ、その大丈夫ですよ。私にまかせて二人はご自分の住まいへ戻られて下さい。』
ん?なんか女神様が焦ってる?どうしたんだろうか。先程までの凛々しい感じがなくなってなんか誰かを思わせるような慌てぶりを感じる。う~ん、誰だろ。まぁいい、とりあえずもう少し様子を見てみよう。
『どうしたのじゃ?どうせ説明するならしっかりとせんと如何じゃろうて、そうは思わんか、ばあさん。』
『えぇそうですよ、メル。私達の都合で呼んだのでしょう?ならしっかりとこれからどうするか、どうやって生きていくのかを説明しませんと。この世界は向こうとは違って殺伐としてますからね。何かあってからじゃ遅いですよ。』
『そ、そうですね。で、でわ、せ、説明をしたいと思いましゅ。え~と、まず優良さんには私達のお家を直してもらいますので、頑張って腕を磨いて下さい。それとですね、この世界を生き残れるように頑張って強くなって下さい!以上です!』
え~と、まさか説明ってそれだけ?ちょっとさすがにそれはないだろう?もう少し、細かい説明があってもいいのではないだろうか。いくらなんでもひどすぎる。あと、慌てぶりがさっきよりひどくなってる。
「その、女神様。もうすこし詳しく教えてもらえますでしょうか?自分は、察しが悪いのでうまく状況をよみとれていないようなので、もう少し細かい説明をお願いします。」
『え?その~あれよ。あなた職人さんでしょ?腕を磨いてお家を直して欲しいのよ、うん。でね、この世界は、厳しい世界だから強くならないと生き残れないの。わかった?』
…さっきと言ってること同じじゃね?う~ん、やっぱりこの慌て方…何処かで見たことあるような……っ!そうか!葉津梛ちゃんだ!あの子にそっくりなんだ!!ヤバイ…なんか嫌な予感がする、あの子に似てるという事はもしかして…何かしらをやらかしてる気がするな。
ちょっとばかりカマ掛けてみるか?どうやらテンパりすぎて俺の心を読んでる暇も無いようだしな。
「あの~女神様、先程の答えと変わらないようなのでこちらから質問してもよろしいですか?そのほうがわかりやすいかと…。」
『え?えぇ~、い、いいわよ。答えられることなら答えてあげるわ!さぁ!質問してみなさい。』
見事なまでに初めに会った時の凛々しさは消え去ったな。まぁいいや、それに関しては今更だろうしな。遠回しに聞いてもあまり意味がない、というか気づいて逃げ道を用意されては困るから、ストレートに行こうか。よし!
「では、女神様先程の空間の時のような選択方式でどうですか。さっきは二択でしたよね?ほら、あんな感じで自分に質問してみてくれませんか?」
『っ!!ちょっと今その言葉はっ!』
ビンゴ!!いきなり当たった!思いっきり動揺してるぞ!なんかさっきからおかしいと思ってたんだ。妙に二人の創造神様を遠ざけようとしてる気がしたが、やはりなにか隠してるな。さらに揺さぶりを掛けてみるか。
「どうされたんですか?先程もおっしゃってくれたじゃないですか。そのまま死ぬか、この世界で生きていくかってあんな感じで質問してくれるとわかりやすくて助かるのですが…。」
『む?それは一体どういう事なんじゃ?優良君、少し教えてくれんかのぉ~。』
あ、あれ?な、なんか創造神様怒ってる?笑顔に見えるのにすごい迫力がある。もしかして調子に乗りすぎて女神様をからかってるように見えて怒らしちゃったのかな?ま、まずい謝らなくちゃ。
「あ、そのすいませ…」
『おぉ勘違いせんでくれ、儂は別に優良君に対して怒ってるわけじゃないんじゃよ。もし、そう見えたならそこの馬鹿女神にじゃ!』
『ば、馬鹿ってなによ!馬鹿って!私は馬鹿なんかじゃないわよ!』
『何を言うとるか、馬鹿も馬鹿、大馬鹿者じゃわい!メル、お主この者の意思をしっかり確認しておらんな?』
『そ、それはその、ちゃんと選ばせて意思は確認したわよ?』
『ほう、では優良君はお主になんと答えたのだ。しかと申してみよ。』
『え~とね、ここで生きていくって言ってくれたわ。』
『ふう、言い方を変えようかの。メルお主は何と問いかけたかをゆうてみよ。わかってるとは思うが嘘はいかんぞ、嘘はな…。』
『それは~その~[あなたは私が管理する世界である【トレワール】へと行ってもらいます。申し訳ありませんが、他の選択肢はありません。]って言いました…。』
『こっこの大馬鹿者め!なんて事をしてくれたのじゃ。それは、けしてしてはならん事じゃぞ。分かっておるのか!』
『ッ!ご、ごめんなさい…。』
『ごめんで済まされることではない!これは、マズイ事になったぞ。下手をすれば向こうの世界の神が怒りかねん事態じゃ、なんとかせにゃならん。ばあさん、儂は少し出掛けてくる後を頼んだぞ。』
『はい、いってらっしゃい。おじいさん、落ち着いて下さいね。大丈夫ですよ、これを持っていって下さいね。』
『なんじゃこれは?』
『まず最初にこれを相手に渡して下さい。すべてがうまくいきますよ。』
創造神様が渡したのは、上質な風呂敷に包まれたなにかだ。中身が見えないにもかかわらず「必殺のお土産」感がある。なにやら凄そうな感じだ。何が入ってるんだろうめっちゃ気になる。
『うむ?わかった。では、行ってくる。』
そういうと同時に創造神様は瞬時に消えてしまった。どこに行ってしまったのだろうか?
