第138話 久し振りの……
「あ~はは、ごめんねぇ葉津梛ちゃん」
「む~む~むーーっ!」
さて何故葉津梛ちゃんはここまでムクレているのかと言えば事の発端はキャンプをしていた場所まで遡る。
「優くんっ!やっぱり色んな場所に行ったりして楽しんだりしたんだよねっ!」
「そうでしょうか?優良さんはかなりの出不精さんなので特定の場所以外は移動してないのではないでしょうか?」
「はぁぁっ!?優良お前今だに引きこもりグセ治ってないのか?おぉ~いダセェ癖つけてんなよ~」
「相変わらず?大丈夫これからは私が連れ出して上げる」
「アラアラ優良君はダメダメなんですか?まぁそんな優良君でも私は見捨てたりなんてしませんよ」
この姉妹……かなり好き勝手言うなぁ。これでも世界きてからはだいぶ行動範囲が広がってるのに……。
「だ、大丈夫、ちゃんとするべきことしてるし行動範囲なんて前とは比べ物にならないから」
ふ~ん、と軽く流された。なんか信じて無さそうだな。まぁいい、いずれ嫌でも俺の行動範囲の広さを知ることになるだろう……その時は嫌でも引っ張り回してやるさ。
「なんか優くんが悪い事考えてる気がする~おスケベな事かっーー!、なんてね」
「えっ?本当なんですか優良さん。えっちなのは悪い……とは言わないですけど、まだ駄目なんですよ?」
「マジかよ?随分自分に正直になったんだな優良?まぁもうちょいガマンしてくれよ」
「大すけべ?まだ駄目」
「フフフごめんなさいね優良君。もう少しだけお待ち下さい」
……これは陥れられてるんだろうか?姉妹の俺に対するスケベ評価凄まじいんだが。あと葉津梛ちゃんク◯◯ンの事かぁーー!みたいに言わないで?なんか背筋がゾワッとして妙な緊張感を覚えるから。
「あまり変な事ばかり言わないで。何をどうしたら出不精の話からスケベな話に変わるんですか?もしかしてワザとその方面に誘導してます?」
揃って違うよ~と否定してるが、どうだかな。これ以上この姉妹のペースに合わせてるとキリがないと判断した俺は転移の準備を始めていた。まだコソコソと話をしているけど別にいいだろう。
「そろそろ移動するけど……もしも~し聞いてますか~。ちょっと~」
話声がコソコソからガヤガヤになりこっちの話を聞いてない。一応一瞬で移動するから大丈夫だとは思うが、心構えくらいはしておいて欲しいんだけど。
「ちょっと皆さん方?こっちの話を聞いてくれないかな?そろそろ移動したいんですけど~」
「あぁ~準備いいよ大丈夫だよ~。任せるよ~」
姉妹を代表して返事をしてくれた葉津梛ちゃん。まぁそう言うのなら良いか?あれだけ期待していたからちゃんと見せて上げるつもりだったんだが……期待していた当の本人が良いというのなら問題ないだろう。問題は無いと判断した俺は姉妹達を囲うように転移魔法を発動した。そして――。
「む~む~!!」
今こうなっている訳なのだ。だから言ったのに……ちゃんと声を掛けたのに聞いてなかったのは自分たちじゃん?ひどい話があったもんだ。
「むーっ!聞いてるの優くん!私は大変ご立腹です!なぜだかわかりますか!?」
「え、えぇっとぉ、俺がすぐに転移魔法を発動したから?」
「そうですっ!なんでしっかり言ってくれなかったの!?私期待してるって言いましたっ!わかりますか優くん!」
声なら掛けたんだよなぁ~お互いの話に夢中になって俺の話聞いてなかったの葉津梛ちゃんなのに……。
「言い訳しないの!!」
「は、ハイッ!って俺まだ何も言ってないよ」
「顔が言ってたの!優くんは今顔で言い訳してました!メッ!」
顔で言い訳したって何?聞いた事ないし今までそんな事した事もないし。
「こらっ!だからなんで言い訳しちゃうの!メッ!メッ!だよ」
俺は子供か?もしくはペットか何かなのだろうか?扱いが段々ひどくなってきてるんだが。
「優くん?」
「何かな?葉津梛ちゃん」
「もぉーっ!本当に期待してたんだよ?イジワルする優くんはこうだ!葉津梛ぱーんち!」
軽く振りかぶって俺の胸目掛けてパンチをしようとする葉津梛ちゃんを見て微笑ましく思った。妹が出来たらこんな感じなのかな?と思いながら迫りくる可愛らしい拳が胸に当たるのをスローの様に見ていた。
