第168話 前準備~候補地探し2~
よくある話にあとちょっとだけ、もう少しだけ、さきっちょだけだからなどと言う輩は大抵何かをやらかすものだ。だが、こと今だけの話で言うならば……そう俺の事である!
「やらかした!30分か1時間くらいって決めてたのに明らかにそれ以上経ってるよ!日がだいぶ傾いている。やべぇー……か、完全に寝過ごした、どうしよう?」
どうしよう?などと言ったがやるべき事は唯一つ。急いで合流して皆に謝罪することだけだ。
「え~と、まずは皆の位置把握に気配察知で位置特定をして~あとは……よし転移無法だ!」
急ぎするべき事をして素早く行動に移す!気配察知を使ってみれば皆は同じ場所に一塊で動いていない一瞬いるはずのない魔物に囲まれているのかと思ったが、そんな気配は感じないのですぐに転移無法を使い移動を開始した。
今まで広がっていた穏やかな風景から一瞬で草原地帯へと視界が変わるとそこには意外な光景が……。
「あ、れ?」
思っていたのとは少し違う光景……俺としては皆がソワソワしたり焦って俺を探そうとしているのを想像していたのだけど実際は違った。座るスペースを確保するためか地面に何かの皮で出来た大きめのシートらしきものを敷き、そこに座って飲み物を飲んだり何かクッキーぽい感じのものを召し上がっておいでではないですか。
「およ?おーお帰りユーラく~ん」
「え~とただいま、です?」
のほほんとした感じで手を振ってくるモニカに対して眼の前にある意外な光景にちょっと面食らっていると、なんとなく状況を理解したであろうリィサが声を掛けてきた。
「フフフそんなに焦らなくても大丈夫よユーラ。大丈夫別に私達の誰も怒ってもいないし焦って動こうとした人はいないわよ?」
「……そうなの?」
リィサの言葉への返事の大部分は誰も怒ってないの方に対してだったりする。てっきり皆がしっかりと候補地探しをしている最中に自分は小休止がてらとはいえ堂々と昼寝をしていたのだから怒られる可能性はあるだろうなぁと思っていた。
「多分だけど……何か本来の目的から離れるような事でもしてたんでしょ?そうねぇそうやって妙に私達に気を使うような態度からして……サボり、かしらね?どう?あってる?」
お、おぉ……ピタリと当てられてしまった。そしてよくよく周りを見てみるといつの間に皆が俺とリィサのやりとりをジッと見ていた。……逃げ場はない。
「そのぉ~少しばかり休憩を取りすぎたといいましょうか」
「……休憩を取りすぎた、ねぇ?ふ~ん……昼寝でもしてたのかしら?」
……独り言のように呟きながらも的確にこちらの行動を見抜いてくるリィサに軽く戦慄した。えっ?そんなスキル持ってませんよね?どうしてこうも的確に俺の取った行動を見抜けるの?ちょっと……怖いよ?
「ユーラから失礼な視線を感じるわ。大体何を考えているのかはわかっているけれど一応言わせてもらうとユーラってかなりわかりやすいのよね。今までユーラがしていた行動から察して言っただけだから合っているかどうかはわからないけどね?それでどうかしら?」
「どうかしら?って言うのは?」
「もう……変な所で察しが悪いのよね。私が言ってるのは合っているかって聞いているのよ」
「あぁ……そういう事か。まぁ下手に隠す事じゃないから言うけど、まぁうん合ってるね」
「良かった。ユーラの事はわかっているつもりだったけどハズレていたら恥ずかしいもの」
なんだろうこの妙なムズムズする雰囲気は……何かこう、恥ずかしいような嬉しいようななんとも言えない感じ。それに加えてそれを凝視するリィサ意外の皆の視線……こう妙に恥ずかしい気がして落ち着かない。
「フフ……あまり私だけでユーラを独占するのも駄目ね。それでお昼寝をしてスッキリしたユーラは何処かいい場所を見つけられたのかしら?」
むず痒い展開を広げたのがリィサならそれを払ったのもリィサだった。もう手のひらコロッコロだな。さっきのような雰囲気も嫌いではないので、どうかこれからも思う存分転がしてくれ。見事にコロコロされよう。
