第169話 候補地決定!
「えっ?候補に向かないですか?それはどういう事でしょうか?」
てっきり「なかなか良い場所ですね」的な返しがあると期待していた俺にそれとは全くの逆の事を言われた俺は困惑してしまった。しかし、静梛さんが理由もなく否定するとは思えないので理由を尋ねてみる。
「優良くんが建てるお社は大部分が木製ですよね?そこは間違いありませんか?」
「そうです。一部を除いて大半は木材を使用します」
あっ!もしかして……そこまで言われて気づいてしまった。確かにこの場所はまずいかも。
「優良くん木材に湿気は大敵です。この木材は特別製で腐れにくいもしくは腐れないのかもしれません。ですが、どちらにせよあまり向かない場所だと思います。おそらく優良くん自身も気づいてますよね?」
「あぁ~そうですね。湿気で建物に影響はなくとも住む人に影響がでる、ですよね?」
「そうなります。まぁ私個人の推測で言うならばこちらに住まわれる方々には然程の影響はないでしょう。仮にあったとしてもそれを打ち消すくらいの事はしてしまうでしょう。ですが、住まわれる方に対してその様な対策を取らせてしまうのは……職人として納得できますか?」
それを言われて「特には?」とか言う事だけはない。曲がりなりにも職人を目指して今まで努力してきたのだ。どうせやるならしっかりと成し遂げたい。
「納得はしませんね。それにしても……はぁ~まさかこんな初歩的なミスをおかしてしまうとは。よくよく考えれば常時水気があると湿気で蒸れてしまう事もある可能性があったというのに……そんな事になれば蒸して住みづらくなる可能性も十分に有り得たかもしれないのに……これは結構悔しいですね。思慮が足りませんでした」
「いえいえ優良くんには悪いですが私としてはお役に立てたようで嬉しいですよ。ここまで出番という出番はありませんでしたので」
「そうでもないと思いますよ。結構いろんな面でお世話になってると思いますけど?」
「いえ……たったあれだけでは到底役に立てたとは言い難いです。私はもっとあなたの役に立ちたい……お仕事だけでなくそれこそ私生活の面でもしっかりと」
「お、おぉ……そ、そうですか。き、期待してますね?」
「えぇ、任せてください。誰よりもお役に立てるよう努めて見せます」
期待と圧が凄い……何か静かなプレッシャーを感じる……静梛さんだけに!・・・・・・・今の言葉を口に出さないでよかった。自分の言葉でダメージを受けてしまった。今のクソつまらないダジャレを目の前の静梛さんに聞かれていたら底しれないダメージを受けたかもしれない。
何気なく静梛さんを見ると……ちょっと表情が引き攣っているような?別に今のを聞かれたわけじゃないし気の所為かな。
「そ、それじゃあもう一度候補地を探さないといけませんね。またしばらく離れますね」
すぐにでも候補地の再探索に出掛けようとしたところで静梛さんからストップが掛かる。
「待ってください優良くん!実は私達もかなり良い候補地を探すことが出来たんです。良ければ先にそちらを見に行きませんか?」
「えっ?静梛さん達も見つけていたんですか!それならそっちを優先しましょう。具体的な場所は覚えてますか?」
「はい、そこは問題ありません。では皆に集まってもらいましょう」
移動をするために集合を掛ける静梛さんにすぐに集まってくる女性陣。……気の所為かな?リィサよりも統率が上手い気がする。自然に違和感なくまとめてるような、それでいて誰も反論したりしてるような感じもないし、なんだろう?年齢が上だからって訳ではないな。年齢で言うならモニカが上だし、こうカリスマ性ってやつだろうか?俺には無いものなのは間違いなさそうだ。俺?俺は色々力技を行使してるから。
「皆一箇所に集まりました。早速移動しましょう。優良くんお願いできますか?」
「それじゃあ、えぇっとここはやっぱり静梛さんかな?静梛さんお手を拝借」
首を傾げる静梛さん。だろうね?理由を説明する事なくただ手を出せと言われても困惑するだけだろう。なので説明を。
「静梛さんに触れる事でその場所の風景と位置を読み取るんです。記憶を覗くって言う言い方が正しいかもしれないです。念の為に言うと余計な記憶を読む事はしませんので安心して良いですよ」
何かを言おうとして言えずにムスッとした表情になる静梛さん。おそらく俺をからかおうしていたのを俺に先回りされて潰されたのが気に入らなかったのだろうが……ここは知らんふりをしておこう。話が進まなくなる。
「はい、どうぞ。触れても構いませんよ」
「それでは失礼して」
静梛さんの両手を取り目をつむる。静梛さんの記憶から大凡の場所を探り当てて転移を実行する。
「『転移無法』」
一瞬で全員に転移を実行すると目を開けるとそこには広めな平地とかなり離れるが山の麓が広がる光景を目にする事ができた。
「どうですか?優良くん。かなり良い場所だと思うのですが、お気に召しませんか?」
そんな事はなかった。どちらかというとここに広がる風景は俺が望む田舎の風景に近いと思った。それは総じて俺の理想とする田舎の風景であり今回の社を建てるの相応しい場所だと思えた。これなら……ここなら何の問題もない絶好の場所だった。
「……ありがとうございます静梛さん。何の問題もありません、ここに決めましょう!すぐにでも準備をしていきましょう」
俺からの返事を聞いてホッとしたようなそれでいて満足感を表すような笑顔を見せてくれる静梛さんになんの問題も無いことを示しお礼を述べる。さぁ!ここからはようやく俺の集大成を見せる時が来たのだ。
いよいよと言ったところでしょうかね。あともう少しだけお付き合いください。