難なく躱す事は出来るが、あまりにも可愛らしい仕草に見えたのでそれをそのまま受け止める事にしたのだが……この判断が間違っていた。俺は油断していたのだ……異世界に来た転移者が能力を授けられてくる事を忘れていたのだ。
「えいっ!」
見た目にはポフッと聞こえてきそうな弱々しい一撃だった。しかし、肝心の威力はといえば。
ズンッという重い音を響かせて完全に油断していた俺の体を思いっきり吹っ飛ばした。
「なっ!お、おぉーー……」
俺は自身の背後にあった建物にぶつかり破壊した後も止まらず突き抜けていきゴロゴロと転がってようやく止まる事ができた。
ガラガラと瓦礫の中から這い出てくると泣きそうな顔をした葉津梛ちゃんの姿が。
「ご、ごめんなさい優くん!まさかこんなになるなんて思わなかったから!」
この世界に来てまだ自分達の力を使った事が無い?あれ、それってだいぶ危険じゃね?力の度合いにもよるけど歩く決戦兵器になりかねないのでは?言い過ぎだろうか……いや、この姉妹の才能なら十分有り得る。あとこの人達って自分達が天才の部類だという自覚が無いから更に危険だ。
いち早くどうにかしたい気持ちはあるけど……俺にこの人達を制御できるだろうか?今でも持て余しているのに?うわぁ~ムズいなぁ、難易度たけぇ~。
さて、どうしよう?そんな風に悩んでいるとながらく連絡の取れなかったあの人が?
『優良よ、久し振りじゃのぅ。今まで連絡が取れなくて悪かったわい』
「ん?あれ、もしかしておじいちゃん!?ひ、久し振りだね!元気だった?」
『おぉ無論元気じゃったわい。それでのぅ優良よ、今お主が悩んでおったその娘等なんじゃが儂に預らせてもらえんかのぉ』
「おじいちゃんが葉津梛ちゃん達を?なんでか聞いても?」
そう言われたお祖父ちゃんは渋った感じの声で答えた。
『その娘等のぅ、ちょっと言い辛いんじゃが……1人1人が面倒な力を持っておるんじゃよ。そんな爆弾のような娘等を間違った方向に成長されてしまうとのぅ。大変な目に合いそうなんじゃよ……儂等が』
「あっ……俺が、ではなくおじいちゃんが面倒な目に合うんだ。それはまた……じゃあどうしようか?なら一旦俺が葉津梛ちゃん達に説明してからでも?」
『いや説明諸々全てこちらで引き受けよう。どうせ暇をしておるから構わんよ。忙しかったのは少し前まででのぅ、今ならなんの問題もないわい』
「そっか……また離れ離れになっちゃうのか……ちょっと淋しいかな」
『何大丈夫じゃわい。すぐに会える、そうじゃのぅ3日もあれば十分じゃ。だから優良よ、儂らを信じてあの娘等を預けてはくれんかのぅ』
久々に聞けたおじいちゃんの悲壮感を思わせる声には逆らえそうにない。3日なら俺がガマンすればいいだけのこと。
「じゃあおじいちゃん5人をお願いします。無事に帰ってくる事を願っているね」
『大丈夫じゃ。危ない事など何もない。この世界の常識やら知識を教えるだけじゃからのぅ。それとさきも言うた力の件じゃ(これをしっかりせんと儂と婆さんが大変な目に合うからのぅ)』
「ん?おじいちゃん今何か言った?」
『なんでもないぞ?では早速で悪いが連れて行っても構わぬかのぅ?』
「あぁ一応俺もしばらく会えない事を伝えて置きたいんだけど……」
『ん~む、優良それはやめておいたほうが良い。下手に話すと抵抗されると敵わん、つらい気持ちをあろうがガマンしてはくれんかのぅ』
「……わかったよ。ならおじいちゃんソレも含めて説明をお願いします」
『うむ!委細任せよ。ではまたな優良、今度はじっくりと話をしよう。今度はばあさんも交えてな』
「うん、楽しみにしてるよ」
『それでは優良3日後にな』
おじいちゃんと久々に会話を出来たのは嬉しかったが、葉津梛ちゃん達としばらく会えないのはかなり淋しい。せっかく久し振りに会えたのに……いやいや!情けない事ばっかり言ってられない。俺も葉津梛ちゃん達に負けないようにしないとな。
なんとか週を跨がずに投稿できた。お仕事が忙しくてギリギリになりました。