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第1話 訪れた転機

ちょっと早い過去編です。

俺、新石 優良は小さな頃からそうだった。


何をやっても人並みには至らず、どんなに努力をしても他人に認められるレベルにはならなかった。


どうしてなんだろう?自分の何が悪いのか?いろいろ考えてはみたけれど何が悪いのか、なんてのは全然わからなかった。


 前に勤めていた会社では、そんな自分は文字通りの役立たずだった。


『なんでこんな簡単な事が出来ないんだ!』『子供でももっとうまくやる』『ろくに仕事も出来ないやつがよく飯なんて食ってられるな!』こんな罵倒の言葉は挙げればキリが無いほどに言われた。


そう言われることで、余計に自分は駄目な人間なんだと思い知らされた。


周りに味方なんていなかった、周囲の人は罵倒されてる状況を見ても知らないフリだ。


逆に『またアイツかよ…。』といった具合でしかない。そんな状況だから何度も会社を辞めようとしたが、返ってくる言葉は『ふんっ!会社にろくに寄与せずに給料だけはもらって辞めるのか?流石だな、お前ぐらいのものだよ。この人でなしが!』そんな言葉を浴びせ掛けられるのだ。


 辞めることも出来ず、かと言ってうまく立ち回れるわけでもない中で、精神だけが削られていく状況が10年近く続いた。いっそ楽になってしまおうかと、何度も思った。けど、出来なかった。


それは、家族に迷惑がかかると思ったからだ。自分が追い詰められているのに、何故?と思うかもしれないが、理由を挙げるとするなら単純なことだった。俺に優しく接してくれたからだ。常に優しかったわけでは無い、怒ることもあったし呆れたりすることもあった。


それでも決して役立たずだと罵るような事だけはしなかった。本気で俺の事を心配してくれるのがわかっていたから疑うような事もしなかった。


そんな理由があるからこそ自ら命を断つ事は出来なかった。してはいけないと思った。


 しかし、追い詰められていく日々にもう耐えられそうにはないと思い始めた時に、転機が訪れた。勤めている会社に『神楽坂工務店』の社長である神楽坂太樹さんが取引先の代表として来た時だった。


相変わらず仕事がうまくいかずに進めていると上司に呼び出しを受けた。


 『いや~そちらさんの従業員は素晴らしいですね~、なんでも皆が一流に匹敵するほどの腕の職人が揃っているそうで、それに比べてうちのコイツなんて本当に役立たずでね~。給料泥棒もいいとこなんですよ。』


 そう言いながら俺を罵倒する上司に「またか…。」と思いつつそばに控えていた。こうやって取引先が来ると俺をダシにして、相手を持ち上げるのがこの上司のやり方だった。


はじめのうちこそそんな事はないでしょう?と相手も言ってくるが、話が進むにつれ一緒に俺を罵倒しはじめるのだ。今までがそうだったから、きっと今回もそうなるだろうと思って身構えていたのだがこの人だけは違う対応をしてくれたんだ。


 『本当に使えない奴でしてね~、神楽坂さんのとこで鍛え上げて使ってほしいぐらいですよ!ハッハッハ!いや、やっぱり迷惑ですね!こんな簡単な仕事もまともに出来ない役立たずは!』


 そう言って俺をネタにして笑いながら話す上司を見て、早くこの時間が過ぎ去ってほしいと思っていた時に、今まで黙って聞いていた相手が意外な事を言ってきた。


 『そうですね…役立たずはいらないですね。うちも忙しいですからね、使えない人間の相手はしてられないですよ。どこにでも居るものなんですね役立たず(・・・・)な人間は。』


 『えぇそうなんですよ~、本当にコイツは使えなくて……』


 さらに罵倒を続ける上司の言葉に重ねるように社長である大樹さんは言った。


 『私が言ってる役立たずはあなたですよ。いつまで関係の無い事を喋り続ける気ですか?自分の役割を果たさずに、部下を蔑むのいつまで見てればいいんですか?いい加減にしてくれませんかね』


 『えっ?いや、その、私は、別にそういうわけではなくてですね?え~と、その~』


 まさか自分が槍玉に上がると思っていなかった上司は、しどろもどろになってうまく立ち回れなくなってしまった。


 『ふぅ~もういいです。いい取引ができる会社だと思ってましたが、自分の部下を罵って喜んでいるような人材が使われてるような会社とはこれ以上取引したくないですね。今回の話は無かった事にして下さい。』


 『ま、待って下さい、その申し訳ありません、そんなつもりでは無かったんです。お、おい!お前も謝れ!何を突っ立っているんだ!!一緒に謝れ!』


 『やっぱり分かっていませんね。なぜ、彼が謝る必要があるんですか?彼は、あなたに罵られた被害者でしょう?そんな彼に一緒になって謝れと言ってること事態がおかしいんです。やはり無理ですね、今後一切あなた方とは取引しません』