「あの~もしかして自分がここに来たのは、マズイ事なんですか?」
『あなたも大丈夫ですよ。そうだ、おじいさんが帰ってくるまでお茶でも飲んで待っていましょう。』
「え~とそれでいいんですか?」
『えぇ問題ありません。どうせすぐに帰ってきますから。こっちにどうぞ、メルちゃんあなたもここにいらっしゃいな。』
『…おばあちゃん、私…ごめんなさい…職人の人を呼んだら、おじいちゃんとおばあちゃんが喜ぶと思って…そればっかり考えて、この人の事ちゃんと考えてなかった…。一人きりになったら寂しいのわかってたのに…ごめんなさい。』
『メルちゃん…私はいいのよ、怒ってないから。でもね、謝る相手が違うわよ。』
そこで、女神様が俺の方を向いて俺に向かって頭を下げた。
『ごめんなさい、勝手にこんなところに連れてきて。あなたにちゃんとした確認もせずに自分勝手に連れてきてごめんなさい!』
「ちょっ、女神様!神様が簡単に頭を下げちゃ駄目ですよ、俺は平気ですから、頭を上げて下さい!」
『優良君、駄目よ。悪いことをしたなら謝る。そこに神も人も関係ないの。神なら何をしても許されるわけではないのよ。だから、メルちゃんの謝罪をしっかりと受け取ってちょうだい。』
おばあちゃん神がそう言ってる間も、女神様は頭を下げ続けている。いい加減こっちの精神がヤバイ、このままの状態じゃ俺の氷のような強度しか持ち得てない精神がかき氷の如くガリガリと削れていく。
「わかりました、謝罪を受け入れます。だから、もう頭を上げて下さい。」
『私のこと許してくれる?』
やはり謝り方といい、その後の許しを乞う姿といい葉津梛ちゃんにそっくりだ。何が言いたいかというと「ポンコツ」の匂いがする、まず間違いない。そして、この手のタイプは変に運が良かったりする。
そして、その本人にとっていい方向に転がったりするのだ。そうつまり、どういう事が起きるかと言うと…。
『ふぅ、帰ってきたのじゃ。よかったよかった何事もなく収まったわい。ばあさん、アレには助かったぞ。はじめ向こうの神は怒っておったんじゃがな?アレを渡した後に、中身を確認したらすぐに上機嫌になってなぁ~。あとは好きにしてよい、と言ってくれたわい。』
『えぇそうでしょうね。あちらの神が欲しがっていたものを入れておきましたらからね。』
あぁ~やっぱりこうなったか。この分だと俺にとっては良くない方向に行きそうだな~。せめて、帰れるかどうかの選択肢は欲しかったが、どうやら無理そうだな。こういう時は、何をしても無駄だ。
ならせめて、自分が生きて行きやすい方向に持って行けるように努力するほうがまだ建設的だ。
『というわけでだ。優良君、君には悪いんじゃがこの世界で暮らしてゆく選択をして欲しいんだが、どうだろうかの?』
「はい、わかりました。ただ幾つかお願いがあります。この世界で生きていくのに必要な能力をもらえませんか?せっかく新天地にきて、いきなり死んでしまうような事にはなりたくないので。」
『うむ、わかっておる。そこはもちろんじゃ。それとじゃ優良君、それとは別の用件になるのじゃが、聞いてくれるかの?』
「え~とその用件の内容にもよるのですが、とりあえず聞いてからというのはどうでしょうか?」
『それはだな…』
そう言って聞かされたのは、とんでもない事だった。
次はもう少しがんばります。