「そそ、そうだな!まぁ候補になりそうな場所は見つけたよ。結構落ち着きのある場所でこんな場所も悪くはないんじゃないかって思えるような場所だよ」
「ユーラが落ち着ける場所って言うって事はさぞかし心からゆっくり出来る場所なんでしょうね……まぁお昼寝するくらいだし」
「グッ!ま、まぁそうだね、それだけいい場所だと思う。ただ俺だけの意見だけじゃどうかと思うからこれから皆にも見てもらおうかと思ってるよ」
俺が落ち着けると言った時点で彼女たちから「珍しい」とか「そんな希少な場所があるのね」とか聞こえてきた。そこまで珍しい事じゃないと思うけど……。
「おや?ユーラくんが不思議そう?ユーラくんってさ、結構普段から妙に気を張り詰めてるの自分で気づいてる?私達から見ると普段からかなり周囲に気を張ってたよ。えっとねぇ、わかりやすく言うと常に索敵をしてるような感じ?」
「え?マジで?そんなに?」
「そうマジでそんなに、だよ」
モニカの言葉に皆も同様であるようでコクコクと首肯している。……はぁぁぁ俺って普段そんな事してたの?自分で全く気にしてなかったよ。
「ちょっと話がずれたけど、そんなユーラくんが落ち着けるっていうのは何気にかなりの良い場所って事になるから皆がちょっとざわついたって訳だね」
「そういう事だったのか。まぁ珍しいのはよくわかったよ。じゃあそれだけ希少な場所って事でそこに皆を案内したいんだけど良いかな?」
「良いんじゃないかな?皆はどう?」
「問題ないよ~」とか「相当珍しい場所なんでしょうね」と声が聞こえてきた。まぁそれについての答えは直接現地を見てもらって各々で判断してもらおう。まぁ言ってもまだ候補止まりだ。もしかしたらまだまだ良い場所はあるかもしれない。
「皆一箇所に集まってくれる?」
「どうしたの優くん?抱きついてほしいの?癒やし待ち?おっぱい揉む?」
そう言って両手で胸を持ち上げてたゆんたゆんさせてくる葉津梛ちゃん。やめなさい!癒やしどころかいやらしい気持ちで余計に落ち着かないよ!全く葉津梛ちゃんは……。
「違うよ。歩いて移動してると時間掛かるから一気に転移で移動するの」
「おぉっ!転移魔法!使えるの?凄いね!やっぱり揉む?」
「だから止めなさいって……うんこれ以上俺の出番はなさそうだ」
「うん?やっぱり揉……いたたっ!ちょっと誰?あたしの耳を引っ張ってるのは……あ、アハハ、し、静姉……」
葉津梛ちゃんの耳を引っ張っているのは背後に佇む静梛さんだった。この人は普段は礼儀作法にかなり厳しい。多少なら大目に見るのだが、今回はどうやらレッドラインを超えてしまったようだ。
「アハハ、や、やだなぁ静姉、ちょっとしたじょ、冗談だってば」
「……今日の予定が終わったらお話、しましょうね?」
「あ、あぅぅ、ハイわかりました」
無駄な抵抗だと感じたのだろう。素直に応じた葉津梛ちゃんを確認すると静梛さんはこちらを見た。
「妹がお騒がせしました。どうぞ進めてください」
「あ、ありがとう静梛さん。じゃあ皆移動するけど慌てないでね?行くよ!転移無法」
目を瞑って開いたらもう違う場所にいるという規格外な行動に一瞬唖然としていたようだが、先程まで俺が昼寝を実行していた風景を見るとおぉ~と感嘆の声があがり思い思いに周辺を散策し始めた。
皆が周囲を探索している最中に一人静梛さんだけが俺に近寄ってきた。
「静梛さんどうしました?もう見なくても良いんですか?」
「そうですね、これ以上は必要ないかと思いまして」
なんか意外だった。こと下調べなどはかなりの時間を掛ける静梛さんがわずかな時間でもう見なくても良いと判断した事が。だが、静梛さんが発した次の言葉で俺はそれ以上の衝撃を受けた。
「優良くんかなり心苦しくはありますが、率直に述べさせてもらいます。ここは家を建てるのには向きません。正直候補地としてはふさわしくありません」
昨日に続き今日もお休みなので昨日の投稿後にすぐに続きを書いて今日も朝6時から書き上げました。たまに出来るサービス投稿でございます。暇つぶしも兼ねてぜひお読みくだされ。ではでは!