 そう言って立ち去ろうとした大樹だが、ふいに思い出したように優良に向かって言った。



 『ねぇ君、名前を聞いてもいいかな?』


 『俺、いや自分ですか?自分は新石 優良といいます。』


 『へぇ、優良君か~ねぇ優良君?この会社を辞めて僕のとこに来ないかい?今よりもずっといい環境と待遇を約束するよ?』


 『その、俺は…役立たずだから、その迷惑になると思うので…』


 『大丈夫だよ、迷惑なんかじゃないさ!それに、僕の見立てでは君はこういう会社の仕事よりも僕がいるような会社の仕事のほうが合ってると思うんだ!だから、一緒に行こう!さぁ、今すぐに!』


 『いや、その誘いは嬉しいのですが、断りもなく勝手に会社を辞めるわけには…。』


 『それなら大丈夫だよ、僕がここの社長に言っておくからさ!なんの問題も無いよ!さあ、行くよ!』



 そう言って大樹さんが俺の手を引っ張って行こうとした時に、声が掛かった。



 『ちょっと、待ってくんねぇかなぁ?大樹よぉ~、流石に勝手にうちの社員連れてくのはないわぁ~。』



 そういって声を掛けたのは、うちの会社の社長の山口だった。確か、神楽坂工務店に同級生が居ると言う噂があったが、あの親しげな口調から察するに相手の社長がその同級生のようだ。



 『そいつは、まだ払った給料分も働いてねぇんだわ。勝手に連れてってもらっちゃ困るんだよ。それとも、コイツに払った給料分をお前が払ってくれるのか?そうじゃねえならよ、置いていってくれねぇと困るんだわ。仕事もろくに出来ねぇコイツでも他の社員のストレス解消にはもってこいなんだよ。』



 そこまで喋って、山口は俺を見下すように喋り続けた。



 『第一よぉ、こんな奴は何処行ってもどうせ同じ目に合うぜ?それなら、俺の会社で死ぬまでこき使ってやるよ!ハハッ』



 それまで黙って聞いていた、大樹さんの表情が先程よりも険しくなっていた。




 『ふぅ~言いたい事はそれだけ?ならもういいでしょ、彼は連れて行くよ。』


 『おいおい待て待て、俺の話聞いてたか?そいつはここで一生働くんだよ。お前もそう思うだろ?まさか、給料だけ貰ってろくな仕事もせずに辞めるって言わないよな?今までどれだけお前に払ったかわかるか?』


 『……すいません…わかりま…』



 そこまで言い掛けた自分の言葉に重ねるように、大樹さんは言葉を発した。



 『ねぇ、山口くんキミは、この僕にいつからそんな事が意見できるようになったんだい?確か、この会社を始めた時から随分とキミの面倒を見てきたはずだけど?それも忘れたのかな?ねぇ、どうなのかなぁ?僕に教えてくれよ山口くん?』



 なぜか妙な威圧感を大樹さんから感じて見てみたら、一瞬凄まじい形相をしているように見えた。気のせいだろうか?失礼ではあるが先程までは、男のわりに可愛らしい表情をしていたのだが、しかしそれも社長の山口を見て気の所為では無かったと気付かされた。


 山口は恐怖心をのぞかせた表情をしていたからだ。


 

 『いや、その、待って、ください…俺、いや自分もですね、流石にただ働きをされると、ちょっと…ですね。』


 『聞いてないよ、そんな事はね。今、僕が聞いてるのは優良君を連れてっていいかと聞いてるんだよ?まだ、わからないかな~』


 『そ、その…ですね…い、いえ!わ…わかりました、どうぞ、連れて行って下さい。た、ただこれだけは、契約違反で辞めるわけですから、給料と退職金は出せませんよ、それでもいいですか?』


 『うん!構わないよ、そこらへんはこっちでどうにかするから。じゃあ、優良君は連れて行くね~じゃあね~。ほら、いくよ優良君!これからは、僕の会社で頑張っていこうね!』


 『え、その本当にいいんですか?その、役に立つかどうかも分からないのに…。』


 『いいんだよ!今から君は僕らの仲間・・・だからね。そんな事ばかり気にしなくていいの!』



 もうすでに元と言っていいのかわからないが、同僚に見られながら俺は、大樹さんに連れ出された。この瞬間こそが自分にとっての転機だっただろう、ここで連れ出してもらえなければどうなっていたかわからない。自分にとってこれほどの幸運は無いだろう。


そして、自分の幸運はここから始まったと言ってもいいのかもしれない。なにせ、あのまま生きてたらありえなかった異世界の女神に目を掛けられるというとんでもない経験をすることになるのだから。

重すぎるかな?変則すぎるかな?と思いつつも書かせてもらいました。

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